アブソリュート・エゴ・レビュー

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ハイドラ

2014-05-14 18:39:06 | 音楽
『ハイドラ』 TOTO   ☆☆☆☆

 TOTOのセカンド・アルバム。他のアルバムと比べると全体に地味だが、私はこのセカンドに一番TOTOらしさを感じる。「99」が入っているせいかも知れないし、最初に聴いたTOTOのアルバムがこれだったせいかも知れない。ちょっと暗い感じがするのも個人的にはツボだ。

 TOTOというバンドを最初に意識したのは、まだ若かりし頃「99」のビデオクリップを観た時だったと思うが、あの時の非常に新鮮な、「へえー、TOTOってこんなバンドなんだ……」という印象は今でも憶えている。新鮮といっても、もともとスタジオ・ミュージシャンの集合体であるTOTOはデビュー時から老成した雰囲気を漂わせていて、あまり新人とか、若さ溢れるとか、元気いっぱいとかいうイメージはなかった。そうではなく、なんだか妙に老成した、醒めた感覚が私の目には新鮮だったのである。「99」という曲も不思議だった。ピアノ主体のバラードで、哀愁漂う曲調なのに、妙にチャカポコしている。すごく悲しげでもなく、しかし明るくもない、中途半端なムードだ。それでいてものすごくキャッチー。あの「アイラヴユー♪」のあとのピアノの「タタタタタタタタタタ」(だんだん上昇していくとこ)というフレーズや、「ナインティナイン、ウーウー♪」というコーラスは、一度聴いたら忘れられなくなる。

 それで他の曲も聴いてみると、これがますますヘンなバンドである。少なくとも当時の私はそう思った。かっこいい8ビートのハードロックもやるが、AORの雰囲気も確実に持っている。ソウル、ファンク、ジャズ、フュージョンも入っている。どうやらプログレも入っているようだ。もちろんメンバー全員メチャメチャうまい。まさに職人集団で、プロフェッショナルという言葉がこれほど似合うロックバンドも珍しいだろう。衝動の赴くままに音楽をやるぜという感じは微塵もなく、確実に計算して、売れるプロダクツを狙ってくる。そしてそれが出来るテクとセンスを持っている。しかもここまでカメレオン的な音楽集団でありながら、なぜか、ぱっと聴いてTOTOだと分かる明確な個性を持っている。

 それにしても、ここまでヴォーカリストが軽んじられているロックバンドは他にないんじゃないか。ボビー・キンボールという専任ヴォーカリストがいながら、「99」のリードヴォーカルはギタリストのスティーヴ・ルカサーなのである。こういうのはTOTOでは日常茶飯事だ。最大のヒット曲「アフリカ」のリードヴォーカルはデヴィッド・ペイチだし、「ロザーナ」はかろうじてルカサーとのツイン・ヴォーカル。ボビー・キンボールはさぞや居心地が悪かったんじゃないかと思うが、まあ、あまり個性的なヴォーカリストでもないからしょうがないとも言える。その後TOTOのリード・ヴォーカリストは何度も交代するが、普通ならバンドの顔となるヴォーカルの交代は大事件なのに、TOTOではさほど影響がない。要するにヴォーカリストも演奏者の一人であり、バンドの顔ではないのである。

 さて、本作を聴くといきなり一曲目の「ハイドラ」はプログレ風だ。TOTOは実はイエスのファンで、本当にやりたい音楽はああいう音楽だったという噂を聞いたことがあるが、まあテクニックから言っても幅広い音楽性から言っても納得できる話だ。が、TOTOの特異性は、プログレと黒人音楽が同居していることにある。このバンドには確実に黒っぽい要素があるが、黒っぽい要素があるプログレバンドというのは私が知る限り他にない。まあTOTOはプログレバンドではないが、この両方の要素を持っているというのはかなり珍しいと思う。TOTOは時々産業ロックなんて呼ばれたりもするが、この異常な音楽性の広さは他の産業ロックとは確実に一線を画している。

 このアルバムは、「ハイドラ」に続いていかにもTOTOな雰囲気の「St.ジョージ&ザ・ドラゴン」、ヒット曲「99」、静かに始まってロックっぽくなる「ロレイン」、TOTOにしてはストレートな「オール・アス・ボーイズ」、けだるくジャジーな「ママ」、ノリよくアレンジよく終盤のジャム演奏が白熱するTOTO流ロックの典型「ホワイト・シスター」、よく分からないシンセのイントロの後に始まる静かなバラード「シークレット・ラヴ」と続く。私のフェイバリットはなんといっても「ママ」である。これはいかにもTOTOらしい、ジャズっぽくてけだるくてパワフルな、あまりにもかっこいい曲である。ボビー・キンボールのヴォーカルが黒々とした冴えを見せ、ジェフ・ポーカロの繊細なドラミングが光る。間奏のピアノとギターの掛け合いもいい。

 アルバム全体の印象は地味だが、なかなか味がある好アルバムだと思う。

 


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