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三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

橋本健二『新・日本の階級社会』

2023年07月16日 | 

A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』やJ・Dヴァンス『ヒルビリー・エレジー』を読み、日本の労働者階級、貧困層はどうなのかと思いました。

『近代子ども史年表 昭和・平成編』に、1950年の国立世論調査所によれば、世の中は身売りを必ずしも否定していないことがうかがわれる、とあります。
「親が前借して子どもを年季奉公に出す」ことに
「構わない」9%
「家が困ったり、親の借金を返すためなら仕方がない」20%
「子どもが進んで行く場合や子どもの幸せになるなら構わない」51%
http://ns.crc-japan.net/contents/guidance/pdf_data/h15research.pdf

条件付きも含めて、なんと8割が児童労働を肯定しているのです。
それから70年が経ち、日本の貧困はどう変わったのでしょうか。

橋本健二『新・日本の階級社会』の冒頭に、現代の日本社会は、もはや「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきものではく、明らかに「階級社会」だと書かれています。

本書は基本的に、現代日本では格差は容認できないほど大きくなっており、格差を縮小させ、より平等な社会を実現することが必要だという認識に立っている。

格差が大きいと貧困層が増加する。

橋本健二さんは非正規労働者をアンダークラスに位置づけます。
ジョン・ケネス・ガルブレイスはアンダークラスを、誰からも嫌がられるつらい仕事を低賃金で引き受け、都市の快適な生活を支えていると指摘する。
貧困層は健康を害しやすく、十分な医療を受けられないことがある。

格差について日本人はどう考えているでしょうか。
2015年の調査
「今後、日本で格差が広がってもかまわない」
そう思う 1.8%
どちらかといえばそう思う 4.1%
どちらともいえない 21.5%
どちらかといえばそう思わない 29.9%
そう思わない 42.6%

格差拡大を肯定する人、容認する人は自民党支持者が多く、ティーパーティーの支持者の考えと重なるように思います。

2016年の首都圏調査
格差に対する意識についての設問。
①「日本では以前と比べ、貧困層が増えている」
とてもそう思う 16.7%
ややそう思う 43.1%
あまりそう思わない 20.0%
まったくそう思わない 1.2%
わからない 10.0%

②「いまの日本では収入の格差が大きすぎる」
とてもそう思う 23.5%
ややそう思う 52.5%
あまりそう思わない 18.1%
まったくそう思わない 1.2%
わからない 4.7%

③「貧困になったのは努力しなかったから」
とてもそう思う 5.0%
ややそう思う 30.4%
あまりそう思わない 42.3%
まったくそう思わない 13.7%
わからない 8.6%

④「努力しさえすれば、誰でも豊かになることができる」
とてもそう思う 4.4%
ややそう思う 33.0%
あまりそう思わない 48.4%
まったくそう思わない 9.4%
わからない 4.8%

③と④の設問は自己責任論についてです。
自己責任論は、豊かさと貧困は自己責任によって生じるのであり、格差は問題視するに値しないという価値判断を含んでいる。
格差を肯定し、格差が生じるのは自己責任だと考える人が少なくありません。

2015年の調査
「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついてもしかたない」
肯定的な人は52.9%、否定的な人は17.2%。
男性では60.8%が肯定的。
貧困層でも肯定的な回答が44.1%と多く、否定する回答は21.6%に過ぎない。
排外主義、軍備重視を支持する人々は、格差拡大の事実を認めず、所得再分配に反対する傾向が強い。
これまた自民党支持者はその傾向があるそうで、ネトウヨが同調しそうです。

自民党支持者は、排外主義と軍備重視に凝り固まったカルト集団であるようにも思えてくる。


貧困層に生まれた人が中間層になるのは困難だし、まして富裕層に上昇するのはよほどのことです。
また、社会が自己責任だとして格差の是正をしないなら、階級が固定することになります。
なのに、アンダークラスの中には自己責任論に肯定的な人がいます。

戦後の平和運動や左翼運動では、平等への要求と平和への要求が、常に結びついてきた。これらの運動に参加、あるいは共感する人々は、平等を求めると同時に平和を求めてきたのである。逆に右派は、平等への要求を「悪平等」「効率の無視」などとして否定すると同時に、軍備の拡張を求めてきた。同じように平等への要求は、アジア・太平洋戦争での戦争責任の追及と、日本がかつて侵略した国々の人々に対する贖罪意識と結びついてきた。そして右派は、平等への要求を否定すると同時に、侵略の事実を認めず、あるいは合理化し、戦争責任を問う中国や韓国、そして左派の主張に反発してきた。だから政治的立場としては、格差是正・平和主義・多文化主義の立場と、格差容認・軍備重視・排外主義の立場こそが、論理整合的な左派と右派の立場だと考えられてきたといっていいい。
こうした構図はかなり崩壊しているように思われる。(略)
貧しい人々が所得再分配による格差の是正を求める一方で、外国人の流入を警戒し、戦争責任を問う中国人や韓国人の主張に反発する。アンダークラスには、このような立場をとる人が多いらしいのである。追い詰められたアンダークラスの内部に、ファシズムの基盤が芽生え始めているといっては言いすぎだろうか。


貧困層が保守化、排外的になるのは世界的傾向なのでしょうか。
平野啓一郎「悲しみとともにどう生きるか」(『悲しみとともにどう生きるか』)は、社会的弱者に金を使うのがイヤだという人が増えていると指摘しています。

2011年に震災が起きて、日本は一体になって頑張らなきゃいけないというある種のナショナリズムが高揚した。それ自体はあの時期、必要あったと思いますが、個人の生活よりも国のことを考えなければいけないという風潮が醸成された頃、日本の財政状況が非常に厳しいということをみんなが意識し始め、国家の予算を何に使うかということに過剰に意識的になっていった。その時に、社会保障費を使うことに激しく反発する人たちが出てきました。予算を誰に使うべきかに関して、使われる対象をセレクトしようとする動きが出てきて、それが外国人の排斥や、生活保護の人たちにお金を使うことに対する批判など、いろいろなものにつながっていく。自己責任で病気になった人や貧乏になった人は社会保障費や医療費を通して「国に迷惑をかけている」連中で、お金持ちたちが払った税金をその人たちが食い物にしていると非難するようになった。(略)それはもはや新自由主義というよりも、一種の全体主義ではないかと思います。


バブルが崩壊してから平成の30年間で、一人あたりのGNPも賃金が増えません。
https://www.sbbit.jp/article/fj/113491
新自由主義的な考えがはびこり、自己責任論が広がって、社会的弱者に厳しくなっています。
社会の分断が日本でも起きているようです。


J・D・ヴァンス『ヒルビリー・エレジー』

2023年07月10日 | 

『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』の著者J・D・ヴァンスはオハイオ州の出身で、貧しい白人労働者の家に生まれました。
貧しい子供たちが苦境にあえいでいるのは、南部、ラストベルト、そしてアパラチア。
アパラチアに住むヒルビリー(田舎者)は代々貧困だった。

ケンタッキー州北東部のアパラチア地方で育った祖父母は、祖母が13歳で妊娠し、貧困から逃れるためにオハイオ州ミドルタウン市に引っ越す。
ヴァンスは高校卒業後、海兵隊に入り、4年で除隊。
それからオハイオ州立大学を卒業し、イェール大学ロースクールへと進んで弁護士になります。
トランプ前大統領を批判してたヴァンスは、トランプの支持をもらって共和党候補となり、オハイオ州選出の上院議員になりました。
まさにアメリカンドリームを体現したような人です。

『ヒルビリー・エレジー』で、ヴァンスの家族や親戚、知人たち白人労働者階級について書いています。
アメリカでは8.2%、約12人に1人の子供が、母親の離婚、再婚を経験しており、労働者階層ではもっと多くなる。
ラストベルト地帯では、貧困、教育、失業、薬物依存、離婚などの問題がある。

ヴァンスの親しい友人は両親の離婚や再婚、父親の逮捕など、家庭内に問題を抱えている。
夫婦親子が大声を上げてケンカをし、近所の人が警察を呼ぶ。
ネグレクトの母親は、料理をしない、必要ないのに家を買う、子供に新しい服を着せる、そして借金をふくらませて破産する。

ショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』はフロリダのモーテルで暮らす人たち、『レッド・ロケット』はテキサスに帰ってきたポルノ男優とまわりの人たちが描かれています。
そこで描かれるのは、どうやって生活しているのだろうと思うような、社会の底辺層の人たちです。

ネットで売春相手を見つける。
ヤク中と売人。
ショッピングモールで小さな星条旗を売る。
入れ墨だらけの夫婦〈肥満)。

『レッド・ロケット』はテキサス州ガルベストンが舞台です。
ガルベストン市の人口は約57000人。
世帯ごとの平均収入が28895ドル、人口の22.3%、18歳未満の32.1%は貧困線以下の生活を送っている。

ポルノ男優のマイキーは自分のことしか考えておらず、無責任なろくでなし。
だけど、相手をしゃべりで圧倒するマイキーはなぜか憎めない。
2016年の大統領選挙でのトランプの演説がテレビで映されますが、たしかにトランプは似ています。
 
オハイオ州ミドルタウン市も同じような町です。
人口は約5万人。
公立高校に入学した生徒の20%が中退する。
大学を卒業する人はほとんどいない。
ヴァンスの知り合いの両親の多くも大学を卒業していない。

多くの親はこうした状況に甘んじている。
周囲の大人たちを見て育った子供たちは、自分の将来に多くを望まない。
子供は勉強しないし、親は勉強させようとしない。

就職しても、遅刻したり無断欠勤したりして、仕事が続かない。
公的扶助を受けながら怠惰に暮らす白人女性が少なくない。
しかし、政府は何もしない連中に金を与えていると怒り、エリートに敵意と懐疑心を持つ。

労働者階級の白人は人生を悲観している。
黒人、ラテンアメリカ系住民、大学で教育を受けた白人は、「子供の世代は自分たちより経済的に豊かになる」と答えた人が半数以上。
労働者階級の白人は、「はい」という答えが44%、「親の世代より自分たちのほうが貧しくなっている」と答えたのは42%。
「敗者であることは、自分の責任ではなく、政府のせいだ」という考えが広まりつつある。

A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』で描かれるルイジアナ州よりもひどい状態じゃないかと思う地域があちこちにあるわけです。
ホックッシールドがインタビューをした白人労働者と、ヴァンスのまわりにいる白人たちとの違いは、ホックッシールドが会った人たちは40歳以上で、キリスト教の熱心な信者たちだということがあるかもしれません。

ヴァンスは、中西部から南部のバイブルベルトの真ん中では礼拝に参加する住民の割合はかなり低いと書いています。
教会が中心だが、保守的プロテスタントで教会に定期的に通っている人は少ない。
教会に定期的に通っている人は、まったく教会に行かない人と比べると、犯罪者になる可能性が低く、より健康で長生きし、稼ぎも多い。
高校中退者も少なく、大学を卒業する人が多い。
人生がうまくいっている人が、たまたま教会に通っているのではなく、教会がよい習慣をつくるのに寄与している。

ヴァンスは実父の影響で福音派の信者と親しくなります。
福音派の教会ではお互いが支え合うコミュニティがある。
しかし、福音派は聖書の解釈が違う人はクリスチャンとして認めない。

ちなみに、ヴァンスは後にカトリックに改宗しています。
それにしてもヴァンスは、トランプが白人貧困層のこうした状況を変える方策を持っていると、本気で考えているのかと疑問に思いました。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(6)

2023年07月03日 | 

ラッセル・オノレ中将はハリケーン・カトリーナに襲われたニューオリンズで州兵を率いて救援活動にあたり、市民の救出に力を尽くした。
ここ数年は小規模の環境保護団体を統轄する組織のリーダーを務めている。
A・R・ホックッシールドはオノレ中将へインタビューをしています。

オノレ「石油会社は、汚染を招いたのだから後始末をするべきです。彼らは何もしていません」
ホックッシールド「なぜ住民たちは政治家に環境を浄化するよう求めないのですか」
オノレ「ルイジアナの人たちが耳にするのは、仕事の話ばかりです。それがすべてだと思ってしまうのには、それなりの理由があるんです。なんらかの心理操作に取り込まれているからですよ」


2010年、ルイジアナ沖でBP社の海底油田掘削施設が爆発し、87日間もメキシコ湾に原油が噴き出した。
オバマ大統領は安全対策が決まるまで深海掘削を6か月間停止することを命じた。

当然の措置だと思いますが、数か月後のアンケート調査ではこんな結果でした。
「新たな安全基準を満たすまで、海洋掘削を停止するという措置に賛成ですか、反対ですか」
半数が反対、賛成する人は3分の1。
「今回の原油流出事故をきっかけに、地球温暖化や野生生物保護など、ほかお環境問題に対する考え方が変わりましたか」
7割の人が「いいえ」と答えた。

ホックッシールドが聞いた人たちの声。

ある女性「会社は流出や事故を起こしても、なんの得にもならないでしょう。彼らは一所懸命にやってるのよ。だから原油を流出させてしまったら、会社としてはもう、あれ以上のことはできないの」
ある男性「過剰規制が流出事故を引き起こしたんだ。政府が監視なんかしていなければ、BP社はちゃんと自主的に規制をかけていたはずだ。流出事故なんか起きなかっただろうよ」

ある女性は一言で締めくくった。

事故が起きたことは悲しいけど、掘削停止措置には腹が立つんです。


なぜ公害企業を擁護するのかと思いますが、考えてみると日本でも、チッソに抗議する人たちを白眼視していました。
福島第一原発処理水の海洋放出に反対する人たちに非難する声もあります。

連邦政府の「過剰な規制」にはがまんならないが、規制全般を憎むわけではない。
白人男性の好むもの(酒、銃、オートバイのヘルメット)については規制がかなりゆるい。
しかし、女性(人工妊娠中絶)や黒人男性に対する規制はもっと厳しい。

ホックッシールド「企業が事故を起こしたくないと思っているのなら、なぜ政府が必要なのですか」
オノレ「規制がゆるやかな産業ほど事故が多く、規制が厳しい産業ほど事故が少ないからですよ。規制には効力があるのです」

そして、オノレはこう言います。

心理操作によって、みんなが自由ではないのに自由だと思わされている一面があると思います。会社は自由に汚染を引き起こすことができるかもしれませんが、それはつまり、人々が自由に泳げなくなることを意味するのです。


心理操作には、仕事か、きれいな水や大気か、どちらかひとつを選ぶ苦渋の道しかないと思わせる効果があった。
石油は雇用を生み出す。
雇用は収入につながる。
収入はよりよい生活をもたらしてくれるのだ。
石油=仕事

チッソがつぶれたらどうする、被害者への補償金も払えないなどと、二者択一の問題ではないのに、そう思い込まされていました。
自由ではないのに、自由だと思わされているのは日本も同じ、
日本は世界報道自由度ランキングでは68位と、G7で最下位です。
忘れるということも心理操作の一つだと思います。
人々は環境汚染について人々は話さず、そうした問題を直視せず、忘れてしまう。

日本人も忘れます。
森友加計桜統一教会などの問題や、それらについての首相の国会での虚偽答弁がいくら騒がれても、いつも結局はうやむやに終わってしまいます。
住民にとって望ましくない土地利用にあまり抵抗を示さない住民特性の一つ、「社会問題に関心がなく、直接行動に訴える文化を持たない」は日本のことでしょう。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(5)

2023年06月28日 | 

A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』に、トランプ登場までの舞台装置は3つの要素が重なったとあります。

ホックッシールドが話を聞いたほぼ全員がこのように語った。
①1980年以来、経済基盤が不安定になっているのを感じ、再分配という考え方が出てくるのを覚悟していた。

ティーパーティーの支持者は税金への嫌悪感を持っている。
連邦政府は自分たちから取り上げ、貧しい者に再分配する。
高すぎる税金は生活保護受給者、楽な仕事をしている公務員に無駄に使われていると不満に思っている。
貧困層(移民、難民、働こうとしない怠け者)のために税金を使われたくない。
オバマケアは社会主義だとして反対し、保険料が増えたと抗議する。

マイク・シャフはこのように連邦政府への怒りを述べます。

大きな政府には反対だ。この国の政府は大きすぎるし、強欲すぎて、無能すぎる。まるで既製品みたいで、もう自分たちのものだとは思えない。われわれは昔のアーメリーズ農園みたいな地域のコミュニティに戻るべきなんだ。


左派の怒りの発火点は、社会階層の上部(最富裕層)にあるが、右派の場合は中間層と貧困層の間にある。
リベラルはこうしたことをわかっていない。

②文化的に疎外されていることも感じていた。
自分は仕事や生き方に誇りを持つ善良な人間であり、家族を愛し、真面目に働き、国に忠誠を誓っている。
ところが、人工妊娠中絶や同性結婚、ジェンダーの役割、人種、銃、南部連合の旗をめぐる自分たちの考え方が、どれもこれも全国メディアで時代遅れと嘲笑された。

マドンナ・マッシー「リベラル派はこう思っているのよ。聖書を信じている南部人は無知で時代遅れで、教養のない貧しい白人ばかりだ、みんな負け犬だって。わたしたちのことを、人種や性や性的指向で人を差別するような人間だと思ってるのよ。それからたぶん、でぶばかりだってね」

名誉を失ったと感じた彼らは名誉の回復を願っている。

③集団としての規模が小さくなってきたような気もしていた。
白人は自分たちが包囲された少数派のように不安を感じるようになった。

横田増生『トランプ信者潜入一年』によると、白人が少なくなりつつあります。
2018年で、アメリカの全人口に占める白人の割合は60.5%、ヒスパニック系18.3%、黒人12.5%。
2045年には全人口に占める白人の割合が49.7%、ヒスパニック系24.6%、黒人13.1%となり、その後も白人の割合は減り続けると予測されている。

マドンナ・マッシー「私たちのような白人のキリスト教徒がどんどん減ってきているのよ」

白人のキリスト教徒が減って少数派になった。
多数派の地位を失えば、白人文化や伝統が崩れかねないという恐怖感がある。

共和党は白人中心の党。
トランプが2016年の大統領選挙で得た票のうち、88%までが白人票で占められている。
ヒスパニック系は6%、アジア系が含まれるその他は4%、黒人票は10%に満たない。
トランプの支援者集会でも聴衆はほぼ白人。
白人文化の守護神としてトランプが白人の支持を集めている。

労働者階級の白人が不安に思う気持ちはわかります。
移民が仕事を奪っている。
長年働いてきたのに突然解雇されることもある。
移民が仕事を奪い、英語を話す人が減っている。
自分たちの生活を守りたいだけだ。

でも、なぜトランプなんでしょうか。
貧困層のことなど考えていないのに。
ましてQアノンを信じるなんて、私には理解できません。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(4)

2023年06月23日 | 

A・R・ホックッシールドが『壁の向こうの住人たち』で明らかにしたかったのは、ティーパーティーの支持者には中小企業の経営者や従業員が多いのに、金持ちや大企業を優遇する共和党を支持し、政府の貧困者支援に反対するのはなぜかということです。

ティーパーティーの支持者は3つのルートを通じて連邦政府ぎらいになる。
①信仰
彼らは政府が境界を縮小したと感じている。
②税金への嫌悪感
あまりに高すぎ、累進的すぎると思っている。
税金がまちがった人、とりわけ昼間はのらくらしていて、夜はパーティー三昧の生活保護受給者と、楽な仕事をしている公務員に流れている。
③名誉を失ったショック

キリスト教の信仰について。
ハロルドとアネットのアレノ夫妻が住む地域では、工場の廃液に汚染された川の魚は死に、川の水を飲んだ家畜が大量死し、人間も次々とガンになって死んだ。
ハロルドの兄弟10人とその夫や妻は全員ガンになった。

インタビューの時点でも川の水はひどいにおいがしている。

アネット「わたしたちは企業に反対しているわけではないのよ。工場が次々にできたときにはうれしかったわ。働き口が増えたんだもの。でもこの何十年かのあいだに、企業はバイユー(川)を浄化する対策をいっさいしてこなかったし、わたしたちが引っ越せるような補償もしてくれなかった」


アレノ夫妻も共和党支持者で、2012年の大統領選ではミット・ロムニーに投票した。

ハロルド「むろん、彼は実業界の大物だよ。環境浄化なんかしないさ。
共和党は大企業の味方なんだ。この土地で起きている問題を解決して、わたしたちを助けてやろうなんて気持ちはみじんもない」

ロムニーは汚れた川をきれいにするよう国に働きかけてはくれないだろうが、人工妊娠中絶の権利に反対しており、そちらのほうが重要な問題だと考える。

ハロルド「もし魂の救いが得られれば、天国へ行ける。天国は永遠だ。そこへ行けばもう、環境のことを悩まなくなる。それがいちばんたいせつなことだ」


共和党員は神と家族を大切に考える。

アネット「わたしたちはそこが気に入っているのよ」
ハロルド「わたしたちは、聖書をちゃんと尊重する候補者に投票するんだ。わたしたちは、清く正しく生きる人間になろうとしている。だから指導者にもそういう生き方をしてほしい」

つまり優先順位があって、環境保護よりも仕事、さらには信仰が優先されるわけです。

横田増生『トランプ信者潜入一年』でも、トランプの支援者集会でクリス・ケセラーは「クリスチャンだから、中絶反対は大切な政策だ」と言っています。
選挙の投票において、人工中絶に賛成か反対かが大きな決め手になるわけです。

ホックッシールドは娘が14歳で妊娠した女性に話を聞いています。

赤ちゃんを育てて「正しいおこないをした」ことは誇りに思い、この気持ちはリベラル派にはわからないだろうと思う。


中絶に反対するのは、カトリックとキリスト教福音派ですが、カトリックの約半数は中絶に反対していないそうです。
https://president.jp/articles/-/60854?page=2

ティーパーティー支持者はキリスト教福音派が多い。
有権者の26%を占める白人福音派のうち、2016年の大統領選挙では、その8割以上がトランプに投票している。

福音派の信者でも、白人と黒人とでは考えに違いがあるようです。
ミシガン共和党のボランティアをしている横田増生さんをトランプ支持者と思った民主党支持者の黒人男性ダリル(40歳)はこんなことを言っています。

「なぜ多くの白人はトランプに投票するのかな」
―宗教的な支援があると思うが・・・。
「白人福音派のことを言っているんだね。けれど、教会に通う黒人だってたくさんいるだろう。僕もその1人だ」


バイデンが大統領就任演説をした日、ワシントンDCでキリスト教福音派中絶反対のデモをしていた。
福音派のリーダーと言い合いをしていた黒人女性のサラナ・リード(39歳)。

私自身もキリスト教徒よ。宗派は南部パブテスト派。けれどこの人達が唱えているのは、聖書の教えなんかじゃないわ。白人至上主義者の教義なのよ。キリスト教徒の本質って、他人に優しくすることや、苦しいときに分け与えることでしょう。


ホックッシールドによると、教会、特に福音派の教会は環境の汚染防止について関わっていないし、牧師もそのことには触れない。
また、多くの人は、環境汚染、公害、貧困、教育水準の低さなどを変えるのは教会の役目ではないと考えている。
信仰と環境保全は矛盾しないと思うのですが。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(3)

2023年06月15日 | 

A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』に、1984年に作成された、企業が自社工場の建設を歓迎しない近隣住民にどう対応するかという、コンサルタント会社の報告書が引用されています。

カリフォルニア州廃棄物管理評議会がコンサルタント会社に「住民にとって望ましくない土地利用にあまり抵抗を示さない地域を見つけ出すよう依頼した。
最良策は、すでに抵抗を感じている住民の気持ちを変えようとすることではない、抵抗しそうにない住民を見つけ出すことだと指摘している。

抵抗する可能性が最も低い住民特性
・南部か中西部の小さな町に古くから暮らしている。
・学歴は高卒まで。
・カトリック。
・社会問題に関心がなく、直接行動に訴える文化を持たない。
・採鉱、農耕、牧畜に従事。
・共和党を支持。
・自由市場を擁護。

環境を汚染する企業への規制に反対するのはなぜでしょうか。
企業の戦略、州民の連邦政府に対する不満ということもありますが、ポイントはカトリック(キリスト教福音派では?)と共和党支持(自由市場)だと思います。

小さな政府とは何か、なぜ小さな政府を望むのか、横田増生『トランプ信者潜入一年』の説明がわかりやすかったです。
『トランプ信者潜入一年』は、2020年大統領選挙でトランプ支援集会に参加し、共和党選挙事務所でボランティアをして、トランプ支持者の生の声を聞いた本です。

民主党を支持する理由は、大きな政府が貧富の格差を縮めるべきだという考えがある。
共和党を支持する最大の理由は、小さな政府がある。

小さな政府を掲げる共和党の伝統的手法は、規制を緩和して税率を引き下げることだ。
政府はできるだけ経済に関与せず、税金による富の再配分にも重きを置かず、市場の自由競争に任せる。
共和党支持者の多くは、移民の流入や妊娠中絶に反対し、銃規制の緩和を求める。

2020年は新型コロナウイルス感染症が拡大した一年でもありました。
ミシガン州が新型コロナウイルスの感染防止のために自宅待機命令を出しているにもかかわらず、カール・マンキーは理髪店の営業を再開した。

アメリカ人の精神の核として、強烈な独立心があるんだ。誰にも頼らずに生きてきた開拓者精神が今もアメリカ人には残っている。

カール・マンキーの意見は理解できます。
しかし、トランプ支持者のこんな発言はどうでしょうか。

2020年1月9日、オハイオ州での集会に行く。
徹夜をしてでもトランプ支援集会に参加して、トランプを見たいという熱狂的な鉄板支持者が大勢いる。
トランプの話術は聴衆の心をつかみ、飽きさせることがない。

オータム・レンズ(39歳)に話を聞く。

18歳から約20年間、私はずっと福祉のお世話になってきたの。去年の春、工場の仕事を見つけるまではね。10月からは、ここから歩いて数分のスターバックスで働いているの。どっちが好きかって? そりゃ、スターバックスよ。だって、私はコーヒーが大好きだし、そのコーヒーのお店で働くんだから。これもトランプ大統領のおかげで景気が上向いたからだ、と感謝しているわ。

福祉に頼るほど困窮している人は、社会的弱者の味方の旗を鮮明に掲げてきた民主党を支持する傾向が強い。
福祉のお世話になったオータム・レンズはなぜ共和党支持なのだろう。

最近、再婚するまで、私1人で子ども5人を育てる間、どうしても福祉に頼る必要があったわ。でも、自分の生活費は自分で稼ぎたいじゃない。それがアメリカって国でしょう。自分のことは自分で面倒みるっていうことが。

誰かに頼るということは、アメリカでは弱さや甘えとして見下されがちである。
しかし、自分や子供たちが福祉によって生活してきたなら、社会的弱者の視点から誰に投票するか決めたらいいと思うのですが。

デービッド・カーペンター(53歳)は平日はエネルギー関連会社で働き、日曜日はキリスト教福音派の教会で牧師を務めている。

僕はオバマが掲げた保険制度には反対だった。保険は一人ひとりが自由に選ぶべきだと思っている。トランプはそれを元に戻そうとしているだろう。僕自身、去年1月に前立腺ガンの手術を受けたけれど、会社の保険があったので7000ドルの支払いだけで済んだ。保険がなければ、40万ドルかかっただろうね。

アメリカでは病気にかかったために毎年何万人もが破産する。
アメリカの保険制度には改革が必要だという証左と、日本人からすると考える。
しかし、カーペンターは違います。

どういった健康保険に入るのかは、個人的な問題だ。それを政府のお仕着せで、みんなが同じ制度に入ることには強く反対するよ。


これも驚きです。
保険に入ることができない貧困層はどうすべきだと考えているのでしょうか。
もっとも、アメリカでは民主党支持者も含め、国民皆保険に否定的な意見をもつ人は少なくないそうです。

ウィスコンシン州の集会でクリス・ケセラー(34歳)の話を聞く。

「オバマ政権では、高すぎる税金と、多くの規制やオバマケアなど、そのすべてが社会主義的な政策だった」
―高い税率と経済成長は両立するのでは。
「僕は小さな政府を支持する自由至上主義者(リバタリアン)だから、アメリカがスウェーデンのようになるのには同意できない。自分たちの決定権は、自分たちの手にあったほうがいいと考えるからだ。政府の意向が大きくなるということは、それだけ国民の権利が小さくなることを意味する。僕は、国民の権利が最大になり、政府の介入は最小限に抑えるべきだと思っているんだ」


新型コロナのワクチン接種やマスクに反対する人がアメリカでは少なくありません。

トランプの支援者のうちマスクをしている人はほとんどなく、社会的距離に注意を払っている様子もなかった。


新型コロナウイルス感染症を軽く考えているんでしょうし、感染の危険よりも個人の自由な選択のほうが大切だと考えているのかもしれません。
これは環境保護のための企業への規制に反対するのと同じです。
環境汚染をあまり気にしないことと共通するように思います。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(2)

2023年06月04日 | 

A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』を読んで、ルイジアナ州はアメリカの開発途上国ではないかと思いました。

共和党支持者の多い州(赤い州)では、民主党支持者の強い青い州に比べて平均寿命が5年も短い。
赤い州は低所得者や十代の母親の数が多く、離婚、肥満、トラウマ関連死、低体重児の出生数も多いうえ、就学率が低い。

ルイジアナ州はアメリカで2番目に貧しい州で、1979年に貧困ラインに満たない所得で暮らしている人の割合は19%、2014年でも18%と変わらない。
1990年から2008年にかけて、高校を出ていない年配の白人男性の平均寿命が3年短くなっている。
2015年の報告によると、ルイジアナ州は8年生の読解力が50州のうちの48位、8年生の算数は49位だった。
高校を卒業した州民は8割。
大学院の学位か専門職の学位を取得した人は7%。
児童福祉の充実度は49位で、これは人種とは関係ない。
銃の規制がゆるく、銃撃による死亡率がアメリカで最も高く、全国平均の2倍。
アメリカは人口に占める収監者の比率が世界で2番目に高いが、ルイジアナ州は州人口に占める収監者の割合が最も高く、しかも圧倒的に黒人受刑者が多い。

仕事を増やすために、州は石油会社などの誘致に努め、税制で優遇するなどしている。
ボビー・ジンダル州知事は企業を誘致して雇用を増やそうとし、法人税を削減し、産業界に16億ドルを与え、企業に10年間の免税をした。
ところが、石油産業がルイジアナ州にもたらす財政面の利益は減少した。

法人税を引き下げたため、2008年の税収7億300万ドルが2012年には2億9000万ドルに落ち込んだ。
石油に関わる鉱産税が州の歳入に占める割合は1982年に42%、いまは14%に減っている。
新規の企業は最初の十年間は非課税とされているので、社名を替えればさらに十年間の免税措置を受けられる。
しかも、企業の利益は海外や州外の本社に出ていく。

16億ドルの州予算を削減し、州立病院の民営化、公共セクターの職員3万人(看護師、看護助手、医療技術者、公立学校教師など)の解雇などをした。
高等教育の予算は8億ドル、44%も削減したので、公立大学に給付されていた助成金は大幅に減らされ、多くの授業科目や教育プログラムが廃止された。

石油関連の雇用は州全体の10%以下で、3.3%という推計値もある。
というのも、低い賃金で働く外国人労働者に雇用が奪われるから。
そして、自動化オートメーション化が進んでいるから、少人数のエンジニアと化学者、オペレーターがいればいい。

労働者の90%は平均賃金が1980年以降、横ばいのまま。
高卒の男性の実質賃金は、1970年に比べて40%減少している。

しかも、環境が悪化した。
青い州よりも赤い州のほうが高レベルの公害に苦しんでいる。

2012年、ルイジアナ州は、水、空気、土の中に、州民ひとりあたりおよそ14kgの有毒物質を排出した(アメリカ全体では約5kg)。
2013年、州別有毒物質の排出量ではルイジアナ州は6位、他州からの有害廃棄物引き受け量では3位にランキングされている。

海底油田での原油流出、化学工場での有害物質漏出、工場の爆発、掘削事故による陥没、大気汚染などが起きている。
工場廃液によって河川が汚れたために魚が食べられない地域がある。
水俣病のようなことが起きているわけです。

環境を浄化するつもりはないジンダル州知事は公害防止に使うべき予算を削減した。
デイヴィッド・ヴィッター上院議員は環境保護庁廃止案に賛成票を投じ、海と五大湖の生態系を守ることを目的とした国立海洋保全基金の設立に反対した。
開発途上国に多国籍企業が工場を作って環境破壊しているのと同じことが、アメリカでも貧困州で行われているようです。

ところが、全国的に見て、有害廃棄物にさらされるリスクの高い人ほど、それを心配していない、
1992年から2008年までにおこなわれた5回の大統領選挙で、共和党候補が勝利した22の州では、一般に、政府は経済活動に対する規制を緩和すべきだと考えられている。

深刻な公害に苦しむ人々が公害を撒き散らす企業を規制することに反対し、企業の自由な経済活動を擁護する共和党を支持している。
2010年のデータでは、有害物質による汚染が深刻な郡に暮らす人ほど、アメリカ人は環境汚染を心配しすぎていると考え、国は十分すぎるほどの対策をとっていると信じる傾向が顕著だった。

気まぐれな気象に最も翻弄されているルイジアナ州民が、声高に気候変動の影響を否定する。
税金が企業誘致に使われても文句を言わず、雇用創出と税収増のためと受け入れる。
貧しい州ほど規制がゆるやかな傾向にあり、住民がより汚染の進んだ環境で生活している。

しかし、厳しい規制を設けて環境保護に取り組んでいる州ほど多くの就職口がある。
世界の経済大国を対象にした2016年の調査でも、厳しい環境政策は、国際市場における競争力を損なうどころか、むしろ強めることがわかっている。

管理市場(政府の規制)と非管理市場(規制の撤廃を求める)のどちらかを選択するかという問題ではなく、独占企業に有利な法律に規制された市場と、中小企業に有利な法律に規制された市場のどちらを選ぶかという問題である。

環境問題は自分の健康に関わることなのに、どうして政府や企業に抗議しないのかと不思議です。


A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』(1)

2023年05月26日 | 

アメリカでは、金持ちを優遇し、医療保険制度改革に反対する共和党を南部や中西部の中流層、貧困層が支持しています。
日本でも右傾化した若者は自民党支持が多いそうです。

どうしてかと思ってましたが、A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』を読んで少しわかったような気になりました。
A・R・ホックッシールドはカリフォルニア大学バークレー校の名誉教授で、おそらく70代です。

右派の人々は裕福な人々に共感する傾向があり、左派は貧しい労働者に心を寄せる傾向がある。

左派の人々の多くは、右派の共和党とFOXニュースが連邦政府の介入を大幅に排除しようともくろんでいると考えていた。貧困層支援の打ち切りを画策し、権力と富を握る所得上位1パーセント層の力と財産を増やそうとしていると感じていたのだ。一方、右派の人々の多くは、政府自体が権力と富を蓄積したエリート集団であるとみていた。そして、彼らが支配を強めるためにまやかしの大義名分をでっちあげ、安易に金をばらまいて忠実な民主党支持者の票を集めようとしていると感じていた。


右派と左派の分断はかなりのものだそうです。

1960年にアメリカの成人を対象におこなわれた調査では、子供が対立政党のメンバーと結婚したら〝不快感〟をおぼえますかという質問があり、どちらの支持者でも、イエスと答えた人の比率はわずか5パーセントだった。しかし2010年には、この割合が民主党支持者で33パーセント、共和党支持者で40パーセントに増えていた。
いまでは人種より、〝愛党心〟と呼ばれるもののほうが、対立につながる偏見を生みやすくなっている。
以前のアメリカ人は、よりよい仕事や、より安い住宅、より穏やかな気候を求めて引っ越しをしたものだ。しかし、いまはおなじ考えをもつ人のそばで暮らしたくて引っ越すケースが増えているらしい。人々は、感情を共有する小集団に分かれようとしている。


右派は大きな政府に反対します。

右派の多くの人々が、勤労者の家庭を政府が支援するという考え方そのものに反対しているのだ。それどころか彼らは、軍事以外の面では、政府の関与自体をあまり望んでいない。環境保護の強化、地球温暖化の回避、ホームレスの解消といった理想も同じく、固く閉ざされた扉に実現を阻まれている。


ティーパーティーの支持者には、中小企業の経営者や従業員が多いが、小規模事業は、大手独占企業の成長による痛手を受けやすい。
ところが彼らが支持する政治家は、隙あらば中小企業をのみこもうとつけ狙う大企業に肩入れし、独占的な力を強化する法案を後押ししている。
2008年、リーマンショックで多くの人が貯金や家、仕事を失ったのに、右派の多くが自由市場を支持し、政府の過剰規制に反対する。
企業の不正行為や身勝手な破壊行為の犠牲になった人が、なぜ政府の貧困者支援に反対するのだろう。

疑問に思ったホックッシールドは、2011年から2016年まで5年をかけて、ルイジアナ州レイクチャールズ市近辺で、ティーパーティーの中核メンバー40名(40歳以上の保守派中間層、労働者層の白人男女)にインタビューし、行動をともにします。
さまざまな職業(教師、ソーシャルワーカー、弁護士、政府高官)20名にも話を聞きました。

レイクチャールズは人口7万4千人。
大卒の住民は23%、世帯年収の中間値は3万6千ドル。
週3回教会に行く人もいれば、まったく行かない人もいる。
スーパーマーケットではオーガニック食品はまず手に入らない。
映画館では外国映画を上映していない。
小型車をほとんど見かけない。
屋根の上の太陽光パネルはない。
カフェのメニューにあるものは油で揚げてある。
主菜がグルテンフリーかどうか誰も尋ねない。
食事は祈りから始まる。
彼らの情報源は、自分たちの気持ちを代弁してくれるFOXニュースのほか、右派の友人達と交換するビデオやブログに限られている。

ティーパーティーは政治集団ではなく、ひとつの文化なのだ。
ティーパーティーに積極的に活動しているメンバーはおよそ35万人だが、アメリカ人の約20%にあたる4500万人がこの運動を支持している。
人間の活動がなんらかの形で気候変動に影響していると考える人の割合は、民主党員では90%だが、共和党穏健派では59%、共和党保守派では38%、ティーパーティーの主導者は29%である。

このような隔たりが広がったのは、右派がさらに右へ移動したということがある。
現代の基準からすると、過去の保守派は穏健派かリベラル派のように見える。

アイゼンハワー政権の時代には、高所得者に91%の税率が適用された。
アイゼンハワーはインフラストラクチャーへの多額の資金投入を求めたが、いまは共和党下院議員のほぼ全員が、政府がそこまでするのは過剰介入だと考える。
極右勢力は、教育省、エネルギー省、商務省、内務省などの縮小を求めている。
1970年には、大気浄化法に反対する上院議員は皆無だったが、2011年には共和党上院議員は環境保護庁の廃止を要求した。

ティーパーティー支持者は小さな政府を望んでいる。
しかし、ルイジアナ州は予算の44%を連邦政府が負担している。
このことにはなぜか気にかけない。

日本でも右派はさらに右寄りとなり、今や極右と言ってもいいくらいです。
しかし、文化かというと、それは違うように思いますが、どうなんでしょう。


人口と寿命

2023年05月09日 | 

人口増加の要因の一つが寿命が延びたことです。

保立道久『中世の女の一生』に、父母によって売買された子供の年齢は、文書に残された事例ではほぼ7歳から15歳となっているとあります。
乳幼児の死亡率が高いため、子供が7歳になるまでは名前をつけなかったそうです。

七歳以前は、葬式も仏事もしない。普通は、袋に入れて、山野に捨てる。(「仲資王記」1207年)
七歳以下は海川に捨て、七歳以上は下人に売る。(「異本塔寺長帳」1402年)

飢饉になれば、痩せ細った子どもたちは山野に放棄された
鎌倉時代の平均寿命の推定値は24歳。

鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』によると、江戸時代は女より男の平均寿命が長かった。
妊産婦の死亡が多いから。
江戸時代初期の女性の平均死亡年齢は20代後半、男性は30代半ばで、この数字には2歳以下は入ってない。

農村のほうが都市よりも寿命が長かった。
江戸など大都市は人口密度が高く、栄養不足で伝染病が蔓延したので、農村より死亡率が高かった。

平均寿命は江戸時代中期では40歳くらい。
19世紀中ごろまで、40歳以上生きた人はまれ。
明治時代・大正時代は、男性の平均寿命は43才前後。

乳幼児の死亡率が高かった。
6歳に達するのが10人のうち7人以下。16歳まで生きるのは5~6人だった。
1702年の5歳までの乳幼児死亡率は50%以上。
江戸時代後半、出産のうち10~15%が死産。20%が1歳未満で死亡。
明治初期もほぼ同じ。
乳幼児死亡率が高かったため、0歳より5~6歳のほうが平均余命が長い。

奉公人は結婚できないし、低賃金の労働者は晩婚なので、結婚する年齢に達するまでに半分が死んだ。
そのため、都会では出生率は低かった。
だから、江戸時代は人口があまり増えていない。

キム・トッド『マリア・シビラ・メーリアン』に、17世紀のドイツでは、女は40歳までに10~12回妊娠するのが普通だったとあります。
多産多死はヨーロッパでも同じだったようです。

阪本順治『せかいのおきく』は安政5年から文久元年の話ですから、コレラが大流行した時です。
安政5年(1858)、コレラで23万~26万人(江戸の人口は約100万人)が死亡した。(死者数を3~4万人、10万人とするサイトもあります)
町ごとに50、60人から百余人の死者が出て、火葬しきれない棺が山積みになった。
https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/tenkataihen/epidemic/contents/50/index.html
ちなみに、スペイン風邪の死亡者は日本で74万人、内地では45.3万人。

大雨が降れば便所から糞便があふれるのですから、コレラが流行するのもわかります。
汚穢屋(おわいや)は江戸市中の家の糞尿を買い取り(映画では50文)、農家に売るのが仕事です。
農家の肥溜めに糞尿を入れる際、こぼした糞尿を手で肥溜めに入れる場面がありました。

山際素男さんは、1960年ごろにインドの大学に留学していた時の体験を『不可触民と現代インド』に書いています。
友人の家に遊びに行った時、人糞が山盛りになっている大きな壺を頭に載せた女性を見かけた。
壺を両手で支えて外に出て行き、道の脇に止めてある大きな箱車の荷台の屋根の一部を開き、その中にどさっと中身をぶちまけた。
そして、再び壺を頭に載せ、トイレに戻した。
バンギーというクラスの人びとは、街角で汚物、ゴミの清掃をさせられているので、疫病にまっ先にやられる。

芥川龍之介『尼提』は、便器の中の糞尿を始末する除糞人と釈尊の話です。
「糞尿を大きい瓦器の中に集め、そのまた瓦器を背に負った」と芥川龍之介は書いています。
『賢愚経』がタネ本だそうです。
「尼提 持一瓦器 盛滿不淨 欲往棄之」とあるので、背負ったかどうかはわかりません。
いずれにせよ、糞尿の処理の仕方が2500年前とあまり変わっていないわけです。

現在のインドでもアウトカーストの人が糞尿の処理をしているそうです。
「素手で排せつ物を処理するインド「最下層カースト」の悲哀」
https://courrier.jp/news/archives/187951/
3日に1人が死亡しているとあります。


人口と食料

2023年05月01日 | 

人類はどのように人口が増えていったのでしょうか。
C・W・マリーン「祖先はアフリカ南端で生き延びた」(「日経サイエンス」2010年11月号)にこうあります。

約19万5000年前から約12万3000年前まで、地球は長い氷期が続いた。
この時期の気候は寒冷で乾燥しており、アフリカ大陸のほとんどは住むのに適さない土地になった。
この氷期の間に人口は急激に減少し、子どもを作ることができる年齢の人は、1万人以上からほんの数百人になった。
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1011/201011_040.html
6~7万年前、ユーラシア大陸に渡った群れの人口は数百から数千だった。

宮路秀作『経済は地理から学べ! 』によると、人口増と食料の供給は大きな関係があります。
ある地域における収容可能な人口数のことを可容人口という。
可容人口は、就業機会と食料供給量で決まる。
食料を自然界から獲得していたため、食料が安定して手に入らず、人口はさほど増えなかった。

ところが、1万年前の最終氷期の終了によって温暖化し、メソポタミアを中心とした西アジアで小麦の栽培が始まると、人口が急増した。
人口500万人だったのが、紀元0年には2億5千万人になった。

加藤徹『西太后』でも人口と食料の関係について書かれています。
中国では、一つの王朝の寿命はせいぜい2百数十年である。
ある王朝の建国当初は人口が少なく、農民1人あたりの農地面積も広いが、平和が続いて人口が急増すると1人あたりの可耕地面積も激減し、最低限の食糧の自給も不可能になる。国民は困窮し、国力は低下し、内乱や外国の侵攻によって社会は混乱する。
飢饉や戦争で人口は減少し、最後に王朝が倒れ、新しい王朝が始まる。その繰り返しだった。

康煕帝のころの人口は1億人。
その後の150年間で4倍に急増し、西太后が生まれる1835年の直前に4億人になった。
当時、人類の3人に1人は清朝人だった。
人口爆発の結果、1人あたりの農地面積は激減し、社会は困窮化し、官僚機構だけが肥大し、清朝の国力は衰えた。

鬼頭宏「「歴史人口学」からみる 食と人口の関係」によると、食料と人口の関係は日本でも同じです。

人口は農業技術の発達などにより増えるが、その一方で、人口増加による食料不足、社会の困窮、気象条件、干ばつ、飢饉、疫病などで減ることもあり、増減をくり返しながら、次第に増えていった。

食料生産の増加により、弥生時代の59万人から、奈良時代~鎌倉時代にかけて10倍以上の600万人から700万人くらいに増加する。
鎌倉時代から江戸時代に入る頃までの人口動向は資料がなくわからないが、15世紀の人口は1000万人と推定されている。

戦国期に1200万人になり、江戸中期に人口を3000万人に増える。
18世紀の人口は停滞期となり、最も多かった時に3200万~3300万人だった人口が、18世紀末には3000万人を切った。

18世紀の人口減退からの回復は18世紀末から始まって、19世紀に入るとほぼ順調に進む。
凶作や疫病がない状態が続いて出生率も高まり、農村の産業発展によって生活に余裕が生まれ、その需要増加が経済成長を促した。
明治維新以降は人口が急上昇し、1872年に人口は3481万人、1900年には4385万人になる。
https://www.yakult.co.jp/healthist/243/img/pdf/p02_07.pdf

国立社会保障・人口問題研究所HPに、世界と日本の人口の推移と推計があります。
世界の人口です。

紀元前7000~6000年 500万~1000万人
西暦0年 2~4億人
1650年 4億7000万~5億4500人
1800年 8億1300万~11億2500万人
1900年 15億5000万~17億6200万人 
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2022.asp?fname=T01-09.htm

世界の人口は80億人弱。
地球全体での食料の最大供給量はどれくらいなのでしょうか。
いささか心配になってきます。