アブソリュート・エゴ・レビュー

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座頭市血煙り街道

2014-01-10 23:32:51 | 映画
『座頭市血煙り街道』 三隅研次監督   ☆☆★

 またしても座頭市。なぜ最近座頭市ばかり観ているかというと、去年11月にクライテリオンから発売されたブルーレイ・ボックスを買ったのである。全25作、89年の勝新最後の『座頭市』が入っていないのが残念だが、他は全部入っている。クライテリオンの仕事なので、映像クオリティもまったく問題ない。日本でもブルーレイ・ボックスが出たようだが、18作収録で4万円以上とかなり見劣りがする。やっぱり日本はこういうところはまだまだ米国にかなわないようだ。

 というわけで、完全制覇に向けて着々と鑑賞中。この『血煙り街道』はシリーズ第17作、『果し状』の一つ前である。この作品はもう、近衛十四郎と市のチャンバラ対決、これに尽きる。近衛十四郎は往年の時代劇スターで、松方弘樹と目黒祐樹の父親なのだけれども、私はこの人の名前はよく知らず他の映画で見たこともないので、ありがたさがあまりよく分からない。ルックスやキャラクター的にはさほど魅力的とも思えないが、確かに貫禄はあるし、殺陣はメチャメチャうまい。この人と市がラスト、雪の中で決闘する場面が最大の見所だが、どうもあの殺陣はアドリブ、つまり予定調和なしのぶっつけ本番らしい。そんなことが時代劇で可能とは思わなかったが、確かに見ているとゴチャゴチャ振り回していて太刀筋がよく分からない。が、ものすごい緊張感だ。とりあえずシリーズ中指折りの傑作チャンバラ・シーンであることは間違いない。

 しかし。他は全然ダメである。冒頭、市が芝居の一座と一緒になり、中尾ミエが歌を歌う時点で嫌な予感がする。まあ、傑作『鉄火旅』でも水前寺清子の歌があったしな、と気を取り直して見続けるが、テンションは下がる一方だ。座長の朝丘雪路の芝居はわざとらしいし、展開ももうベタベタの段取り芝居。ヤクザが絡んでくる。朝丘雪路、気丈にはねつける。怯えやためらいはほぼ全然なし。あわや暴力沙汰、というところで近衛十四郎登場。貫禄たっぷり。鮮やかな殺陣でヤクザを追っ払う。「心配するな、峰打ちじゃ」「まあ、旦那!」と朝丘雪路の笑顔。見ている私はがっくりと肩を落とす。おいおい、これは歌謡ショーか?

 更に、芝居小屋にやってきて凄むヤクザ。市の仕込み一閃、ゲジゲジ眉毛が落ちる。逃げ出すヤクザに、「忘れ物よ!」と眉毛を渡す中尾ミエ。ドッとうける一座の役者たち。「ああ胸がすっとした、でも市さんがあんなことできるなんて驚いたわあ」と笑いながら朝丘雪路……ってあのねえ、盲人の按摩に目の前であんな技を見せられたら度肝を抜かれて、笑うどころじゃないでしょう。「忘れ物よ!」ってそんなお茶目な対応ができてたまるか。何なんだこの予定調和バリバリの歌謡ショーは。

 市は子供を連れて旅をすることになるが、子供と市のやり取りもベタだし、なべおさみが出てきて市と絡むなんて場面もいらんだろう。特に前半は、大愚作『あばれ火祭り』を思わせる段取り芝居の連発。『座頭市物語』のあの風格はどこへ行った。

 その後、監禁されて絵を描かされる絵師(子供の父親)とそれを救い出す市、そのまわりに出没する近衛十四郎、という展開になる。脇役のメンツはなかなか良くて、小池朝雄、小沢栄太郎、松村達雄と渋いところが顔を揃えている。が、うまく活かせているとは言いがたい。小沢栄太郎、松村達雄は途中で死んでしまう。消耗品扱いはもったいない。

 そして最後、絵師を助け出して逃げ出す市の前についに近衛十四郎が立ちふさがる。この時、場面が変わると一瞬にして雪が降りしきっているのがすごい。脈絡もなんもない。「やっぱこの場面には雪だろ!」ということだろうか。しかしこのいい加減な雪の場面、映像的には絶美である。細い路地の奥行きのある場面、そこに降りしきる雪。美しいったらない。

 というわけで、クライマックスに見事な映像と殺陣が披露される。もうこの映画はここだけ観ればいい、と言ってしまおう。逆にこれがなかったら救いようがないところだ。で、最後には市が勝つはず、と思って見ていると、近衛十四郎が剣を納めて立ち去る。なんと、引き分けである。大人の都合、という言葉が頭にちらつく。最後は、「おじちゃーん!」と追ってくる子供を振り切って、また旅に出る市なのであった。チャンチャン。



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