崔吉城との対話

日々考えていること、感じていることを書きます。

「旅は道連れ、世は情け」

2011年06月03日 05時51分48秒 | エッセイ
現在は観光が国際化の象徴的な現象である。一昔前までは海外旅行が自慢話になったが、今は広く世界を回ってきた人が多くなり、観光は珍しくない。しかし大部分の方は旅先の記憶が薄れ、行ったこと意外には詳しく話をしてくれない。アメリカの人類学者のビクトルターナーは旅先で人々と出会いお互いに身分や地位を忘れ、無階級な状況で人は変わっていくと主張した。日本の古い言葉で「旅は道連れ、世は情け」というそのものである。それは旅では道連れ同士が助け合い、世渡りではお互いにおもいやりをもってするのがよいという意である。
 今世界的に観光政策をし、重要視する国家が多い。観光はイギリスで旅から観光へ発展したが、いまや観光から旅へ逆戻りすべきだと思う。私は現地調査を通して世界を多く旅したが、さらにいろいろな所に移り住み、人生そのものが旅だったともいえる。今住んでいるところも旅先であろう。昨日数人の同僚が協力して書棚を運んでくれた。新しい研究所室に溜まったごみを捨ててくれた人がいた。それが思いやりである。この私の「旅先」ではいつも思いやりがあった。川端康成の「伊豆の踊り子」を読みながら主人公の20歳の高等学生と私が20代に旅芸人を調査しながら、彼らと一緒に旅をしたことと重なる。それが私の研究の原点である。