生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

羊のヨハナン(その3)

2006-12-08 10:01:43 | 童話

明日秋田へ父の納骨に行きます。秋田は雪が降っているとか……。寒がりのわたしはホッカイロを貼りまくっていきます。
でもフラッシュが起こると、(寒くても突然カーッと熱くなり、背中に汗が噴き出します)汗が冷えてもっと寒くなります。薬の副作用なので仕方ないのですが、フラッシュが起きませんように祈りつつ……。
今日はこれから実家に行き、一泊してから母と共にでかけます。主人と娘、妹一家、親戚の者、総勢8人で早朝の新幹線に乗ります。 


羊のヨハナンの最終回です。10月にブログでも紹介したクリスマス童話「やせっぽちのロバ」は昨日土筆文香のHPにアップしました。わたしのHPはずうっと放置していましたが、訪れて下さるかたも多く、感謝しています。半年ぶりの更新になりました。クリスマスの明るい背景を使いました。ブックマークにありますので是非ご覧下さい。

羊のヨハナンとやせっぽちのロバ、どちらがお好きですか?感想や批評など聞かせて下さると嬉しいです。


羊のヨハナン(続き)

エルダじいさんや、ベナヤさんの親戚の羊飼いたちが、それぞれ羊や山羊を連れて集まってきました。
ベナヤさんは、いつものようにルシアを横におき、ヨハナンを呼びました。でも、ヨハナンは先頭に出ていきません。下を向いてベナヤさんと目をあわせないようにしています。

「ヨハナン、どうしたんだ? さあ、おいで」
ベナヤさんが何度呼んでも、ヨハナンが来ないので、ニコルを先頭にして進みました。 長いこと歩いて、やっと草のあるところに着いたときは、すっかり日がくれていました。

羊たちは、おなかいっぱい草を食べてねむりにつきました。ヨハナンは、なかなかねむれません。
「ぼくは、何て悪い羊なんだろう。ルシアにあやまらなきゃいけないんだけど、とてもあやまれないや……」
ヨハナンが満天の星を見上げてつぶやいたとき、エルダじいさんの声がひびいてきました。昔からイスラエルに伝えられている神さまの言葉をベナヤさんたち、若い羊飼いに聞かせているのです。

「しかし彼は、私たちのそむきの罪のために刺し通され、私たちの咎のために砕かれた。……私たちはみな羊のようにさまよい、おのおの自分かってな道に向かっていった」
(羊だって? 自分かってな道にむかっていったって?それって、ぼくのことじゃないか) ヨハナンは、どきっとしました。
エルダじいさんは読み続けます。
「しかし、主は、私たちのすべての咎を彼に負わせた……彼は痛めつけられた。彼は苦しんだが、口を開かない。ほふり場に引かれていく子羊のように、毛を刈る者の前で黙っている雌羊のように、彼は口を開かない」
ヨハナンには難しくて意味がよくわかりませんでした。でも聞いているうちに自分のやったことがどんなにひどいことだったかと気がついて、胸がズキズキ痛みました。

エルダじいさんは、神さまの言葉を毎晩語りました。ヨハナンは、じっと耳をかたむけました。
「ひとりのみどりごが、私たちのために生まれる。ひとりの男の子が私たちに与えられる」

と、エルダじいさんがいったとき、とつぜん空が昼のように明るくなりました。ヨハナンは、おそろしくて前足で顔をおおいました。
「何だ、何だ、何事だ?」
羊飼いたちも、わなわなとふるえています。 そのとき、空から鈴をころがしたような声が聞こえてきました。前足の間からおそるおそる見上げると、真っ白な衣を着た天使が輪を描いて飛んでいます。
「おそれることはありません。きょうダビデの町にあなたがたのために救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです」
天使がいいました。

「救い主がお生まれになったって!」
ベナヤさんが立ち上がりました。
「神さまの御子が、とうとうお生まれになったんだ」
エルダじいさんは、涙を流しています。
「行こう、ダビデの町、ベツレヘムへ!」
羊飼いと羊たちは立ち上がると野原を横切って、ぞろぞろと町へ入っていきました。

羊飼いは、そまつな家畜小屋の前で立ち止まりました。
「これから、救い主をおがみにいく。一匹だけならいっしょに連れていって上げよう。いっしょにいきたいものは、前に出ておいで」
ベナヤさんが羊たちにいいました。
ヨハナンは、後ろの方にいましたが、どうしても救い主に会いたいと思って、前に出ていきました。でも、ベナヤさんの横にルシアがいるのを見ると、ヨハナンは立ち止まりました。(ベナヤさんは、一匹だけ連れていくっていった。ルシアを連れていったらいいんだ。ぼくなんか、救い主に会うしかくがない)
ヨハナンが、あとずさりを始めると、ベナヤさんがいいました。
「おいで、ヨハナン。お前をつれていこう」
おどろいてつっ立ったままのヨハナンのところにベナヤさんがやってきて、ヨハナンの首にうでをまわしました。そしてヨハナンを連れて家畜小屋に入りました。

飼い葉桶の中に、生まれたばかりの赤ちゃんが眠っていました。
(彼って、この赤ちゃんなんだ)
ヨハナンは、エルダじいさんの言葉を思い出していました。(この方は、本当に神さまの子どもなんだ。ぼくのために生まれて下さったんだ)
とつぜん、ヨハナンの目から涙があふれてきて、ぼたぼたと干し草の上に落ちました。

家畜小屋を出ると、ヨハナンはまっすぐルシアの方に歩いていきました。
「ルシア、ごめん。やぶの向こうにおいしい草があるなんていって、きみをだましたんだ」
ヨハナンは泣きながらいいました。
「そんなこと、もういいわ。泣かないで、ヨハナン。きょうは、喜びの日よ」
「そうだ、きょうは救い主誕生の喜びの日だ!」
ニコルがいいました。
羊飼いと羊たちは、神さまを賛美しながら野原にもどっていきました。
                          おわり

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