退行催眠によって前世の記憶を思いだした患者のことを書いた、ブライアン・L・ワイス『前世療法』を読んだ時には、本当に驚いた。
過去世が生き生きと語られる。
そして、水が怖いというクライエントは、実は過去世において溺死したというように、現在の問題と過去世での出来事との因果関係がはっきりしている。
そして、中間生。
死んでから生まれ変わるまでの中間生に、指導霊の導きで、過去世を反省し、新たな課題を持って次の生の人生を選び、そうして生まれ変わりをくり返しながら成長していく。
すごく魅力的な話じゃないですか。
もしもこれが本当なら宗教はいらないと思った。
しかし、冷静に考えてみるとおかしい。
過去世では中国人だったという人が、その時代の中国語を思いだして、ペラペラしゃべれるようになったというのなら、本物だ!と私も信じるが、もちろんそういうことはない。
人間の脳とは不思議なものである。
退行催眠によって本当に前世を思い出すのかというと、カウンセラーの暗示によるものらしい。
E・F・ロフタス、K・ケッチャム『抑圧された記憶の神話 偽りの性的虐待の記憶をめぐって』は、カウンセリングによって抑圧されていた性的虐待を思いだし、親を告発するという事件がアメリカでは頻発しているそうだ。
日本ではそんな事態は今のところ生じていないらしいが、しかし他人事ではない。
飯田史彦氏と結託した奥山輝実医師のように、金儲けなのか、無知なのか知らないが、前世の記憶をよみがえらせると称して、初診に対しても平気で退行催眠を施す馬鹿がいるのだから。
以前、知り合いがカウンセラーをしていた。
知り合いはある先生のカウンセリングを受け、そうしてその先生の弟子になった。
その先生の理論はフロイトやユングなどとは違うユニークな理論だと知り合いが言うので、その先生が書いた本を読んでみた。
神経症は小さいころのいやな経験によって起こされる、というのがその先生の理論である。
たとえば、腕が痛む人がいる。
それは、子供のころピアノを習っていたのだが、行くのがイヤだったにもかかわらず、母親に腕を引っぱられて無理矢理連れて行かれたためだ。
その記憶を思いだし、吐き出してしまえば、病気が治る、というわけである。
その時は、そういうものなのか、と思ったが、今から考えると、「すべてを思いだしたら、傷は癒される」なんて、かなり安易な理論である。
仮に治ったとしても、単なる暗示、メリケン粉を薬だと言う偽薬効果だと思う。
日本でも経験の浅い、ちゃんとした勉強をしていないカウンセラーが大量生産されている時代である。
カウンセリングによって新たな傷を抱えるようになるかもしれない。
知り合いやその先生も、おそらく資格を持っていなかったはずだ。
飯田史彦・奥山輝実『生きがいの催眠療法―光との対話が人生を変える』のアマゾンのレビューが10あるうち、8つが★5つ。
何だか力が抜けてくる。