「親鸞仏教センター通信」第16号にある、暉峻淑子氏の「心のノート」批判にはなるほどと思った。
不平不満を持たせず、今の境遇に満足させる。
これはアンチユートピアの中心施策である。
手かざし系宗教の信者にA・ハックスリー『すばらしい新世界』を読むように勧めたことがある。
その宗教では、「借金してでも献金させていただきなさい」と寄付を強要し、そのためサラ金などから600万円も借金して献金する人もいたそうだ。
さすがに批判が出た。
それでその信者は「新体制に変わったので問題ない」と言う。
それで、アンチユートピア小説の『すばらしい新世界』を勧めたわけです。
ところが、その信者は「つまらなかったので途中でやめた」と言う。
『すばらしい新世界』とはどういう世界か。
そこでは、社会階級や職業を前もって決めて人工受精がなされる。
ベルトコンベヤーに乗ったビンの中で成長する胎児は、出産までの間、条件反射教育を施される。誕生後も階級や職業に見合った睡眠教育などが繰り返される。
こうして、社会に順応し、自分の階級や職業が一番すばらしいと思って満足し、他人を羨むことがなく、自分の務めを果たす人間が生まれる。
こうした考えは優生思想に基づいており、A・ハックスリーもかなり影響を受けている筈である。
条件反射教育センターの所長の説明である。
どこやらで聞いたようなセリフである。
この言葉、もっともなように思うが、小欲知足とは違う。
国民すべてに「自分は幸せだ」と思わせたら、社会は安定する。
社会の安定のために、国民を考えさせないように満足した豚化するのがアンチユートピアである。
信者に幸せだと思わせたら、その教団は発展する。
『すばらしい新世界』のエピグラフはこういう文章である。
「心のノート」の使い方、アンチユートピア国家よりも上手だと思う。