A・R・ホックッシールド『壁の向こうの住人たち』やJ・Dヴァンス『ヒルビリー・エレジー』を読み、日本の労働者階級、貧困層はどうなのかと思いました。
『近代子ども史年表 昭和・平成編』に、1950年の国立世論調査所によれば、世の中は身売りを必ずしも否定していないことがうかがわれる、とあります。
「親が前借して子どもを年季奉公に出す」ことに
「構わない」9%
「家が困ったり、親の借金を返すためなら仕方がない」20%
「子どもが進んで行く場合や子どもの幸せになるなら構わない」51%
http://ns.crc-japan.net/contents/guidance/pdf_data/h15research.pdf
条件付きも含めて、なんと8割が児童労働を肯定しているのです。
それから70年が経ち、日本の貧困はどう変わったのでしょうか。
橋本健二『新・日本の階級社会』の冒頭に、現代の日本社会は、もはや「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきものではく、明らかに「階級社会」だと書かれています。
格差が大きいと貧困層が増加する。
橋本健二さんは非正規労働者をアンダークラスに位置づけます。
ジョン・ケネス・ガルブレイスはアンダークラスを、誰からも嫌がられるつらい仕事を低賃金で引き受け、都市の快適な生活を支えていると指摘する。
貧困層は健康を害しやすく、十分な医療を受けられないことがある。
格差について日本人はどう考えているでしょうか。
2015年の調査
「今後、日本で格差が広がってもかまわない」
そう思う 1.8%
どちらかといえばそう思う 4.1%
どちらともいえない 21.5%
どちらかといえばそう思わない 29.9%
そう思わない 42.6%
格差拡大を肯定する人、容認する人は自民党支持者が多く、ティーパーティーの支持者の考えと重なるように思います。
2016年の首都圏調査
格差に対する意識についての設問。
①「日本では以前と比べ、貧困層が増えている」
とてもそう思う 16.7%
ややそう思う 43.1%
あまりそう思わない 20.0%
まったくそう思わない 1.2%
わからない 10.0%
②「いまの日本では収入の格差が大きすぎる」
とてもそう思う 23.5%
ややそう思う 52.5%
あまりそう思わない 18.1%
まったくそう思わない 1.2%
わからない 4.7%
③「貧困になったのは努力しなかったから」
とてもそう思う 5.0%
ややそう思う 30.4%
あまりそう思わない 42.3%
まったくそう思わない 13.7%
わからない 8.6%
④「努力しさえすれば、誰でも豊かになることができる」
とてもそう思う 4.4%
ややそう思う 33.0%
あまりそう思わない 48.4%
まったくそう思わない 9.4%
わからない 4.8%
③と④の設問は自己責任論についてです。
自己責任論は、豊かさと貧困は自己責任によって生じるのであり、格差は問題視するに値しないという価値判断を含んでいる。
格差を肯定し、格差が生じるのは自己責任だと考える人が少なくありません。
2015年の調査
「チャンスが平等に与えられるなら、競争で貧富の差がついてもしかたない」
肯定的な人は52.9%、否定的な人は17.2%。
男性では60.8%が肯定的。
貧困層でも肯定的な回答が44.1%と多く、否定する回答は21.6%に過ぎない。
排外主義、軍備重視を支持する人々は、格差拡大の事実を認めず、所得再分配に反対する傾向が強い。
これまた自民党支持者はその傾向があるそうで、ネトウヨが同調しそうです。
貧困層に生まれた人が中間層になるのは困難だし、まして富裕層に上昇するのはよほどのことです。
また、社会が自己責任だとして格差の是正をしないなら、階級が固定することになります。
なのに、アンダークラスの中には自己責任論に肯定的な人がいます。
こうした構図はかなり崩壊しているように思われる。(略)
貧しい人々が所得再分配による格差の是正を求める一方で、外国人の流入を警戒し、戦争責任を問う中国人や韓国人の主張に反発する。アンダークラスには、このような立場をとる人が多いらしいのである。追い詰められたアンダークラスの内部に、ファシズムの基盤が芽生え始めているといっては言いすぎだろうか。
貧困層が保守化、排外的になるのは世界的傾向なのでしょうか。
平野啓一郎「悲しみとともにどう生きるか」(『悲しみとともにどう生きるか』)は、社会的弱者に金を使うのがイヤだという人が増えていると指摘しています。
バブルが崩壊してから平成の30年間で、一人あたりのGNPも賃金が増えません。
https://www.sbbit.jp/article/fj/113491
新自由主義的な考えがはびこり、自己責任論が広がって、社会的弱者に厳しくなっています。
社会の分断が日本でも起きているようです。