アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

歪み真珠

2010-08-06 22:54:51 | 
『歪み真珠』 山尾悠子   ☆☆☆☆

 山尾悠子の最新刊を読了。予備知識まったくなしで買ったのだが、これは掌篇集だった。短い、断片的な物語が15個入っている。良く見ると帯に「バロックなイメージが渦巻く幻想掌篇小説集」とちゃんと書いてある。それにしても、いつもながら美しい装丁である。函入りだし、実に格調高い。相当コストがかかっていると思われるが、もとが取れるのだろうかとつい余計な心配をしたくなる。

 例によってどこの国のどこの時代とも知れない、現実から隔絶した世界の幻想譚、綺譚ばかりだ。塔や女神や王などが出てくる。現代日本が舞台の話が一つだけあるが、題材はやっぱり魔女である。基本的にこの人の書く小説は幻想小説やシュルレアリスムというよりファンタジーという方が似合う。

 しかしこの人が傑出しているのは豊富な語彙を駆使した硬質な文体と、プロット展開のひねり方、というかはぐらかし方のレベルの高さである。本書は掌篇集なのでそのはぐらかしっぷりはますます堂に入っていて、「結局なんなの?」と思わせるような話ばかりだ。もちろん、そこが面白いのである。『ラピスラズリ』や『山尾悠子作品集成』収録の短篇と比べても物語性は希薄で、山尾悠子的オブジェを並べたような印象がある。その一方で、『影盗みの話』などは奇妙でおかしく、エリック・マコーマックみたいだ。<影盗み>と呼ばれる種族に関する説明と考察をつらつら並べてあるのだが、鏡を見ると気絶するだの手に目印の痣があるなどユーモラスな書きっぷりが愉しい。
 
 山尾悠子は渋澤龍彦のファンとどこかで読んだ気がするが、この掌篇集はちょっと『唐草物語』を意識したのかなと思わせるところがある。個人的にはやはり渋澤の方が上と思うが、幻想小説好きとしては珍重したくなる作家さんである。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿