今年はコーエン兄弟の映画が二本上映された。
『トゥルー・グリット 』はキネマ旬報ベストテンの上位に入るだろうが、私は『シリアスマン』のユダヤ的なところが面白かった。
『ブラック・スワン』も、監督のダーレン・アロノフスキー、主役のナタリー・ポートマンをはじめ、バーバラ・ハーシー、ミラ・キュニス、ウィノナ・ライダーとユダヤ系女優がそろっているが、別に日本の話であってもかまわない。
だけど『シリアスマン』は、いかにもユダヤ人という顔立ちの俳優をそろえていて、ユダヤ映画と言えるのではないかと思う。
主人公は中年の大学教員、妻から主人公の友人と結婚するので離婚してくれと宣告される。
おまけに大学に主人公を中傷する匿名の手紙が届くなどなど、最後の最後まで「何でこんなことに」の理不尽釣瓶打ち。
にもかかわらず、なぜかおかしい。
こういう自虐的ユーモアは好きです。
妻が信頼していた男と、という話はバーナード・マラマッドの小説『もうひとつの生活』もそうで、こちらは大学の教師になったばかりの主人公が上司の妻と浮気して、という話。
マラマッドも悲劇を喜劇的に語るユダヤ人作家。
そういえば、アジア人留学生が主人公を困らせるとこも、『シリアスマン』と『もうひとつの生活』は共通している。
そして、『もうひとつの生活』の主人公は思いもかけずセックスできることになるが、邪魔が入ってしまう。
『シリアスマン』でも隣家の妻に迫られるが、そこで目が覚めてしまう。
マラマッドの『修理屋』は帝政ロシア末期、子どもを殺したという無実の罪で刑務所に何年も幽閉される貧しいユダヤ人が主人公で、ユダヤ人への迫害が描かれている。
となると、『シリアスマン』は個人の悲劇ではなく、ユダヤ民族の苦難の歴史を表しているのかもしれない。