アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

無理

2009-10-22 19:35:33 | 
『無理』 奥田英朗   ☆☆☆★

 奥田英朗の新刊を先週末一気読みした。結構分厚いが、内容的にこれは一気読み本である。

 タイトルから分かるように、『最悪』『邪魔』系の小説である。互いに無関係な複数の登場人物がそれぞれの状況の中でだんだんドツボにはまっていき、最後に全員のストーリーが交錯するという例のパターン。帯によれば、『最悪』から10年、『邪魔』から8年たったらしい。編集者から「あのパターンでもう一つたのんます」とお願いでもされたのだろうか。しかし、得意なパターンだけあってさすが職人的な手並みで読ませる。

 今回の主要登場人物は5人。役所のケースワーカー、女子高生、暴走族上がりの詐欺セールスマン、新興宗教にすがる独り者の中年女性、市議会議員。舞台は架空の地方都市「ゆめの」、という設定だ。『最悪』と比べると、10年たっただけあって洗練された感じがする。まず、スロースタートである。5人の境遇がかわりばんこに描写されるが、『最悪』と違っていきなり難題が降りかかってくるということはなく、それなりの悩みを抱えつつも日常的な日々が続く。それほどドツボでもない。女子高生だけはいきなり晴天の霹靂で災難が降りかかってくるが、他は小説も半ばぐらいまでいかないとドツボという感じにはならない。じわじわ来る。

 が、やはり後半は全員ドツボにはまり、「たまらんなあ」というあの世界を存分に味わえる。最近の不況や格差社会、派遣切りなどの世相を反映させたリアルにたまらん状況が展開するので、身につまされる人も多いのではないだろうか。特に印象的だったのは独り者の中年女性が自分の孤独死を予感して恐怖に震える場面で、なかなか真に迫っていた。

 それから今回は「地方都市の閉塞感」というものが全体を貫く重要なテーマになっている。この話の中では誰もがこの地方都市「ゆめの」での生活にうんざりしているのだが、実際のところ日本の地方都市の生活ってどうなのだろう。私など最近は、日本に帰るなら東京より地方都市の方がのんびりしていて暮らしやすいんじゃないか、などと考えることもあるので、ここで描かれている閉塞感はちょっと意外だった。まあ地方都市といっても千差万別なんだろうけど。

 さて、こういう話はどう収束させるかがポイントで、『最悪』ではかなり苦しかったが、本書ではよりスマートに処理されている。一つの偶然を利用して5人の状況すべてに一気にケリをつける。その分、「この後どうなるの?」という、終わりきれない感じが微妙に残ってしまうが、現実にはこういう状況がはっきり終わることなどないわけで、そういう点ではよりリアリズムに即した余韻のある終わり方と言えるかも知れない。

 『最悪』と一緒で決して爽やかな読後感になれる本ではないが、リーダビリティはさすがである。気持ちに余裕のある時にどうぞ。


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