アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

流星の絆

2008-04-14 19:18:36 | 
『流星の絆』 東野圭吾   ☆☆☆

 東野圭吾の最新刊を入手、週末に一気読み。レビューのたびに書いているような気がするが、東野圭吾本は一気読みに限る。というか一気読み以外できない。

 読んでいるうちはいつも通り楽しめるが、読み終えてしまえばそれほど印象に残らない気がする。傑作とは言いがたい。『夜明けの街で』『使命と魂のリミット』も読んだが、それらもやっぱり似たような印象だった。話の筋ももうほとんど覚えていない。特にレビューも書かなかったが、この『流星の絆』も同じ程度の出来だと思う。『白夜行』レベルの傑作をもう一度書いて欲しいと思うのは無理な注文だろうか。

 決して面白くないわけじゃない。しかし軽い。それにこう何冊も東野圭吾の本を読んでいると、登場人物の言動や性格が一定の型にはまっているのが分かってくる。『白夜行』あたりではそれから逸脱するものを感じたが、『夜明けの街で』『使命と魂のリミット』そしてこの『流星の絆』あたりでは、言い方は悪いがいつものレシピで作った小説という印象を受ける。

 また本書では過去の作品、たとえば『白夜行』『さまよう刃』『使命と魂のリミット』などのプロットや設定の影がちらつく。「騙される奴が悪い」という哲学、犯罪に手を染める主人公、したたかな若者、殺された肉親の復讐、などがそうだ。主人公は兄二人妹一人の三人兄弟。彼らが幼い頃、洋食屋をやっていた両親が殺害され、三人は犯人への復讐を誓う。事件は解決しないまま年月が流れ、彼らは詐欺師のグループとなって金持ちの男から金を巻き上げて生計を立てている。したたかで策謀に長けた長男がブレーン、次男は銀行マンから刑事までなりきってしまう演技派、そして妹は楽々と男心を手玉に取る美女。このトリオは次のターゲットとしてある洋食屋チェーン店の御曹司を狙うが、この男の父親がなんと両親殺害の犯人だった(次男が逃げていく犯人の顔を目撃しているのである)。三人は計画を詐欺から復讐へ変更する。詐欺で培ったテクニックと策略を使い、犯人の身辺を調査し、警察が彼に疑いをかけるよう証拠をでっち上げる。しかし復讐計画が着々と進行する中、妹の静奈は犯人の息子を好きになってしまう……。

 非常にテレビドラマ的である。読みながらドラマ化された時の映像が頭に浮かんでくるほどだ。洋食屋チェーン店が舞台になっていて、三人が騙そうとするターゲットそして静奈が恋する御曹司・戸神行成は「とがみ亭」麻布店新装開店の準備に情熱を注いでいる。ワインにレストラン、そしてキーとなる料理はうまいと評判のハヤシライス。それぞれ特技を持った身寄りのない三人兄弟、そしてその絆。復讐のターゲットはチェーン店の経営者。セレブである。そして迷宮入りとなった未解決事件に執着し、彼らの周りに出没する刑事達。復讐相手の息子はイイ奴で、その息子に恋してしまうヒロイン、静奈。ほとんどキャストまで浮かんできそうだ。

 復讐する話だというのは知っていたので、私は三人兄弟が親を殺した犯人を殺そうとする過激な話かと思っていたらそうじゃなかった。物的証拠をでっち上げて警察を動かそうとする話だった。まあそれはいいとして、証拠でっち上げの策略がどうもしょぼい。素人目にもあんなんじゃとても逮捕されないと思うんだけどどうだろうか。最後にどんでん返しがあり、その後エピローグでなんとなく色んなことにケリがついてハッピーエンドになるが、あの終わり方もどうも都合が良すぎてテレビドラマ的だ。帯には「涙がとまらないラスト」なんて書いてあるが、私はむしろ「そんな終わり方かよ!」と興ざめだった。いくらなんでもあれはあり得ないだろう。

 というわけで、いつもレベルの東野圭吾本です。傑作ではありません。


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