アブソリュート・エゴ・レビュー

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十角館の殺人

2014-05-16 22:22:23 | 
『十角館の殺人』 綾辻行人   ☆☆

 日本の名作ミステリを読もうと思って、ネットで評価が高い『十角館の殺人』を入手した。綾辻行人のデビュー作である。結末近くの一行で世界が変わる、と聞いて面白そうだと思ったのだが、読み始めてしばらくして、どうも前に読んだことがあるような気がしてきた。でもトリックも犯人も何も記憶にないので、気のせいかと思って読み続け、最後の謎解きまで読んでようやく思い出した。しまった、一度読んだのを忘れてまた読んでしまった。しかし、見事にきれいさっぱり忘れていたなあ。

 要するに、叙述トリックものである。一行で世界が変わる、というからにはそれしかないだろう。従って映像化不能。しかしこのトリック、確かに驚きはあるが、驚愕するほどでもない。「ほう、そうきたか」ぐらいである。アマゾンのカスタマーレビューに衝撃で頭の中が真っ白になったみたいに書いている人もいるが、本当だろうか。そこまで言うか?

 舞台は孤島で、十角館という建物があり、大学のミステリ研究会の面々が泊まりに行って連続殺人が起きる。『そして誰もいなくなった』のパターンである。ただしプラスアルファがあって、その孤島内の物語と本土の話が交互が出てくるのがミソ。本土側では、同じミステリ研究会の他のメンバーが怪しげな、復讐を匂わせる手紙を受け取り、孤島に行った連中を心配しつつ独自に調査を始める。この同時並行のストーリーテリングが読者の思い込みを誘発するようになっていて、ミスディレクションとしてはなかなか巧いと思う。

 が、根本的な不満は、この「一行で世界が変わる」叙述トリックにあまりにも頼り過ぎで、ほぼそれだけであり、探偵役の推理もないし解決のロジックもない。「実はこうでした」と驚かせておいて、あとは辻褄合わせをして終わるだけだ。だからその一行でびっくり仰天し、ショックで10分ぐらい思考力がマヒした、みたいな人は別だけれども、そうでなければ結構物足りない思いをすることになる。

 それから登場人物たちの言動や雰囲気の描写がどうも薄っぺらい。ミステリ研究会の連中がお互いにポゥとかエラリイとかアガサとか呼び合うのもこっぱずかしいし、犯人の行動にも色々と無理がある。リアリティとか言い出したらアウトだ。机上のゲーム的ミステリである。

 それともう一つ、冷静に考えると犯人のあの行動はアリバイ作りにもなってないし不可能犯罪に見せかけるわけでもない、島と本土の両方のストーリーを知っている読者を驚かす以外、あまり意味がないんじゃないかと思うがどうか。



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