三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「オウム真理教元信徒広瀬健一の手記」1 神の啓示と宗教的経験

2012年05月28日 | 問題のある考え

オウム真理教の事件はどうして起きたのか?
二つの説があるように思う。

1,事件は麻原彰晃が指示したものではなく、弟子たちが麻原の考えを推測し、麻原に気に入られるために勝手に起こした。(弟子の暴走説)
2,麻原と弟子たちの相互作用。(麻原=弟子の相互作用論)

私もそのように考えていたが、オウム真理教の元信徒広瀬健一氏は「学生の皆さまへ」という手記と、新たに書かれた「オウム真理教元信徒広瀬健一の手記」を読み、それは間違いだと知った。

5月26日、27日に放映されたNHKスペシャル「オウム真理教」を見ても、すべては麻原彰晃の指示だったことが明らかである。

衆院選落選後に武装化したと考えている人がいるが、そうではない。
麻原彰晃は教団を設立した当初から、教団の武装化によって社会を支配しようと意図していた。
そして、弟子たちにそうせざるを得ないと信じ込ませている。
NHKスペシャルでは「暴走」という言葉を使っているが、麻原彰晃は最初から計画していたわけだから、暴走したわけではない。

なぜ麻原彰晃は事件を起こしたのか。

広瀬健一氏は手記の冒頭にこのように書いている。
「「アビラケツノミコトになれ――」
 突如、麻原彰晃に訪れた啓示が、オウム真理教による破壊的活動の原点になりました。
 1985年5月、神奈川県三浦海岸。
 麻原は解脱・悟りの成就を発願し、頭陀(ずだ)を行じていました。頭陀とは、この世に対する執着を、禁欲的生活によって絶つ仏道です。恐らくは粗衣をまとい、野宿をしながら、修行に勤(いそ)しむ毎日だったことでしょう。
 そのようなある日、麻原は神を礼拝していました。立位の姿勢から五体を大地に投げ出しての礼拝を繰り返す、仏教の伝統的な修行です。そのとき麻原は、天から降りてきた神の声を聞いたのです。
 言葉の意味を調べたところ、「アビラケツ」はサンスクリット語であり、アビラケツノミコトは「神軍を率いる光の命(みこと)――戦いの中心となる者」のことでした。神は麻原に、西暦2100年から2200年頃にシャンバラが地上に興ることを告げ、その実現のためにアビラケツノミコトとして戦うように命じたのです。
 そのときでした。シャンバラ建国の意志が、麻原の脳裏に刻印されたのは。そして、その意志の実現こそが、麻原が信徒に対して破壊的活動を指示した目的だったのです。
 この破壊的活動について麻原は、ヴァジラヤーナの教義に基づく現代人の救済、すなわち「ヴァジラヤーナの救済」として説きました。現代人は悪業をなしているために必ず、来世は三悪趣に転生する。かかる現代人を救済するには、武力を用いて地球上にオウムの国家を樹立し、真理の実践をさせる以外の道はない。あるいは、「ポア」しかないと。
 そして、麻原は1994年6月頃、自動小銃の製造に関する指示の際、私どもに述懐しました。
 ヴァジラヤーナは、「アビラケツノミコトになれ」という啓示が始まりだった――」
神の啓示を聞くという神秘体験がオウム真理教事件の発端だというのである。

1990年4月10日ごろ、麻原彰晃は幹部たちにこんな説法をしている。

「現代人が悪業を積んでいるために、地球が三悪趣化し、宇宙の秩序が乱れている。それを我々が正さなければならない。
 これから上九で培養するのは、ボツリヌス菌である。この菌が生産するボツリヌス・トキシンは、少量でも吸い込むと呼吸中枢に作用し、呼吸が停止する。そしてサマディーに至り、ポアされる。
 このボツリヌス・トキシンを気球に載せ、世界中に撒く。これは、第二次世界大戦中に日本軍が行った「風船爆弾」の方法である。中世ヨーロッパでペストが流行したときは黒死病といわれたが、今回の病は白死病といわれるだろう」
広瀬健一氏は「ここで麻原は、ボツリヌス・トキシンを世界中に散布することによって、「アビラケツノミコトになれ――シャンバラの実現のために戦え――」との啓示を行動に移そうと意思したといえるでしょう」と書いている。

麻原彰晃はシヴァ神の啓示も受けている。
「「『ヨハネの黙示録』の封印を解いてしまいなさい――」
 麻原は1988年秋、シヴァ神から示唆を受けたといいます。そして側近の出家者と共に、『ヨハネの黙示録』の解読作業に取りかかりました。その作業の様子が、『滅亡の日』に描写されています。
 オウムはヴァジラヤーナの救済によって、世界を統治する――。
 そのように、麻原は『ヨハネの黙示録』を解釈したのです。「彼は鉄のつえをもって、ちょうど土の器を砕くように、彼らを治めるであろう」という記述は、麻原が武力をもって諸国民を支配することを示すと」

弟子が麻原彰晃の考えを忖度して勝手に行動したわけではない。

「後に麻原は、ノストラダムスの予言書も解読し、その内容に従って教団の武装化を試みました。たとえば一九九三年、予言書の「剣」・「鮭」との記述をそれぞれレーザー兵器・大陸間弾道弾と解釈し、私ども広報技術(当時の科学班の名称)にその製造を指示しました。
 このように預・予言書に従って実際に行動するほど、麻原はその内容に現実感を抱いていたのです。ですから、麻原は預・予言書の解読によって、ヴァジラヤーナの救済についての現実感を深め、そして鼓舞され、教団の武装化を推進していったのでしょう。言い換えると麻原において、実現不可能といえるこの救済のモチベーションが、預・予言書の解読によって強化されたのかもしれません」

神の啓示を聞いた教祖は、モーセ、イエス、パウロ、ムハンマド、そして中山みき、出口なおなど大勢いる。

ネットで検索すると「神の啓示を聞いた」というので旅客機をハイジャックした牧師連続殺人犯もいる。
神の啓示が暴力的行為をうながすこともあるわけだ。
ある意味、麻原彰晃も神秘体験の犠牲者と言える。

だけど、「アビラケツノミコトになれ」という神の啓示は、武装化による社会の支配という麻原の主張を正当化するための作り話という可能性もあるように思うが、どうなんでしょう。

「神の言葉を聞くなどという夢のような体験が、麻原のあの途轍もない行動の動機となり得るのか?」と広瀬健一氏は手記の中で問題提起をしている。
広瀬健一氏は自分の体験から、「宗教的経験は、その経験者にとってはあくまでも現実として知覚され、場合によっては、経験者の人生をも一変させるほどの影響力を秘めているのです」と説明する。

宗教的経験とは「宗教的な意味合いを包含する幻覚的な経験」、つまり神秘体験や超越体験のことである。
麻原彰晃の命令に信徒がためらうことなく従ったのは、「信徒もまた、幻覚的な宗教的経験が豊富だったから」である。
「現代人が三悪趣に転生することも、それを救済する能力を麻原が具有することも、麻原の説く教えは一切が現実でした」
だからこそ信徒たちは麻原彰晃の指示に従って「破壊的活動」を行なったのである。

コメント (47)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする