駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

敷居をまたぐと別世界が

2015年09月15日 | 世の中

               

 往診に行かない先生も居る。内科系でも結構多く、近隣では半分近い割合になる。様々な理由があると思うが、手間暇がかかり大変だから有り体に言えば面倒だからだろうと思う。

 往診に行かないと、大切な視点を知らずに過ぎることになる。診察室で数分話したのでは分からない世界が患者の家の中には広がっているのだ。Oさんは近くのH医院に掛かっていたのだが脳梗塞で入院寝たきりになり、往診されないので当院にお鉢が回ってきた。結構遠いので本当はとても嫌だったのだが、いつも世話になるS病院からの依頼なので引き受けた。主な看護人は奥さんではなく家庭を取り仕切る娘さんだ。小柄小太りで丸顔で丸い目をした五十代?と思しき女性だ。

 最初、診察室でお会いした時はニコニコして良さそうな人だと思ったのだが、往診に行くと不思議な家なのが分かってきた。家は小さな庭がある二階屋で特別豪華でもないしみすぼらしくもない。先ず驚いたのは玄関に猫が居るのだが、首輪を付けて二三メートルの紐で拘束されている。周りに放し飼いの子犬(成犬?)が、二匹自由に行き来している。ドッグフードかキャットフードが箱に山盛り入れられ、いつでも食べられるように置いてある。

 「なんで猫を縛って、犬を自由にしてあるんですか」と思わず聞いてしまった。「えっへへー」と言うだけでまともに返事をされない。だんだん分かってきたのだがこの娘さんはO家に君臨しており、それだけならいいのだが訪問看護師の言うことはうろ覚えで自己流の管理をしてしまう人なのだった。

 訪問看護師から何度もイエローカードが出たのだが無視、遂に誤飲性肺炎で再入院してしまった。運良く軽快して三週間くらいで戻って来れたのだが、残念ながら懲りて学んだ様子がない。訪問看護師と私は学ぶところがあって、君臨する女王様に受け入れやすいアプローチを取るようになった。

 敷居の向こうにはローカルルールが展開しており、中には独特なものがある。往診に行くとそれが分かる。

コメント (2)
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