駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

厚労省の作戦は賢明か

2012年04月12日 | 医療

     

 四月一日から診療報酬が改定された。診療報酬の内容はA4版で1000ページもあるもので、微に入り細に亘る決まりごとが書かれている。日本の医療費は全てこれに基づいて算定される。殆どの医院の医師は直接自分に関係のあるところだけに目を通し、あとは事務員が実際面で対応していると思う。中にはこうした細かい綱領を時間を使って読みこなし事務員以上に精通する医師も居る。私はその逆で、こうした医療費の決まりを覚えることが苦手で、実は各医療行為の料金設定をよく知らない。よく知らなくても診療には差し支えはないので、そうしてやってきた。これからもそうしてやってゆくだろう。

 厚労省は何とかして医療費を減らしたいと考えている。その一つにジェネリック薬品使用推進がある。ジェネリック薬品は先発品(先行して販売された薬品)の半額程度のものが多く、これを使用することによって莫大な医療費抑制が可能になる。そのために厚労省は何とかしてジェネリック薬品を医師に使わせようとあの手この手の啓蒙と誘導策を講じてきた。しかしながら、医師の先発品信頼を崩すのは難しく、思ったほどジェネリック薬品は伸びてこなかった。そのためについに現金な方法を採用した。つまり薬剤をジェネリック薬品が使用可能になる一般名で一処方箋に付き一種類以上記載すれば、処方箋料を20円上乗せするという、医学的には何の意味もない料金を加算する改定をしたのだ。つまり、廉価なジェネリック薬品使用可能な処方箋を発行すれば20円のおまけをつけようというわけだ。

 別に20円に目が眩んだ(霞んだかも知れない)わけではないが、塵も積もれば山となる額(千枚の処方箋で2万円)であるし、ジェネリックをある程度使用してきて、上手に選べば先発品と遜色ないという感触を得ていたので、私の医院でも殆どの処方箋で一般名を一種類以上採用するようにした。この変換を電子カルテ上で行うには、近視で老眼の私には中々の苦痛で、目をしょぼしょぼさせながらやっている。二ヶ月もすれば患者さんが一回りするので、この作業もほとんどなくなるが、それまでは大変だ。 

 医者の心根はそんなものかと思われるのも悲しいが、20円のおまけによって、全国津々浦々の医院でこうした作業が行われ始めている。ジェネリック薬品(後発品と一般に呼ばれる)の品質が先発品と同等であれば、安い薬で同じ治療効果が生まれ、医療費が何千億?も削減でき万々歳に思えるだろう。しかし、何事にも光と影があり、売り上げの激減に真っ青の先発品薬品メーカーが出てきている。先発品メーカーは高い薬価の収益で新しい薬剤を開発し、医師に様々な医療情報を提供し、医療に貢献してきた。その力が削がれるのは由々しいことで、それは影の部分になる。

 厚労省の作戦は背に腹は代えられずという切羽詰まった状況から絞り出されたものだし、医師の動きも正直なところ二十円に釣られてのものなので、長期展望を欠いた経済主導のこの転回が十年二十年後にどのような結果をもたらすか非常に懸念される。

 ところで、ジェネリック薬剤を勧めていた高橋英樹さん、あんたジェネリック飲んでんの?

コメント (2)
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