アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

JOY ~ TATSURO YAMASHITA LIVE

2008-03-13 19:47:09 | 音楽
『JOY ~ TATSURO YAMASHITA LIVE』 山下達郎   ☆☆☆☆☆

 山下達郎のライブ。達郎のライブはこれと『IT'S A POPPIN' TIME』の二つあるが、どちらも甲乙つけがたい素晴らしいライブ音源である。

 『IT'S A POPPIN' TIME』の方は初期で、まだ『RIDE ON TIME』でブレークする前、だから曲目は渋く、いわゆるヒット・チューンは収録されていないが、ジャジーで充実した演奏の数々はいぶし銀の如し。まだ若い達郎の歌唱も素晴らしい。参加ミュージシャンは坂本龍一、村上ポンタ他、コーラスには吉田美奈子という超豪華メンバーで、とにかくヴォーカリスト主役のライブとは思えないほどインスト部分が充実しているのが特徴。フュージョン・ファンが聴いても楽しめると思う。ハコは六本木ピットイン、小さなライブハウスのプライヴェートな空気感が伝わってくる。

 そして本作『JOY』はブレーク後のライブ演奏セレクト集。『RIDE ON TIME』『ゲット・バック・イン・ラブ』『LOVELAND, ISLAND』『SPARKLE』『あまく危険な香り』と問答無用のキラーチューンが怒涛の演奏で次々と繰り出される。あちこちのライブからのセレクトだが、全体に小さなライブハウスというより大ホールの空気感があり、『IT'S A POPPIN' TIME』より音圧が強くよりファンキーな演奏だ。演奏の充実度は『IT'S A POPPIN' TIME』に勝るとも劣らず、更にあちこちからセレクトされたということで一曲一曲がクライマックスといっていいほどに演奏が熱い。そしてこの曲ではベースソロ、こっちではアカペラ、こっちでは達郎のヴォーカル・ソロ、とアレンジにも趣向が凝らされ、壮絶なまでの充実ぶりである。まさにしっぽまでアンコがつまったタイヤキ状態。ジャジーな『IT'S A POPPIN' TIME』に対し、ド迫力の『Joy』だ。

 一曲目の『ラスト・ステップ』はギター一本と観客の手拍子をバックに歌われるソロ。達郎の声は艶やかでのびがあり、力強く、まさに絶頂期である。これがプロローグ、そしていきなり炸裂する『SPARKLE』。名作『For You』の一発目だが、まったく同じカッティングから始まるこのライブ・バージョンはまさに怒涛、スタジオ・バージョンを余裕で凌駕する躍動感である。重量感のあるドラムとベースがぐいぐいうねり、ブレークはビシバシ決まり、サックス・ソロは鮮烈、そしてのりにのった達郎のハイトーン・ヴォーカル。達郎の曲といえばコーラス・アレンジだが、このライブ盤では女性のコーラス隊がスタジオ版に負けない美しいコーラスを聴かせる。完璧という他ない。

 間髪入れず始まる三曲目『あまく危険な香り』、『プラスティック・ラヴ』と続いていくが、全篇クライマックスの本アルバムの中で更にクライマックスといえるのはまず『THE WAR SONG』『蒼氓』の二連発だろう。シリアスで力強く、感動的なメッセージ・ソング『THE WAR SONG』のド迫力演奏に続き、「この数年間で作った歌の中で一番思い入れの深い歌です」と達郎自らが言う壮大なバラード『蒼氓』。それぞれ10分と13分という演奏時間からもその充実ぶりを分かっていただけると思う。「いつもだったらこんなことはお願いしないんですが」といいながら達郎が観客に歌うように呼びかけ、最初は照れていてほとんど聞こえない観客の声がだんだん大きくなり、やがて「ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラ、ラーララ、ラ」の大合唱になる部分はとても感動的だ。

 カヴァー曲『LA LA MEANS I LOVE YOU』の中盤では美しい女性コーラスがフィーチャーされ、『DANCER』では『IT'S A POPPIN' TIME』を思わせるジャジーなサックス・ソロが沁みる。そしてディスク2いきなりのハイライトはまずピアノに導かれて始まるスローバラード『ふたり』。これはスタジオ盤の達郎自身の分厚い多重録音コーラスが聴けないかわりに、リリカルなピアノとサックス、女性コーラス、シンセサイザーによるストリングスそして達郎のナマ絶唱が渾然一体となって津波のように盛り上がる。会場にいる観客は全員泣いているんじゃないか。

 そしてハッピーな『ドリーミング・デイ』を経て歌われる、ビーチ・ボーイズのカヴァー『GOD ONLY KNOWS』。原曲をぐっとシンプルにアレンジし、エレピをバックに歌われる静かなバラードと化しているが、実はこれが隠れたナンバーワン・ソングではないかと思えるほどの聴きどころになっている。それからスラップ・ベースのソロをぶいぶいフィーチャーした『メリー・ゴー・ラウンド』に続き、メンバー紹介が行われる『LOVELAND, ISLAND』、そして『ゲット・バック・イン・ラブ』『恋のブギウギトレイン』『DOWN TOWN』『RIDE ON TIME』と怒涛のヒットチューンで締めくくる。最後は『IT'S A POPPIN' TIME』と同じように、達郎の多重録音コーラスによるアカペラ曲『おやすみロージー』が収録され、本CDは幕を下ろす。
 
 達郎を腕のいい「ポップス職人」としてしか認識していない人は、本作や『IT'S A POPPIN' TIME』のようなライブ盤を聴くと驚くと思う。まさに圧倒的なパフォーマンスだ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿