アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

快盗ルビイ・マーチンスン

2005-10-08 09:40:42 | 
『快盗ルビイ・マーチンスン』 ヘンリイ・スレッサー   ☆☆☆

 和田誠さんの映画『快盗ルビイ』の原作である。短篇が十話収録されている。映画では小泉今日子がコケティッシュな快盗ルビイを演じていたが、原作のルビイは23歳の男で、会計士である。眼鏡をかけていて、そばかすがある。ハイスクールを出たばかりの「ぼく」が語り手で、ルビイは「ぼく」のいとこにあたる。「ぼく」はルビイが思いつく犯罪計画の数々に無理やり共犯者として参加させられる。

 最初にことわっておくが、これはいわゆる犯罪小説ではなく、ユーモア小説である。怪盗が本格的な犯罪を繰り広げるミステリを期待してはいけない。まだ十代の「ぼく」はルビイのことを「悪魔的頭脳」「最も徹底した典型的犯罪者」「世紀最大の犯罪的天才」「恐るべき秘密」などと折に触れ喧伝するが、実際は「彼の実行した犯罪はただの一度も利益を生み出さなかった」し、むしろ損ばかりしているのである。映画『快盗ルビイ』を観た人は分かると思う。これは洒落たユーモア小説なのであって、いやに犯罪がせこいとか、失敗ばかりしていて面白くないという文句は筋違いだ。

 パターンとしては、まずルビイが犯罪の計画を「ぼく」に聞かせる。それは食料品店の売り上げを奪う計画であったり、安物の宝石を使ったペテンであったり、金持ちの婆さんの猫を誘拐する計画であったりする。リトルリーグの常勝投手である少年を監禁して野球賭博で儲けようなんてのもある。要するに、犯罪ではあるかも知れないがなんとなく微笑ましいものばかりである。ルビイは必ず「ぼく」に共犯者の役割を押し付ける。気弱な少年である「ぼく」は抗議するが、ルビイには逆らえない。逮捕されたり殺されたりする夢にうなされつつ、「ぼく」は計画に協力する。大抵の場合しょうもないことで計画が躓き(指輪が抜けなくなったとかトイレのドアがあかなくなったとか)、その結果皮肉だがなんとなくほのぼのした結末がつく。

 ルビイと「ぼく」のやり取りがユーモラスで面白い。「ぼく」のキャラクターもなかなか面白くて、ものすごくビビリのくせに空き巣に入った他人の家で泡風呂に入ったりする。読みながら何度もニヤニヤしてしまった。要するに、この二人の行動は非常に可愛らしいのである。

 あの和田誠さんが映画化したくなった理由が分かった。確かに洒落ている。主人公を可愛い女の子にして、小泉今日子と真田広之で、ミュージカルにして、という気分になってくる。

 中でもルビイの婚約者であるドロシイがらみのエピソードが微笑ましい。ドロシイはルビイに「スケ」と呼ばれているごく普通の娘だが、ルビイがいわゆる「悪魔的犯罪者」であることは知らない。ルビイがドロシイと親しいハンサム男(学校の人気投票で一位だった)に嫉妬し、ハンサム男に対するホールドアップを計画する『恋の唄』、ルビイがドロシイ宛てに悪口を書いて出した手紙を取り返そうとする『毒のついた手紙』などがあるが、最後の『毒のついた手紙』は映画でも最後のエピソードとして採用されていた。「ぼく」はルビイに頼まれて、オモチャの拳銃で郵便配達人をホールドアップしに行くのだ。

 という風にユーモア小説としては洒落ていて上質だと思うが、読み応えという意味ではかなり軽い。もともとユーモア小説にはそんなに惹かれないこともあって、個人的には星三つ。

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2 コメント

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はじめまして (yasishi)
2005-10-22 14:43:10
たまたま最近この本を読みました。

「怪盗ルビイ」の映画が上映されたころはスレッサーのことを知らなかったので、これが原作とは知りませんでした。

頭の中で犯罪を成立させてしまうのが楽しいんでしょうね。わざと悪ぶってる子供のようで愉快です。

レビューをたくさん書かれているようなのでちょくちょくよらせていただきます。

TBさせていだだきます。







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いらっしゃいませ (ego_dance)
2005-10-23 06:08:07
yasishiさんはじめまして、そしていらっしゃいませ。

このほのぼのしたユーモアが良いですね。ユーモラスなだけでなく、どことなくリリカルなところとか。



他のレビューも参考になれば幸いです。そちらのブログにもお邪魔します。
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