三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

森類『鴎外の子供たち』

2011年12月28日 | 

森鷗外の三男である森類は『鷗外の子供たち』を書いたために、姉の森茉莉、小堀杏奴から絶縁された。
どういうことが書かれているのか、この手のことは好きなので気になり、図書館で借りた。

序章の「「鷗外の子供たち」が本になるまで」はそこらの事情が書かれている。
「森家の兄弟」という随筆をI書店の雑誌に発表し、そのつづきを発表しようとしたが、杏奴から「すぐ来てくれ」と電話があり、行ってみると茉莉がいた。
「茉莉さんがひどく書かれているのがお気の毒だと言って、I書店の人が原稿を持って相談に来た」という。
「実の姉をここまで悪く書くのは不道徳だ」と非難され、原稿の書き直しやらでもめ、杏奴は「今後書かない約束をしてくれ」と言うが断る。
そしたら、I書店のK専務から電話がかかり、一緒に食事をすると、
「兄や姉に愛情をもたない文章だ、アブノーマルだ」とK専務は言いだす。
50枚の原稿のうち、最後の1枚分を保留にして残りを載せてもらいたいと頼むと、K専務は「よおーしッ、そんなことを言うなら、ぜったいに載せない。I書店の一重役として雑誌の編集部へ抗議する。もし、他から出すなら出してみろっ。ぶっつぶしてやる!」とどなった。
そして「鷗外が偉いんで、君が偉いんじゃない。いばるな」とまで言われる。
結局「鷗外の子供たち」は『群像』に発表された。
「二人の姉から毛虫のように忌みきらわれ、今は会うことも許されなくなっている」

カッパブックスから出した『鷗外の子供たち』(昭和31年刊)は新しく書いた文章に「森家の兄弟」などを加えたものである。
50年以上が経った今となっては、兄弟たちも歴史上の人物になり、スキャンダラスなことが書かれてあるとは感じない。
砂田麻美『エンディングノート』は父親のガン宣告から葬式までの約半年間を娘が記録したドキュメンタリー。
1993年の夫婦ゲンカの場面があって、砂田監督がたぶん15歳の時にこっそり写したものを保存していたんだと思う。
両親が別居して週末だけ一緒に住んでいたとか、そういうこともナレーションで語っている。
最後の最後、病室で母親が「二人だけにして」と言って、子どもたちは部屋から出る。
だけどカメラはそのままにしているので、両親の会話をちゃんと撮っている。
きれい事で終わってはいないからこそ、『エンディングノート』が優れた作品になっているわけではあるが。
家族に小説家や映像作家がいたら、プライバシーなど存在しないと考えるべきかもしれない。

姉の森茉莉はかなりの変人らしい。
結婚して子どもが生まれたが、家事も子育てもできないというか、する気がない。
母や妹弟が遊びに行っても、催促しなければお茶を出すこともしない。
子どもの健康状態に無頓着で、
「子どもの腹具合なぞに気をつけることはない」
外出すると、帰宅するのは「出たら最後いつになるか分からない」
芝居に行くと帰りは11時、
「そのあいだ夫と子どものことを忘れている」
離婚した理由が夫の芸者遊びと、
「夜の夫が十分健康でなかった」で、何だか矛盾しているように思う。
「茉莉は人と共同生活ができない人」なのに再婚するが、半年で離婚。

「僕の家には人に知られたら一大事という秘密はないが、どこの家にもある程度の知らせたくない事柄はある。茉莉はそういうことを話してしまうのであった」
人のことは言えないと思うのだが。

森類は勉強できなくて、
「三年の時にはどうにもならなくなっていた」
小学校の先生から「頭に病気がある子が二人いますが、病気のない子では類さんが一番できません」と母親は言われ、病気でありますようにと念じながら医者に連れいったが、二つの病院で病気ではないと言われた。
母親は「死なないかなあ、苦しまずに死なないかなあ」と言ったそうだ。
何とか入った中学も中退してしまう。
暗算ができないとあるので、学習障害だったのかもしれない。

悪妻と言われている母親について、
「母はあまり人に好かれない人間とみえて」と書いている。
森類は「自分の体の一部をこっそり摩擦するその遊戯」に悩み、母親に相談する。
母子の会話。
「つまり女が欲しいんだね。それじゃあ、女のいる所へ行っておいで。パッパの言った病気の恐ろしさを忘れないように、さ、お金はここにある、カフェにするかい」
「カフェは刺激が強いばかりで、かえって悪いと思うけど」
「それじゃあ、吉原へおいで」
そして、
「吉原へは母自身、下見に行って、病気を予防する品物を買ってきてくれた」
さすが『ヰタ・セクスアリス 』作者の妻と息子である。

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