三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

死刑について考える13 加害者家族のつらさ

2008年02月09日 | 死刑

林眞須美『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら』を読む。
林眞須美といえば、言わずとしれた和歌山毒入りカレー事件の被告である。
林眞須美と家族との書簡集『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら』はふざけた題名と思われそうだが、題名のいわれはちょっと泣かせる。

林夫妻が逮捕されたのが平成10年10月4日、4人の子供たちは児童養護施設で暮らすことになった。
平成12年7月15日、ラジオでアナウンサーがこんなリクエスト葉書を読むのを林眞須美は拘置所で聞く。

「何とも切ないお手紙が届きました。この曲はすぐにかけます。一日も早くかけてあげたくて、7月22日、来週がハッピーバースデーだけれど、今日すぐにかけます。
 ママへ。39歳のお誕生日おめでとう。
 私たち四人はもう二年もママに会っていません。いつもママは10時から12時までこのラジオを聴いています。今日もきっと聴いているでしょう。
 この番組を一番楽しみにしています。ママの大好きな曲、シルエット・ロマンスをリクエストします」

林眞須美のあのふてぶてしそうな顔にあまりいい印象を持っていなかったのだが、この本を読んで、まったく違った顔が見えてきた。
林眞須美はよく泣く。
そして、自分は強い女ではなく、弱虫で、いつもぐじぐじし、自分で何事も決断できず、まわりの人に助けを求めると、子供たちへの手紙に書く。

そして子供たちのけなげさ、つらさ、苦労。
施設でのイジメ、暴力、差別…
母親のことが知られたら、仕事はすぐに首になるし、住んでいるところにも居づらくなる。
本人の責任でも何でもないのに。

原田正治さんの弟さんたちを殺した人は、姉と息子が自殺している。
女子大生誘拐殺人事件の木村修治の子供は、父親が逮捕された翌日、幼稚園の通園を拒否されたそうだ。
幼い子供にどうしてそんなことをしたのだろう。
この幼稚園の園長は、子供を守ることを第一に考えようとは思いもしなかったのだろうか。
教育者として失格だと思う。

加害者の家族も被害者なのだと思う。
まして冤罪事件の場合、犯人とされた人の家族の苦しみは取り返しがつかない。

ミッテラン大統領のもと、法相として死刑廃止を実現したバタンテールが弁護士をしていた時、こういうことがあった。
刑務所から二人の囚人(ビュッフェとボンタン)が脱走を図り、人質をとって立てこもったが、結局人質は殺されてしまった、という事件である。
ボンタンの弁護人となったバダンテールはボンタンが手を下したのではなかったことを立証したのに、彼も死刑になったしまった。
「地元の非常に強い反感を背景として、陪審の不利益な答申が出たのであった。ところで、こうした地元の反感は、裁判所の周辺でまきおこった「殺せ、殺せ」というはげしいシュプレヒコールにも現れていたが、何と、これに加わっていた群衆の中の一人が、わずか四年後に、こんどは自分が殺人罪を犯して死刑に処せられる番になった」(団藤重光『死刑廃止論』)
バダンテールはこの被告人の弁護人にもなったそうだ。

ネットで検索すると、
「1981年9月17日のフランス国民議会での死刑廃止法案の審議における法務大臣ロベール・バダンテールの演説全文訳」というのがあり、こんなことが書かれている(バダンテールの演説に対する議員のヤジが興味深い)。

「裁判所の周りで、ビュッフェとボンタンが通るときに「ビュッフェを殺せ!ボンタンを殺せ!」と叫んでいた群衆の中に、一人の若い男性がいました。その名をパトリック・アンリといいます。(訳注:1976年2月、トロワで8歳のフィリップ・ベルトラン少年が身代金目当てで誘拐され、行方不明になった。ベルトラン家と付き合いのあった若い男性パトリック・アンリが容疑者として取調べを受けたが、容疑不十分で釈放になった後、「こんな誘拐事件の犯人は死刑にすることに賛成だ」と発言した。その数日後に、アンリが彼の借りていた部屋にいたところを警察に取り押さえられたとき、ベッドの下から死後約1週間のフィリップ少年の死体が発見された。殺人者アンリへのかつてない憎悪がたちまちフランス全土に広がり、世論は沸騰し、二人の内閣閣僚が三権分立を無視してアンリを死刑にせよとまで発言し、テレビ番組は声高に死刑を叫び、アンリの両親にマイクを突きつけて焦燥した父親に「死刑は息子の行いにふさわしい」などと無理やり言わせるほどだった。フランスにおける凶悪犯罪の代名詞のようになったこの事件で、トロワの近くの町の弁護士会会長ロベール・ボキヨンとともにパトリック・アンリの弁護を引き受けたのがバダンテール弁護士だった。バダンテールの弁護により、最終的に死刑判決は回避され、アンリは終身刑の判決を受けた。)」

逮捕された人の家族を差別、非難、攻撃する人、たとえば上記の園長が、もしも自分が逮捕されたなら、自分の家族が事件を起こしたなら、という想像力をちょっとでもいいから持ってほしい。

(追記)
鈴木伸元『加害者家族』について書きました。

コメント (18)
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