アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

スカラムーシュ

2014-10-14 21:59:56 | 
『スカラムーシュ』 ラファエル・サバチニ   ☆☆★

 子供の頃『紅はこべ』や『アイヴァンホー』といった小説をワクワクしながら読んだ記憶があるためか、私はこの手の古風な冒険小説に対してどこか甘美なノスタルジーを抱いている。今回この『スカラムーシュ』を手に取ったのも、そういう気持ちからだった。

 1921年の小説で、『紅はこべ』と同じくフランス革命が背景となっている。主人公の名前はアンドレ・ルイ・モロー、彼と宿敵ダジル公爵との対立がメインとなる物語だ。内容は「法衣の人」「舞台の人」「剣の人」と三部に別れていて、何のことかというとこれらは主人公アンドレが活躍する分野のことである。つまり「法衣の人」では、もともと弁護士のアンドレがダジル公爵に親友を殺され、政治の世界で革命の機運を盛り上げる話。次の「舞台の人」では官憲に追われて旅の劇団に逃げ込み、台本作家兼俳優となって芝居の才能を発揮しつつ女優と愛し合い結婚を決意するが、彼女はダジル公爵の地位に惹かれてアンドレを裏切ってしまうという話。そして「剣の人」ではアンドレが剣の修行をして達人となり、ついに宿敵ダジル公爵と剣をもって対決する話。

 こんなに色々と職業を変える主人公も珍しいと思うが、アンドレは純然たる正義漢というわけではなく、皮肉っぽくて冷たいところや傲慢なところもある。じっと我慢するタイプでもなく、すぐズケズケ人の悪口を言ったりする。が、もちろん根は明朗闊達な好青年である。それから「法衣の人」で演説の才能を発揮するように、非常に雄弁で、口先で人を丸めこんでしまうというヒーローらしからぬ特技を持っている。まあ、そういう感覚はもしかすると「不言実行」を尊ぶ日本ならではのものかも知れないけれども、たとえば「舞台の人」では居候みたいな立場からあっという間に共同経営者となり、座長から「あいつと口でやりあっても絶対にかなわない」と陰口を叩かれる。わりと横着で、ヌケヌケしたところがある主人公である。

 物語は、まず親友がダジル公爵に目の前で殺され、アンドレがその復讐を誓うところから始まる。昔の冒険小説の王道で、面白くなりそうだなと思っていると、そのうち劇団に入って芝居をやり始める。「舞台の人」ではすっかり芝居の世界の話となり、復讐と関係ない話が続くので横道に逸れた感じがするが、恋愛劇をうまく絡めてあるので、まあまあ飽きずに読み進められる。そして第三部「剣の人」に入ってようやく剣戟の世界になるが、アンドレはもともと剣の達人ではなく、短期間修行をして急遽ひとかどの剣士になるという設定が面白い。ちょっと都合がいい気がしないでもない。

 そしてクライマックスのダジル公爵との対決へとなだれ込んでいくが、そこにアンドレの出生の秘密などが絡んでくるのがまた古風な冒険小説らしい。この手の小説には、どうやら意外な血縁関係が欠かせないようだ。その秘密が明らかになる部分がハイライトと言っても過言ではないが、こういう盛り上げ方は「赤い」シリーズや韓流ドラマの原点かも知れない。そしてその後、堂々たる大団円へと至る。

 ところで、本書のヒロインはアリーヌというアンドレの幼馴染だが、どうも彼女は影が薄い。どんな女性かイメージが湧いてこない。薄っぺらくて、書割めいている。しかしアンドレと彼女の間に生じる誤解や、偶然による思い違いなどはストーリーのスパイスとしてたっぷり活用されている。かつて日本のトレンディ・ドラマで繰り返し使われた手法である。偶然ある場面を目撃して誤解してしまうとか、伝言を違う風に受け取ってしまうとか、そういう手口だ。なんだか懐かしいが、フランス革命を背景にした冒険小説でそれをやられると、なかなか趣きを感じたりもする。

 全体に古い感じは否めず、期待したほどの面白さではなかったが、愛する人同士の誤解とすれ違い、そして意外な血縁関係が、昔からエンタメの王道であったことは再確認できた。



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