駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

前に横たわる巨大な難病

2015年09月21日 | 医療

        

 死因の一位ではないが、平成最大の難病は認知症だと思う。厚労省は勿論それを認知しており、様々な認知症対策を建てている。果たしてそれがどの程度功を奏するかは不明だ。

 認知は老化と不可分に結びついており、誰もが善と思う長寿は認知症患者の増加を意味している。

 内科診察は問診診察検査から成っている。今の若い先生は検査に走る傾向があるが、五十年前は問診が一番重要とされた。それは今も変わらないと昭和に卒業した医師は皆考えているだろう。

 困ったことに最大の診断手段である問診が認知症の人には上手く使えない。先日も八十半ばのお婆さんが孫と受診したのだが、お腹がすっきりしないらしいのは分かるのだが、いつからどんな症状なのかをなかなか聞き出せない。孫娘はまるで飼い犬を親に言われて連れてきただけのような素振りで、首を傾げるばかりできちんとした情報を取ることが出来ない。一体何時からというのが二週間前なのか二三日前からなのかもはっきりしない。ご本人は二週間前の月曜日と言うのだが今日は木曜日だし、老婆に正確な曜日の感覚があるとは考えにくい。何時というのが過去の医師が知りようのない事象と結びついて記憶されているので、何とかさんが来た時などと話が次から次と展開し手間が掛かる。どうも食欲がなく便秘らしいのは分かったのだが、それを聞き出すのに十分程掛かってしまった。

 どうもこのお婆さんは食事や排泄はなんとか自立しており、言い出したら聞かない頑固自分流のため、家族が放置しており孫娘も情報が少ないのではないかと思われた。

 手間取るから難病というのは不適切な表現かも知れないが、医療資源を消費する原因であり、これからますますそうなのは間違いない。お年寄りを尊重して丁寧大切にという言葉だけでは解決は覚束ないと申し上げたい。

コメント (3)
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