水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (43)どうでもいい…

2019年07月31日 00時00分00秒 | #小説

 物事には必要不可欠な、ソレはっ! …というような手が抜けないことと、深く考える必要がないどうでもいい…と思えることがある。同じ歯科医に関係したことでも、虫歯と八重歯とでは対応する考え方が変わってくる。虫歯は放っておけば、イタイ、イタイっ!! と苦しむことになるからどうでもいい…とは考えないだろうが、八重歯なら、「あらっ! そのままの方が可愛いわよっ!」「…そうお?」などと、そのままにしておいてもどうでもいい…と思える違いがある訳だ。
 とある一般家庭の夕食場面である。どういう訳か美味(うま)そうなスキ焼きの肉がいい具合に煮えて残っている。家族五人は満腹ぎみに食べた直後だから、誰も箸(はし)を伸ばさない。
「あらっ! 誰も食べないのっ!?」
 母親が父親と子供三人の顔を見回しながら訊(たず)ねた。鍋(なべ)が空(から)になれば、それはそれで母親としても後始末(あとしまつ)が出来て助かる訳だ。
「どうでもいい…が、残しておくのもな」
「ああ…」「うん」「そうね」
 長男、次男、長女も異口同音(いくどうおん)に肯定(こうてい)する。実は母親が訊ねた直後から、すでに四人はグツグツ…と美味そうに煮える食べどきの残り肉を狙(ねら)っていたのである。
「どれどれ、俺が…」
 父親の箸が肉へ伸びた瞬間だった。負けじっ! と子供三人の箸も同時にサッ! と肉をめざして伸びた。が、しかし、四人は肉に箸が届く直前で、またサッ! と箸を引っ込めた。
「まっ! どうでもいい…」
「そうだよっ! どうでもいい…」「どうでもいい…」「どうでもいい…」
「そうお? じゃあ、私が…」
 母親は何の躊躇(ちゅうちょ)もなく箸を伸ばして美味そうに煮えた肉を溶き卵につけて頬張った。
「ほほほ…これで片づくから助かるわっ!」
「…」「…」「…」「…」
 四人は煮えきらず、テンションを下げて食事を終えた。
 どうでもいい…内容は、なかなか侮(あなど)れないのだ。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (42)空腹(くうふく)

2019年07月30日 00時00分00秒 | #小説

 空腹(くうふく)・・これはもう、動物にとっては大変な事態である。この状態が続けば飢餓(きが)となるが、こんなときにフッ! と食べ物が現れたり食べられたりすれば、大層、助かる。こんなフッ! と助かる状況に至るのは、おそらく有り難い神様か仏様のお恵(めぐ)みに違いない。^^
 とある田舎にある町役場の生活環境課である。昼の三時過ぎ、疲れ果てたようにトボトボと犬山が帰庁した。
「どうしたんだっ? 偉く遅かったじゃないか…」
 同じ課の職員、白鷺(しらさぎ)が犬山に声をかけた。
「いや、どうもこうもない。行方不明になったニワトリを探してくれっ! という依頼があったから行ったまではいいが、あと一羽が見つからず、この時間だ…」
「どういうことだ?」
「どういうことも、こういうこともない。まあ、そういうことだっ! お蔭(かげ)で空腹を通り越して、歩く力もない…」
「ははは…。そりゃ、難儀(なんぎ)だったなっ! で、ニワトリは何羽だったんだっ?」
「16羽!」
「ニワトリだけに2[に]×8[わ]=16羽ってかっ!?」
「馬鹿なダジャレをっ! それより、なにか食べるものはないか!」
「食堂へ行きゃいいだろうが?」
「そんな力は、もうない…」
「ははは…大げさな。遅かったから店屋物の天丼、注文しといたぞっ、安心しろっ! もう来る頃だ…」
「ぅぅぅ…助かるっ! 持つべきは食い友(とも)だなっ!」
 犬山は思わすぅぅぅ…と涙しながら合掌(がっしょう)して白鷺を拝(おが)んだ。
「ははは…食い友かっ、それはいいっ!」
 白鷺は国宝の城のように優雅(ゆうが)に笑いながら返した。
 空腹で助かる状況に至れば、思わず合掌して拝むようだ。^^

                                

 


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助かるユーモア短編集 (41)進歩

2019年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 世の中が便利や快適になり、暮らし向きがよくなるだけが進歩ではない。私達はそれを進歩・・と呼んでいるが、メリット[利益]がある反面(はんめん)、デメリット[不利益]なマイナス効果も、その裏側には潜(ひそ)んでいる。過去のよかった! と思い出す時代を紐解(ひもと)けば、極端な進歩はなかったものの、長閑(のどか)で味わい深い、助かる旨味(うまみ)も多々、存在していたのである。
 とある会社ビルのオフィスである。デスクに座った課長と社員が話をしている。
「君の仕事は、まったく進歩が見えんなっ! いつも二日は遅れとるじゃないかっ!」
「はあ、どうもすいません…。これでも一生懸命、やってるんですが…」
「馬鹿を言っちゃいかんっ! 誰だって一生懸命、やっとるんだっ!」
「はあ、どうも…」
 社員は課長の城跡(しろあと)のような頭を見ながら、『あんたの頭の毛も進歩が見られんなぁ~』と冷(さ)めて思いながら謝(あやま)った。
「まあ、いい…。少し休暇を減らすとかして、進歩しなさいよ…」
「はい…」
 課長に窘(たしな)められた社員は、『毛生え薬を変えるとか植毛するとかして、あんたも進歩しなさいよ…』と、また思ったが、言える訳がなく、思うに留(とど)めた。
 進歩して助かる存在になるためには、なかなか努力がいるようだ。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (40)効果的

2019年07月28日 00時00分00秒 | #小説

 同じ内容を実行したとしても、効果的に行うのと非効果的に行うのとでは、実行後の出来ばえや結果に大きな差を生じる。要は、その後が快適になるか、そうならないか・という差である。お買い物を母親に頼まれた子供が、買ったお釣りでアイスクリームをせしめよう…という発想が効果的なのか? は、よく分からない。^^
 ようやく厳(きび)しい炎天下の陽射しが消えた夏の夕方、ご隠居の恭之介とその息子の恭一が居間で話をしている。しばらく休めていなかったこともあり、恭一にとってはなんとも有り難い夏季休暇だ。噎(む)せ返るような暑さだが、少し風が出たのか、庭先に吊るされた風鈴がチリ~~ン! となんとも涼やかな音を奏(かな)でる。
「さて! ひとっ風呂(ぷろ)浴びるかっ! あっ! お父さん、いらしたんですかっ…}
「なんだっ! わしが夕涼みをしちゃいかんのかっ!!」
「いや、そんなことは…」
「それよりお前、間違っとるぞっ!」
「なにが、ですっ?」
「なにがも、蟹(かに)がも、ないっ!! 身体(からだ)は十分、冷やしたのかっ!」
 ダジャレを上手(うま)いっ! とは思ったが、恭一としてはそんな悠長(ゆうちょう)に感心している場合ではない。
「いいえ、暑い書斎から出てきたとこですから…」
「だから、それが間違っとると言うんだっ!」
 恭一は恭之介の言う意味が分からず、首を傾(かし)げた。
「間違ってますか?」
「ああ、そうだ。身体を冷やしてない状態で風呂に入りゃ、どうなる?」
「いえ、別にどうもなりませんが…。いい気分です」
「馬鹿もんっ!! 身体が熱張っとるんだぞっ! また、汗が噴き出すだろうがっ!!」
「あっ! そういやっ、たぶん…」
「たぶんも豚(ぶた)もないっ!!」
 ふたたび、上手(うま)いっ! とは思ったが、恭一としてはそんな悠長に感心している場合ではない。「はあ…」 
「十分、冷やして入る。…これが効果的な風呂の入り方だ。第一、着替えた下着が汗ばまんから助かる。分かったかっ!!」
「は、はいっ! 分かりました…」
 ちっとも分かっていなかったが、恭一は取りあえず逃げの一手を打った。
「前の洗い場で水浴びして十分冷やしてからな。それが効果的だっ!」
「はいっ!」
「分かりゃいいんだ…」
 恭之介はようやく静かになったが、恭之介の最大の誤算は、恭一に説教したばっかりに効果的な夕食前の冷酒を飲み損(そこ)ねたことだった。^^

 ※ 風景シリーズに登場の湧水家(わきみずけ)のお二人にスピン・オフ出演をしていただきました。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (39)糸(いと)

2019年07月27日 00時00分00秒 | #小説

 糸(いと)は、いろいろな意味で使われる言葉である。単なる糸といえば裁縫(さいほう)の糸を思い描くが、手術で使用される縫合糸(ほうごうし)、蜘蛛(くも)の糸、男女が結ばれる赤い糸など、他にもいろいろな意味で使用される。フフフ…金に糸目はつけんぞっ! などと時代劇で使われる悪い意味の糸もある。^^
 割箸(わりばし)は綻(ほころ)んだワイシャツを縫(ぬ)い合わそうと、裁縫箱(さいほうばこ)から針と糸を取り出そうとした。幸い、針はあったが、肝心(かんじん)の糸が残り僅(わず)かで、割箸の発想は頓挫(とんざ)した。その日は勤務が休みだったこともあり、即席うどんを啜(すす)って食事を終えた割箸は町へ糸を買いに出ることにした。
 二時間後、とある町のとあるデパートに割箸の姿があった。
 割箸が衣類売り場を探し回っていると、有り難いことに遠く前方に糸の陳列台が目に入った。やれやれ、これで助かるな…と大仰(おおぎょう)に割箸は思った。割箸は無くなりかけていた糸巻きと同じような糸巻きを手にして、コレだなっ! と確信すると売り場のレジ台へと向かった。レジ台前には女性の店員が、私がレジ係です…と主張するような顔で立っていた。割箸は買い物籠を台へ置き、買おうとする糸巻きを取り出した。
「…35番でよろしいんですね?」
 瞬間、女性店員の言う専門的な意味が割箸には分からなかった。割箸は、『…はあ、まあコレで餅(もち)は切りませんから…』とは思ったが、そうとも言えず、無言で頷(うなず)いてスルー[通過]した。
 帰り道、35番じゃないとどうしよう…という、ひ弱な気分も湧(わ)いたが、まっ! いいかっ! と、Uターンして訊(き)き直さず、そのまま帰宅することにした。
 帰宅した割箸が同じ糸巻きかどうか? を確認すると、有り難いことに同じで、割箸の発想の糸は切れることなく、助かることとなった。
 まあ、糸は餅を切らず、助かるために存在するものののようだ。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (38)極(きわ)まる

2019年07月26日 00時00分00秒 | #小説

 どういう訳か極(きわ)まると積極、極まらないと消極と言う。気になったから調べてみると、自然科学の分野で極(きょく)は指向性・方向性を持つもの・・とあった。その+[プラス]と-[マイナス]を積極的、消極的と表わすようだが、どちらが助かるのか? は分からない。^^ 極(きわ)まった方が助かる場合もあり、その逆も当然、有り得るからだ。極まれば、その先が、どうなるか分からない・・という意味もある。アグレッシブ[積極的]にやって失敗する場合もあり、成功することもあるからだ。
 二人の老人AとBが、とある道場で座禅をしている。この道場は風変わりな道場で、座禅をして悟(さと)りを得て汚(けが)れを絶つ・・という目的で開かれたボランティア道場だ。宗教的、経済的、社会的な色彩は、まったくなく、誰でも自由に入場できる道場で会費はいらなかった。ただ、朝の九時から夕方の五時までと決まっており、この道場の持ち主がその時間前に鍵を開け、そして閉じて帰る・・という慈善事業の場になっていた。ただ、寝泊り・食事・入浴は不可、用便は持ち帰りという最低限のルールがあった。
 Aが座禅を終え、欠伸(あくび)をしながら背伸びをして立ち上がった。その気配(けはい)に気づいた隣りのBも、無造作に同じ仕草で立ち上がった。
「極まりましたかな?」
「ははは…そう簡単に極まれば助かるんですがな。腹が減って美味(うま)そうなラーメンが浮かびましたので、今日はこのくらいにしようかと…」
「ああ、そうでしたか。私も、そろそろ五時か? と思えましてな…。そういや、美味いラーメン屋が開店しましたぞっ!」
「ほう!! それはそれは…。では、ご一緒しますかなっ! スープは半残しで…」
「ははは…是非! 半残しで…」
 二人は健康に留意しながら道場を出た。どちらも極まらなかったが、空腹からは助かることになった。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (37)災害

2019年07月25日 00時00分00秒 | #小説

 梅雨(つゆ)末期ともなれば、豪雨や長雨(ながあめ)による災害が全国各地に広がる。もちろん天災だが、それだけとも言えない節(ふし)がなくもない。なくもない・・とは早い話、あるということに他ならない。^^ いや、失礼! 笑い話ではない。災害に合われた方々に対し、お見舞を申し上げ、深く哀悼(あいとう)の意を示さねばならない。 m(_ _)m
 天災ならば、どうしようと避(さ)けられないが、人災の場合、その原因を取り除(のぞ)けば、それで助かる場合が多い。例(たと)えば、山崩れによる土砂災害だが、警戒警報を出したからといって人々が助かるとは限らない。飽くまでも注意を喚起(かんき)するだけのことなのである。根本的な問題は、そんな危険な場所へ家が建てられるのかい? という素朴(そぼく)な疑問が起こる建築基準法の問題だろう。建築許可がお上から許されるから、そんな危険な地へ新しい造成地を業者が広げて家が立ち並ぶ訳である。国が犯人? これは言い過ぎだろうが…。^^
 とある地に、古くから建っているポンコツの家がある。その少し先には団地の真新しい家々が建ち並んでいる。その両方に住む仲がいい住人二人が話し合っている。
「ひどい長雨でしたな」
「はい、ひどい雨でした。うちの家、建ったばかりで傾きました」
「そうそう、お宅はそこの新しい団地でしたな」
「はい! やっとローンで買えたんですが、さっぱりです。で、お宅は?」
「うちの家はポンコツですが、建物自体はまだまだ100年以上はいけそうでしてな。災害にはビクともしません、ははは…」
「そんなに?」
「はいっ! ボロですがな、丈夫で長持ち・・が取り得(え)ですわ、ははは…」
「…」
 災害で家が助かる場合、新しい古いは関係なさそうだ。^^

                                

  ※ 災害をユーモアにしておりますが、災害は決して笑いごとではありません。被災された方々に対しまして、深く哀悼の意を表すとともにお見舞いを申し上げる次第でございます。


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助かるユーモア短編集 (36)負けるが勝ち

2019年07月24日 00時00分00秒 | #小説

 負けるが勝ち・・という慰めるような便利な言葉がある。負けて悔(くや)しい気分が少し和(やわ)らいで助かるのだが、言われた側としては、やはり勝ちたい訳で、余計に悔しさが増すということになる。^^
 とある家庭の庭で夕涼みをしながら縁台将棋が指されている。隣通しのご隠居二人による、どうでもいいようなヘボ将棋なのだが、ご当人達は至って名人気取りで指している。棋力はどちらも1、2級といったところで、初段にはもう少し…といった程度だ。しかし、ご当人達は2、3段の気分で指しているから、周(まわ)りの者にとっては大層、始末が悪かった。
「いや! もう一番っ!! と言いたいところですが、本日は、この辺(あた)りで…。今日は体調が悪いようですな、ははは…」
 実のところ、このご隠居は決して負けた…とは思っていなかった。真逆の負けてやった…と思っていたのである。というのは、早く負けて帰ってもらわないと、今日の夕食のスキ焼きを家族に食べられてしまう恐れがあったからだ。負けるが勝ち・・の気分でこのご隠居は指していたのである。
「いつも負ける私が勝てる訳がありません。これは妙ですぞ、もう一番!」
 相手のご隠居は少し不審に思えたのか、もうひと勝負を所望(しょもう)した。
「いやいや、今日はいくらやっても勝てる気がしない」
 スキ焼きが頭のご隠居は、ここは逃げの一手(いって)とばかりに遁走(とんそう)を策(さく)した。そのときである。家内から何やらいい匂いが漂ってきた。スキ焼きの匂いだった。
「なるほどっ! そういうことでしたかっ! どれどれ、私もご相伴(しょうばん)させていただきますかな、ははは…」
「はあ…」
 負けるが勝ちも、計算づくでは、負ければ負け・・と助からならないようだ。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (35)真実

2019年07月23日 00時00分00秒 | #小説

 どれだけ包み隠そうと、誤魔化そうと真実は一つで
あり、それ以上でもそれ以下でもない。ただ世の中では、この真実が方便(ほうべん)として一定の許容範囲を持っており、程度の差こそあれ、罷(まか)り通っているのである。道路に煙草(たばこ)の吸殻をポイ捨てたからといって、電柱で隠れていた刑事がスクッ! と現れ、『環境破壊法違反で現行犯逮捕するっ!』などとは言わないだろう。^^ こうした曖昧(あいまい)な罪(つみ)とも言えない罪が許されるから、私達は助かることが多いのかも知れない。
 とある家庭の一場面である。母親と子供が話している。
「あらっ? 今日は塾(じゅく)、休みなのっ?」
「…ああ」
 子供は母親に小型ゲーム機を弄(いじ)りながら自然体で返したが、いくらか声が小さい。真実味に欠けるのである。それを母親は見逃さない。まるでベテラン刑事のような巧妙さで、その供述を突き崩(くず)していく。
「お隣(となり)の正ちゃん、さっき急いで塾の方へ走っていったわよ」
「フ~~ン…」
「なんだったんだろうね?」
「さあ…」
「そういや、手に鞄(かばん)もってたわよ」
「…どんな?」
「いつも塾へ持ってってるやつ」
「…」
 息子は無言で鞄にノートと参考書を入れると、玄関へ急いだ。
「あら? どうしたのっ?」
「いけねえ! 日を間違えたんだ、僕…」
「そうなの? …気をつけてね」
 母親は日を間違えたのではなく、ズル休みしようとしていた・・という真実を知ってはいたが、そうとは言わず、子供を塾へと送り出した。
 このように柔らかく真実へ導かれれば、子供は大いに助かることだろう。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (34)草だらけ

2019年07月22日 00時00分00秒 | #小説

 地方ならまだしも、都心の永田町にペンペン草が生え、さらにそれが広がって草だらけとなった夢を疣川(いぼかわ)は見た。その夢は、なんともリアル[現実的]で、都心のビル群が雑草に取り囲まれたかのように立っているのである。不思議と人の姿は見えず、一台の車も走ってはいなかった。それもそのはずで、車道はもはや、その灰色のアスファルト路面を消し、道の輪郭すら分からなくなっている。喉(のど)は渇き、腹も空(す)いてきた疣川は、助かる術(すべ)はないか…と、ビルを見上げながら辺(あた)りをさ迷った。よくよく考え直せば奇妙な話なのだが、夢なのだから、まあそれもアリか…と後日、思えた。
 夢の疣川は国会議員でもないのに議員席に座っていた。見渡せば、与野党の席が入り乱れていて、与党も野党も判別がつかない状態ではないか。現実にはありえない光景の中、閣僚(かくりょう)と思(おぼ)しき人物が懸命に壇上で答弁をしていた。すると、これまた不思議なことに、いつの間にか疣川は議場の閣僚席へと移り、座っていた。多くの国会議員を見下ろす位置である。そして次の瞬間、議長のホニャララの声が議場に響き渡った。
『疣川$%大臣!』
 よく見れば、答弁していた閣僚と思しき人物はスゥ~~っと、いつの間にか壇上から消えていた。疣川は壇上へ立つでなくスゥ~~っと向かった。夢だから、壇上へ向かう疣川に歩く感覚はなく、まるで幽霊そのものだった。なんとも便利なエスカレーター感覚である。そして、疣川はいつの間にか好きなことを出任(でまか)せに答弁していた。
「皆さん!! 永田町は草だらけっ!! この永田町の草を一掃(いっそう)しようじゃありませんかっ!!」
 そのとき議場から野次が飛んだ。
『草だらけにしたのは、与党内閣だろうがっ!!』
『静粛(せいしゅく)にっ!!』
 ホニャララ議長は『私は議長で偉(えら)いんだよっ!』とでも言うかのような上から目線の厳(おごそ)かな声で議場を窘(たしな)めた。疣川は、やれやれ、こけで自分は助かる…と、助かる理由もなく思った。そこで、目が覚めた。
 疣川は、部屋の中が草だらけ状態に散らかっている現実に気づき、『こりゃ、助かる訳がないか…』とテンションを下げた。
 草だらけは、なにも草ばかりではない・・というお話である。助かるには、整理整頓+掃除などによる草だらけ状態からの脱却(だっきゃく)を目指さねばならないだろう。^^

                                


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