アブソリュート・エゴ・レビュー

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Taken

2015-05-12 20:15:27 | 映画
『Taken』 Pierre Morel監督   ☆☆☆☆

 『Taken』と『Taken 2』がセットになったブルーレイを購入した。昔レンタルで観た時も楽しい映画だと思ったが、やっぱり楽しい。アクション映画のツボを押さえている。今回『Taken 2』も初めて観たが、やはり一作目の『Taken』の方が全然良い。ストーリーがシンプルでタスクが明確、そして迷いなく突き進むアクションのダイナミズムが快感中枢にビンビン響いてくる。

 ところでこの映画、邦題は『96時間』になっていて、これは誘拐された娘の救出可能性があるのは96時間以内というタイムリミットから来ているのだが、第二作目第三作目では内容と関係なくなって完全に無意味なタイトルと化している。が、シリーズなので『96時間2』『96時間3』とせざるを得ず、何だかマヌケである。原題の「Taken」は、主人公のセリフの中のキーフレーズとして一作目にも二作目にも出てくるし、おそらく三作目にも出て来るだろうから問題ない。邦題を付けた担当者は内心忸怩たるものがあるんじゃないか。多分四作目以降は作られないだろうが、もしこれが大ヒット・シリーズとなって007みたいに延々続いたりしたら、「96時間」というわけ分からないシリーズ名がずっと残ってしまうわけだ。映画の邦題を付けるのは難しいね。

 さて、一作目の『Taken』だが、成功の秘訣は単純化(つまり分かりやすさ)とルールの徹底にある。主人公であるリーアム・ニーソンの活躍を最大限に盛り上げるため、主人公以外は全員ろくでもない人間に設定されている。それはリーアム・ニーソンが守るべき娘や前妻も例外ではない。前妻は完全なビッチで、娘は性悪ではないものの甘ったれで嘘つきである。前妻の再婚相手は金にあかせて娘の機嫌を取るいけすかないじじい。主人公だけが正しく、そして賢い。このルールのあざといまでの徹底が本作の特徴である。

 リーアム・ニーソンは元CIAの腕利きエージェントだが、娘のために仕事を辞めた。が、離婚し、今はたまに娘に会えることだけを楽しみに孤独に暮らしている。ある時、娘が友達と二人でパリに旅行すると言ってくる。未成年なので父親の承諾が必要。「未成年二人だけで旅行させるのは、どうも不安だ」と言ってためらうリーアム・ニーソン。すると前妻は「いいからさっさとサインしなさいよ」「誰でもやってることじゃない」「あなたは被害妄想なのよ」「パリに旅行するのがなんのリスクなのよ(半笑い)」と言いたい放題だ。あームカつくこの女。娘は「パパのバカ」と泣き出して駆け去っていく。

 迷った末に、毎日電話することを条件に許可するリーアム・ニーソン。娘は有頂天、パリへ旅立つ。ところが父親に言った「パリで美術館めぐりをする」は真っ赤な嘘で、実はU2ツアーの追っかけでヨーロッパ中飛び回るつもりでいるのだった。パリの住居に知り合いの家族はおらず無人、空港で知り合った若い男にすぐ住所を教えるわ、約束を破って父親に電話はしないわ、いやもう舐めきっている。ギャングが押し入ってきて誘拐される頃には、すべて自業自得としか思えなくなっている。こうして主人公の不安はすべて的中、前妻や娘や再婚夫は全然分かっていないアホだった。いやー気持ちいいね、ここまで徹底すると。

 で、娘が誘拐されたと聞いて泣き崩れる前妻。「あなたお願い、なんとかしてぇ~」だから言っただろがバカ女、と観客は思うがリーアム・ニーソンは言わない。こうしてノン・ストップ追跡劇の幕が切って落とされる。

 ここからの展開も非常にシンプルだ。ルールはただ一つ、娘を救出すること。そのためなら何したっていい。ギャングを殺すことはもちろん、無実の市民を撃つのもオーケー。とんでもない父親である。いわば人間ターミネーター。しかしこの何も気にしない父親の暴走ぶりが、エンタメのアクション映画としては実に痛快なのである。周囲を気にせず場当たり的にどんどん行くのもターミネーターっぽい。準備してもう一回出直す、みたいなまどろっこしさがない。

 とにかく、まったく容赦というものがない。戦いは基本的に瞬殺。苦戦したり手こずったりしない。ギャングを拷問して知りたいことを聞き出した後、「でも助けないよん」と言って躊躇なく殺す。いやー、アクション映画の観客は、もうここまでやってくれないとカタルシスを感じなくなってるんだなあ。恐ろしいことである。が、メチャメチャ強いリーアム・ニーソンだけれどもセガールほどの無敵感はない。このバランスがいいんだな。
 
 ピンチに陥るのは一度だけ。終盤捕まってあわや殺されそうになるが、たちまち逆転する。この時の、敵側のボスであるセントクレアの情けなさがまた最高である。部下に殺しを命じる時はクールで冷血だが、自分がやられそうになると「お、お願いです、助けて下さい、そんなつもりじゃなかったんですぅ~」と情けなさ無限大。で、何の躊躇もなく殺される。

 まあ、基本的にこんな感じのアクション映画である。痛快さのツボをことごとく、あざといまでに押さえていく。だから見ていて気持ちいいが、それだけと言えばそれだけだ。たとえば私がアクション映画の最高峰と考えるボーン・シリーズのような緻密なリアリズムはなく、むしろ大雑把でマンガ的だし、駆け引きや判断力の冴えを見せるなど細かいくすぐりのセンスには欠ける。また、ノワール風の抒情性があるわけでもない。

 しかし、頭からっぽにして観られるアクション映画としては、充分に良い出来だと思います。



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