季節運行の京都バス90系統(西山高雄線)に乗る

2017年11月21日 03時41分13秒 | バス関係
11月も下旬に差し掛かり、京都市内各地は紅葉の見頃を迎えはじめました。
そんな各所を結ぶ観光輸送に大きな役割を果たしているのが各社バス路線でありますが、臨時便が多数設定されているなか、あまり注目されない系統があるのもまた事実。今回取り上げる京都バス90系統(阪急嵐山駅前~西山高雄)もその一つです。
この90系統、秋季のみの運転で有料道路の嵐山―高雄パークウェイを経由するのが特徴ですが、年を追うごとに運転本数が減らされ、今年は11月11・12・18・19日の4日間、各日2.5往復の設定にまで縮小。同社の免許維持路線として名高い95系統(大原→鞍馬)もかつては春から秋にかけて運転されていましたが、乗客の減少により、その年の運行初日である「春分の日のみ」の運転となった経緯があります(なお、今年のダイヤ改正で55系統として区間復活)。
二大観光地である大原・鞍馬がつい最近までバスでの回遊が困難であったのと同じように、嵐山・高雄を結ぶ路線も季節運行の90系統が唯一の存在。高雄へは市バスやJRバスが通じていますが、帰りに嵐山へ寄ろうと思えばいずれも遠回りの乗り換えを強いられます。こうした前例や今年の設定本数からそろそろ90系統も先行きが危ういのではと思い、18日(土)、朝から観光客で賑わう阪急嵐山駅に降り立ったのでした。


行きの電車は多客対応の8000系。
嵐山線と言えば6300系での小旅行気分を期待していましたが、やはり収容力の面ではこちらに軍配が上がります。この時間帯(9時台)はさすがに余裕がありましたが、昼から夕方にかけてのピストン輸送では大活躍してくれることでしょう。


嵐山駅前から山のほうをチラリと望みます。
まだ色付きが薄く、紅葉にはあと一歩といったところでしょうか。23日(勤労感謝の日)、週末の25・26日あたりが見頃かと思います。

乗車する90系統は9:30発の初便。バス停には既に何人かのハイキング客が列をなしていましたが、話を聞いているとどうやら同時刻発の清滝行き(94系統)に乗る様子。今年のダイヤ改正から清滝線は市内中心部への直通が早朝の一部を除いて廃止され、基本的には阪急嵐山駅で分断される運行形態となってしまいましたが、区間短縮・鉄道駅発着というのは定時性の確保という面では理に適っているのではないかと思います。

そのため、車両は折り返しもしくは有栖川の車庫から回送されてくるので、充当車種はその時まで分かりません。
やがてフルカラーの回送表示も眩しい一台のブルーリボンハイブリッドが滑り込んできましたが、こちらが94系統に充当されるのかと思いきや……


「90 高雄」の表示が!
ほどなくして扉が開き、車内で発車を待ちます。




(上2枚は西山高雄到着後に撮影)
市バスが幕式表示を堅持している一方で、京都バスは時流に乗って(?)昨年度の新車からフルカラーへと移行しています。
また、写真の通りハイブリッド車には爽やかな特別塗装が施されているのが特徴で、なかでも今年度の新車である145号車はラグビーワールドカップ(2019年開催予定)を記念した白地の図柄入りナンバープレートで異彩を放っています。Web上を見る限り90系統には多彩な車種が充当されるようですが、この最新型フルカラー車の登板はおそらく初めてではないでしょうか。

ところでこのブルーリボンハイブリッドですが、モデルチェンジの際に給油口の関係から扉側最前部のいわゆる「ヲタ席」は廃されています。前面展望が出来るのはもちろん、混雑する路線で短距離乗車の際には重宝する座席ですが、転倒防止の観点からもバス会社としてはなくしたいのが本音なのでしょう。なお、市バスでは給油口を反対側に移設しているので変わらず健在ですが、無いものは仕方ないので止むなく最後列に陣取って「後面展望」を。

僅かな客を乗せた90系統は、同時刻発の94系統を先発させて嵐山駅前を発車。


バスは渡月橋を渡り、しばらく長辻通を走ります。
時間帯のせいか天候のせいか、まだ人通りはまばら。実は先週にも別件で嵐山を訪れたのですが、そのときは好天も相まって半ば歩行者天国状態。遅れに遅れたバスが徐行で通過していました。

JRの踏切に差し掛かると程なくして丸太町通へ、嵯峨小学校前から清滝方面へ向けて北上します。


この道路は戦時中に休止となった愛宕山鉄道の廃線跡に当たります。
廃線跡としては清滝から先に延びる索道のほうが有名ですが、鉄道線にも「いかにも」な緩いカーブが残っています。


化野念仏寺最寄りの鳥居本(駅跡)を過ぎると、


画像中央に見える高架へ左折。


料金所で手続きの後、いよいよ嵐山―高雄パークウェイへと差し掛かったかと思えば、


つづら折れのカーブが連続してぐんぐん高度を上げていきます。
眼下に見えるのは先ほどの料金所と鳥居本の集落。紅葉の始まった山は霧に包まれています。車内では自動放送でパークウェイの沿革や清滝地域についての解説が流れ、車内外とも観光路線らしい雰囲気に。




麓の鳥居本から僅か数分で保津峡展望台に到達。
バス停はありませんが、限られた眺望ポイントということで心なしかゆっくりと通過していきます。
えらいところに来てしまったな……というのが正直な感想で(笑)、とても京都市内のバス路線とは思えません。他に似たところでは比叡山線の51系統(未乗)などが挙げられると思いますが、そういえばあちら(比叡山ドライブウェイ)も嵐山―高雄パークウェイも同じ高度成長期の開業。同時代に書かれた水上勉の小説などを読むと、こうした目新しい設備が市内中心部のしがらみを脱しようとする男女の逃避先として散りばめられています。


パークウェイ上には終点の西山高雄を含め3つのバス停があり、その最初のバス停が清滝道。
「道」というからには清滝に通じているのだと思いますが、何せ有料道路上、簡単には帰れなくなるので降車にはちょっと勇気が要りそうです。(笑)

期待していた沿線の紅葉はちょうど見頃。
とは言え、道路沿いに並木が続くというわけではなく、先ほどの展望台のように時折開けた場所から色付いた山々を眺めるほうが良いかもしれません。


また、右へ左へカーブが続くので、酔いやすい人は注意です。


菖蒲谷池。ここまで来れば高雄の集落からも徒歩圏内です。
もとは角倉氏が拓いた人工の溜池だそうですが、現在ではフィッシングスポットとして有名のようで、雨模様ながらも釣りに興じる人々の姿が見られました。


一気に下っていくところで、前方の案内表示が終点を告げます。


菖蒲谷池を抜けた先、この路線のクライマックスともいえる並木道が現れます。
停まっている車が見える通り、この周辺が一番きれいに色付いていました。

バスは嵐山から約40分で終点の西山高雄に到着。駐車場の一角で降車となります。
初乗車ということもありますが、カーブあり高所ありで十分に乗りごたえのある道中でした。バスを降りた僅かな乗客は早々と何処かに消え、残されたのは私とバスだけ。


周囲はいまだ霧のなか、長々としたパークウェイを介して降り立った高雄の地はもはや異界。
朝のひんやりとした空気に、ハイブリッド車の特別塗装が冴えわたります。


初便の折り返し時間は比較的短く、10:20発の阪急嵐山行きに表示を変えて「下界」へと去っていきました。


次のバスは少し間が空いて13:30、早くも最終便。
そこまで待てるかと訊かれれば答えはノーですが、実は西山高雄バス停のある駐車場の外れからは、


市バス・JRバスの高雄バス停に向かう階段が延びているのです。
おそらく同乗客の多くはこの階段で高雄の里へと下りていったのでしょう。このまま此処に居るとほんとうに異界に取り残されそうな気がして、私も人の気配を求めて紅葉の階段を下り始めたのでした。

(別項へ続く)

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