goo blog サービス終了のお知らせ 

生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

春をさがしに(その3)

2008-02-28 12:16:10 | 童話

4冬将軍ガル

 北へ向かってすすんでいくと冷たい風がウオーン、ウオーンとうなりながらぶつかってきました。たくやの歯はガチガチ鳴っています。
 むこうに灰色の大きな風がどっかり浮かんでいます。
「冬将軍のガルだ。つむじ、やっつけてしまえ」
 リムがいうと、つむじはもどってきてしまいました。
「ガルは苦手だ。おれ、帰る」
「つむじの弱虫、帰れ、帰れ」
 たくやがどなりつけると、つむじはゆうかんにガルの前にすすみでました。

「やい、ガル。春風のたまごをどこにやった」
「へっ、へっ、へっ、春風たまごは凍らせて、つくば山の雪の中に埋めてやったわい」
「なんだと?春風を返せ」
 つむじはグルグル回りはじめました。ガルをまきこんでゴウゴウ音をたてて回ります。
「ワツ、ワッ、止めてくれ、目が回る」
「春風を返すまで止まらないぞ」
「返すものか、お前も凍らせてやる!」
 ガルは大きな口を開けて、白いいきをはくと、つむじはちじんでカカチカチに凍ってしまいました。


5春風のたまごさがし

「逃げるんだ! ぼくらも息をはきかけられたら凍ってしまう」
 リムはたくやを引っぱって下にいき、雪の積もったつくば山の上におろしました。
「たくや、春風のたまごを掘り出すんだ。春風が全部出てくれば、ガルはいなくなるから」

「でも、つむじが……」
「だいじょうぶ、つむじの氷もとけるよ。さあ、早く掘るんだ。ぼくは手伝えないけど、おうえんするよ」

 雪が横からふってきて、たくやのほおをはりのようにつきさします。たくやはむちゅうで雪をかきわけました。しもやけの手はジンジンと痛く、ひびわれて血がにじんできました。

「スコップをもってくればよかった。無理だよ、リム。こんなに広いところ、ぼくひとりでさがすなんて……」
たくやはべそをかきました。
「あきらめないで、きっとさがし出せる。きみは、恐竜の化石さがしが得意なんだろう」

「でも、化石は出てこなかったよ」
「春風のたまごならみつけられる。春風が出てきたら、お母さんの病気もよくなるから」
 リムはたくやのまわりをとびまわってはげましました。

「お母さんのこと、どうして知っているの?」
「冬の間、きみのことずっとみていたんだ。でも、冬だけじゃなくて、お母さんのおなかにいたときからきみのことをずっとみて、守って下さっているお方がいるんだよ」
「えっ、それはだれ?」
「神さまだよ。神さまはぼくたち風や人間を造って下さったんだからね」
リムは体をテントのように広げて、たくやに雪がかからないようにおおいました。
たくやは、両手にはあっと息をふきかけて、もういちど雪をかきわけました。体のしんが凍りつきそうです。
 
 たくやは、お母さんのおなかにいたときから見守って下さっている神さまのことを考えていました。
(神さまは、いまもぼくのことみてくださっているんだ)
「神さま、春風のたまごをみつけられるようにして下さい」
 たくやは、祈りながら雪をかきわけました。


              つづく

春をさがしに(その2)

2008-02-27 13:32:37 | 童話

3風の国

いくつものの雲の中を通りぬけると、上の方に三角のピラミッドのような形をした真っ白い雲が浮かんでいました。
「変わった形の雲だなあ」
「あの中に風の国があるんだよ」
リムは三角の雲の下の方にぽっかりとあいているトンネルの中にたくやを連れていきました。トンネルを通りぬけると、雲のじゅうたんの上に色とりどりの大きなたまごがいくつも並んでいました。
「まだ春風のたまごがひとつぐらい残っているかもしれないからさがしてみよう」
リムはとびまわりながら春風を呼びました。
「おーい、春風やーい」
「春風、いたら返事をしてくれよ」
たくやも呼びました。

するとグオーンと音がして黄緑色のたまごがグラグラゆれて、中からうずをまいた緑の風が出てきました。
「だれだ、おれさまを起こしたのは!」
「つむじ。起こしてごめんなさい。まだ寝ていて下さい」
リムがぺこぺこ頭を下げました。
「まだ寝ていろだって、起こしておいて何をいうか!」
「やっかいな風を起こしちゃったな。つむじは春風といっても、春の嵐なんだ。あまのじゃくなんだよ」
リムがたくやにささやきました。

「嵐でもふいてくれればうれしいよ」
たくやがいうと、つむじはニヤッと笑って、
「じゃあ、たまごの中にもどろうかな、おっと、いい忘れてたが、春風のたまごはガルがぬすんでいったよ」
「えっ、ガルが?」
リムは口を大きく開けました。
「ガルって?」
「冬将軍なんだ。たまごをぬすむなんて、ひどいよ。春風のたまごがみつからないと、ずっと春にならないんだよ」
「ええっ、そんなあ」
たくやは、お母さんの病気がずっとなおらないといわれたようようで涙が出そうになりました。

「リム、ガルのところにいって、春風のたまごをとりもどそうよ」
「うん。でも、ガルは強いんだ……。口から白い息をはいて、息がかかったものはみんな凍っちゃうんだよ」
リムはブルブルふるえています。

「ハハハ、おれさまならガルをやっつけられるぜ」
つむじがぐるっと一回転しました。
「じゃあつむじ、いっしょにいってくれよ」
リムがいうと、
「いやだね」
つむじはフンとそっぽを向きました。

たくやは、つむじには反対のことをいえばいいのだと気づきました。
「じゃあ、リムとぼくでガルをやっつけるから、つむじはこなくていいよ」
「オレ、いく。ガルをやっつけてやる!」
つむじは、ぐるぐるまわりながらすごい勢いで風の国を出ていきました。たくやとリムは、あわてて後を追いました。

               つづく

春をさがしに(その1)

2008-02-26 13:29:18 | 童話

この間は春の嵐でした。明日は冬の嵐になるそうです。春の嵐と冬将軍が戦っているようですね。春風の童話を4回に分けて掲載します。


春をさがしに

1恐竜の化石さがし

もう3月も終わりだというのに毎日冷たい北風がふいています。
公園の桜のつぼみはまだかたく、細い枝が寒さにふるえているようです。
こんど小学生になるたくやは、スコップで公園のすみをほりかえしていました。たくやの夢は恐竜の化石をみつけることです。
 
たくやが一生懸命掘っていると友達のてつやがやってきました。
「また、どろんこあそびかい」
「ちがうよ、恐竜の化石をさがしているんだ」
「こんなところにあるわけないだろう。」
「あるさ。ティラノザウルスの骨がうまっているかもしれないじゃないか」
「ふーん。もしみつかったらすごいね」
「てつやもいっしょに掘らないか?」
「ぼくは、これからお母さんとディズニーランドにいくんだ。じゃあな」
てつやは走っていってしまいました。

「ああ、ディズニーランドか、いいなあ」
春休みなのにたくやはどこへも連れていってもらえません。お母さんが病気で去年からずっと入院しているのです。春になってあたたかくなればなおるとお医者さんがいっているのですが、今年はいつまでも北風がふいていて、春がおそいのです。

2北風リム

 北風がヒューっと音をたててふいてきました。
「やい北風!」
たくやは北風にむかってさけびました。
「いつまでふいているんだ。いいかげんにふくのをやめて春風と交代しろ」
そのとき、北風がぴたっとやんで耳元で声がしました。
「ぼくも春風と交代したいんだよー」

みると人の形をした黄色いすきとおったものがフワッとうかんでいました。
「きみは、だれだ?」
「ぼくは、北風」
「北風? きみは風なの?」
「そうだよ。リムっていうんだ。よろしく。」

北風はぺこりと頭を下げました。
「風の国で大変なことが起こっているんだ。春風のたまごがゆくえふめいになったんだよ」
「春風のたまご?そんなものがあるの?」
「あれ、知らないの? 風はたまごから生まれるんだよ。春風のたまごがなくなっちゃったから、なかなか春にならないんだ。たくやくん、ぼくといっしょにさがしてくれるかい?」
「春風のたまごがみつかれば春になるの?」
「そうだよ。さあ、ぼくにつかまって。」
リムが黄色い手をにゅうっとのばしたので、たくやはその手をつかみました。気がつくと、たくやは空を飛んでいました。
「すごい、鳥になったみたいだ。」
リムはたくやの手をとって、高く上がっていきました。

                  つづく

クリスマスの赤い星(その4・最終回)

2007-11-29 14:02:21 | 童話
クリスマスの赤い星(4)


六)かいばおけのイエスさま

少年を先頭に小屋の中に入ると、プーンとくさいにおいが鼻をつきました。うすぐらい小屋のまん中にかいばおけがあって、その中に布につつまれた赤ちゃんがねむっていました。
 コウタとエリは赤ちゃんの顔をのぞきこみました。なんて小さいのでしょう。なんてかわいいのでしょう。
 
赤ちゃんの体をつつむ布はうすく、ほし草がチクチクはだをさしているように思えました。
「イエスさまはこんなところで生まれ、こんなベッドに寝かされているんだね」
コウタの心はイエスさまを思って悲しみでいっぱいになりました。
「イエスさまのベッドはふかふかじゃないのね。やわらかいおふとんをしいてあげたい……」
エリは、イエスさまが気持ちよくねむれるように願いました。

少年がかいばおけの前にひざまずいて祈りはじめました。
コウタとエリもひざまずきました。
「イエスさま、こんなところに生まれてきて下さったのですね。干し草がチクチクしませんように」
「イエスさま、わたしのために生まれてきて下さったのですね。このかいばおけが、あたたかくてやわらかなベッドになりますように」

ふたりは祈ってから、そっと目を開けました。イエスさまをつつむ布のまわりにフワフワしたものがあるのに気づきました。それは、水色とピンクと黄色の三色の綿でした。

「ありがとう。イエスがよくねむれるようにやわらかくてあたたかいものでつつんでくれたのね」
お母さんのマリヤがほほえみました。
「あれがきっとぼくたち3人の心なんだよ」
少年がいいました。

そのとき、イエスさまが目を開けてコウタとエリと少年を順にみつめました。
「イエスさまは、わたしたちのプレゼントを喜んで下さっているのね」
エリがニッコリ笑いかけると、赤ちゃんイエスさまが笑ったような気がしました。

小屋の外へ出ると、赤い星がさっきの倍くらいの大きさになっています。光がどんどん強くなり、まぶしくて目を開けてられなくなりました。
「きっと家に帰らせてくれるんだ」
コウタはエリの手をぎゅっとにぎりました。
「さ・よ・う・な・らー」
羊飼いの少年の声がだんだん遠のいていきました。

七)ふたりだけのひみつ

「ただいま。おそくなってゴメンネ。ケーキ買ってきたわ」
お母さんの声がして、目を開けるとふたりはリビングのツリーの前に立っていました。電気もテレビもついています。
お父さんも帰ってきて、家族4人でクリスマスのおいわいをしました。

「ねえ、わたしのいろえんぴつ、ふたりで使おう」
「ぼくのなわとび、こうたいで使おう」
ふたりは、今日のできごとをふたりだけのひみつにしようとやくそくして、2かいにかけ上がっていきました。

          
   おわり

クリスマスの赤い星(その3)

2007-11-27 13:27:18 | 童話
クリスマスの赤い星(3)


四)ひつじかいの少年

「お兄ちゃん、ここどこ?」
エリはコウタの手をぎゅっとにぎりしめました。
「知らないよ。どうしてこんなとこへきちゃったんだろう……」
後ろからパタパタと足音が聞こえてきました。ふりかえると、コウタと同じ年ごろ、7さいくらいの少年が歩いてきます。
「こんばんは。きみたちもおいわいにいくの?」
少年がたずねました。
「おいわいって?」
「何いってるんだよ。すくいぬしがお生まれになったというのに……」
「えっ、すくいぬしって、イエスさまのこと?」
エリが聞きました。
「きまっているじゃないか。さっき天使たちの歌声を聞かなかったの? すっかりおそくなちゃったけど、これからおいわいにいくんだ」
「おいわいって、ベツレヘムにかい?」

コウタは教会学校で聞いた話を思い出しました。すくいぬしイエスさまは、ベツレヘムのうま小屋で生まれたと先生がいっていました。
「この道をまっすぐいったところがベツレヘムだよ」
イエスさまの生まれた場所と時代にやってきているようです。

五)プレゼント

「おいわいするっていっても、何もないわ」
エリがポケットをさぐっています。ティッシュペーパーの切れはししか入っていません。
「お兄ちゃん、今日もらったプレゼントを持ってくればよかったね」

「きみたち、何も持ってなくても大丈夫だよ。ぼくもてぶらなんだ。兄さんたちはひつじをプレゼントするっていって、こひつじをかかえておいわいにいったけどね」
「きみの兄さんはひつじかいなの?」
コウタは草原にある岩のようにみえていたものがひつじだということに気づきました。

「ぼくだって、ひつじかいだよ。でも、ぼくは自分のひつじを持ってないんだ。プレゼントするものがないから、おいわいにいけないと思ってたんだよ。そしたら、おじいちゃんがお前の心をプレゼントしなさいって。それがいちばん喜ばれるっていってくれたんだ。だからぼくはこの心をプレゼントする。きみたちもそうしたらいいよ。いっしょにベツレヘムへいこう」

少年はふたりのまん中にきて、コウタとエリの手をつなぐと、歩きはじめました。

コウタは考えていました。自分の心ってどんな心だろうって。エリのプレゼントをうらやましがり、エリに意地悪してしまった心をさし上げてもイエスさまは悲しむだけじゃないかな?

エリも考えていました。自分の心ってどんな心だろうって。お兄ちゃんのプレゼントをうらやましがり、お兄ちゃんに意地悪してしまった心をさし上げてもイエスさまは悲しむだけじゃないかしら?

赤い星がいっそう赤くなり、そのかがやきがじゅうじかの形にみえました。
(そうだ、ぼくのつみのためにイエスさまはいのちをなげ出して下さったんだ)
(わたしのわがままな心のためにイエスさまは死んで下さったんだわ)
ふたりの目になみだがあふれてきました。

「ごめん、エリ」
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
ふたりは同時にいいました。そのとき、3人はちょうどうま小屋の前に立っていました。
         
 
        つづく

クリスマスの赤い星(その2)

2007-11-26 12:56:40 | 童話

一昨日はクリスチャン・ペンクラブ(JCP)のクリスマス会でした。同じ教会のOさんと一緒に行けたので嬉しかったです。M姉が書かれたクリスマスの童話のパネルシアターを上演しました。7人の方が交代で朗読され、わたしは絵を動かしました。はこぶねクラブのクリスマス会のために作ったパネルシアターでしたが、JCPクリスマス会でも用いていただけて感謝でした。

昨日は礼拝のあと、教会学校クリスマス会のスライド劇の練習と教師会もあって大忙しでした。昨日の午後は眠くてたまらなかったので、コーヒーを3杯も飲んでしまいました。

夕べ、疲れているのに頭が冴えて眠れなかったのは、たぶんカフェインの取りすぎでしょう。気をつけなくてはと思いました。

それでは、童話の続きを。

クリスマスの赤い星(2)


二)ていでん 

お父さんとお母さんが仕事に出かけていきました。ふたりとも口をきかず、午前中はべつのへやで冬休みの宿題をやり、午後からは友達の家に遊びに行きました。プレゼントはそれぞれのベッドに置いたままです。
夕方になって、お母さんから帰りが少しおそくなると電話がありました。外はもうまっくらです。ふたりはキッチンで顔を合わせましたが、おたがいぷいと顔をそむけて口を開きません。

エリは牛乳を飲むと、かいだんをのぼっていきました。コウタはリビングでテレビをみていましたが、急にぷつんとテレビも電気も消えてしまいました。
「あれ?ていでんかな」
コウタはてさぐりでかいちゅうでんとうをさがしてつけました。

「えーん、えーん、こわいよう。お兄ちゃん」
2かいからエリの泣き声が聞こえてきます。
コウタは急いでかいだんをのぼりました。
「エリ、だいじょうぶか?」
かいちゅうでんとうの丸い光が顔を照らすと、エリはにっこりほほえみました。
「どうしてまっくらになっちゃったの?」
くらいのがにがてなエリは、寝るときはいつも小さなランプをつけているのでした。
「ていでんだよ。すぐ電気つくよ」
「電気つくまでお兄ちゃんといっしょにいる」
なまいきなエリのことをにくらしいと思っていましたが、こんなときはかわいくてたまらない気持ちになります。
「下へいこうか」
「うん」

かいちゅうでんとうで照らしながら階段をおりていくと、リビングのドアのすきまから明かりがもれています。その明かりはついたり消えたりしていました。
「何の明かりだろう?」
コウタがリビングのドアを開けました。リビングの電気は消えていましたが、クリスマスツリーにかざられている赤、青、緑のランプがチカチカ光っていました。
「ツリーのランプは消えなくてよかった」
エリがうれしそうに手をたたきました。
「まてよ。おかしいぞ。これだってコンセントにつながっているのに……」
コウタはリビングの電気のスイッチをおしました。電気はつきません。
「へんだなあ。どこかに電池が入っているのかな?」

三)赤い星

コウタがランプをツリーからはずして調べていると、エリが大声をあげました。
「星がひかってる!」
エリの指さすほうをみると、天井に大きな赤い星がひとつまたたいていました。
「あんな星のかざりあったけ」

星をみていると、それはどんどん明るくなって、まぶしくて目を開けていられなくなりました。コウタはとっさにエリの手をつかみました。

しばらくすると、ひんやりとした風が感じられました。目を開けると、ふたりは外にいます。夜の草原に立っていました。建物はなにもみえません。空をみあげると、あの赤い星がひかっていました。

             つづく


クリスマスの赤い星(その1)

2007-11-23 09:59:18 | 童話

久々に低学年向けの童話を書きました。
クリスマス会で歌うWhen I Kneel at the Manger Tonightという曲を練習していたときに生まれた童話です。
When I Kneel at the Manger Tonightは、今晩飼い葉桶にひざまずくときという意味です。


クリスマスの赤い星(1)


一)サンタさんからのプレゼント

「なーんだ」
「あーあ」
という声が2だんベッドからどうじに聞こえてきたのは、クリスマスの朝でした。
上にいるエリは、プレゼントのつつみをあけてふくれっつらをしています。
下ではコウタがため息をついています。
「お兄ちゃん、サンタさんからのプレゼント何だった?」
エリがはしごをおりてコウタのベッドをのぞきこみました。コウタはあわててプレゼントをふとんの中にかくしました。
「う、うん。おまえのは何だったの?」
「お兄ちゃんがみせてくれたら、みせてあげる」
エリはパジャマの下にかくしたプレゼントをぎゅっとおさえました。
「よし、どうじにみせあおう」
「いち、にのさん!」

ふたりはそれぞれのプレゼントを目の前にさし出しました。
 コウタはカウンターつきなわとび。エリは外国せいのいろえんぴつです。
ふたりともおもわず「いいなあ」といおうとして口をおさえました。
外遊びが大好き、なわとび大好きなエリは、カウンターつきのなわとびがほしいと前から思っていたのです。
家の中で本を読んだり、絵をかくことの好きなコウタは、新しいいろえんぴつがほしいなあと前から思っていました。
でもふたりは、思っていることと反対をいいました。
「いろえんぴつか。ぼくのレゼントの方がよぽっどいいな」
「あたしの方がずっといいわ」
「絵がへたくそなエリにはもったいないな」
「何よ、なわとびへたくそなお兄ちゃんが使ったって、しょうがないんじゃない。わたしにかしてよ。100回カウント出してみせるから」
コウタよりなわとびが上手なエリは、じまんげにいいました。

「かすもんか。お前にかしたらこわされちゃうもんな。それより、いろえんぴつかしてくれよ。すごい絵をかいてみせるから」
「かさないわ。お兄ちゃんにかしたらへっちゃうもん」
ふたりはぷりぷりしながらきがえて、リビングにいきました。

「プレゼント何だったの?」
お母さんがニコニコして聞きました。
「なわとび」
「色鉛筆」
ふたりがうつむいて答えました。
「エリが色鉛筆で、コウタがなわとびか。サンタさんは、ふたりにふさわしいものをくださったんだなあ」
お父さんがいいました。
ふたりとも(どうして?)とくびをかしげましたが、口には出しませんでした。

つづく

風の種(その3)

2007-01-12 13:23:53 | 童話
洋治は、どうせ存在がなくなるのなら、風の姿で家に帰ってみようと思った。海を離れると、あっという間に都内の家に着いた。家には誰もいない。
父親の勤める病院の屋上へいくと、絵里が泣いていた。

(絵里……。何でこんなところにいるんだろう……。そうだ、お母さんが病気とかいっていたな)
洋治は絵里の長い髪をゆらしたが、絵里は気づかない。絵里は涙をふくと、洗濯物をとりこんで階段をおりていった。
洋治は窓のすきまから病室に入った。ベッドにはやせて髪の毛のぬけた女の人が、体にたくさんの管をつけて横たわっていた。その傍らには白衣を着た洋治の父が立っている。

「お母さん。死なないで……。お母さんが死んだら、わたしも死ぬ!」
絵里はベッドに寄り添って号泣している。
(絵里のお母さん、そんなに悪かったのか……。昨日学校で何も言わなかったのは、お母さんのことを心配していたからだったんだな。そういえば、絵里にはお父さんも兄弟もいない。お母さんが死んだら、ひとりぼっちになってしまう)

「絵里、死んではいけない。自殺したら天国へはいけないのよ。わたしは、もうすぐ天国にいく。いつか天国で必ず会えるから……」
息も絶え絶えに母親がいった。
「いやだ、いやだ、お母さん」
「神さまが決めたことだから……。どんなに生きたいと願っても、生きられないの……。だけど、お前は生きるのよ」
絵里の母親の言葉が自分に向けていわれたように思えて、胸がずきんとした。なんとか絵里を励ましてやりたいと思ったが、風である洋治の声は絵里には届かない。

父親が病室を出ていった。あとをついていくと、誰もいない廊下で泣いていた。
「なんとか治してあげたかった‥‥。なんと無力なんだ……」
父は壁をたたいてうめくようにいった。
冷たいとばかり思っていた父親の意外な一面をみて、自分が死んだら父は悲しむのだろうと思い直した。
洋治はいたたまれなくなって病院から出ると、うんと高いところまで飛んでいった。

「いこうよ、いこうよ、どこまでも」
風の歌声が聞こえる。いつの間にか風のベルトの中に入っていた。
(しまった。ここに入ると他の風と混ざってしまうとタオがいっていた。そうなると自分の存在がなくなってしまうんだ)洋治が抜け出そうとすると、ぐいと手をつかまれた。
「僕たちと一緒にいこうよ」
「きみは僕で、僕はきみさ」
「いやだよ、僕は人間なんだよ!」
洋治が叫んだが、がっちりつかまれた手はなかなか離れない。みると、体の色が緑から黄緑に変わってきている。
「誰か助けて、ベルトからおろして!」
洋治が叫んだとき、大きな温かい手に抱きしめられていた。青い風タオが、風のベルトから救い出してくれたのだ。
「ありがとう、タオ」
「お前は、人間にもどりたいのか?」
「うん」
洋治が答えると、タオはにこっと笑った。
「そういってくれるのを待っていたんだ」

その声が聞こえたとたん、洋治は意識を失ってしまった。気がつくと、深い森の中の石の上にすわっていた。手足をさすってみた。もとの姿にもどっている。
「ああ、僕はここにいる。生きてる。生きてるんだ!」

恐ろしい獣の鳴き声が聞こえた。森はすっかり暗くなっていて、どちらの方角からここへきたのか全くわからない。戻れなくなっていることに気づき、ぞっと寒気が襲った。

ふと見上げると、青白く光る雲のようなものが洋治の頭の上に浮かんでいた。
「タオ?」
 それは返事をしなかったが、木の葉を揺らしながらゆっくりと移動していく。洋治は急いであとをつけた。しばらくすると、木々の間から街の明かりがぽつぽつと見えてきた。
森を出たとたん、青白いものは見えなくなった。
「ありがとう、タオ!」
洋治が叫ぶと、風がほおをなでて吹き抜けていった。
おわり

風の種(その2)

2007-01-11 16:26:16 | 童話
お婆さんは種を洋治の手に握らせると、ケッケッケと笑って、森の奥に姿を消した。

洋治は風の種をぼんやり眺めた。アーモンドのようでおいしそうだ。ごくりとつばを飲み込んだ。そういえば、家を出てから何も食べてない。(これから死ぬというのになぜおなかがすくんだろう……。)

洋治はお婆さんからもらった種を食べた。かむとカリカリ音がして香ばしい。さあ次は睡眠薬と思ったとき、体が風船のように軽くなり、ふわっと浮き上がった。
みると、下に自分の体があった。石の上にうつむいて座り、魂がぬけたように動かない。(えっ? まさか僕、風になったの?)

「おーい、ぼうず」
上から呼び声が聞こえた。見上げると青い雲のかたまりのような物が浮かんでいた。目と鼻と口がついていて、洋治に話しかけた。
「お前、生まれたての風だろう。おれはタオっていうんだ。よろしく」
洋治は自分の体をながめた。緑色の小さな雲のような形だ。体の大きさはタオの十分の一くらいだ。
「風って色がついていたのか……」
「オレと一緒に旅しないか」

 洋治が黙っていると、青い風の体から手のような物がにゅうっと伸びてきた。
「いこうよ。きみも手を出して」
「えっ、手なんかないよ」
「風は思いのままに姿を変えられるのさ。手を伸ばそうと思えば手が出てくるはずさ」
 洋治が手を伸ばすイメージを思い浮かべると、手が伸びてきた。タオはその手をつかんでぐんぐん上へのぼっていった。整った形の富士山がみえた。山頂に積もった雪がキラキラ光っている。点々と水たまりのような湖があり、向こうには青い海がみえた。

 タオと洋治は海の上を飛んだ。水平線が弧を描いている。何て気持ちがいいのだろう。こんなにのびのびとした気持ちになったのは久しぶりだ。
 「上をみてごらん。風のベルトだよ」
見上げると川のようなものが空に流れていた。たくさんの色がまざりあっている。
「風のベルトって?」
「いろんな風が集まって地球のまわりをぐるぐる回っているんだ。あの中に入るとほかの風と体が混ざって、自分がなくなってしまうから、絶対に近づいてはいけないよ」
 
 タオは洋治の手をつないだまま海面すれすれに飛んだ。タオと洋治が通ると、すうっと一直線に波がたっていった。
「昔、オレは神さまからの命令で海をふたつに分けたことがあるんだぜ」
タオが自慢げにいった。
「海をふたつに? モーセの話みたい」
洋治は幼稚園のころ聞いた聖書の話しを思い出した。
「そうだよ。モーセとかいう人が手を挙げていた。その間にオレは吹いて吹いて吹きまくって、海の中に道をつくったのさ」
「ええっ! タオは三千五百年も前からいたの?」
「もっとずうっと前さ。神さまが地球を造ったとき、オレのことも造ったんだ」
「神様が造ったのか……」

「神様はオレだけじゃなくてお前のことも造ったのさ。人間としてね」
「僕が人間だってこと、知ってるの?」
「ああ。神様から教えてもらったんだ。お前みたいに小さいと、大風にのみこまれてしまうんだ。だから一緒にいようと思ってね」
「のみこまれると、どうなるの?」
「お前の存在がなくなってしまう。だからオレがお前を守る」  
「僕のことは、ほおっておいて! 僕は存在を消したいんだ」

 洋治が怒ったようにいうと、タオは悲しげな顔をして手を離した。
「そうか……残念だな。……さよなら」
タオがあっけなく水平線の向こうに飛んでいってしまったので、洋治は急に寂しくなった。(あんなこといわなければよかった……) 

               つづく

風の種(その1)

2007-01-10 16:48:52 | 童話

昨年11月に日本クリスチャン・ペンクラブから「生かされている喜び」という本が出版されました。その本に掲載されたわたしの童話を今日から3日間にわたり連載します。本は親しい人に送りましたが、この作品の感想を聞けませんでした。読んで下さったら、どうか感想をお聞かせ下さい。

  風の種            土筆文香
 
 洋治は、昼でも薄暗い森の中を歩いていた。ギシギシと葉をふみしめる音だけが聞こえる。うっそうとした木から、灰色の鳥がけたたましい声をあげて飛びたった。
洋治は大きな石をみつけると、その上にすわりこんだ。ポケットには睡眠薬とカッターナイフが入っている。睡眠薬は父親の部屋からこっそり持ってきたのだ。
(僕が自殺したことを知ったら、父さんは悲しむだろうか? いや、悲しむもんか。僕のことなんか、すぐに忘れてしまうさ)
 
洋治の家族は父と姉の三人だ。母親は洋治が幼いころ、病気で亡くなっている。
洋治は中学に入学してから二年半の間、ずうっといじめを受けていた。教科書をやぶられたり、物を取られたり……お金を持ってこいと脅されて、家のお金をこっそり持っていったこともある。忙しい医師の父は気づかなかった。
昨日は、学校で腹をくだしてトイレに入っていると、上からバケツの水をかけられた。廊下に引きずり出され、ズボンをぬがされた。もう少しでパンツもぬがされそうになった。いつもかばってくれていた絵里が、何も言わずにうつむいて廊下を通り過ぎていった。絵里にも見捨てられてしまった。もうがまんも限界を越えた。

洋治はこれまで自宅で何度もリストカットをしたが、そのたびにみつかっていた。
「命を粗末にして!」と父はひどく怒った。(お父さんになんか、僕の気持ちがわかるはずない)いじめのことは誰にもいえなかった。
学校を休んで朝早くから電車を乗り継ぎ、祖父母の家近くの森にやってきたのだ。幼いころから「この森には絶対に入ってはいけない」と祖父に繰り返しいわれて 
きた。「どうして?」と聞くと、「魔女が森に入った者をつかまえて食べてしまうからだ」と答えた。洋治は恐ろしくて森に近づけなかった。森に入って迷子になり、死んだ子供がいたので、祖父は魔女がいるといったのだろう。人がほとんど入らないこの森の中なら、誰にも引きとめられずに死ねる。洋治は睡眠薬を袋から出して手の上に乗せた。

「ちょっとお待ち」
背後からとつぜんしわがれ声が聞こえた。木陰から黒い服の腰の曲がったお婆さんが現れた。グリム童話に出てくる魔女みたいだ。
(えっ、魔女? おじいちゃんのいってたことは本当だったのか……。魔女に食べられて死んでもいいか……)洋治は覚悟を決めて、お婆さんをみつめた。
ところがお婆さんはニコニコしていった。
「その薬は眠り薬だね」
洋治がうなずくと、
「これと取り替えてくれないか」
と洋治の目の前にしわだらけの手を差し出した。掌には一粒の種が乗っていた。
「何それ?」
洋治がたずねると、お婆さんは欠けた歯をみせて笑った。
「種だよ。風の種」
「風の種?」
「お前は、空を飛びたいと思わんかね?」
「べつに」
「空を自由に飛べたら気持ちいいぞぉ。これを食べると、風になれるんだよ。風になって地球を一周してみたらどうだい?」

洋治は、このお婆さんは、きっと頭がおかしいのだと思って黙っていた。
「わたしはね、いろんな材料を使って魔法の種を作っているんだ。若返りの水の種を作ろうと思うのだが、なかなかうまくいかなくてな。眠り薬を調合すれば、できるような気がして……。頼む、一粒でいいから分けておくれ」
お婆さんは、深く腰を曲げて洋治の顔をのぞきこんだ。
「お前さんは死ぬつもりなんだろ。風になって地球を一周してから死んだらどうだ。さあ、これをやるから、眠り薬を一粒おくれ」
薬は二十粒もある。(一粒くらい上げてもかまわないか。薬を渡せばどこかへいってくれるだろう。早くひとりになって死にたい)
洋治はお婆さんに薬を一粒差し出した。

               つづく

羊のヨハナン(その3)

2006-12-08 10:01:43 | 童話

明日秋田へ父の納骨に行きます。秋田は雪が降っているとか……。寒がりのわたしはホッカイロを貼りまくっていきます。
でもフラッシュが起こると、(寒くても突然カーッと熱くなり、背中に汗が噴き出します)汗が冷えてもっと寒くなります。薬の副作用なので仕方ないのですが、フラッシュが起きませんように祈りつつ……。
今日はこれから実家に行き、一泊してから母と共にでかけます。主人と娘、妹一家、親戚の者、総勢8人で早朝の新幹線に乗ります。 


羊のヨハナンの最終回です。10月にブログでも紹介したクリスマス童話「やせっぽちのロバ」は昨日土筆文香のHPにアップしました。わたしのHPはずうっと放置していましたが、訪れて下さるかたも多く、感謝しています。半年ぶりの更新になりました。クリスマスの明るい背景を使いました。ブックマークにありますので是非ご覧下さい。

羊のヨハナンとやせっぽちのロバ、どちらがお好きですか?感想や批評など聞かせて下さると嬉しいです。


羊のヨハナン(続き)

エルダじいさんや、ベナヤさんの親戚の羊飼いたちが、それぞれ羊や山羊を連れて集まってきました。
ベナヤさんは、いつものようにルシアを横におき、ヨハナンを呼びました。でも、ヨハナンは先頭に出ていきません。下を向いてベナヤさんと目をあわせないようにしています。

「ヨハナン、どうしたんだ? さあ、おいで」
ベナヤさんが何度呼んでも、ヨハナンが来ないので、ニコルを先頭にして進みました。 長いこと歩いて、やっと草のあるところに着いたときは、すっかり日がくれていました。

羊たちは、おなかいっぱい草を食べてねむりにつきました。ヨハナンは、なかなかねむれません。
「ぼくは、何て悪い羊なんだろう。ルシアにあやまらなきゃいけないんだけど、とてもあやまれないや……」
ヨハナンが満天の星を見上げてつぶやいたとき、エルダじいさんの声がひびいてきました。昔からイスラエルに伝えられている神さまの言葉をベナヤさんたち、若い羊飼いに聞かせているのです。

「しかし彼は、私たちのそむきの罪のために刺し通され、私たちの咎のために砕かれた。……私たちはみな羊のようにさまよい、おのおの自分かってな道に向かっていった」
(羊だって? 自分かってな道にむかっていったって?それって、ぼくのことじゃないか) ヨハナンは、どきっとしました。
エルダじいさんは読み続けます。
「しかし、主は、私たちのすべての咎を彼に負わせた……彼は痛めつけられた。彼は苦しんだが、口を開かない。ほふり場に引かれていく子羊のように、毛を刈る者の前で黙っている雌羊のように、彼は口を開かない」
ヨハナンには難しくて意味がよくわかりませんでした。でも聞いているうちに自分のやったことがどんなにひどいことだったかと気がついて、胸がズキズキ痛みました。

エルダじいさんは、神さまの言葉を毎晩語りました。ヨハナンは、じっと耳をかたむけました。
「ひとりのみどりごが、私たちのために生まれる。ひとりの男の子が私たちに与えられる」

と、エルダじいさんがいったとき、とつぜん空が昼のように明るくなりました。ヨハナンは、おそろしくて前足で顔をおおいました。
「何だ、何だ、何事だ?」
羊飼いたちも、わなわなとふるえています。 そのとき、空から鈴をころがしたような声が聞こえてきました。前足の間からおそるおそる見上げると、真っ白な衣を着た天使が輪を描いて飛んでいます。
「おそれることはありません。きょうダビデの町にあなたがたのために救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです」
天使がいいました。

「救い主がお生まれになったって!」
ベナヤさんが立ち上がりました。
「神さまの御子が、とうとうお生まれになったんだ」
エルダじいさんは、涙を流しています。
「行こう、ダビデの町、ベツレヘムへ!」
羊飼いと羊たちは立ち上がると野原を横切って、ぞろぞろと町へ入っていきました。

羊飼いは、そまつな家畜小屋の前で立ち止まりました。
「これから、救い主をおがみにいく。一匹だけならいっしょに連れていって上げよう。いっしょにいきたいものは、前に出ておいで」
ベナヤさんが羊たちにいいました。
ヨハナンは、後ろの方にいましたが、どうしても救い主に会いたいと思って、前に出ていきました。でも、ベナヤさんの横にルシアがいるのを見ると、ヨハナンは立ち止まりました。(ベナヤさんは、一匹だけ連れていくっていった。ルシアを連れていったらいいんだ。ぼくなんか、救い主に会うしかくがない)
ヨハナンが、あとずさりを始めると、ベナヤさんがいいました。
「おいで、ヨハナン。お前をつれていこう」
おどろいてつっ立ったままのヨハナンのところにベナヤさんがやってきて、ヨハナンの首にうでをまわしました。そしてヨハナンを連れて家畜小屋に入りました。

飼い葉桶の中に、生まれたばかりの赤ちゃんが眠っていました。
(彼って、この赤ちゃんなんだ)
ヨハナンは、エルダじいさんの言葉を思い出していました。(この方は、本当に神さまの子どもなんだ。ぼくのために生まれて下さったんだ)
とつぜん、ヨハナンの目から涙があふれてきて、ぼたぼたと干し草の上に落ちました。

家畜小屋を出ると、ヨハナンはまっすぐルシアの方に歩いていきました。
「ルシア、ごめん。やぶの向こうにおいしい草があるなんていって、きみをだましたんだ」
ヨハナンは泣きながらいいました。
「そんなこと、もういいわ。泣かないで、ヨハナン。きょうは、喜びの日よ」
「そうだ、きょうは救い主誕生の喜びの日だ!」
ニコルがいいました。
羊飼いと羊たちは、神さまを賛美しながら野原にもどっていきました。
                          おわり

羊のヨハナン(その2)

2006-12-07 16:35:23 | 童話
ルシアは、前足をグーッとのばして背中を低くすると、やぶの中に入っていきました。 そのすがたを見ると、ヨハナンは、矢のようなはやさで坂道をかけおり、そのいきおいで、谷をかけ上がりました。
(あのやぶじゃあ、ぬけだせないだろう。ぬけだせたとしても、谷をのぼれないはずさ)

ヨハナンが丘をおりていくと、ベナヤさんが真っ青な顔をして近づいてきました。
「どこへいっていたんだ、ヨハナン。ルシアといっしょじゃなかったのか?」
ヨハナンは首を横にふりました。
「ルシアがいないんだ。いっしょにさがしておくれ」
ベナヤさんは、走り回ってルシアをさがしました。ヨハナンもうろうろしてさがしているふりをしました。

遠くで雷の音が聞こえました、黒い雲がどんどん広がってきます。ベナヤさんはピーッと口笛をふきました。
「もうすぐ雨がふってくる。おまえたち、この丘を下って来た道をもどるんだ。囲いの中に入っていなさい。ヨハナン、先頭をたのんだよ。わたしは、ルシアをさがしにいくから」

ベナヤさんは、走っていってしまいました。 ヨハナンたちが囲いの中に入ったとたんに、大粒の雨がふりだしました。ベナヤさんは、なかなか帰ってきません。ごろごろと雷の音も鳴りだしました。
ピカッ、ゴロゴロゴロ……。地面がゆれるほどの音とともに稲妻が丘の上で光りました。
(ベナヤさん、おそいなあ。ルシアがやぶの中で鳴けば、すぐ見つかると思ったのに……)

「ベナヤさん、だいじょうぶかな」
ヨハナンは心配でたまらなくなって、そばにいる羊のニコルにいいました。
「まだルシアをさがしているんだよ」
「ルシアなんか、ほおっておけばいいのに」
「ベナヤさんは、ルシアのことをとてもかわいがっていたじゃないか。見つけるまでもどってこないと思うよ」
「もし、ぼくがいなくなったら、ベナヤさんはさがさないだろうな」
ヨハナンが、ふてくされたようにいうと、
「そんなはずないよ。ベナヤさんは、君がいなくなったって、ぼくがいなくなったって、ひっしでさがすよ。ベナヤさんは、みんなのことをとってもかわいがっているもの」
と、ニコルが歯をむき出しました。

雨がやみ、あたりは夜のやみにつつまれました。ぴたぴたと、足音が近づいてきました。ベナヤさんです。
ベナヤさんは、ルシアを肩車するようにしてかついできました。
ルシアは、ベナヤさんのかたの上でぐったりしていました。白い毛のあちこちが血でにじんでいます。ベナヤさんのうでにも、いばらでひっかかれたような傷があり、そこから血が出ていました。
「ルシアはやぶの中でたおれていたんだ。だいぶ弱っているから家の中に連れていくよ」
ベナヤさんは、テントの家にルシアをかついだまま入っていきました。
ヨハナンのむねは、いたみました。大好きなベナヤさんにまでけがをさせてしまうなんて……。

次の日、日が高くのぼってもベナヤさんが来ないので、ヨハナンはニコルといっしょにテントをのぞいてみました。
ルシアは横になり、はあはあと苦しそうに息をしています。ベナヤさんは、ルシアのそばにひざまずいて祈っていました。
「ルシアは死んでしまうかもしれないよ」
ニコルがいいました。
(こんなことになるなんて思わなかった。ルシアが死んでしまったら、どうしよう……)
ベナヤさんの祖父のエルダじいさんがやってきて、ヨハナンたちに草を食べさせにいってくれました。ヨハナンは、草を食べる気にもなりません。家にもどると、何度もそっとテントをのぞいてみました。
ルシアは少しずつ良くなってきました。半月ほどして、やっとルシアは草を食べに出かけられるようになりました。

ヨハナンは、ルシアのそばにいけません。遠くからそっとながめていました。
「ルシアも歩けるようになったから、きょうは遠くまでいこう」
ベナヤさんがいいました。
「夜は囲いのないところで寝るから、仲間から決してはなれてはいけないよ」
近くに草の生えているところがなくなってしまったので、草地をもとめて何日もかけて出かけるのです。
             つづく

羊のヨハナン(その1)

2006-12-06 17:15:02 | 童話

先週の土曜日に行われた「はこぶねクラブ」のクリスマス会で行った紙芝居「羊のヨハナン」を紹介します。この童話は、わたしが7年前に書いたもので、かつて教会学校でペープサートにして子どもたちに披露しました。
今回は紙芝居で、ヨハナンとエルダじいさんの声を40代の牧師先生が、ルシアとベナヤさんを60代壮年の方が声を出してくださいました。わたしはナレーションとその他です。


  羊のヨハナン      
                             土筆文香


むかしイスラエルにベナヤという羊飼いの若者がいて、百二匹の羊を飼っていました。 ベナヤは羊にヨハナン、ニコル、ルシアという人間のような名前をつけて、とてもかわいがっていました。
ヨハナンは灰色のまるまると太った羊です。ヨハナンは、ご主人のベナヤさんのことが大好きでした。
ベナヤさんは、羊のところに来て口笛をふきました。きょうは丘の上までいくのです。

ベナヤさんは、囲いの戸を開けると、いつものように自分のそばにいちばん小さなルシアを連れてきました。ルシアは体が弱く病気ばかりしていたので、小さくてやせています。

ベナヤさんとルシアが並んで歩き、その後ろからヨハナンを先頭に百匹の羊たちがぞろぞろと続いて出かけました。
ヨハナンは、ベナヤさんと並んで歩きたいのに、いつもルシアがベナヤさんのそばにいて横にいくことができません。

「ベナヤさんは、ぼくなんかよりルシアのことが好きなんだ。あんなにかわいがっているもの」
ヨハナンは、ルシアのことを気づかいながら歩くベナヤさんの後ろすがたを見てつぶやきました。

緑の草がところどころに生えているなだらかな丘につくと、羊たちは散らばって草を食べはじめました。ベナヤさんは、いねむりをしています。
食いしんぼうのヨハナンは、まっ先に草の青々としげったところにかけていきました。 口いっぱいに草をほおばって、ふと前を見ると、すぐそばにルシアがきていました。

「ルシア、ここの草は食べちゃだめだよ」
ヨハナンは、ベナヤさんがねむっているのをたしかめてから、ルシアにいいました。
「ぼくが先に見つけたんだからな。あっちへいけよ」
ヨハナンは鼻先でルシアをつつきました。 ルシアはおびえたような目をして、ベナヤさんの方へいくと、その横で丸くなりました。

「ルシアのやつ、ベナヤさんのそばにばっかりいって! ルシアさえいなければ、ぼくがいちばんにかわいがってもらえるのに……」
ヨハナンは鼻息をあらくつぶやきました。 おなかがいっぱいになると、ヨハナンは丘のてっぺんまで上ってみました。石ころだらけの谷があり、その向こうに山がそびえています。
(あの山の上までいったら、ルシアのやつ、ひとりでもどってこれないだろうな。よし、ルシアを少しこまらせてやろう)

ヨハナンが丘を下っていくと、ベナヤさんはまだねむっていました。
「ルシア、さっきはごめんよ。とびきりおいしい草があるから、いっしょに食べにいこう」
ヨハナンは、ベナヤさんを起こさないようにルシアの耳元でささやきました。
「おいしい草って、どこに生えているの?」
「いいから、後についておいでよ」
ヨハナンは、ルシアを丘のてっぺんまで連れていきました。
「あの向こうの山に、おいしい草がたくさん生えているんだよ。ここをすべりおりよう」

「待って。そんなに遠くへいったら、ベナヤさんがしんぱいするわ」
ルシアは、ぶどうのような目でヨハナンをじっと見つめました。
ヨハナンは、
「だいじょうぶ。ベナヤさんが、目をさますまでにもどるから。さあ、おしりですべってごらん。楽しいよ」
と、ズズーッと谷をすべりおりていきました。 ルシアは、少しためらってから、ヨハナンの後に続きました。

「こんどは、坂道をのぼっていこう」
谷から山に向かって坂道が続いていました。
「ねえ、ヨハナン。わたし、つかれちゃった」
ルシアは、息をきらしていいました。
「じゃあ、ぼくがおしりをおしてあげるよ」
ヨハナンは、ルシアの後ろに回ると、頭でおしりをぐいっとおしました。
「ありがとう。ヨハナンってやさしいのね」
「てっぺんに着けば、おいしい草が食べられるんだ」

 ヨハナンは、ルシアを頭で持ち上げるようにして坂を上りました。なかなか頂上に着きません。ヨハナンもつかれてきました。
道のわきにいばらのやぶがありました。ヨハナンは、いいことを思いつきました。

「このやぶの向こうにとびきりおいしい草があるんだ。この下をくぐっていけたら、上までのぼらなくていいんだけど……ぼくは太っているから、とてもくぐれないなあ」

「それなら、わたしがいって取ってくるわ。わたしなら細いからだいじょうぶよ。口いっぱいに草をつんで持ってくるわ」
ルシアは、目をかがやかせていいました。ヨハナンは、ちくりとむねがいたみました。
              つづく

心の風船について

2006-09-07 12:19:24 | 童話

「幸福かどうかはその人の考え方次第で変わる」


今日(9/7)のデイリーブレッド(RBCミニストリーズ)に書かれていた言葉です。
童話「心の風船」の連載が終わり、あとがきを書こうと思っていたとき、この言葉を読んで驚きました。この童話のテーマだからです。


嬉しいことがあると心の喜びの風船はふくらみ、悲しいことがあると、喜びの風船がしぼんで、悲しみの風船がふくらんでしまう松吉さん。わたし自身もそうで、まわりの状況に左右されて喜んだり、悲しんだり……。
聖書には「いつも喜んでいなさい(Ⅰテサロニケ5:16)」と書かれていますが、いつもなんて、とうてい無理と思ってしまいます。


でも、喜ぶというのは主にあって喜ぶということなのです。キリストがわたしの罪を赦すために十字架にかかって死んで下さったことの喜びに心が満たされていれば、どんなにつらく悲しい出来事が起きても悲しみに押しつぶされてしまうことはなく、喜びの風船がぺしゃんこになることはないのです。正吾さんは、喜びの風船が大きかったので、自分の状況を嘆かず喜んでいられたのです。


松吉さんが…いや、読者が、……わたし自身が、どのような状況に置かれても、喜ぶことができたらいいなあという願いをこめて書きました。
心の風船が、破裂したり、ぺしゃんこにならないように願います。どんな出来事が起きても、その背後に神さまがおられ、すべてを良きこととしてくださると確信します。


心の……という題が多いことに気づき、「心の風船」の題名を変えようと思いましたが、シニアタイムにこの題名で連載されたので変更しませんでした。別なふさわしい題名を思いつかれたかたは、お知らせ下さい。
今日、これから武蔵野の実家にいきます。母が3日間出かけるので、父と過ごします。またしばらく更新できませんがよろしく。

心の風船(4)

2006-09-07 11:43:46 | 童話
  
 松吉さんが入院して1週間たちました。た嫁の秋子さんは毎日4時ぴったりにやってきます。7時には息子の大輔さんが会社の帰りにきます。土曜日には孫の和也、日曜には慎也が顔をみせます。
病院の先生も看護師さんも、みんなよくしてくれるのに松吉さんの心は沈んでいます。自分の体が動けないことがもどかしく、腹がたって自分を押さえられなくなります。

「このまんまずっと入院してたらええと思っとるんやろ」
きょうは大輔さんにどなってしまいました。
わざわざ見舞いにきてくれたのに……と自分のしたことに嫌気がさしてきます。
それでも、次の日になると今度は秋子さんにまで「毎日見舞いに来られても迷惑や」と、心にもないことをいってしまいました。秋子さんは驚いて早々に帰っていきました。

ひとりになると、今までの人生が思い出されます。貧しかった幼少時代。つらい奉公。海軍兵として戦地に行き、シベリアで捕虜生活。戦後の苦難を経てようやく安泰に暮らしていたら阪神大震災。家を失い仮設住宅暮らし。妻の病気と死……。つらいことばかりでした。

 窓の外をみると恐竜の形の雲が浮かんでいます。松吉さんは、つとむのことを思い出しました。
(つとむくんが見舞いに来てくれたらいいのになあ……いや、来るわけないな。子供のことだ、わしのことなどもう忘れたやろな)
松吉さんの悲しみの風船は、破裂しそうです。

「ありがとよ。ありがとよ」
隣のベッドの正吾さんの声が聞こえてきました。正吾さんはリュウマチで足が不自由です。見舞いにくる人もなく、1週間に1度娘さんが洗濯物を取りにくるだけです。
「お父さん、毎日着替えないで下さいね。洗濯物が増えて大変なんだから」
 娘さんの声が聞こえてきます。
「わかったよ。すまんなあ」
 娘さんは、そっけなく帰ってしまいました。

 松吉さんは、正吾さんがいちども怒ったり愚痴をいったりしないのを不思議に思いました。もし自分が娘にあんなふうにいわれたら、どなりつけてやるのに……。
「あんなこといわれて、つらくないんか?」
 松吉さんは正吾さんに聞いてみました。
「きてくれるだけありがたいと思っているよ。つらいなんて思ったことがないなあ……」
 正吾さんは穏やかにほほえみました。

「なんでそないに穏やかでいはるんや?」
「わしの心に喜びの風船があるからだよ。悲しみや怒りの風船も前にはあったけど、喜びの風船が大きくなってきて、ほかの風船がふくらむすきまがなくなったみたいなんだ」
(喜びの風船……。どないしたら喜びの風船がふくらむのやろか?)
 
そのとき病室のドアがあいて、かわいい声が聞こえてきました。
「こんにちは、おじいさん」
 つとむがお母さんとやってきたのです。
「ぼく、ずっと風邪ひいてたの。もっと早くお見舞いに来たかったんだけど……」
つとむは松吉さんの手に折り紙をのせました。何度も折り目がついてくしゃくしゃになっていましたが恐竜の形をしていました。
「これ、サンチュゴサウルスだよ」
「ありがとう、つとむくん」
 松吉さんの心の中に喜びの風船がふくらみはじめていました。
             
               おわり

拍手ボタンです

web拍手