アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

クライム・マシン

2006-12-15 00:41:00 | 
『クライム・マシン』 ジャック リッチー   ☆☆☆★

 本日読了。短篇集。「このミステリーがすごい!」海外編で第一位になったらしい。うーん、まあなかなか面白かったが、一位っていうのはどうだろう。ミステリ風味ではあるが、ミステリーというには変り種だ。「ヒッチコック・マガジン」の看板作家だったらしいが、確かにヒッチコック劇場的である。

 例えば表題作の『クライム・マシン』では、殺し屋のところへ恐喝屋が訪れて、「私はタイムマシンで過去へさかのぼり、あなたの殺しの現場を目撃した」と言って金をせびる。恐喝屋が目撃した殺しは一件にとどまらず、しかも詳細を知り尽くしている。殺し屋はタイムマシンなんて信じず、恐喝屋がなぜ詳細を知っているのか突き止めようとするが、やがてタイムマシンの存在を信じざるを得なくなり、大金を出してタイムマシンを買い取ろうとする。ところが……というわけで、最後にはドンデン返しが待っている。

 ドンデン返しで終わるミステリ的な短篇というのは陳腐さを感じさせるものも多いが、この人の短篇はかなりスマートだ。発想もユニークだし、先が読めない。『クライム・マシン』でもタイムマシンと殺し屋の話と平行して、殺し屋が妻の浮気調査を探偵に依頼していて、途中まで全然関係ないように思えるが、最後につながってくる。かなりツイストがきいている。それは他の短篇も同じで、だから今読んでもあまり古い感じがしない(発表は大体1950~1980)。

 それから、文体が簡潔で非常にスッキリしている。それも古びていない理由の一つだろう。個性的な文体とまではいかないが、キビキビしていて気持ちがいい。ユーモラスな短篇も多いが、この文体のおかげで引き立っている。

 「カーデュラ探偵社」ものが四篇収録されているが、主人公の私立探偵カーデュラは吸血鬼である。怪力で、暴漢に襲われても30フィートも投げ飛ばしてしまうし、銃で撃たれても死なない。営業時間は夜8時から翌朝の4時まで、という人を喰った設定だ。この私立探偵カーデュラが活躍する四篇はこの人の持ち味、つまりユーモア、人を喰った発想、この先どうなるか分からないトリッキーな展開、などが満喫できる。それから『歳はいくつだ?』は傑作。病気で余命わずかと診断された男が、町で見かけた無礼者を一人ずつ殺していく。殺す前のセリフが「歳はいくつだ?」面白い。

 全体に軽くてユーモラスなので、薄味であることは否めない。文庫で買えばお得感があるが、ハードカバーで買うとちょっと損した気分になる、そんな感じだ。


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