アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

雀蜂

2014-01-08 21:05:36 | 
『雀蜂』 貴志祐介   ☆★

 アマゾンのカスタマーレビューではかなり評判が悪い、貴志祐介の新作を読んでみた。薄い文庫で字も大きいのですぐ読了。真冬の山荘で目覚めた小説家が、山荘にスズメバチの群れがいることを発見する。彼はかつてスズメバチに刺されたことでアレルギー体質になっており、もう一度刺されると死ぬ可能性があるのだった、という話。冬の山荘にスズメバチがいる不自然さは、妻とその愛人の殺害計画だと説明される。まあ最後にどんでん返しはあるのだが。

 非常にシンプルなワンアイデアのプロットで、スティーヴン・キングのある種の作品を思わせる。サディストの夫にベッドに縛り付けられたままその夫が死んでしまう、とか。しかしその手のキングの小説って、あんまり面白くないんだよな。

 要するにスズメバチから逃げ回り、この限定された条件下どうやって生き延びるか、という話である。ゲーム的小説。貴志祐介って最近こういうのが多いが、ゲーム好きなんだろうか。私は、この人の美点は人間の怖さを描けることと緻密なリアリズムの二点だと思っているので、そのいずれも当てはまらないこの小説は非常に薄っぺらく感じた。スズメバチはリアルな恐怖ではあるけれども、最後のゲーム的などんでん返しのためにリアリズムも損なわれている。そのどんでん返しも、最近の叙述トリック・ミステリを知っていれば新鮮さはなく、わりとありきたりだ。なんというか、色んな意味でB級感が漂いまくっている。

 しかしまあ、スズメバチってのは確かに怖い。この主人公と同じ状況になったら相当スリルがあるだろう。そういう意味で、読んでいて退屈まではしなかった。

 たとえて言えば、東京から博多まで新幹線に乗る時にホームの売店で買い求め、博多に着くまでに読み終え、「まあいい時間つぶしだったんじゃね?」と思ってそのまま忘れる、という感じの小説である。



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