Take the Long Way Home - Live in Montreal

『Take the Long Way Home - Live in Montreal』　Roger Hodgson　　　☆☆☆★

　ロジャー・ホジソンがモントリオールでやったライヴの映像。ロジャー・ホジソンって誰？　という人は多いと思うが元スーパートランプのヴォーカル兼ソングライターである。スーパートランプにはヴォーカルが二人いるがボーイ・ソプラノの方である。例の『ブレックファスト・イン・アメリカ』を歌っている人だ。スーパートランプ脱退以降あまり活発な活動はしてなくて、えらい間をあけてポツリポツリとソロアルバムが出ていた程度だったので急にこんなDVDが出てびっくりした。

　いやまあ、とにかく驚くのはこの声。全然衰えていない。もういい歳だというのに。ハイトーン・ヴォーカリストは数あれど、ライヴでこんなに平然と高いキーで歌っちゃう人はあまりいないと思うぞ。『Give A Little Bit』の後半のスキャットで高い声を長々と続けるところで拍手が起きるが、アクロバティックなまでの「声技」で客を盛り上げることができるシンガーだ。こういうのは珍しいんじゃないか。他にいるとしてもジョン・アンダーソンぐらいだろう。特にすごいのは『Sister Moonshine』で、これはサビがメチャメチャ高い。いくらなんでもあのサビは裏声だろうと思ってたら、ちゃんと地声で出した。信じられない。客もどよめいている。

　ライヴといってもバンドではなく、たった二人。というかロジャー・ホジソンの弾き語りに、もう一人が時々サックスを吹いたりコーラスを入れたりキーボードを弾いたりする程度である。しかしロジャーも曲によってピアノ、ギター、キーボードとさまざまに弾き分けるので、不思議なぐらいどれもスーパートランプの原曲のイメージに近い。DVD特典のインタビューの中で誰かが「彼はワンマン・オーケストラだ、あれ以上何も加える必要がない」と言っていたが、確かに満足度は高い。リズム・セクションがないのが心配だったが、もともとロジャーの曲はキーボードをパーカッシヴに連打するアレンジが多いためか、アップテンポな曲も違和感なく聴ける。ギターは全部十二弦ギターを使って音を厚くしている。

　まあしかし、個人的にはやはりバンド形式でやってくれたらもっと良かった。『Take The Long Way Home』のサビや、『Hide In Your Shell』『Dreamer』ではどうしてもドラムが欲しくなる。しかしたった二人で『School』までやったのには驚いた。途中のインスト部分ではロジャーが口でハイハットの音を出したりしている。

　こうして聴くとこの人のメロディ・メイカーぶりに感心する。どの曲もキャッチーで全然飽きさせない。『Give A Little Bit』『The Logical Song』『Breakfast In America』などのヒット曲はもちろん、『Take The Long Way Home』『It's Raining Again』『Two Of Us』などもとてもいい曲だ。特に『It's Raining Again』『Two Of Us』あたりのハートウォーミングな曲調はこの人ならでは。ぐっとくるものがある。逆にあんまり面白くないのは『Lovers In The Wind』。本人は「I love this song」と言ってるが、マイナーキーのセンチメンタルな曲で地味。『Don't Leave Me Now』も感傷的で単調であまり好きな曲じゃないが、このライヴではロジャーがひとりバックコーラスや女性ヴォーカル・パートを歌う「声技」を見せてくれるので面白い。女性ヴォーカルのパートを同じキーで歌って全然違和感ないところがすごい。

　オマケで『Even In The Quietest Moments』のギター弾き語り、『Dreamer』『The Logical Song』『Fool's Overture』のオーケストラ共演バージョンが収録されているが、どれも一部の抜粋で映像も汚い。一番ましなのが『Even In The Quietest Moments』で、ほぼまるまる一曲聴ける。オリエント風の内省的な曲で、弾き語りにもかかわらず結構迫力がある。オーケストラとの共演はどうもよく分からない。あんなポップな曲にあんな大げさなアレンジをする意図は何だ。どう考えても似合わない。唯一オーケストラが似合うはずのプログレ曲『Fool's Overture』は冒頭と終わりの二箇所だけ抜粋されていて、肝心の歌の部分がない。これじゃつまらない。
　
　まあスーパートランプが好きな人は買って損はないDVDだ。しかしとにかく声が高いぞ、ロジャー・ホジソン。