アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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影の車

2008-03-11 20:47:28 | 映画
『影の車』 野村芳太郎監督   ☆☆☆☆★

 『疑惑』『事件』に続いて野村芳太郎監督作品。原作松本清張。うーん、これもいいっすね。全篇に漂う不安感、淫靡な空気、やるせなさ、寂しさ、そして暗いノスタルジーの甘美さ。これまで観た中でいちばん松本清張っぽかった。つまり、宮部みゆきのアンソロジーで感じた「松本清張らしさ」が一番現れていたと思う。ストーリーも不倫、だんだんドツボにはまっていく男、高まる不安感、最後に待ち受ける破滅、と典型的だし。

 この全篇に漂う淫靡な雰囲気がたまらなく、いい。エロだけど、露骨じゃない。ちゃぶ台とか布団とか縁側とか、そういう昭和の光景の中で繰り広げられるのが淫靡だし、いつも背広とワイシャツ姿でエッチしにやってくる加藤剛も淫靡、そしてもちろん凛とした大人の美しさの岩下志麻が淫靡である。念のため言っておくと、この映画にエッチシーンはたくさん出てくるがおっぱいとかお尻が見えるシーンは一個もございません。雰囲気がエロいんです。
 いかにもマジメそうな加藤剛、子持ちの美人母岩下志麻、この二人の不倫話はなつかしい昭和の風景もあって昼メロっぽいB級ムードも漂うが、それがまた淫靡である。

 映画はこの二人の盛り上がっていく不倫愛を丁寧に追っていく。バスの中での再会、停留所での再会、最初は礼儀正しく挨拶する仲で、二度目にようやく「家へ寄っていかれません?」。家へ行ってもいきなり抱き合ったりはしない。家を訪ねるようになって四度目にようやく、である。TVドラマなら最初の再会で家に行き、二度目の訪問でセックスしてるだろう。そういうプロセスが丁寧なので、観ていてなんとなくどきどきする。これも淫靡である。

 そしてだんだん子供のリアクションが不安になってくるが、これが加藤剛の子供の頃の記憶とオーバーラップしているのがうまい。ここがこの映画の肝だと思う。つまりこれは特定の子供の異常な行状の話ではなく、加藤剛自身の話でもあり、またあらゆる子供が(父親ではない)母の恋人に向ける複雑な感情の話でもある。普遍的なテーマなのだ。子供の目から見たおかあさんと、おかあさんと何かしら特別な関係にあるらしいおじさん。それを見る子供の寂しさ、哀しさ、ジェラシー、そして憎しみ。こういう場合おじさんは子供を可愛がろうとするので、単に憎しみでなく微妙な愛憎関係が生じる。加藤剛と岩下志麻の子供の関係も、加藤剛が子供の時に母親の愛人に抱いた感情も、そういう複雑な、甘くやるせなく、不安で落ち着かない感情として描かれている。

 母親の恋人に向ける子供の暗い感情、という着眼点は実に松本清張らしく秀逸だと思う。この映画はひたすらその心理を掘り下げていく。こわいぞー。

 加藤剛の子供時代の回想は説明的にちょっと出てくるだけでなく、現在の話(岩下志麻との不倫話)と平行して継続的に描かれるが、これがまたぐっと映画に奥行きをもたらしている。ただでさえノスタルジックなこの映画を更にノスタルジックにしている。しかもその回想の中にあるのは単に懐かしい光景ではなく、どこか忌まわしい、子供の頃の暗い感情なのである。加藤剛を不安に陥れる岩下志麻の子供は、いわば彼自身である。子供の頃の回想が、最後のオチにつながってくるのもお約束かも知れないが、何かやるせないカタルシスを感じさせて良い。

 回想部分に変な映像処理がしてあって、今となっては時代を感じるが、芥川也寸志の甘美かつ哀愁を帯びた音楽はこの映画に似合っていてとってもいい。古いイタリア映画みたいな洒脱さと情感がたっぷりだ。怖さは最近のスリラーと比べると大したことないし、不倫というプロットも小粒だが、全体の淫靡なムードとやるせない情緒があいまって濃厚ないい作品である。私は好きだなあ。変にヒューマニズムやお涙頂戴がないところがまたいい。

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4 コメント

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ego_danceさん (zebra)
2013-05-18 20:02:44
ボク自身 幼いときの環境と似てますね・・・

もう母は亡くなりましたが 子どもの頃 母ひとり子ひとりの母子家庭で育ちました。 そのためか マザコンの気が あったと思います。

 母が勤めてたレストランのお客さんで意気投合した男性がいたんです。
 
昔のアパートに住んでいたとき、その男性がたずねてきて母と過ごしたことがありました。 雰囲気的には ただくつろぎに遊びにきただけの雰囲気でしたが

もしかししたら 幼いボクが 寝静まった頃に・・・大人の時間ってヤツで セックスをしていたかも知れません。

小さいときなら「お母さんを取らないで」っと ショックだったかもしれません。
でも、大人になった今 母が その男性と肉体関係にあっても汚らわしいとか ぜんぜん思いません。

女性ひとりで息子を育てるのは大変です。ほんの少しの心と体の安らぎがあってもいいと思ってます。その男性は ボクのコトもやさしく接してましたから 悪い気はしてません。

 母は その男性とは別れたみたいですが
たとえ肉体関係があっても 心はボクのコトを思ってくれていたはずですし、

それに そういう 母と肉体関係(ある、なし どちらにしても・・・)たいてい ふだんの生活では 職場で汗や油で真っ黒になってがんばったり
 実の親を思っていたり、 近所の子供にやさしかったり 私生活 職場ではただの人みたいなのが多いです。

そんな男性だって 一人の"男"なんだから
女性に 触れたい思いだって あっていいじゃないか・・・ 

 自分をよく見せるための計算ずくで 子供にやさしくしてる人もいるかもしれませんが それは一部の心無い寂しい人。 ほとんどが 本心からやさしい人・・・
 

ボクは "母と関係持った男性"っていうのは なぜか憎めません。  ボクって お人よしの甘ちゃんでしょうか?

 でも・・・・・浜島さん "その行動"はやっちゃいけないよ (肉体関係じゃなく)・・・
Unknown (ego_dance)
2013-05-20 11:29:19
なるほど。実際そういう経験をされた方のコメントは参考になります。一口に母と子といっても、その関係性は色々でしょうし、もし自分が小さい頃に、母と親しい、父親ではない男性がいたら自分がどう感じたか・・・なかなか想像しづらいです。zebraさんのように思ってもらえれば、大人の方も嬉しいでしょう。
母と親しかった男性・・なかなか 複雑(^_^;)  (zebra)
2013-05-20 17:58:04
 ego_dance さん 返事ありがとうございます。

じゃあ男性視点で考えたら
「彼女の子か・・・ よし この子ともすきになるよにしないと・・・」  っていう方も おられると思いますよ。

 でも これを 家庭環境を
父一人娘一人 と 父と親しくなった女性と して置き換えたら また 別になるかもしれません 女性の心理は 男性よりも嫉妬心が強い傾向にありますし・・・むろん一概には言えませんが。 たぶんそのケースでも「影の車」の幼子の殺意のストーリーは なりたつかもしれません。

ボクの場合は この「影の車」の浜島さんのようにな なりませんね。

 しかもやっかいなのは 浜島さんは
子供の時に見た 母と男性のSEXの現場の立場と 現在の"男"として 子供から見られてる立場 両方を経験してる点が 今回の悲劇につながったのは いうまでもありません・・・

 むろん 両方体験しても 必ずしも ゆがむことなく 大人のSEXが きっかけで 心が安らげるんだってことを理解して 成長していく人だっています。

問題なのは 母への独占欲と不信感、相手の男性への 不信感 浜島さんは3つとも強かったからだと おもうんですよ・・・

それを松本清張さんの作風"人間の心の闇"を主人公にした作品として 世に広まったんです。

「夜行の階段」「鬼畜」「疑惑」「証言」・・・これらの作品の主人公はみなそうです トラウマ 支配欲 自己保身 なんからの心のなやみ、やましさ、を持った人物の視点で物語りは展開してます。

最後に・・・いまなら かつて 母の肉体の相手にしていた男性に対しても 母は もう亡くなってますので、 母とは肉体の関係はムリですけど 他に女性がいれば
 「体だけの関係だったとしても 今はもうなんとも思ってないから もし 女性がいれば SEXで汗流し合ってがんばってよ!」って やさしく言ってあげれそうです。

 やっぱり 同じ男の立場だから 女性の色気に弱いのは仕方ないです



Unknown (ego_dance)
2013-05-27 12:41:43
私は子供を持った女性とつきあったことがないので想像するしかありませんが、幼い息子を持つ女性との恋愛が、男の中に微妙なやましさの感覚を呼び覚ますというのは、分かる気がします。こういう微妙な感覚を拡大して見せるのが、松本清張の巧さでしょう。

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