「先生Tさんが来ています」それだけで分かる。来ていますと言われたって、ベットで横になっているのだ。最近増えた母子家庭、娘さんはぐったりした母親を医院に置いて何も言わずに出勤して行ってしまう。Tさんは精神疾患で某精神病院に通院しているのだが、病院なので医院のように気軽には診てくれないしちょっと離れているので私の所へ置いてゆくのだ。Tさんは年に一二回嘔吐発作を起こしぐったりしてしまう。二三日補液をすると元気になり来なくなる。治療費は付けで月末か次の月初めに娘さんが払ってくれる。
なぜ嘔吐発作があるのか、一度総合病院に入院して調べてもらったが病歴がうまく取れない?診療し甲斐がない?のか、よく分からないと返されてしまった。そうした訳でもう五、六年になるが、年中行事で時々置いて行かれる。ガリガリに痩せてとろんとした目つきをしており、一目で普通じゃないと分かる。素朴にこの人も三十年前は子を成す魅力があったのだろうかと失礼な疑問が心の奥に浮かぶ。生活保護ではなく、娘さんと孫と三人暮らしをされているようだ。詳しいことは分からないが、運命に捕らえられた人生?とこれまた僭越な思いが心をよぎる。
何とかならないだろうかと思うのだが、残念ながら医者にはこれとゆう解決策もなく、調子が悪くなった時、診療している。Tさんは質問には答えることができるので、それこそ何時間もかけて話を聞けば何某か病態の理解が深まるかもしれない。おそらく精神科医も診断がつくまではきちんと問診をしたのだろうが、診断が付いて以降は定まった対応をしているだけだろう。
そうした訳で、置いて行かれたTさんを型通り診察して補液するのを繰り返している。