水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

驚くユーモア短編集 (70)数値

2024年01月31日 00時00分00秒 | #小説

 血糖値を計っていると、普段は正常な数値にもかかわらず、その日に限ってとんでもない数値が出て驚くことがある。何が原因だろう…と昨日の食事を思い出せば、チョコレートの食べ過ぎか…と気づき、ニンマリと哂(わら)う訳だ。まあ、一過性なら、さほど驚くこともないのだが、小心者だと、ついつい心配になってしまう。^^
 とある医院である。朝の開院直後から、バタバタと駆け込んだ老人がいる。
「…今日は、どうされました?」
 常連の患者らしく、医者は欠伸(あくび)を堪(こら)えて呑気(のん)な声で訊(たず)ねた。
「せ、先生っ! 今朝、とんでもないことにっ!」
「…とんでもない? どういうことです」
「け、血糖値がっ!!」
「んっ? 血糖値が、どうしました?」
 医者は要領を得ず、もう一度、訊ねた。
「今朝、とんでもない数値がっ!!」
「とんでもない数値?」
「はい、322がっ!! いつもは110くらいなんです…」
「妙ですな…。何か心当たりは?」
 医者は、どこも悪くなさそうな元気な老人を訝(いぶか)しげに見た。
「いえ…」
 老人は小さな気弱な声で答えたが、次の瞬間、思わず驚くような大声を出した。
「あっ!! 先生、思い出しました、思い出しましたっ!」
「…何をっ?」
「夜、孫が卒寿祝いにくれたチョコレートを鱈腹(たらふく)食べましたっ!!」
「ああ、そうでしたか…。はい、次の人…」
 医者は馬鹿馬鹿しくなったが怒る訳にもいかず、女性の老看護師に次の患者を呼ばせた。
 まあ、とんでもない数値が出たとしても、驚くことなく、よぉ~~く、その訳を考える必要があるようです。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (69)化ける

2024年01月30日 00時00分00秒 | #小説

 化けられて驚くのは、なにも幽霊などの怖い存在ばかりではない。ええっ!? あの女性がっ!? と思うブス女が化粧を施されたあと超美人に変身したとき、あるいはブス男が同じように化粧を施されて超イケメンに変身したときなどには、さすがに驚くに違いない。ということで、今日はお化けではない方の、化けるをテーマにした驚くお話です。^^
 とある撮影所である。主役の女優が、新幹線の運休で到着していなかった。
「台風か…弱った! 実に弱った!!」
 監督がそれほど弱っている風でもなく大声で弱る、を強調する。
「一時間遅れになるようです、監督。今、携帯で連絡が取れました…」
 助監督[セカンド]が、それとなく監督に近づき、告げる。
「そうか…。このカットは後ろ姿だけなんだが…」
 そこへ女性スタッフの一人が小走りに監督の前を通り過ぎる。
「おっ! 粋のいいのがいるじゃないかっ! ははは…。お~~い、君っ!」
 監督に大声で呼ばれた女性スタッフは、ハッ! と驚き、後ろを振り返る。
「君だよ、君っ!!」
 女性スタッフは急いで監督の前へ近づく。
「悪いが君、スタント[代役]だ、スタントっ!!」
「はぁ?」
 女性スタッフは要領を得ず、訝(いぶか)しげに監督を窺(うかが)う。
「君がやるんだよっ、君がっ!!」
「何を、です?」
「掃きつかんやつだな、君はっ! 主役だよ、主役っ!!」
「で、でも、監督…」
「デモもストライキもあるかっ! 後ろ姿だけだからっ! お~い、化粧っ!!」
 ブス女だが後ろ姿だけだから、いけるだろう…と思いながら、監督はスタントに起用した。
 その二十分後である。主演女優の衣装を身に纏(まと)い、女性スタッフが監督の前へ現れた。
「化けたな、君っ!! いいぞっ! よしっ! 明日から準主演でデビューだっ! おいっ! 本に書き足せと言っといてくれっ!」
 女性スタッフの変貌ぶりにウットリしながら、監督は驚く素振りも見せず、やはり大声で言った。
「は、はいっ!」
 次の日から裏方の女性スタッフは表舞台に登場し、華々しくデビューすることになったのである。
 時として、人は驚くような別人に化けるのである。^^ 

                   完


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驚くユーモア短編集 (68)台風

2024年01月29日 00時00分00秒 | #小説

 台風に驚かされることはいろいろとあるが、中でも、無風で曇っていた天候が突然、崩れ、暴風雨に見舞われるのには驚く他はない。風も弱く、雨もそんな強くないな…などと侮(あなど)っては後々、偉い目に遭うから、注意が必要だ。
 二人のご隠居が敬老の日のごちそうを食べながら居間で将棋を指している。
「大型で猛烈な台風だそうですが、そんな強い風も吹きませんな…」
「さようで…雨も降りませんな。まあ荒れないに越したことはないんですがな…」
 そのとき突然、突風が吹き始め、激しい雨も降り出した。
「やはり、台風ですな…大手っ!!」
「うっ!! そう来ましたか、台風は…。では私は、これでっ!!」
 大手をかけられたご隠居は、一瞬、たじろいで驚く素振りを見せたが、その直後、かけたご隠居に逆大手をかけ、盤上に持ち駒の飛車を打ち据えた。これが詰めろの妙手で、大手をかけたご隠居は逆に負けとなった。そのとき、台風の暴風雨は突如として止(や)み、空から青空が覗(のぞ)き始めた。この天候の変化には、二人とも驚く他はなかった。
 台風はひょっとすると、私達の暮らしぶりを上空から垣間見ているのかも知れません。余り悪さをしないと、驚くように軽く通り過ぎるようですよ。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (67)ひとめ惚(ぼ)れ

2024年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 これは男女に言えることだが、思わずひとめ惚(ぼ)れするような相手に出食わせば、誰しも驚くことだろう。まあ、そんな夢のような話は、ほとんどないのだろうが、場合によっては起こることもあり得る。^^
 とある繁華街である。買い物帰りで蒲丘(かばおか)は歩いて自宅へ帰る途中、橋の上で通り過ぎた一人の若い女性にひとめ惚れをしてしまった。その日から蒲丘は、寝ては夢、起きては見つつ幻(まぼろし)の・・とフラつく馬鹿丘になってしまったのである。
 その日も蒲丘は買い物帰りにひとめ惚れした女性と出会った同じ橋の上を歩いていた。
「危ないですよっ! 橋から落ちますよっ!」 
「あっ! どうも…」
 蒲丘は橋の上から欄干を踏み越え、縦方向に歩こうとしていたのである。蒲丘は思わず驚くと、注意してくれた通行人に礼を言った。
 ひとめ惚れすると、橋の上から落ちるような驚く事態になるようです。注意しましょう。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (66)ダイコン

2024年01月27日 00時00分00秒 | #小説

 そろそろ畑に冬野菜を植える頃になったな…と気づき、荒掘り→肥料・燻炭[土量改良剤]→細粒化→天地返し→畝(うね)切りなどの作業を経て種を蒔(ま)き終えた。毎年のことながら、驚くのは収穫時のダイコンの形状である。スンナリといい形に伸びたダイコンもあれば、どれがどうなってこんな形になったのか? と、首を傾(かし)げるダイコンもある。^^ ということで、今日はダイコンをテーマにしたお話です。^^
 収穫前の隣り合ったダイコン二本が語り合っている。
『あまり出来がよくてもダメなようですよっ!』
『なぜですっ!?』
『値が下がるから、だそうですっ!』
『なるほどっ! そういや、いつだったかキャベツさんが出来過ぎて、畑で生ゴミ処理された年もありましたね』
『困った飽食の時代ですよ、ほんとにっ! 終戦直後の食べものがない時代の人がタイムスリップすりゃ、驚くでしょうなっ!』
『ええええっ! それは間違いありませんっ!』
『私は捨てられたくないっ!』
『あなたはいい形にお育ちだから、おでんの具なんかにピッタリですよっ!』
『またまたっ! お世辞が上手(うま)いっ! あなただって温野菜のポトフなんかに…』
 二本が呑気(のんき)に語り合ってると、農夫がズボッ! と驚く速さで二本を引いた。
 呑気に語り合ってると、驚く速さで引き抜かれますよっ!^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (65)川

2024年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 あれだけ穏やかに流れていた川が濁流となり堤防を決壊させる豹変ぶりには、ただただ驚くだけだ。
 とある有名な川である。天気がいいこともあって、多くの釣り人が川が流れる中、浅瀬で釣りをやっている。獲物はアユだ。釣り人ならよくご存じの友釣り・・というやつである。
「今日の釣果(ちょうか)はこれだけです…」
 一人の釣り人が、釣り上げた魚籠(びく)の中のアユを自慢げに見せる。本人にしてみれば、『多いだろっ!?』くらいの気分だ。
「なんだ、少ないですね。私はこれだけです…」
 魚籠を見せられた釣り人が自慢するでなく魚籠の中を見せる。自慢して見せた釣り人の倍の釣果のアユが見える。最初に自慢して見せた釣り人は負けを認めたくないものだから話題を変える。
「今日の川は、いい流れですな…」
「えっ!? はあ、まあ…」
 突然の話題転換に驚かされ、最初に魚籠の中を見せられた釣り人は、上手く釣り上げられた。
 川はいろいろな意味で、驚く結果を与えるようです。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (64)町並み

2024年01月25日 00時00分00秒 | #小説

 最近の町並みの変貌ぶりには目を見張り、思わず驚くことがある。今日は、そんなどぉ~~でもいいような驚くお話です。^^
 朝の八時前である。とある商店街の通路を一人の男が右に左と眺(なが)めながら何やら探している。そこへシャッターを上げて開店準備をしようと埃叩(ほこりはた)きを片手に出てきた店のご主人が男に気づいた。
「…どこか、お探しですかいのう?」
「ああ…こりゃ、ちょうどいい! つかぬことをお訊(たず)ねしますが、この辺(あた)りに四天王寺屋という金物店はございませんか? …確か、二十年前にはあったんですが…」
「四天王寺屋さんですか? ありました、ありましたっ! いや、何かの都合で引っ越されたんですが、もう、かれこれ十五年前になりますかいのう…」
「そうでしたか。いや、街並みが驚くほど奇麗になったもんで、さっぱり分かりませんで…」
「そりゃそうですばい。三年前の都市計画で、店も道路も驚くほどすっかり様変わりよりましたでのう…。地元の者でも前あった店に今だに走りよります、ははは…」
「ははは…地元の人でも間違うんですか。こりゃ、いい…」
 街並みは驚くほど変わっても、住まう人々は変わって欲しくないものです。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (63)枯れた人

2024年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 生きていると、どうしても欲が出てしまう。だが、枯れた人になれば、少々のことでは動じない。動じなければ当然、驚くこともなく、風に柳と受け流すことになる。では、枯れた人が驚くことはないのか? と問えば、神様や仏様ではない人である以上、そんなことはない。今日は、そんな枯れた人のお話です。
 とある古刹(こさつ)の大僧正、朴念は九十八の老齢ながら、今日も勤行を続けていた。
「#$%~~~%$#%~~!”#”#$%%&##”$%…」
 お付きの僧正、懸想は大僧正の健康を絶えず案じて心が休まることがなかった。というのも、いつお倒れになるか…という心配が付き纏(まと)っていたからである。そのとき突然、一匹のアマガエルがどこから現れたのか、朴念の頭の上に飛び乗った。だがその次の瞬間、朴念の頭髪のない頭に滑(すべ)り、ポトン! と木魚の上に落ちた。枯れた人・・と寺内の僧侶達の間で名を馳せていた朴念だったが、思わず驚くと気を失ってしまった。
 このように、徳を積んだ枯れた人でも驚くことはあるのです。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (62)物価高

2024年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 誰もが物価高に驚く昨今である。政府も生活支援と称して援助金の交付を決定し、必死にインフレ阻止に努めているが、どうも焼け石に水・・の感が否めない。日銀などは相も変わらずゼロ金利政策を維持しようとしていて、まったく庶民の実態が分かっていないように思える。しっかりして欲しいと国民は思っていることだろう。
 ご隠居二人が散歩帰りの喫茶店で話し合っている。
「どうなるんでしょうな、この先?」
「年金も減りましたからな…。まあ、私らは心配するほどのこともありませんが、住民税非課税世帯とか生活保護を受けておられるご家庭なんかは大変でしょうな…」
「この物価高には驚かされますな」
「コロナからの経済失速ですから驚く前の経済政策が必要でしたな」
「さようで…」
「まあ、小市民の私達が、とやかく言ったところで、どうしようもありませんが…」
「さようで…」
 二人は世間話を切り上げ、席を立つとレジへ向かった。
 最近の物価高に驚く私達ですが、小市民には、どうしようもない話です。どうでも出来る人々に努力して戴きましょう。^^

                   完


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驚くユーモア短編集 (61)人柄(ひとがら)

2024年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 えっ!? あの人が…と思えるような人の豹変ぶりに驚くことが時々ある。穏やかな人だと思っていた人が突然、激しく怒るような姿に接したとき、人は神でも仏でもないんだ…と思う訳だ。事実、私だって怒るときには激しく怒ることがある。ただ、年老いたからか、その勢いは若いときほどではない。そこに老いを感じて驚き、テンションを自ら下げる訳だ。^^
 とある町役場である。
「おいっ! 課長の禿村(はげむら)さんが怒ってるぞっ!」
「ああ…」
 課の前の通路を偶然、通りかかった別の課の二人の職員がチラ見しながら足早に立ち去った。
 管財課の課長、禿村は人柄がいい温厚な人として役場の全員から慕われていた。その禿村が今日に限って激高していたのである。怒られていたのは同じ課の増毛(ますげ)だった。
「今日は返すって言ってたじゃないかっ!! 家内になんて説明すりゃいいんだっ!!」
「すみません…」
「すみませんで済みゃ、神や仏はいらんよっ!!」
 禿村が怒っていたのは、妻の預金通帳から勝手に金を引き出し、増毛に融通していたからだった。禿村の妻は婦人会の一泊旅行で前日はいなかったが、今日は帰ってくることになっていた。妻に頭が上がらない禿村が激高するのも道理だったが、もう運に頼る他はなかった。妻が預金通帳に目を通すのは日課だった。その癖(くせ)をご主人が知っているのは当然と言えば当然だった。
「はぁ…。明日にはお返しいたしますので…」
 そう言われれば、流石にこれ以上は怒れない人柄の禿村だった。
 驚くような人柄とは違う行動や言動があったとしても、最後にはやはり人柄が現れるようです。^^

                   完


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