(※ご注意 一部ネタバレを含みます)
「映画」カテゴリを書くのは久し振りのことです。
京都みなみ会館で表題の映画を観てきました。
アニメ映画と言えば現在のトレンドはやはり「君の名は。」なのかもしれませんが、その陰でじわじわと人気を高めているのが「この世界の片隅に」。
SNSでは随分と話題になっていたことと、能年玲奈改め「のん」さんが声優を務めているということもあり、私も以前から気になっていました。
休みをとった平日の昼下がり、上映直前に駆け込んだものの観客はまばらで、ほどなくしてOPの「悲しくてやりきれない」が流れると、そのままスーッと作品世界に引き込まれていったのでした。
……2時間後。
まず、声優ののんさんが非常にハマり役です!
朝ドラ「あまちゃん」では北三陸に暮らす訛りの強い高校生役で一躍有名になった彼女ですが、今度は広島弁の主人公・浦野すずを声のみで好演しています。「あまちゃん」のキャラを知ったうえで観ているからかもしれませんが、少し不器用なキャラ設定ということもあり、彼女の声は自然に馴染みます。また女優として復帰してほしいと思いつつも、今回声優としての新境地開拓を見せられた気がします。
ストーリーに関しては、前半はコメディ的要素もあり、そこへ徐々に忍び寄る戦争の影……なのですが、描かれているのは一貫して「庶民の暮らし」。
主人公は広島から呉に嫁ぎ、両都市をしばしば往還します。呉は言わずと知れた軍港都市ですが、それでも歴史上に知られた人は誰ひとりとして出てきません。せいぜい戦艦大和くらいで(笑)、それ以外は戦時中に制限され変化していく衣食住を「とても」丁寧に描いています。
また、街並みの描写も細かく、原爆ドーム(もと勧業館)はもちろん、当時の広島をよく知る人なら分かるところが多いのでしょう。おそらく今日では現存しない建物が多いのだと思いますが、迷子になって辿り着いた遊郭の建築が個人的には印象的に残りました。
また、広島から少し離れた呉という場所設定も「なるほど」と思わせられます。
海軍病院では新聞に載っていない情報(「大和」の沈没)が共有されていたこと、原爆投下時の地震のような揺れの衝撃、そして広島市内の回覧板が呉にまで飛んできたといった出来事は、綿密な取材のうえで盛り込まれたエピソードなのでしょう。ちなみに作中では「原爆」という言葉は使われず、「新型爆弾が落ちた「らしい」」という表現に留まっています。
広島「市内」での出来事はこれまでに多くの作品が制作されたおかげで広く知られることとなりましたが、周縁部についてはまだまだ知られていないのが現状だと思います。以前、三次を訪れた際に当時を知る方のお話を聞く機会があり、(三次は)被爆した人々が列車で運ばれてきたことを聞いたのを思い出しました。
そして、従来のいわゆる「戦争もの」の作品と異なる部分としては、当時の人もそう思っていたのかもしれないな、と思わせる点が非常に多かったこと。
戦争を描く場合、多くは現代的価値観の下に制作されることが多く(それはそれで仕方のないこととは思います)、色々と当時についての知識を深めていくと、そうした作品をなかなか純粋に受け止められないこともあります。
しかし本作は、あくまで主人公・すずが見聞きしたことしか描かれないことで、何気ない生活描写・心理描写に重きが置かれ、それが却ってリアリティを高めています(昨年の大河ドラマ「真田丸」でも、本能寺の変や関ヶ原の合戦がさっさと終わってオマケ程度の扱いだったのが話題になりましたが、あちらも真田信繁が見聞きしたことを重点的に描いているからであり、おかげで主人公の無理な介入がなく、違和感なく観ることができました)。
ふつうに暮らしていた人々が、戦争を経験し、多くの大切なものを失い、そして立ち直っていく。
構造としては他でもよくみられるものの、上記のような手法がとられていることで、実際にこんな暮らしをして、こう感じていた家族があったのかもしれない――「この世界の片隅に」という、少し謙遜したようなタイトルの意味が、終盤になって分かるという仕組みです。
同時に、現代において戦争を描くことの難しさも感じた2時間でした。
当時の出来事を語り継いでいく人が日に日に少なくなってきている現在、こうした市井の人々の「ふつうの」暮らしを描いた作品がもっと世に広まり、その代わりを担う役割になればと思います。とりとめのない感想となりましたが、気になった人は是非。
「映画」カテゴリを書くのは久し振りのことです。
京都みなみ会館で表題の映画を観てきました。
アニメ映画と言えば現在のトレンドはやはり「君の名は。」なのかもしれませんが、その陰でじわじわと人気を高めているのが「この世界の片隅に」。
SNSでは随分と話題になっていたことと、能年玲奈改め「のん」さんが声優を務めているということもあり、私も以前から気になっていました。
休みをとった平日の昼下がり、上映直前に駆け込んだものの観客はまばらで、ほどなくしてOPの「悲しくてやりきれない」が流れると、そのままスーッと作品世界に引き込まれていったのでした。
……2時間後。
まず、声優ののんさんが非常にハマり役です!
朝ドラ「あまちゃん」では北三陸に暮らす訛りの強い高校生役で一躍有名になった彼女ですが、今度は広島弁の主人公・浦野すずを声のみで好演しています。「あまちゃん」のキャラを知ったうえで観ているからかもしれませんが、少し不器用なキャラ設定ということもあり、彼女の声は自然に馴染みます。また女優として復帰してほしいと思いつつも、今回声優としての新境地開拓を見せられた気がします。
ストーリーに関しては、前半はコメディ的要素もあり、そこへ徐々に忍び寄る戦争の影……なのですが、描かれているのは一貫して「庶民の暮らし」。
主人公は広島から呉に嫁ぎ、両都市をしばしば往還します。呉は言わずと知れた軍港都市ですが、それでも歴史上に知られた人は誰ひとりとして出てきません。せいぜい戦艦大和くらいで(笑)、それ以外は戦時中に制限され変化していく衣食住を「とても」丁寧に描いています。
また、街並みの描写も細かく、原爆ドーム(もと勧業館)はもちろん、当時の広島をよく知る人なら分かるところが多いのでしょう。おそらく今日では現存しない建物が多いのだと思いますが、迷子になって辿り着いた遊郭の建築が個人的には印象的に残りました。
また、広島から少し離れた呉という場所設定も「なるほど」と思わせられます。
海軍病院では新聞に載っていない情報(「大和」の沈没)が共有されていたこと、原爆投下時の地震のような揺れの衝撃、そして広島市内の回覧板が呉にまで飛んできたといった出来事は、綿密な取材のうえで盛り込まれたエピソードなのでしょう。ちなみに作中では「原爆」という言葉は使われず、「新型爆弾が落ちた「らしい」」という表現に留まっています。
広島「市内」での出来事はこれまでに多くの作品が制作されたおかげで広く知られることとなりましたが、周縁部についてはまだまだ知られていないのが現状だと思います。以前、三次を訪れた際に当時を知る方のお話を聞く機会があり、(三次は)被爆した人々が列車で運ばれてきたことを聞いたのを思い出しました。
そして、従来のいわゆる「戦争もの」の作品と異なる部分としては、当時の人もそう思っていたのかもしれないな、と思わせる点が非常に多かったこと。
戦争を描く場合、多くは現代的価値観の下に制作されることが多く(それはそれで仕方のないこととは思います)、色々と当時についての知識を深めていくと、そうした作品をなかなか純粋に受け止められないこともあります。
しかし本作は、あくまで主人公・すずが見聞きしたことしか描かれないことで、何気ない生活描写・心理描写に重きが置かれ、それが却ってリアリティを高めています(昨年の大河ドラマ「真田丸」でも、本能寺の変や関ヶ原の合戦がさっさと終わってオマケ程度の扱いだったのが話題になりましたが、あちらも真田信繁が見聞きしたことを重点的に描いているからであり、おかげで主人公の無理な介入がなく、違和感なく観ることができました)。
ふつうに暮らしていた人々が、戦争を経験し、多くの大切なものを失い、そして立ち直っていく。
構造としては他でもよくみられるものの、上記のような手法がとられていることで、実際にこんな暮らしをして、こう感じていた家族があったのかもしれない――「この世界の片隅に」という、少し謙遜したようなタイトルの意味が、終盤になって分かるという仕組みです。
同時に、現代において戦争を描くことの難しさも感じた2時間でした。
当時の出来事を語り継いでいく人が日に日に少なくなってきている現在、こうした市井の人々の「ふつうの」暮らしを描いた作品がもっと世に広まり、その代わりを担う役割になればと思います。とりとめのない感想となりましたが、気になった人は是非。