アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

黒革の手帖

2008-09-18 22:46:10 | 
『黒革の手帖(上・下)』 松本清張   ☆☆☆★

 またしても松本清張。私はどうやら清張の本格ミステリよりピカレスクものが好きだと分かったので、とりあえずその手のものを制覇してみることにする。

 これは米倉涼子主演でテレビドラマ化されているがそっちは観たことがない。銀行員をやっていた女が金を横領して銀行を辞め、銀座にバーを開く。そしてその後も男達の弱みにつけこんで金をせしめ、のし上がっていく。間違いなくピカレスク・ロマンである。ということでたくましい女の痛快な暴れっぷりを堪能するつもりで読んだら後半、度肝を抜かれた。こんな悲惨は展開だったとは。

 非合法な手段で世渡りする主人公という意味では『わるいやつら』に似ているが、こっちの主人公は長い間まじめな銀行員だった女だし、騙す相手も甘い汁を吸ってる男どもということでどうしても感情移入してしまう。ルックスや言動にどことなく潔癖感があるのである。その主人公があくどい中年男を手玉に取る中盤までは爽快だ。後半もがんばってるなーと思って読んでいると、だんだんおかしくなってくる。ははあ、ここでぐっと耐えて、最後にしっぺ返しをするというアレだな、と思っているといやに残りページ数が少ない。あれ、どうなっちゃうのこれ、と思っているうちにますますおかしなことになってくる。まさかこのまま終わりか、と唖然となったところで、信じられない悲惨な結末がやってくる。終わり。読み終えてマジですかあーと叫んだのは私だけじゃないだろう。

 噂によればテレビドラマでは最後を変えてあり、元子がしっぺ返しをすることになっているらしい。そりゃそうだ。米倉涼子主演のテレビでこのままの結末だったら後味が悪すぎる。大体、なぜ元子をハメたイヤな連中が無傷で終わってしまうのか。あいつらをなんとかせんといかんのではないか。一読者として納得できない。

 これもまた、『The Mist』に続いてバッド・エンディング大賞作品である。


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