コトは公園に屯(たむろ)するホームレスへの突然の退去命令で発生した。
甘谷署である。役所に出動を要請された機動隊長と署長の会話である。
「一端、退去したホームレスが一日ごとに塒(ねぐら)を変える頭脳作戦に出たようです!」
「なにっ!? どういうことだ?」
「公園にいること自体は都市公園法違反にはならないからです」
「… だが、6条があるだろう」
「いや、それが彼らは衣服の一部だとして、帽子部分を大きくした衣服まがいの寝袋[シュラフ]で眠るようです」
「そんな複雑な服を作る金がホームレスにあるとは思えんが…」
「聞き込みによれば、福祉ボランティア団体の寄付による配布だそうですが…」
「そうきたか…」
憲法25条[健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した条文]⇔都市公園法の目に見えない長い難解な訴訟合戦が始まろうとしていた。
後日の甘谷署内である。署長と副署長が小声で話していた。
「なんか難しい話になってますな」
「遵法(じゅんぽう)占拠か…。民事事件は我々の感知せざるところだが、下川刑事の署内での寝癖はなんとかならんのかね? アソコは臭(くさ)くて堪(たま)らん!」
「はあ、下川警部補ですか。刑事課長に注意させた上で強制退去させましょう」
「頼んだよっ。あの男はホームレスより厄介(やっかい)だ」
「確かに…」
二人は顔を見合わせ無言でニヤけた。
完