アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

サムライ

2014-10-16 23:06:49 | 映画
『サムライ』 ジャン・ピエール・メルヴィル監督   ☆☆☆☆

 所有するDVDで久しぶりに再見。このDVDは写真のジャケットのものだが今見ると驚くほど画質が悪く、細部は滲みまくっているが、それでもフランス映画らしい美学が画面から伝わってくる。アラン・ドロンが孤独な殺し屋を演じる、スタイリッシュなフィルム・ノワールである。主人公の殺し屋ジェフは極端に寡黙なキャラで、他の登場人物もセリフが少ない。従ってとても静かでストイックな映画だが、抒情的な、あるいはジャジーなスコアがその厳しさを和らげている。

 映像には濡れた美しさがあって、ジェフが一羽のカナリアとともに住む部屋、古いアパート街、パリの町並みなど、ひたすらキマる絵が続出する。ほとんどその美学だけで成立している映画といっても過言ではない。ストーリーはごくシンプルで、ジェフは仕事で、あるクラブのオーナーを殺す。逃げるところを女ピアニストに目撃され、警察で首実検をされるが、彼女はなぜかジェフをかばい、犯人ではないと証言する。が、警察は信用せず、ジェフに尾行をつける。一方、殺しの依頼者はジェフを消そうとし、失敗すると次に目撃者の女ピアニストを消せと依頼する。その仕事を受けたジェフはまず裏切った依頼者を殺し、その後で、女ピアニストを殺すために再びクラブへと赴く…。

 スリリングなプロットではないし、観客をハラハラドキドキさせるようなエンタメ作品ではない。静かな、ごく淡々とした物語である。ただし説明がミニマムに切り詰められているため登場人物の心理は推測するしかなく、シンプルなプロットのわりにミステリアスな空気が漂っている。これは余韻を愉しむ映画だと思う。ハラハラドキドキもあっと驚く仕掛けもないが、簡素な力強さがある。

 とりわけ物語を引き締めているのは、あの謎めいたラストである。ジェフは警官に射殺されるが、彼の拳銃に弾が入っていなかったことを警視が指摘する。つまり、ジェフは最初から死ぬつもりだったのだ。彼がコートの預かり証を受け取らなかったこともそれを暗示している。ではなぜジェフは死を選んだのだろうか。その理由は観客の想像に委ねられているが、ピアニストに惹かれた自分が許せなかった、ピアニストを殺せない自分を許せなかった、あるいは依頼された仕事を実行しないならば死ぬしかなかった、などが考えられる。いずれにしろ殺しのプロとしての矜持にかかわることだと思われ、観客はあらためてタイトルの「サムライ」に思いをいたすことになる。

 付け加えるならば、鬼のように手段を選ばすジェフを追っていた警視がそれを指摘するのが良い。実は彼だけがジェフを理解していたのだ。この結末はなかなか美しいと思う。

 ジェフを演じたアラン・ドロンはクールでかっこいいが、ずっと無表情なので、ただかっこいいだけであまり面白みはない。個人的には『さらば友よ』の軍医の方が個性があって魅力的だと思う。また映画そのものもスタイリッシュだが、いってみればひたすらスカしている映画で、傑作と言うにはもうひとつ深みに欠ける。サービス精神にも欠け、物語にさほどの求心力もなく、人によっては退屈するだろう。ただしノワールの美学をある種突きつめた作品であることは間違いなく、ノワール・ファン、アラン・ドロンのファンはやはり必見だと思う。
 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿