アブソリュート・エゴ・レビュー

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南から来た男

2015-08-10 22:02:00 | 音楽
『南から来た男』 クリストファー・クロス   ☆☆☆☆

 クリストファー・クロスのファースト・アルバム、1979年発表。なつかしいなあ。といってもリアルタイムでこのアルバムを聴いてはいなかったが、デビュー・シングルの「風立ちぬ」はラジオでよく流れていたのを覚えている。このアルバムとセカンド・シングルの「セーリング」はグラミーの五部門受賞という偉業を打ち立て、この記録はいまだに破られていないそうだ。

 「風立ちぬ」は叩きつけるようなピアノのリフとクールな曲調、印象的なサビ、つややかなハイトーン・ヴォイスで一度聴いたら忘れられない曲だ。名曲だと思う。「セーリング」は流れる泉水のような滑らかさと、過剰に甘くなく、けれども涼しげな甘美さが特徴のバラードで、やはり声の美しさが飛びぬけている。アルバムを通して聴いても、やはり曲の良さに唸らされる。どの曲もきっちりフックがきいているし、とてもスムースだ。甘過ぎないところが大人っぽくて、洗練を感じさせるが、クリストファー・クロスの声が乗るとそれだけで充分華やかになる。

 サウンドもそれに似合った高品質なもので、ラリー・カールトンやジェイ・グレイドンなど一流どころが参加、コーラスではマイケル・マクドナルド、ドン・ヘンリー、J.D. サウザーなどやはりビッグネームが参加している。実に豪華だ。その結果、一分の隙もないポップ・アルバムが出来上がった。グラミー新記録も納得である。

 この後もクリストファー・クロスはヒットを連発するが、「ニューヨーク・セレナーデ」などいささか甘めの、いかにもAORシンガーといったイメージが強くなっていく。このアルバムにもそういうところはあるけれども、先に書いたようなクールな感触とタイトな演奏のおかげで、非常に聴き応えのあるアルバムになっている。クリストファー・クロス本人にとっても、デビュー作であるこのアルバムがキャリアの頂点だったようだ。

 ちなみにデビュー当時クリストファー・クロスは顔を見せておらず「覆面シンガー」などと称され、あまりに美声だったこともありちまたの関心を集めたが、顔をバラしてからはそれが裏目に出たか、声と顔のギャップが激しいなどと言われる羽目になってしまった。しかしまあ、美声とは不思議なものである。美声と美形は必ずしも一致しない。そして美声で歌われる旋律がもたらす快感はたとえようがない。

 脱線してしまったが、とにかくこれは名盤である。☆が五つじゃないのは単に趣味の問題と思っていただきたい。



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