三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

杉浦正健『あの戦争は何だったのか』

2016年02月14日 | 戦争

「響かせあおう 死刑廃止の声2015」での杉浦正健元法相の講演録が「フォーラム90ニュース」に載っていたのですが、見当たらず焦っていたら、Youtubeに講演がアップされていました。

法務大臣になって真剣に死刑について考えるようになった。
国会議員を辞め、弁護士会の死刑廃止検討委員会に入り、5年間勉強してだんだん進化し、今は死刑廃止についての確信犯になった。
そういったことを話し、そして『あの戦争は何だったのか』という本を出したと杉浦正健氏が言っています。

読んでみると、戦前の農村は江戸時代と変わらない生活だったという実体験による指摘にはへえと思いましたし、死刑に関しては賛成ですが、全体としては自民党の国会議員だなというのが感想。

昭和9年生まれ、軍国少年だった杉浦正健氏は、玉音放送を聞き、負けるはずがないと教え込まれていた戦争になぜ負けたのか、そしてこの戦いは何だったのかという疑問を感じた。
日本の歴史、伝統から考えると、日本は負ける戦争はしなかった。
徳川家康、乃木希典、東郷平八郎がそうで、明治の初期までは無謀で愚かな選択はなかった。
敗戦が確実となった、少なくとも終戦一年前の時期に、なぜ終戦の決断ができなかったのか。
軍部は、敗戦に至るまで、本土決戦を呼号し、竹槍で上陸軍を迎え撃つと、その訓練を国民に強いていた。

まずこのようなことが書かれていますが、勝てる戦争ならしてもいいのかと思うし、貞明皇太后(昭和天皇の母)は本土決戦のつもりだったし、昭和天皇は米軍に一撃を加えて終戦工作を有利にしようと考えていました。

先月見た吉村公三郎『わが生涯のかがやける日』(昭和23年)に、軍閥が戦争を始めた、人民は被害者だといったセリフがあり、すべての戦争責任を軍部にあるとしていますが、それは単純すぎるように思います。


驚いたのが、靖国問題の解決のためにA級戦犯らの祭神を分祀するという考えです。

これらの「純化」された祭神の祀られる靖国神社であれば、政府首脳による慰霊の参拝に、中国をはじめとする国際社会から異議の生じる余地はないのではないか。そうであれば、天皇陛下も参拝できることになろう。


では、問題は分祀をどう実現するか。

合祀は、今は民間の一宗教法人にすぎない靖国神社が独自の合祀規準により行う宗教行為である。問題は、その宗教行為が国の安全や平和を脅かし国益を著しく害する場合、国や政府が干渉することができるか否かである。わが国は法治国家であるから、適正な法的措置により可能と私は考える。(略)
特別措置法の制定でそれが可能となるようにすべきではないか。


靖国神社がA級戦犯を合祀していることが「国の安全や平和を脅かし国益を著しく害する」のではなく、一宗教法人に公式参拝したがる政治家こそ国益を害しています。
法的措置を執ってまでしてA級戦犯を分祀させ、天皇や首相の靖国神社への参拝ができるようにすべきだというのは暴論だと思います。
法的措置によって靖国神社の祭神を変えさせることは宗教弾圧だと言ってもいいでしょう。

集団的自衛権の憲法解釈の変更についての意見もそうです。
反対意見の多くは、日本が「あの戦争」へ向かった道を再び歩むようになるのではないかとの懸念があるが、その心配はない。
戦争をしないためには、アジア各国との善隣友好関係を強化すればいい。
そして、自衛隊の最高司令官は首相であり、自衛権の発動は国会の同意が必須の条件となっており、戦前のように軍部の独断で動かせない。

杉浦正健氏の意見はピントがずれているように思います。
反対派は、集団的自衛権を認めたら日本はアジアの諸国を侵略すると考えていると、杉浦正健氏は思っているのでしょうか。
憲法を恣意的に解釈すれば憲法が形骸化するということに、杉浦正健氏は触れません。

杉浦正健氏は、自民党の憲法改正プロジェクトチームの座長をつとめ、自民党草案を作ったと語っていますが、憲法は国家権力を制限することで、国民の権利を守るものだというふうに認識していないという気がします。
そういう人が中心となって作られたわけですから、草案の内容は推して知るべし、です。

それにしても、杉浦正健氏は第二次世界大戦について、

国家の使命は、国民の生命・財産を保全することであるのに、それを放棄したとしかいえない国家になぜ日本がなってしまったのか。

と書き、「死刑」は「人権」問題だとして、

わが国民の人権擁護のために働く政府の組織は人権擁護委員会だが、日本の人権擁護委員会は法務省の人権擁護局の下にあるので、国際基準である「政府から独立した」ものではない。権限も弱く、人権擁護委員会のあらゆる国際会議から声がかからない(韓国には、政府から独立した「国家人権委員会」があり、強い権限を持って活発に活動している)。

と指摘しています。
まっとうな考えの持ち主のようにも思うし、死刑問題以外については考えが合わないし。

コメント (18)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2015年キネマ旬報ベスト... | トップ | 『卜部日記・富田メモで読む ... »
最新の画像もっと見る

18 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
勉強になりました (繊細居士)
2016-02-14 20:36:10
>杉浦正健氏の意見はピントがずれているように思います。

私は去年の死刑廃止フォーラムイベントで、松浦さんの話を直接聞いたのですが…私個人の意見を正直に申し上げますと…松浦さんのお話は、ほとんど私の心に響きませんでした。とにかく、印象に残ったのはこれだけでした。↓
『私はお東さん(真宗大谷派)だから、命あるものを殺してはいけないと思ってるから死刑反対です』…ってことを言ってたなア…みたいな…。

また、杉浦さんは、ご年齢のせいか、滑舌があまりよろしくなくて、聞き取りにくかったです。(ネガなことばかり書いて申し訳ないです。)

杉浦以外に、もう1人、元法務大臣で平岡さんがお話してくださってましたが、そちらはかなり有意義な内容でした。

去年の死刑廃止イベントが、youtubeで見られるということを円さんのブログを読むまで気がつきませんでした。それと、杉浦さんが、そういう思想の方というのは、まったく知らなかったので、勉強になりました。ありがとうございます。

>勝てる戦争ならしてもいいのかと思うし

同感です。

>天皇陛下も参拝できることになろう。

うわ~!や~めてくれ~!って感じです。でも、今の平成天皇は、お父さんから色々、言い含められている気がするので、絶対参拝しない気がします。しかし、次の代からはどうかわかりませんので… (- -;)
返信する
Unknown (てるてるぼうず)
2016-02-15 22:25:06
今の天皇陛下は今上天皇

諡号が平成の天皇はおられません
返信する
まだまし ()
2016-02-17 08:26:06
左藤恵元法相の話を聞いたことがあります。
死刑に反対ということ以外は、精神障害者の予防拘禁を認めるべきだとか、ろくな話はしないし、自慢話もちらほら。
なぜ死刑に反対なのかは不明。
その点、杉浦氏のほうが死刑反対の論旨がはっきりしています。

保守ブログ(ネトウヨ?)は皇太子夫妻、ときには天皇皇后を叩き、からかっているものがあります。
天皇が護憲を表明しているからかもしれません。
その点、昭和天皇はしたたかで、腹の読めないところがあります。
返信する
Unknown (てるてるぼうず)
2016-02-18 21:55:55
>昭和天皇はしたたかで、腹の読めないところがあります。

昭和天皇が腹の中を語ることができる世(戦後)だったのでしょうか?

神通力がなければ、したたかだったのかどうかは判断できないと思います

ーーーーーーーーーーーーーーー

憲法(法律)を守るべき者が自己の都合で解釈することはできない

憲法を変えることができるのは国民だけ
政府が解釈して好きにするのですから無茶苦茶

日本と外国
自分と他者
と思っているうちは結局なにをいっても同じことなんでしょうね

暴力団の縄張りと同じですね

最近は北朝鮮に対して腹が立たなくなりました

だってね

「鹿を指して馬と為す」
二千年以上前の中国のことですが
最近は
「ロケットを指してミサイルと為す」
ですから

マインドコントロールにかかった人のことを真面目に考えても、どうにもならないですね

ああしんど

返信する
アキヒトさんで十分 (繊細居士)
2016-02-19 11:45:28
>今の天皇陛下は今上天皇

はいはい。前から言われますね~(ため息)。ネットでは。

以前より、ネット掲示板では「今・上・天・皇!」って注意されます。しかし、あえて、私は『平成天皇』って言葉を使っています。

もしくは私は『天皇』!と呼び捨てです。
あくまで、「天皇=役割名」として呼んでいますので。彼らは私達と同じ人間ですので。

かといって、年上に向かって「アキヒト」と呼ぶのもどうかと思う。まあ「アキヒトさん」「アキヒトお爺ちゃん」でも良いのですが、ピンと来ない人が多いでしょう。

私は天皇制反対なんで、人から「xxと呼べ」と言われても従いません。そんなこと言われる筋合いもないと思っています。

だけど、リアルで『今上天皇』なんて言っている人もいないことも確かですけどね~(笑)
返信する
コメントありがとうございました ()
2016-02-19 12:01:16
御厨貴さんが「兄弟や皇族との関係も含めて、昭和天皇は何度もそういう修羅場をくぐってきた。しかもそのたびに勝ち残っているんだから、そのサバイバルな強さって、なまはんかはものではないですよ。なかなかの策士です」と語っています。
『昭和天皇独白録』や豊下楢彦『昭和天皇・マッカーサー会見』などを読むと、「したたか」でまずければ「策士」だなと思います。
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/54af133698e08c5002f8fcab655bc0b2

「天皇」という言葉自体が尊称だから、「天皇陛下」とするのは屋上屋を架すようなものだと、どこかで読みました。
どうなんでしょうね。

返信する
円さんへ(その1) (繊細居士)
2016-02-19 12:18:27
>なぜ死刑に反対なのかは不明。

でもそういう人は、たまに、いるようですね…

円さんから「そりゃいろんな人がいるに決まってるよ」と、たしなめられそうですが^^;…私は、『死刑反対派は、だいたいアンチ自民で左寄り』っていう固定概念があったんですが、そうじゃない人にたまに会うと、ちょっと驚きます。

こんな方がおられたんですが…『死刑反対派で犯罪者の人権も考えるような発言をブログの中でされているのに、憲法改正派で自民党支持発言もしている、という人』。そういう人に会ったとき、私は「えっ」と驚きました。世の中色々な人がいるので、いても当然とも思うのですが、私は「死刑反対の人=右寄りではない」という固定概念があったので、これから気をつけないといけないと思いました。

また、『政治思想は特に無く、どんな理由があっても人が人を殺すのはいかん』というピュアな理由のみから死刑反対って人もいますよね。そういう人に自民党批判を話してしまうと、「う~ん、貴方の考えすぎでしょう」と言われてしまいます。
返信する
円さんへ(その2) (繊細居士)
2016-02-19 12:19:15
長くなったので分けました。

私は、gooブログに引っ越してくる前に、とある死刑反対派の人に激怒してしまったことがあったんですが…。その死刑反対派を名乗るAさんという人から、ある日、「1年に2~3人死刑になることは、さして大きな問題ではない」って言われて、私がブッチーンと切れて、Aさんに「貴方は本当に死刑反対派なのか!?」と、めっちゃつかみかかってしまったんですね。それからAさんは私のブログに来なくなってしまったので…「あれって、一体なんだったのかな~?」と今もよくわかりません。


>天皇が護憲を表明しているからかもしれません。
>その点、昭和天皇はしたたかで、腹の読めないところがあります。

私はあまり本を読んでないので、そういうことをはっきり知らなかったです。勉強になりました。

確かに、今の天皇を悪く言う左寄りの人は左寄りが集まる場所でもあまりみかけません。しかし、ヒロヒトさんについては、今もすっごく!悪く言う左寄りさん、多いですね。色々納得しました。

それと…私は、ここで便宜上「左寄り」とかいう言葉使ってしまいましたが、そういう言葉を嫌う人もいるので、円さんが嫌いだったら、すみません。
返信する
おまけ (繊細居士)
2016-02-19 12:23:05
あ、『昭和天皇独白録』のレビューも読みます。色々紹介してくださり感謝です。本当は円さんのブログを隅から隅まで読まないといけないのに…。いずれ時間作って読ませていただきますm(_ _)m
返信する
鹿は鹿であります (てるてるぼうず)
2016-02-19 22:38:08
私も天皇の呼び名はどうでもいいわけですが

言葉がコミュニケーションの手段であるならば、自分にしか理解できないことは言葉とは言えないと思います

「鹿(今上天皇)を指して馬(平成天皇)となす」
と言われても、鹿を馬とは言えません

宦官の趙高と同じですね

脱線してますので終わります
返信する

コメントを投稿

戦争」カテゴリの最新記事