アブソリュート・エゴ・レビュー

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eXistenZ

2014-10-12 19:11:34 | 映画
『eXistenZ』 デヴィッド・クローネンバーグ監督   ☆☆☆★

 「eXistenZ」と書いて「イグジステンズ」と読む。クローネンバーグの1999年作品をDVDで観たが、やはり変態全開映画だった。まあ『裸のランチ』と同系統だと思ってもらえば良いが、作品トータルとしての出来は『裸のランチ』よりも落ちる。ただし、気持ち悪さとディテールの変態っぷりだけは充分に拮抗している。

 新しいゲームの発表会に暗殺者が現れて発砲し、カリスマ・ゲームデザイナーのアレグラ(ジェニファー・ジェイソン・リー)と若手社員テッド(ジュード・ロウ)は一緒に逃亡する。このゲームは有機物みたいなぐにょぐにょしたゲーム機のケーブルを、人間の背中に空けた穴=バイオポートに突っ込んで擬似現実を体験するというものだが、プログラムの損傷をチェックするためにゲームをする必要があるというので、ゲーム未経験のテッドはまず、なぜかガソリンスタンドで背中にバイオポートを開ける手術(「インストール」と呼ぶ)を受ける。次にアレグラのゲームポッドが故障したというので、なぜかスキーショップでゲームポッドの修理(というかどう見ても「手術」)をする。その夜、二人はホテルの部屋でゲームを開始、擬似現実に突入する。まずゲームショップでゲームをし、次に工場で働き、中華料理店でスペシャル料理を食べ、また工場で殺されかけて火事になる。ホテルの部屋で目を覚ますと、今度はそこで銃撃戦。最後に現実に戻り、どんでん返しのラストに至る。

 ゲームの中でゲームへ、とどんどん擬似現実の中に入りこんでいき、何が現実で何がバーチャルか分からなくなっていくというアイデアは1999年当時としても目新しいものではないだろう。『マトリックス』もそうだし、それ以前に岡嶋二人『クラインの壺』やディックの小説などでもおなじみだ。アイデアとしては「定番」である。この映画の見どころはそんなところではなく、変態的なディテールやオブジェの数々にある。まず、いきなり出てくるあの「骨ガン」。全部骨で出来ている銃で、弾はなんと、人間の歯である。この時点で「ア、アホか…」と絶句。金属探知機に見つからないため、という無理やりな理由づけがアホさ加減に拍車をかける。いやあ、楽しいなあ。

 ぐにょぐにょしたゲームポッドがまたキモい。修理するといって中を開けると、どうみても血まみれの臓器である。スキーショップでイアン・ホルムがポッドの「手術」をしている場面では爆笑した。こういう笑えるセンスは『裸のランチ』に共通する。それから中華料理で出てくるスペシャル料理。『裸のランチ』ではムカデ料理が出てきたが、この映画のグロ生物料理もなかなか強力だ。そしてそれをジュード・ロウがガツガツ食べ、残った骨を組み合わせると骨ガンが出来上がってしまう、というところで再び爆笑。「んなアホな!」という衝撃を存分に味わうことができる。

 クローネンバーグの特異性は、バーチャルリアリティという生々しさを欠いた、抽象的なものを扱いながらも生理感覚、内臓感覚を忘れないことだろう。忘れないどころか、むしろそこにこそ最大の関心がある。背中に穴を開けて、そこにケーブルを突っ込むということへの生理的な違和感、気持ちの悪さ。ジュード・ロウが背中にバイオポートを「インストール」される場面はとても平静に見ていられない。そしてバイオポートにはケーブルだけでなく指を突っ込んだり、舐めたり、ポッドが丸ごと入ってしまったり、そこから菌に感染したり、もうやりたい放題だ。人間の体に異物につなぐという生理的違和感と不安感をとことんまで突き詰め、もてあそぶ。『マトリックス』や『攻殻機動隊』で人体のポートが擬似現実を見せる仕掛けでしかなかったこととは対照的である。

 そういうシュールな内臓感覚と、ほとんどナンセンスなアイデアの暴走こそが本作の見どころなので、ガソリンスタンドでのインストール、スキーショップでのポッド手術、と前半は面白い場面が連続し、『裸のランチ』並みの傑作かと思わせるが、仮想現実が進んで話が混乱してくるにつれ、逆に平坦に思えてきてしまう。因果律に則ったストーリー展開がないという点で観客の予想を裏切り続けるわけだが、突拍子もない幻覚的な展開が続くと人間の感覚は麻痺してくる。シュールなぶっとんだ場面だけでスリルや面白さを維持するのは至難の技だ。

 それから個人的にもっとも不満なのはエンディング。こういうシュールな話は終わり方で大きく印象が変わってくるが、醒めたと思ったらまた擬似現実だった、という仕掛けこそもう定番過ぎて、手垢がついている。加えてラストのどんでん返しがあまりにもわざとらしく、白々しい。サービスのつもりなのかも知れないが、むしろ物語全体を一気に安っぽく見せてしまって逆効果だ。ゲームが終了してからの展開は全部切って、全員目覚めたところで説明もなくぶった切って終わった方が、まだ良かったんじゃないかと思う。

 というわけで、ディテールは悪くないが全体としては良い出来ではない。クローネンバーグの奇怪なオブジェとねじくれたイメージの混沌を賞味する、真性マニア向けのフィルムである。
 


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