三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

アンチユートピアと「心のノート」

2005年12月27日 | 問題のある考え

「親鸞仏教センター通信」第16号にある、暉峻淑子氏の「心のノート」批判にはなるほどと思った。

習熟度別指導というのも、早い時期にエリートとそうでない生徒を分けて、子供がそれに不満をもたないように、学校に『心のノート』(文部科学省作成)という冊子を配っています。『心のノート』は、いかにも精神主義みたいですけれど、内容を見ると、あなたが不幸なのも、就職できないのも、高校に落ちるのも、すべてあなたの責任ですということなのです。教育においても、そういう格差を意図的につくり出す社会を何とも思わないという人間の考え方が、とても恐いと思っています。

不平不満を持たせず、今の境遇に満足させる。
これはアンチユートピアの中心施策である。

手かざし系宗教の信者にA・ハックスリー『すばらしい新世界』を読むように勧めたことがある。
その宗教では、「借金してでも献金させていただきなさい」と寄付を強要し、そのためサラ金などから600万円も借金して献金する人もいたそうだ。
さすがに批判が出た。
それでその信者は「新体制に変わったので問題ない」と言う。

それで、アンチユートピア小説の『すばらしい新世界』を勧めたわけです。
ところが、その信者は「つまらなかったので途中でやめた」と言う。

『すばらしい新世界』とはどういう世界か。
そこでは、社会階級や職業を前もって決めて人工受精がなされる。
ベルトコンベヤーに乗ったビンの中で成長する胎児は、出産までの間、条件反射教育を施される。誕生後も階級や職業に見合った睡眠教育などが繰り返される。
こうして、社会に順応し、自分の階級や職業が一番すばらしいと思って満足し、他人を羨むことがなく、自分の務めを果たす人間が生まれる。
こうした考えは優生思想に基づいており、A・ハックスリーもかなり影響を受けている筈である。

条件反射教育センターの所長の説明である。

幸福と美徳の秘訣なのです―自分の務めを好きになるということが。一切の条件反射教育の目的とするものが、それなのです。つまり、人々に逃れられない自分の社会的運命が気に入るようにしてやるということなのです。

どこやらで聞いたようなセリフである。

ほしいものは何でも手に入るし、手に入らないものは誰もほしがらない。

この言葉、もっともなように思うが、小欲知足とは違う。
国民すべてに「自分は幸せだ」と思わせたら、社会は安定する。
社会の安定のために、国民を考えさせないように満足した豚化するのがアンチユートピアである。
信者に幸せだと思わせたら、その教団は発展する。

『すばらしい新世界』のエピグラフはこういう文章である。

理想国は、これまで信じられなかったほどたやすく実現しそうにみえる。それで、見方を変えれば、われわれはまことに困った問題に直面している。つまり、理想国の窮極的な実現をどうして避けるか、ということだ。 ニコラ・ビィェルディヤーィェフ 。

「心のノート」の使い方、アンチユートピア国家よりも上手だと思う。 

コメント (6)
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