アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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マップ・トゥ・ザ・スターズ

2015-08-22 09:04:21 | 映画
『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 デヴィッド・クローネンバーグ   ☆☆☆☆

 iTunesのレンタルで鑑賞。ネットやアマゾンでの評価はさんざんなこの映画、私はたいへん面白かった。クローネンバーグ久々の大暴走をたっぷり堪能した。ノワール風の『ヒストリー・オブ・ヴァイオレンス』『イースタン・プロミス』は傑作だが変態性はそれほどでもなく、『危険なメソッド』は更におとなしく文芸的な作風だったので、やはりクローネンバーグもこうして丸くなっていくんだなあ、と思っていたら全然そんなことはなかった。堂々の変態映画『マップ・トゥ・ザ・スターズ』登場。クローネンバーグのダークサイドが全開になっている。ただし、誰にもおススメはしません。これを好きだといったら間違いなく変態扱いされますから。

 世間一般では「ハリウッド暴露モノ」と言われているらしいこの映画、一体どこが暴露なんだと言いたい。これを現実のハリウッドのことだと思う人間がいるのだろうか。この映画の中の「ハリウッド」は明らかに現実世界ではない、魑魅魍魎が跋扈する異界である。『裸のランチ』『eXistenZ』と同じだ。クローネンバーグの異形世界がただどこまでも茫漠と広がっているだけなのだ。だからもちろん、風刺でもない。大体風刺なんてつまらないことをクローネンバーグがやるわけがない。たとえ原作や元ネタが風刺だったとしても、クローネンバーグが料理したら結果的に異世界創造となる。要するにこれは暴露や風刺ではなく、奈落の暗黒神話なのである。主人公アガサ(ミア・ワシコウスカ)が「どこから来たの?」と問われて「ジュピター」と答える問答を例に引くまでもなく、またあのメルヘン的に美しい星図のタイトルバックに陶然となるまでもなく、タイトルの「スターズ」が映画スターと神話の星々のダブルミーミングであることは明らかだ。

 そしてこのハリウッドと呼ばれる異世界においては、華やかなショービジネスの世界に生息するセレブ達こそモンスターである。本作にはかつてのクローネンバーグ映画のように不気味なクリーチャーは出てこないが、実はクリーチャー映画に限りなく近い感触がある。この映画に登場するハリウッドのスターたちそしてそれに寄生して生きる人々は全員異常であり、非人間的であり、その不気味さはたとえようもない。子供のくせに口汚く大人を罵倒し、拳銃をオモチャにするベンジー。欲しい役が手に入ったためにライバル女優の子供の溺死を祝ってダンスするハバナ(ジュリアン・ムーア)。インチキ心理療法で名前を売っているワイス(ジョン・キューザック)。そしてそれらに寄生する業界の人々。彼らは見かけこそ我々と同じ人間だが、その行動原理はもはや想像を絶している。彼らが楽しそうに笑いさざめいている時こそ、もっとも私たちの背筋が寒くなる瞬間である。

 その怖さは血まみれホラーとはレベルが違っているし、またある種の映画でよく描かれる人間の狂気やサイコパスの怖さでもない。心にもないことを言ったり、他人の不幸を喜んだり、人の陰口を愉しんだりという、普通の人々も多少持っている醜い要素を過激に拡大した結果、血も凍るような恐るべき異界となるのである。だから彼らの世界は私たちの世界と区別がつかない、見た目は一緒である。それどころか、彼らが生息するハリウッドは人々の「憧れ」なのだ。広壮な邸宅、プールとカクテル、高級クラブ、そしてショービズ界の人々。それが実はとてつない暗黒の世界だという、この背筋も凍るアイロニー。
 
 加えて、この物語の中には数々の亡霊たちが跋扈している。若くして死んだハバナの母、病気で死んだベンジー・ファンの女の子。従って、この映画は一面古典的な装いのゴシック譚であり、ゴースト・ストーリーでもある。アマゾンのカスタマーレビューだったか、異常性を幼少期のトラウマに結びつけるのはもう古いという感想があったが、それは違う。ハバナのトラウマはハリウッド式の「トラウマごっこ」であり、ワイスがたきつけてメシの種にしているだけなのだ。アイロニーを真に受けてはいけない。その証拠にワイスとハバナの「セッション」の馬鹿馬鹿しさは噴飯ものだし、13歳のべンジーすら亡霊を見る。おまけに前述の通り、この映画に登場する全員がおかしいのであって、それは個人個人のトラウマどうこうではなくハリウッドという場所のせいなのである。

 そしてこの「スター」たちの戦慄すべき暗黒神話は結末に向かって次第にエスカレートしていく。画面にはまがまがしい磁力が充満し、どのシーンも尋常ではない緊迫感でピリピリと張りつめている。そしてあらゆる人間関係と見かけ上の平穏さがガラガラと崩壊を始める終盤では、悲劇的な崇高さすら漂い始める。もちろんそれは、奈落の暗黒神話にふさわしい黒い崇高さではあるけれども。

 というわけで、『マップ・トゥ・ザ・スターズ』は初期のクローネンバーグの緊張感と異質性を近年の題材とスタイルの中に復活させた強烈な映画、というのが私の感想だ。ヤケドの痕を隠すために常にピカピカ光る長手袋をはめているミア・ワシコウスカは、クローネンバーグ映画独特のサイボーグ的存在感を放っている。最近のクローネンバーグ作品はおとなしくてつまらないと思っているファンは観た方がいい。クローネンバーグってどんなんだっけ、という健全な方々は観ない方がいいかも知れません。


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