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生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

「つばさをなくした天使」あと書き

2008-09-06 09:09:24 | 童話

今日は午後から子供家庭集会のきらりんクラブに出かけます。夕方からヒックンが来て泊まり、日曜は一日預かります。7日は教会学校の奉仕はできませんが、礼拝にだけは行けそうです。(「1時間半ぐらいならひとりでヒックンをみているから、教会へ行っておいで」と主人が言ってくれたのです!)
月曜、火曜はクリスチャン・ペンクラブの研修会で寄居(埼玉県)に一泊します。
 
これから掃除と夕飯の下ごしらえをしなければなりません。時間がないので、ワードで下書きに書いていたけれど更新していなかった記事を掲載します。
「つばさをなくした天使」は8月1日から27日にかけて10回の連載で掲載しました。原稿用紙40枚の童話です。
掲載してから日にちが経ってしまったので、やや間が抜けた気がしますが、今日はあと書きを掲載させていただきます。


「つばさをなくした天使」は、10年ほど前に書いた童話です。聖書(ヨハネの福音書5:1-15)に38年も病んでいてベテスダの池のほとりにいた人がイエスキリストに出会って病が癒されたんことが書かれていますが、わたしはこの箇所にずうっと心惹かれていました。

イエス様がその人に「よくなりたいか」と尋ねます。わかりきっていることなのにあえて尋ねるのです。その人は、素直に答えません。「主よ。私には、水がかき回されたとき、池の中に私を入れてくれる人がいません。行きかけると、もうほかの人が先に降りて行くのです。(ヨハネ5:7)」
長い間病んでいたことで少し卑屈になっています。そこがわたし自身と似ていると思ったのです。

自分も小児喘息で長い間病んでいたのですが、中学生の時、父の知人の紹介で漢方薬屋さんに連れて行ってもらいました。そのとき店員さんに「この薬を煎じて飲み続ければ必ず治りますよ」と言われました。そのとき、ひねくれていたわたしは(そんなに簡単に治ってなるものか)と思ったのです。

治りたくてたまらないのにそう思ってしまったのはなぜでしょう……。わたしの心はかなり屈折していたようです。

ベテスダの池のほとりにいた病人は、信仰深い者ではないように思えますが、イエス様によって癒されます。癒されてからの人生は、主をほめたたえる人生に変えられたようです。
 
さて、物語の主人公エルは天使ですが、罪を犯してしまいます。実際は、天使(み使い)は罪を犯しませんし、いたずらもしないのですが、擬人化して書いています。書いているうちにエルの心とひとつになっていきました。

エルがゲッセマネのイエス様に出会うシーンは、「子どもの聖書絵物語」の絵を見て思いを巡らしました。
間近にイエス様の苦しむ姿を見たかのようにはっと胸をつかれました。ゴルゴダの丘に行ったときはイエス様の体からしたたる血を感じ、イエス様が十字架にかかってくださったのは、わたしのためだったのだと激しく泣きました。この童話を書くことによって、十字架の意味が強く迫ってきました。

聖書を舞台に作品を書くにはまだまだ勉強不足の者だと感じ、つばさ以来、聖書を舞台とした童話は(クリスマス童話以外)書いていませんが、いつかまた書きたいと願っています。


つばさをなくした天使(その10:最終回)

2008-08-27 13:49:42 | 童話

イエスさまは、頭にいばらの冠をかぶせられ、その両手と足に太いくぎが打ち付けられています。
体の重みで、両手が引き裂かれるように痛み、わずかに足をのばして体をつっぱると、足から血がどくどくと流れ落ちます。
イエスさまは、その痛みにじっと耐えておられました。

 エルは、自分の心臓にくぎがささったようにずきんと痛みました。
(ぼくのためだ。ぼくのためにイエスさまは十字架にかかってくれたんだ……)
エルはいてもたってもいられなくなって、走っていき十字架にしがみつきました。
エルのちょうど頭の上にイエスさまの足先がありました。

 エルは、手を伸ばして足の指をさすると、
「ごめんなさい。ぼくは、ぼくは……」
と、いったまま胸がいっぱいになって、涙があふれました。イエスさまの血が、エルの金色の髪の毛にぽたぽたと落ちていきます。

「エル、こっちにもどっておいで!」
 エルより遅れて丘の上に着いたシャミルが、叫びました。
シャミルは、エルの姿が人間の目にも少しずつ見えはじめているのに気づきました。十字架のまわりには、やりを持った兵士たちが見張っているのです。もし、兵士にエルが見つかったら、殺されてしまうかもしれません。

「エル、早くこっちに来い。君はもうすぐ、人間になってしまうから」
シャミルが声のかぎり叫んでも、エルはぴくりとも動きません。
「何だ? 十字架の下に白い物があるぞ!」
誰かがいいました。幸い兵士たちはだれも気づいていません。
エルは、イエスさまの血で真っ赤に染まっていきました。
 イエスさまは、エルを見つめるシャミルにあたたかい眼差しを注ぎました。『何も心配することはないんだよ』といっておられるようでした。

イエスさまが息をひきとると、太陽が突然黒くなり、あたりは暗闇につつまれました。 人々のざわめきと、女達のすすり泣く声が聞こえます。
しばらくして、だんだん明るさがもどってくると、シャミルはエルがいなくなっているのに気づきました。
シャミルは、あちこちエルをさがして歩きました。でも、とうとうエルを見つけることができませんでした。

12復活の朝に

3日目の朝早く、マリヤは女たちとイエスの墓へ向かっていました。なきがらに香油をぬろうと思っていたのです。
 墓の前に、大きな石が置かれているのを知っていたので、どうしたら取り除くことができるか思いめぐらしていると、石はすでに墓の横にころがっていました。そして、その石の上に天使がすわっていました。

「イエスさまはここにはいないよ」
その声を聞いて、マリヤははっとして天使の顔を見つめました。
「お前は、エル!」
「マリヤさん。この間はありがとう。イエスさまは、よみがえったんだよ。このことを他のお弟子さんにも伝えてね」
エルは、そういうと姿を消しました。

シャミルは、アリサとオリーブ山に登っていました。足はもう引きずっていません。十字架のイエスさまがシャミルを見つめたとき、癒して下さったのです。
シャミルはアリサと二人で心を合わせて、山の上で祈ろうとしていました。
シャミルは、ふと空を見上げてあっと声を上げました。ひとりの天使が、空を飛びながら手をふっていたのです。

 それは、エルでした。エルの背中には、まぶしいほど白い新しいつばさが生えていました。
             
 おわり

つばさをなくした天使(その9)

2008-08-25 11:00:25 | 童話

エルが、イエスさまの横顔をじっと見つめていると、イエスさまの目から一粒の涙がぽとりと落ちました。
(ぼくのせいだ。ぼくのことを悲しんで泣いているんだ)

エルは、今まで自分のしてきたことを思い出しました。人間をばかにして、からかったこと。数え切れないほどのいたずらをしたこと。そしてシャミルのことを思うと……胸がはりさけそうになりました。

(スティックをかくされて、ぼくはシャミルのことをずっとうらんでいた。でも、あれは本当にシャミルが悪かったんだろうか……。
シャミルは、自分の足よりナタブさんの病気を治したかった。ナタブブさんを助けるためにしたことだったんだ。ぼくは、自分のことしか考えていなかった。つばさを下さいなんていえないよ。天に帰る資格なんてぼくにはない……)

エルの目からも涙がこぼれ落ちました。エルは坂を降りてふもとの草の上に倒れこみ、そのまま眠ってしまいました。

11ゴルゴダの丘

次の日、さわがしい人々の声でエルは目をさましました。
「十字架につけろ!」
「十字架だ!」
声は、エルサレムの町から聞こえてきます。エルは、胸さわぎがして町へ急ぎました。

「とうとうイエスは、十字架刑か。」
「当たり前よ。自分のことを、神の子なんていうからさ」
「もし、本当に神の子なら、おもしろいことが起こるかもしれないぜ」
「そうだな、見にいくか」
街角で、男達が話しています。

(イエスさまが、十字架につけられるって? うそだ、そんなことがあるはずない)

エルは、男たちの後についていきました。ゴルゴダの丘を息をきらしながら上っていくと、突然後ろから声をかけられました。

「エルじゃないか! 元気だったかい?」
ふり帰ると、シャミルが足を引きずって上ってきています。
「シャミル、あの時はごめん。絶交だなんていったけど、ぼく……」
エルは、言葉につまってうつむきました。

「ぼくの方こそごめんよ。ぼくのせいで君は、つばさをなくしてしまったんだもの」
「シャミル、どうして足を引きずっているの? スティックは?」
「スティックは、ベテスダにいる足の悪いおばあさんにあげてきた。あんなに悪いことをしてしまったぼくに、使うことはできないよ。ぼくは、一生足を引きずって生きる。ぼくが、君にしたことを忘れないために……」
シャミルは、つらそうに言いました。エルはたまらなくなって、シャミルの手をしっかりにぎりました。

「ところで、シャミル。イエスさまが十字架につけられたっていう人がいるけれど、うそだろう?」
「悲しいけれど本当のことだよ、エル。」
「本当のこと? イエスさまが十字架に!」

エルは、丘を一気にかけ上がりました。見上げると、丘の上に三本の十字架が立っていて、その真ん中にイエスさまがつけられていました。

つづく

つばさをなくした天使(その8)

2008-08-23 09:26:50 | 童話

気がつくと、エルはベッドの上に横になっていました。小さな窓から朝日がさしこんでいます。頭が割れるように痛く、のどがカラカラにかわいています。

「まあ、良かった。気づいたのね。夕べから目をあけないから心配していたのよ」
さっきの女の人が来て、エルに何か飲ませました。
「薬草をせんじたお茶よ。これできっと熱が下がるわ」
女の人は、やさしくほほえみました。

「ぼく、病気になったの?」
「そうよ。でも、しばらく休めば良くなるわ。君の名前は?」
「エル」
「わたしは、マリヤ。よろしくね」
マリヤは、エルのひたいにのせている手ぬぐいを水で冷やそうと、台所へ行きました。

「あら、水がもうないわ。今、くみに行くから待っていてね。水がめが割れちゃったから小さなつぼにしかためておけないのよ」  
エルは、マリヤの言葉にはっとしました。以前、ころばせて水がめを割ってしまった女の人でした。エルの心はずきっと痛みました。

マリヤが水くみにでかけようとした時、青年が入ってきました。
「姉さん、イエスさまはエルサレムのシモンの家におられるよ」
「ありがとう。急いで行かなくちゃ。ラザロ、水をくんでこの子のひたいに冷たい手ぬぐいを当てておいてね」
マリヤは立ち上がると、エルに向かって、
「大事な用があって出かけるから、おとなしく寝ているのよ」
と、紫色のつぼを大事そうにかかえて出ていきました。
「マリヤ姉さん、何いっているんだ? この子って、だれもいないのに……」
ラザロは、首をかしげてじっとベッドを見つめました。

(よかった。この人には、ぼくのことが見えないんだ。じゃあ、まだ間に合うぞ。イエスさまは、シモンの家だって? 行かなくちゃ)
エルは起きあがろうとして、頭をかかえて倒れ込みました。頭が割れるように痛みます。

(病気って、こんなにつらいものなのか……。あのベテスダの池の周りにいた人達もこんなにつらかったのかなあ)
エルは、しばらくうとうと眠りました。昼過ぎに目ざめると、熱は下がったようで頭の痛みはすっかりなくなっていました。

エルは、イエスさまをさがしにエルサレムへ出かけました。ようやくイエスさまのいる場所がわかったときは、すっかり暗くなっていました。
イエスさまはエルサレムの町はずれ、ゲッセマネの園におられるというのです。 エルは、まだふらふらする体で坂道をのぼっていきました。
満月が銀色の光を投げかけています。木陰で三人の男の人が眠っていました。そこから少し離れた所に、イエスさまはおられました。

イエスさまは、ひざまずいて岩に両手をのせて祈っています。
エルは近づいて、「イエスさま」と声をかけようとして、はっと口を閉じました。
イエスさまは、つらそうに顔をしかめて一心に祈っているのです。こんなにつらそうなイエスさまの顔を見たのは初めてです。
イエスさまが地上に来られる前、エルはよく天の国でイエスさまと話しました。イエスさまは、いつもにこにことやさしい顔をしていたのに……。
組んでいる手は、小きざみに震え、ひたいからは汗が流れ落ちています。

つづく

つばさをなくした天使(その7)

2008-08-19 11:59:17 | 童話

「小さい子どもたちが、イエスさまのところに近づいていったんだ。お弟子さんは、子どもたちを追い返そうとしたんだよ。その時、イエスさまはいわれたんだ。『子どもたちをわたしのもとに来させなさい。止めてはいけません。天国はこのような者たちのものです。』って」
「イエスさまは、小さな子どもたちも大事にされるのね。すばらしい方だわ」

「そうさ。イエスさまはすばらしい。まことの救い主だ」
ナタブさんが、立ち上がってイエスさまをほめたたえました。
「わしは、三十八年間も病気で立ち上がることもできなかった。ベテスダの池のほとりにいても、どうせいちばんには入れやしないんだと、少しやけになっていた。でも、あわれみ深いイエスさまがわしの病気を治して下さったんだ」

「イエスさまは、本当の救い主だわ」
「ハレルヤ、イエスさま!」
 シャミルが両手を上げて叫びました。

 シャミルとアリサは手をつないで、踊りながらナタブさんのまわりを回りました。

楽しそうなようすを見て、エルはちょっぴりうらやましくなりました。
(そうだ。イエスさまにお願いしよう。イエスさまなら、ぼくに羽をつけて、天に帰れるようにして下さる。イエスさまは、ヨルダン川の近くにおられるんだな。よし、会いに行こう)

10イエスさまをさがしに

 エルは、急に元気になってベタニアの町を出て、東へ向かいました。 空を飛べたら、ひとっ飛びでいけるのに、歩くと何と時間がかかるのでしょう。まる一日かかって、やっとヨルダン川の岸辺に着きました。川沿いを歩いてイエスさまを探しましたが、どこにもおられません。

そのとき、イエスさまが町を出てエルサレムへ向かったといううわさが聞こえてきました。 エルは、がっかりしましたが、気を取り直して出かけました。
昨日から、歩き続けているので、エルのはだしの足はまめだらけで血がにじんでいます。こんなことも、前にはなかったことです。

何時間も歩いて、やっとエルサレムの町が見えてきました。
(この町では、よくいたずらしたっけ……)
でも、今はそんな気にもなりません。
(ぼくは、まだだれにも見えないようだ。もし、人間になっちゃったら、いくらイエスさまでもぼくを天使にもどせないだろうな。今のうちにイエスさまにお願いしなくちゃ)

エルは、疲れてふらふらになりながらも、歩き続けました。
イエスさまがエルサレムからベタニアに向かったと人々が話しているのが聞こえてきたときエルは体の力がぬけて、道ばたにすわりこんでしまいました。

 (何だ、シャミルのところで待っていればよかったんだ)
エルは立ち上がると足をひきずってベタニアに向かいました。体が重く、顔がほてっています。足は痛いのを通りこして、じんじんとしびれています。
夕暮れになって、エルはやっとベタニアに着きました。倒れそうになりながら歩いていると、女の人に声をかけられました。前に見かけたことのある人です。

「ぼうや、どうしたの? 具合でも悪いの?」
「ああ、とうとう人間になっちゃったんだ。」
エルはふらふらと倒れ、気を失ってしまいました。


つづく

つばさをなくした天使(その6)

2008-08-12 17:27:48 | 童話


明日からしばらく更新ができませんで、今日2回目の更新をします。


エルはとなりの町のベタニアにもいってみまた女の人が水がめを頭の上にのせて歩いてきました。
エルは女の人の足元に、木の枝をさっと伸ばしました。女の人はつまずいてころび、水がめは落ちてふたつに割れてしまいました。
「ああ、どうしよう……。たったひとつの水がめだったのに……困ったわ」
女の人は、泣きそうな顔をしてかけらをひろいました。
エルの心はちくりと痛みました。でも、次の日にはすっかり忘れて、もっとおもしろいいたずらはないかと、目をキラキラ光らせてあちこちで悪さをしました。
でも、夜になると、エルは星空を見上げてため息をつきました。

「あーあ、天に帰りたい。カミルたちは今ごろ何してるのかな……。もう、天の庭で遊べないのかな……」
エルの目から涙がこぼれ落ちました。
「ああ、こんなことになったのは、みんなシャミルが悪いんだ。あの時、シャミルがスティックをかくさなければ、ぼくはとっくに天にもどっていたのに……」
エルは地面にシャミルの似顔絵を描いて、それをかかとで思い切り踏みつけました。

「うわっ!」
エルは、かかとがジーンとしびれてとび上がりました。
「痛い。なぜ?」
今まで痛みを感じたことなどなかったのです。エルは自分の腕をつねってみました。
「やっぱり痛い。天使は痛みなんか感じないはずなのに……。ぼくは人間になっっちゃたのかも……いやだよう」
エルは真っ青になりました。シャミルは地上で半年間暮らしているうちに人間になったのです。エルがスティックをなくしてから五か月もたっていました。
前は、疲れたこともなく、夜寝なくても平気だったのに、このごろ疲れてよく眠るようになっていました。
エルは悲しみのあまり胸がはりさけそうでした。

7イエスさまのうわさ

ちょうどその時、エルのすぐそばをひとりの男と少年が仲良く話しながら通りかかりました。少年は足を引きずっています。
「今日はすっかり遅くなったなあ。疲れたろう」
父親らしい男が言いました。
「ぼくは平気さ。お父さんこそ大丈夫?」
少年の声に聞き覚えがあります。エルは耳をすましました。
「ああ。あれからずっと調子がいい。」
「イエスさまの話、すばらしかったね。アリサにも話してきかせなくちゃ」
少年は、シャミルでした。

(シャミルのやつ、何で足を引きずっているんだ? スティックは使ってないのかなあ。シャミルがお父さんと呼んでいるのは、ナタブさんのようだ……。きっと池に入って、良くなったんだな)

「シャミル、明日アリサを家に呼びなさい」
「わーい! ありがとう、お父さん」
シャミルは、夢中になって話しているので、エルのことには気づいていません。
ふたりは本当の親子のように肩をたたき合いながら、家に入っていきました。エルは、その家のかべによりかかって眠りました。

翌日、アリサがシャミルの家にやってきました。エルは、窓をのぞいて耳をすましました。
「昨日、お父さんとヨルダン川の近くまでいって、イエスさまの話を聞いてきたんだよ」
「イエスさまのおっしゃったこと、みんな聞かせて」
アリサが、目をキラキラさせています。


つづく


つばさをなくした天使(その5)

2008-08-12 10:51:39 | 童話

*コメント投稿時にそのとき示された数字を入力しなければならない設定に変わっています。(わたしが設定したのではなく、迷惑コメント防止のためgooの方でそのようにしたのだと思います)「数字を入力したのにコメントが送れなくてショックです」というお便りを頂きました。ご面倒をかけてごめんなさい。

数字は半角で入力してください。全角だと受け付けられないのではないかと思います。よろしくお願いします。何かありましたらJCP(日本クリスチャンペンクラブ)のメールフォームから連絡ください。(土筆文香HPのメールフォームはまだ使えませんが、こちらは使えます。)




6 町へ行ったエル

「エル、エル」
エルは、シャミルの呼び声で、はっとわれに返りました。
「ぼくのつばさ、なくなっちゃった。もう、天に帰れない……」
よろよろと岸から上がると、シャミルがエルの前にひざまずいて深く頭を下げています。

「すまない、エル。」
シャミルの手には、エルの銀色のスティックがにぎられていました。
「あ、ぼくのスティック!」
「ごめん。おととい、これがぼくの目の前に落ちてきたんだ。何気なくつえのようにして歩いたら、スタスタ歩けたんだ。足に当ててみたら、痛みも消えたんだ。だから、スティックを悪い方の足にしばりつけて服の下に隠していた」
「何だって! ぼくが困っているのを知ってたくせに」
エルは大声でいいました。

「ごめんよ。ぼくがちゃんと歩ければ、ナタブさんを池の中に入れてあげられると思ったんだ。池に入れたらすぐに返すつもりだったんだよ。さっき、君が手伝いにきてくれたら間に合ったのに……」
「どうしてスティックを持っていることいわなかったんだよ。いえば手伝ったのに」

「ごめん、本当に悪かった。もし、いったら君がすぐスティックを持って天に帰ってしまうと思ったから……」
シャミルは足を引きずりながらエルに近づくと、スティックを差し出しました。
「いらないよ。今ごろ返してもらって、遅いよ。シャミルとはもう絶交だ」
エルは、真っ赤になって怒ると、走り出しました。池の向こうはエルサレムの町です。

「町へいってみよう。ぼくの姿は人間には見えないんだ。思いっきりいたずらしてやろう」
町のにぎやかなところにいくと、商人たちが色々な物を売っていました。パンや果物や魚、かごに入った鳩も売っています。
エルは、はとのかごのふたを次々と開けていきました。鳩がいっせいに飛び出しました。
「うわーっ! なんてこった。鳩がみんな逃げちまった」
商人たちは大あわてです。
「だれか、つかまえてくれ」
「つかまらないと、大損害だ!」
商人たちはやっきなって鳩をつかまえようとしましたが、一羽もつかまらないまま鳩は大空高く飛んでいってしまいました。

「あはは、ゆかい、ゆかい」
エルは、今度は大きな家の庭に入っていきました。庭ではガーデンパーティーが開かれていました。テーブルの上にはごちそうが並べられ、人々が楽しそうに飲んだり食べたりしています。

エルは、色々な食べ物を一口ずつつまみ食いしていきました。
男の人が、持っていた魚をかぶりつこうとした時、エルはさっと取り上げて、パクッと食べてしまいました。男の人は、指をかんで大声を上げました。

あはははは、ゆかい、ゆかい。
だれにも見えないって楽しいな
何でもできるよ、ルルルルル
何をしてもしかられない
ぼくは いたずら天使エルだよ。

エルはでたらめな歌をうたって、庭中スキップしてまわりました。
小さな雨蛙が一匹、エルの足元にとびはねてきました。エルは、その雨蛙の足をつかむと、女の人の飲もうとしているスープの中に入れました。
「キャーッ!」
女の人は、悲鳴を上げてスープ皿を落としてしまいました。

最後にエルは、テーブルクロスを引っ張って、ごちそうを全部ひっくり返しました。パーティーはめちゃめちゃです。

「あはははは、ゆかい、ゆかい」
エルは、毎日町のあちこちでいたずらして歩きました。


                               つづく

つばさをなくした天使(その4)

2008-08-11 11:55:35 | 童話

「まあシャミル! よかったわね。」
「うん。これでナタブさんをおぶって池の中に入れてあげられるよ。ナタブさんの病気が治ったら、ぼくもベタニアにいくよ」
「ナタブさんが、早く治るように祈っているわ」

 アリサは、シャミルのほおに軽くキスをすると去っていきました。
シャミルは、ほおを押さえてうっとりした目でアリサの後ろ姿をいつまでも追っていました。

「やーい、シャミル。あの女の子が好きなんだろう」
 エルはシャミルの肩をつついてからかいました。
「そうさ。だからぼくは人間になってよかったと思ってるんだ」
「変なシャミル。人間になって喜んでいるなんて……。ぼくは、絶対に人間になんかなりたくないな」

その日もエルは一日中スティックを探しました。池の向こうや茂みの中ものぞいていましたが、スティックは見つかりません。とうとう、日が暮れてしまいました。

「もし、明日も見つからなかったら……ずうっと見つからなかったらどうしよう」
エルは心配でたまらなくなってきました。

翌朝早く、鳥の声でエルは目をさましました。ミルク色の霧が池の上にたちこめています。

 5消えたつばさ

冷たい風がふいて霧が流れてくると、晴れ間からキラッと銀色に光る物が見えました。
天使のスティックです。カミルたちが池をかきまぜに降りてきたのです。
5人の天使は、いつもかきまぜる前にするように輪になって池の上で踊っています。

「大変だ、水かかき回されてしまう!」
思わずエルが叫ぶと、となりで寝ていたシャミルが飛び起きました。
「何だって! 天使たちがきているのかい?」
「そうだよ。どうしよう。」
「エル、お願いがあるんだ。ナタブさんをぼくの背中に背負わせてくれ。天使が池をかきまぜる前に池に入れるんだ。ナタブさんを池に入れたら、エルに渡したい物がある」

 シャミルは、エルの服を引っ張りました。エルはその手をふりはらって、
「そんなことより、『かきまぜないで!』ってカミルにいわなくちゃ」
と、飛び上がりました。
「エル、待ってくれ。ぼくの話を聞いて!」 
シャミルが叫びましたが、エルの耳には入りません。エルは天使たちのところへ飛んでいきました。

「お願い、今日はかきまぜないで。ぼくのスティックがまだみつからないんだ。明日までにはきっとみつけるから……」
「今は、水の動く時、この時は一秒も遅らせることができない」
カミルがいうと、天使たちは輪になったまま、ゆっくりと下に降りてきました。
「ああっ、水がかき回されてしまう!」

エルはあせって池の上をあっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりしました。ふと、下を見るとシャミルがひとりでナタブさんを必死に池の方へ引きずっています。池まであと数センチのところにきたとき、天使たちが水をかきまぜ始めました。

「エル、こっちにきて手伝って、早く!」
シャミルが叫びましたが、エルは、自分のことで頭がいっぱいでそれどころではありません。

シャミルの声に池のそばで寝ていた病人達が気づき、ひとりの男が池に飛び込んでしまいました。
「あーあ……。」
ナタブさんが、深いため息をつきました。

そのとき、エルはまっ逆さまに池に落ちてしまいました。つばさが消えてしまったのです。 
幸い水はエルの肩のあたりまでしかありません。ずぶぬれになったエルは、ぼんやりと池の中に立ちつくしていました。 天使たちは、天に帰ってしまいました。

              
つづく

つばさをなくした天使(その3)

2008-08-08 11:37:23 | 童話

 ナタブさんが眠ってしまうと、少年はエルの方を向いて話しました。
「ぼくは、天使のシャミルだよ。でも、今は人間さ」
「どうして人間になっちゃったの?」
「池の中にスティックを落として、みつけられなかったから、羽が消えちゃったんだ。町で暮らしているうち、だんだんと人間の体になってしまったのさ」
「人間の体になった?」
「半年も地上で暮らしていると、天使だって人間になってしまうのさ」
「へえっ!」
エルは自分も人間になったらどうしようと思いました。

「人間って弱いんだよ。ぼくは、ちょっところんで足にけがをしたんだ」
シャミルは長服の上からひざのあたりを指さしました。
「ほおっておいたら、ばい菌が入って、ちゃんと歩けなくなってしまったんだ。それで、治したいと思って、またこの池にきたのさ。そこで、このナタブさんと出会ったんだ」
シャミルはぐっすり眠っているナタブさにやさしい視線を送りました。

「ナタブさんは気の毒なんだよ。38年も病気が治らず、歩けないんだ。池がかきまぜられたとき、ナタブさんが池に入ろうとすると、先に誰かが入ってしまうんだ」
シャミルはため息をつくと、エルにもパンを食べるようにすすめました。
エルはスティックのことが気になって食べる気にもなりません。
「ぼくはどうしてもナタブさんを池の中に入れてあげたい……」
シャミルは、横になると毛布にくるまって眠ってしまいました。

ほんのりと夕焼け色を残していた空が、だんだんとコバルト色に変わり、星がひとつ、またひとつと輝きはじめました。
「うーっ……」
すぐそばでうめき声がして、エルはびっくりしてふり返りました。ナタブさんが、額に汗をたくさんかいて、うめいています。
 シャミルがさっと起きあがって、ナタブさんの汗をふいて水を飲ませました。
すぐ向こうでも、うめき声を上げている人がいます。
「ああいやだ。天の国では苦しんでいる人なんかだれもいなかったのに……ああ、早く天に帰りたい」
エルは空を見上げながら、夜が明けるのを待ちました。

4アリサ

 翌朝早く、エルがスティックを探しに出かけようとしたとき、ひとりの少女がかごをかかえてやってきました。かごの中には干した魚がたくさん入っています。
「シャミル、魚が手に入ったのよ。ナタブさんにも食べさせてあげて」
少女は、エルが見えないので、エルを通りこしてシャミルのところにかごを持ってきました。

 シャミルはほおをりんごのように赤くして、
「いつもありがとう、アリサ。お母さんの具合はどう?」
「昨日、池の水が動いた時、いちばんに入ってすっかり元気になったのよ」
「そうか、それはよかったね。じゃあ、もうここにいる必要はないんだね。」
シャミルはさびしそうな目をして、じっと少女を見つめました。
「そうなの。これからベタニアの町へ行くの。でもわたし、シャミルとナタブさんが治るまでときどきここにくるわ」
「ありがとう、アリサ。ぼくの足はもうよくなったんだよ」
シャミルは、アリサのまわりをぐるっとひとまわりしてみせました。

                 つづく

つばさをなくした天使(その2)

2008-08-03 15:40:51 | 童話

「エル、早くさがしにいっておいで!」
カミルがさけびました。
「次に池をかきまぜるときまでにもどってこないと、お前の羽はなくなってしまうからね」
「わかった。すぐもどるから」
エルはあわててスティックの飛んでいった方へ降りていきました。
(池の中に落ちたんじゃないから、すぐみつかるさ)

エルは、あちこち飛び回ってさがしました。でも、スティックは見つかりません。
「変だなあ。あれは光っているから目立つはずなんだけど……。」
エルは、歩いてさがすことにしました。エルの姿は人間には見えません。池のまわりには、大勢の病人がいました。目が見えず、つえをついている人。はうように歩いている人。毛布にくるまって寝ている人。ぐったりとした子どもを抱いた母親。
みんな悲しみに満ちた目をして、じっと池の水面を見ていました。
(色んな人がいるんだな)
エルは地上に降りてみて、はじめて気づきました。

「天使さん。何さがしているの?」
突然、後ろから声をかけられました。おどろいてふり返ると、エルより少し背の高い少年が立っていました。
「君、ぼくのこと見えるの?」
エルがたずねると、少年はにっこり笑ってうなずきました。
「それじゃあ、スティックも見えるよね。池をかきまぜるスティックを落としちゃったんだ」
「それは大変。一緒にさがしてあげるよ」
「ありがとう。助かるよ」
エルと少年は、歩き回ってあちこちさがしました。でも、スティックは見つかりません。
 
3ナタブさん

日がかたむきうす暗くなりはじめると、少年がいいました。
「今日はもうあきらめて明日にしよう。明日になれば、きっと見つかるよ。ぼくの寝場所で休むといい」
エルはしかたなくうなずいて、少年の後についていきました。

少年は途中で物売りからパンを買うと、横になっている男の人のところへ持っていきました。
「ナタブさん、具合はどう? 今日はめずらしくやわらかいパンが手に入ったよ」
少年はパンを小さくちぎると、ナタブさんの口へ持っていきました。
「今日は食べたくない……」
ナタブさんは、やっと聞き取れるほどの声でささやきました。
「だめだよ。少しでも食べなくちゃ。」
「今日は女の人が池に入って病気が治ったらしい……」
「この次はぼくがきっと、ナタブさんを池に入れるよ。」
「足の悪いお前じゃとうてい無理さ。」
「ぼくの足、治ったんだよ」
少年はナタブさんの前でぴょんぴょん飛びはねました。
「お前、どうして治ったんだ?」
「うん……。自然に治ったんだよ。だから、ナタブさんをおぶって池に入れられる。さあ、食べて元気だしてよ」
「ありがとうよ、シャミル。」
ナタブさんは涙をためて、パンを口に入れました。

「シャミルだって! 君、天使のシャミルなのかい?」
エルは叫びました。
少年はちょっとうなずいて片目を閉じると、ナタブさんに水を飲ませました。

つづく

つばさをなくした天使(その1)

2008-08-01 17:31:11 | 童話

久々に童話を連載します。原稿用紙40枚の作品なので連載10回ぐらいになりそうです。途中で日記も挟みます。
この作品は10年くらい前に書きました。CSのクリスマス会で劇として演じたものを見て感激したことがなつかしい思い出です。

        
つばさをなくした天使


1いたずら天使エル
 
むかし、イスラエルにベテスダという名前の池がありました。
池の水は、ときおりだれかがかきまぜたようにうずを巻いて動きます。そのとき、いちばん最初に池の中に入った人は、どんなに重い病気の人でも治ってしまいます。

 四角い池のまわりに足の踏み場もないほど病人たちが横たわっていました。遠く外国からも大勢の病人が次々とやってきました。病人たちは池の面をじっとながめていました。

 病気が治るのは、水が動いたとき、はじめに入った人ひとりだけです。病人たちは次に水が動いたときは、自分がいちばんに入ろうといっときも池から目をはなしません。
 
 池の水は、3日も続けて動いたり、一か月も動かなかったりと気まぐれでした。
人の目には見えませんが、六人の天使たちが銀のスティックを持ってかきまぜていたのです。

 神さまからの合図があると、リーダーのカミルが仲間の天使を呼び集め、池におりてってかきまぜます。

 池をかきまぜる天使の中にエルといういたずらな天使がいました。
エルは早く池をかきまぜたくてうずうずしていました。この前かきまぜた時、池のまわりにいた人たちがすごい顔つきで、いっせいに池の中に入っていったようすを思い出してひとりごとをいいました。

「人間っておもしろいなあ……。後から入った人は、治った人を見てくやしそうにしていたっけなあ……」
エルは、くすくす笑いました。

「あれから10日もたつのに、まだカミルはかきまぜにいこうっていわない。つまんないなあ……。よーし、ちょっと人間をからかってやろう。」
エルは、カミルたちにないしょでスティックを持ってこっそり池へ降りていきました。

エルは銀色に光るスティックで、水面をサアーッとなでました。
「うわーっ、水が動くぞ!」
人々は、われ先にと水の中に入っていきました。
「やった! おれがいちばんだぞ。」
手の不自由な男が叫びました。
「ややっ、おかしいぞ! 水が動かない。」
男はがっかりして、よろよろと池から上がりました。手は治っていません。
エルは、うれしそうに池の上を飛び回りました。
「やーい、だまされた。今日は動きませんよーだ」
エルは舌をぺろっと出して言うと、天にもどっていきました。


2なくなったスティック
 
 それから3日ほどして、カミルが仲間を呼び集めました。いよいよ本当に池をかきまぜる日がきたのです。
天使たちはスティックを持って池の上におりました。かきまぜる前に輪になってぐるぐる回りながら踊ります。それから静かに水面に立ち、かきまぜるのです。

 エルはうれしくて、スティックを思い切りふり回してかきまぜました。
「エル、あんまりふり回すとシャミルのように落としてしまうよ。」
 と、カミルが言いました。
2年ほど前、シャミルという天使がうっかり池にスティックを落として、取りに行ったまま帰って来ないのでした。

「平気さ。ぼくは落としたりしないさ」
エルは、片手でスティックを大きくふりました。その拍子にスティックがエルの手からするりとぬけて、どこかへ飛んでいってしまいました。


つづく

神さまのアトリエ(その3)

2008-06-18 16:17:26 | 童話

「すごい、体が浮かんでる」
美鈴は、夢をみているのだと思った。こんな楽しい夢をみるのは久しぶりだ。
みおろすと、白い大地に大きな絵が描かれているようだが、その上にうっすら霧がかかっていてよくみえない。

「だめだ、ひとつ足りないだけなんだけど、完成してないから、絵がみえないんだ」
 リエルは美鈴の手をつないで下降すると、絵の上におりた。
足元にはてのひらほどの丸い円盤状のものがきっちりと並んでいた。それはひとつひとつ微妙に色が違っていた。
「ここに置かれたドロップがなくなっちゃったんだ」
 リエルが指さす方をみると、歯が抜けたようにひとつ分すきまがあいていた。
「置いたのはだれなの?」
「神さまだよ。神さまが使う絵筆からドロップが落ちるんだ。それが絵になるんだよ」
 
 じっとみていると、数個のドロップの色が変わった。
「あ、色が変わった」
「ドロップは人間の心なんだ。元気ではりきっている心は明るい色、沈んだ心は暗い色。同じ人でも気持ちが変わるでしょ。だから色が変わるんだよ」
「心の色なのね……」
 美鈴は、自分の心がどんな色なのか想像してみた。きっと灰色か黒だろう。お母さんは、赤かオレンジ色だろう。

「あれっ、行方不明なのは、きみのドロップだったのか!」
 リエルが目をキラキラさせて美鈴の前に手を差し出した。美鈴は、いつの間にか丸い物を手に持っていた。それは黒味をおびた灰色だった。
「これ、わたしのドロップ?」
 リエルはこくりとうなずいた。
「やっぱり、変な色」

 美鈴は小さなため息をついて、ドロップをリエルに渡した。
「ちがうよ、ちっとも変じゃない。この色が必要なんだよ」
 リエルは激しく首を左右にふった。
 リエルが美鈴のドロップをすきまにうめこむと、さーっと霧が晴れてきた。
「よかった、よかった。これで完成だ。さあ、みてみよう」
 リエルは美鈴の手をとると、再び高くとびあがった。

 そこには花園の中にすわっている男の人の絵が描かれていた。その人は、白い一枚の布で作ったような長服を着ていた。どこかでみたことがある人だと、一生懸命小さいころの記憶をたどっていた。古い建物の壁にかけられている絵と似ていると思ったが、それがどこなのか思い出せない。

 その人は、まっすぐ顔を上げ、悲しみとやさしさに満ちた目でじっとこちらをみていた。
「あれだよ、あの右の瞳のまん中の色、あれが美鈴ちゃんのドロップなんだよ」
「わたしのドロップが瞳の色……」
「神さまは、あの人の悲しい瞳を描くのに美鈴ちゃんのドロップがどうしても必要だったんだよ」
「わたしのドロップが……?」
 美鈴の目に涙があふれてきた。

 リエルはその人の胸のあたりに美鈴を降ろした。美鈴が横になると、その人がやさしく抱きしめてくれたような気がして、そのまま眠ってしまった。

 気がつくと美鈴は電車に乗っていた。電車は間もなく土浦駅に止まった。
電車を降りて、亜鳥絵という駅を調べたがそんな名前の駅はどこにもなかった。

(あそこは、神さまのアトリエだったんだ)
美鈴は神さまの描いた絵を思い浮かべて、足取りも軽く家に向かっていった。
ネコヤナギが春の日差しを浴びて小さく揺れていた。

                   
 おわり

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神さまのアトリエ(その2)

2008-06-17 10:36:46 | 童話

 ふとそう思って土浦駅に向かった。サイフは持ってきていない。コートのポケットに200円入っていた。一駅分の片道切符しか買えない。 
先のことは何も考えずに190円の切符を買って、ちょうどホームにすべりこむようにしてやってきた下り電車に乗った。
電車の中は暖房がきいていてポカポカあたたかい。久しぶりに歩いたので、疲れからうとうと眠ってしまった。

 ガタンと電車が止まって、あわてて降りた。駅の名をみると「亜鳥絵」と書いてある。
(あとりえ? 常磐線にそんな駅あったっけ……。) 
ちょっとのつもりだったけど、ずいぶん寝てしまったのだろうか。切符は一駅分だから、このまま上り電車でもどろうかと思った。

 ホームから改札の向こうをみると、大きな白い門がみえた。石を積み重ねてできている門で、木の扉は少し開いていた。中世ヨーロッパの城の門みたいだ。
門にひかれて改札へいくと、自動改札でもないのに駅員が誰もいない。というか、ホームにも駅にも誰ひとりいないのだ。

 改札を出ると、高さが10メートルぐらいありそうな門がドーンと目の前にそびえていた。少し開いている扉のすきまから中をのぞくと、建物も何もなく、ただ広い雪の原がひろがっていた。

(ここはどこなの? 福島まで来てしまったのだろうか……)
 美鈴が門の前でたたずんでいると、頭の上から子供の声がした。
「早く中に入って」
 見上げると、門の上に少年がすわっていた。少年の背中には天使のような羽根が2枚ついている。美鈴は、コスチュームを着ているのだと思った。

「あぶないよ、そんなところにのぼっちゃ」
 美鈴がいったとき、少年は羽を広げてふわっと目の前に降りてきた。
「えっ、その羽根本物? きみは天使なの?」
「そうだよ、ぼく天使のリエル。きみは、美鈴ちゃんだね」
 天使はなぜか美鈴の名前を知っていた。
「さがしものをしているんだ。ドロップ落ちてなかった?」
「ドロップって飴?」
「ちがうよ。これくらいの丸いお皿みたいなものだよ」
 リエルは両手の指でコースターくらいの大きさの丸を作ってみせた。
「お皿? さあ、みなかったけど……」
「ああ、困ったなあ。ひとつ足りないんだよ。ドロップがないとせっかくの絵が完成しないんだ」

「リエルは絵を描いているの?」
「ぼくじゃないけどね。すごくすてきな絵なんだ。みてほしいな」
 リエルは門の扉を大きく開けると、美鈴の手をぐいっとひっぱった。体は小さいのにすごい力だ。

 リムにひっぱられて門をくぐると、真っ白な世界で、美鈴はまぶしくて何度もまばたきをした。足元に雪の感触がしないのでかがんでさわってみると、白いものは冷たくない。布のような感じだ。

「これ、キャンバスなんだよ。上からみないとわからないんだ。とんでいこう」
 リエルは美鈴の腕をつかんで羽ばたいた。美鈴の体は風船のように軽くなり、宙に浮いた。

             つづく

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神さまのアトリエ(その1)

2008-06-16 13:01:19 | 童話

最近わたしは、ヤングアダルト(12歳~18歳)向けの小説や童話を書いています。わたしの精神年齢が14歳ぐらいなので、大人向けの小説はどう逆立ちしても書けません。
今日は今年2月に書いた童話を掲載します。
不登校になった少女が主人公の作品「神さまのアトリエ」は原稿用紙11枚の作品です。3回に分けて連載しますので、感想など聞かせていただけると嬉しいです。


神さまのアトリエ

「またこたつでゴロゴロしている。」
お母さんが掃除機をかけながら文句をいっている。
美鈴は、こたつに深く体を入れて両手で耳をふさいだ。
「なんにもしないで、一日家にいるんだから……。夕飯ぐらい作ってくれたらいいのに」

耳をふさいでもお母さんのかん高い声が聞こえてくる。バタバタと動き回るお母さんの足音が伝わってきて胃が痛くなる。

お母さんは高校の教師だ。毎朝5時に起きて、てきぱきと掃除、洗濯、夕飯の下ごしらえをして仕事に出かけていく。家でも学校でも明るくはつらつしている。
(お母さんは、何であんなに元気なんだろう……。それにくらべてわたしは……)

中学1年の美鈴は、9月から半年近く学校を休んでいる。とくべつないじめがあったわけではない。友達がいないわけではない。
かぜをこじらせて1週間学校を休んだ。久しぶりに学校へ行ったら、いつも一緒に行動していた親友の百合恵が、音楽室にいくとき別の友達と先にいってしまった。
「あ、先にいってゴメン。美鈴のこと、忘れてた」
百合恵は美鈴をみて、きまり悪そうに頭をかいた。

百合恵の言葉を聞いたら、学校へいく気力がなくなってしまった。百合恵は悪くない。意地悪で先にいったのではない。でも、1週間休んだだけで忘れられてしまう自分って何だろう? と思うと、体が石のように重くなった。

美鈴は、毎朝きがえて学校にいこうとする。朝ご飯を食べて出かけようとすると、決まってお腹が痛くなる。今日は吐き気までして、トイレで吐いてしまった。トイレから出ると、こたつにもぐりこんで、そのまま出られなくなった。
「3時になったら洗濯物とりこんでおいてね」
お母さんはむりやり美鈴を学校にいかせるようなことはしない。でも、学校へいかない美鈴に対してイライラしているのがわかる。
朝食の食器がこたつの上に置いたままになっているのをみて、片づけながらつぶやいた。

「まったく役立たずなんだから」
お母さんは流しにガチャリと食器を置くと、せかせかと出かけていった。
しばらくして美鈴は起き上がった。こたつから出てのろのろと自分の部屋にいき、コートをはおった。

美鈴は、重い体を引きずるように、しばらくぶりで外に出た。
『忘れてた』という百合恵の言葉と『役立たず』というお母さんの言葉が頭の中でグルグル回っている。
(自分はいったい何者なんだろう? 学校では、いてもいなくてもいい存在。家ではお荷物的存在……。何のために生きているんだろう?)
そんなことを考えながら街を歩いた。
(自分のことを誰も知らない街へいってみたい)
           

       つづく


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春をさがしに(その4)

2008-02-29 13:37:30 | 童話

6春がきたぞ

 しばらくして、白い雪の中にピンク色のものがみえました。むちゅうで雪をはらいのけると、ダチョウのたまごのようなものがでてきました。
「あった、春風のたまごだ」
 たくやはコツコツとからをたたきました。

「春風さん、起きて。出てきてよ」
たくやが呼んでもたまごはぴくりとも動きません。
「凍っているんだ。あたためなくちゃ」

たくやは、たまごをごしごしこすりました。

 目をさませ、目をさませ、春風。
 生まれろよ、生まれろよ、春風。
 みんなが、待ってるよ、春風。
 母さんも、待っていたんだ春風。

 いっしょうけんめいこすっていると、ねむくなってだんだん頭がぼおっとしてきました。たくやは、たまごにおおいかぶさるようにたおれ、眠ってしまいました。

 しばらくして目をさますと、とてもあたたかです。そばにバレリーナのいしょうを着た女の子が立っていました。
「わたしは春風のメイ。助けてくれてありがとう」
 メイはスカートを広げておじぎをしました。
 
 雪はすっかりとけて、緑やうすべに色のたまごが土の上にころがっています。たまごはわれずにからのすきまにあいた小さい穴からけむりをだして、そのけむりが女の子のすがたになりました。
「春よ、春よ、春ですよ」
春風たちは歌いながら、たくやの体を持ち上げてとび、つくば山をおりていきました。

 つむじが追いかけてきて、
「春だぞー、少し遅れたけど、春がきたぞー」
と大声でどなりながら追い越していきました。

 その日、町の人たちはびっくりしました。だって、嵐が起こったかと思うと急にあたたかくなって、桜がいっぺんにさいたのですから。

「たくや、ぼくは北の国へいくよ。またこんどの冬にあおうね」
遠くでリムの声がしました。

 それからまもなく、たくやのお母さんがすっかりよくなって退院してきました。たくやは、お母さんに抱きついていいました。
「お母さん、すごいでしょう。ぼく、春風のたまごを発見したんだよ」

            おわり


12年ぐらい前に書いた作品です。今回教会で子供たちにパネルシアターとしてお話するのに書き直しました。


追記
童話を書き始めたころ、動物国シリーズで短編をいくつか書いた後、風シリーズで風の童話を5つ書きました。

テーマは聖書の2つのみ言葉からきています。

あなたの目は胎児の私を見られ、(詩編139-16)

胎内にいるときからになわれており、生まれる前から運ばれた者よ。あなたがたが年をとっても、わたしは同じようにする。あなたがたがしらがになっても、わたしは背負う。わたしはそうしてきたのだ。なお、わたしは運ぼう。わたしは背負って、救い出そう。 (イザヤ46:3-4)


胎児であったときから見て下さっている神さまの存在を伝えたくて書きましたが、北風リムのセリフではなく、ストーリーの中でそのことが伝えられるように書けたらよかったのにと思っています。
感想を聞かせて下さると嬉しいです。

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