アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

疑惑

2007-11-23 00:04:03 | 映画
『疑惑』 野村芳太郎監督   ☆☆☆☆

 『松本清張傑作短篇コレクション』が面白かったので、清張原作の映画が観たくなり、この『疑惑』を入手。むかーしテレビで部分的に観たことあるような気がする。面白い。

 ストーリーは、金持ちの男が死に、ホステス上がりの女房が殺人容疑で逮捕される。この女房、詐欺や傷害の前科がたくさんあり、しかも旦那に何億円という保険金をかけていたというもうイキナリ怪しい女なのである。マスコミもさかんにバッシングする。そんな中、クールな女弁護士がこの女の弁護をすることになり、裁判が始まる。というお話。

 殺人容疑で捕まる球磨子を桃井かおりが演じているが、もうこれぞはまり役。この役を演じるために生まれてきたと言っても過言ではないくらいはまりまくっている。ひねくれた目つきとかったるい口調で「頭わるいんじゃない」「あんたみたいなのをチンコロっていうのよ」「あのじじいが土下座して頼むから来てやったんじゃない」と最初から最後までいいたい放題である。いや~ここまでやってくれるといっそ爽快。こんな女が実際にいたらぶん殴りたくなると思うが、映画で観ていると今度は何を言い出すかなとわくわくするから不思議だ。もともと桃井かおりが嫌いだという人はこの映画は必見である。二倍楽しめる。

 それに対するエリート弁護士・律子は岩下志麻。この人は桃井かおりとは逆にクール、無表情である。しかし本筋の裁判とは離れたところで、別れた亭主と亭主が引き取った子供との絡みでわりと可哀想な展開になり、哀愁を漂わせる。そういう意味では、球磨子と律子はまったくタイプは異なるが松本清張お得意の「淋しい女たち」なのである(ちなみにこの「淋しい女たち」というのは『松本清張傑作短篇コレクション』の中巻で宮部みゆきが使っている言葉である)。あの傍若無人で悪辣な球磨子でさえ、映画の中で一度だけ涙を流すシーンがある。鹿賀丈史演じるところのチンピラの回想の中でだが、あれがあるから球磨子が単なるバケモノみたいな悪女ではなく、どこか人間的な、哀しみを帯びた複雑なキャラクターになっている。彼女もまた淋しい女なのである。

 ついでにいうとこの鹿賀丈史のチンピラがもう最高である。何度笑ったか分からない。シャツの襟出しファッションといい、髪型といい、顔つきといい、ものすごくチンピラらしいチンピラである。特に笑ったのが、裁判の証言台に立ち、律子の反対尋問で「その殺人計画もただの思いつきで言ったとは思いませんか」と問われ、「だって、殺人は実際に、やったじゃない」と答えた時。爆笑した。笑うところじゃないって? ごめんなさい。でも鹿賀丈史演じるチンピラのアホな感じがあまりに見事なもんだから。

 柄本明も良かった。球磨子をバッシングする記事を書く新聞記者で、やり手みたいな雰囲気を漂わせつつも失態を演じ、最後には左遷されてしまう。そして左遷先からわざわざ律子に電話してきて嫌味をいう、という情けない男である。
 他にも、証人台に立ってすごい迫力でタンカをきるママ役の山田五十鈴、弁護士候補として登場して偉そうに記者会見をした挙句断ってしまう丹波哲郎など、面白い俳優が面白い役で出てくる。そういう意味でも見ごたえがある。

 そして最後、一番コワイのが球磨子と律子の対決シーン。「あんたみたいな女だーいきらい」とけだるくいいながら、赤ワインのボトルを傾けて律子の白いスーツの上にどぼどぼどぼとこぼす球磨子。ワイングラスの中の赤ワインを叩きつけるように球磨子の顔面にぶちまける律子。メチャこわいです。


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