水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第67回

2012年12月31日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第67回)
昨日(きのう)ならここで後藤が来る・・と保が思っていると、案の定、アフロ頭を揺らして、後藤がドアを開けた。ただ、昨日と違ったのは、その後ろから同時に山盛教授が入ってきたことである。
「いやぁ~、珍しく後藤君と入口で鉢合わせしてね。おっ! もう大丈夫なんですか?」
 いつもの教授の欠伸(あくび)がないぞ…と、保は思った。
『はい! 昨日はお騒がせしました。もう、すっかり元気です…』
「そうですか。それで、もう一度、ご見学を?」
『はい。お邪魔かとは思ったんですが…』
「いやぁ~、機械工学が好きなお嬢さんは少ないですから…。まあ、ゆっくり、見てって下さい」
『ありがとうございます』
 今のところ会話には何の問題もないぞ…と、保は沙耶と教授の会話を聞きながら、チラ見して思った。保が座る机の前にはパソコンが置かれている。それを操作している保だが、沙耶の観察のため手指の動きは滞りがちだった。昨日、保が帰った後の研究室では、焼け切れた後藤のパーツの修理に齷齪(あくせく)したが、結局、教授と後藤では元に戻らず終いでジ・エンドとなったようである。だから、教授と後藤コンビは、また、どうのこうのと言い合いながら、その部分の修理を続けていた。検知メーターの予備はあったからいいとして、ローラー部の焼け切れパーツの修理は困難を極めた。


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連載小説 代役アンドロイド 第66回

2012年12月30日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第66回)
保は名札を受け取ると横に立つ沙耶へ渡した。沙耶はそれを左胸に付けた。昨日と、まったく同じパターンである。
 エレベーターで三階へ上がった後も、昨日と同じような展開が続いた。違ったのは会話の内容だけである。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう…。おやっ! 昨日の従兄妹さんか。もう大丈夫なんですか?」
『はい! すっかり…。有難うございます、ご心配をおかけしました』
「いえ~、ちっとも。さあ、どうぞ…」
 昨日と同じように、但馬は片手で応接椅子を示した。保は黙って二人の遣り取りを聞きながら、今のところは完璧だな、最後の課題は強力電磁作用か…と巡りながらロッカーを開け、白衣を着た。その課題が起こるかは、後藤と教授が現れてから決まることだ。昨日(きのう)のようなトラプルが、まさか立て続けに起こるとは考えられない。とすれば、後藤がヘマをやらない限り、強力電磁波を沙耶が浴びることはない訳だ。さらに考えれば、その強力電磁波が放出されないのだから、沙耶に組み込んだ新しい防御バリア、すなわち、電磁シールドのシステムは起動しない訳である。結果、最終試験は成立しないのだ。となると、強力電磁波を発する所は…と保は頭を巡らせた。
 沙耶が応接椅子に座ってから、昨日と同じで室内はお通夜となった。会話が途絶したのである。


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連載小説 代役アンドロイド 第65回

2012年12月29日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第65回)
『行くってことね…』
「ああ…」
 沙耶は頷(うなず)くとUターンして部屋を出ていった。当然、朝食の準備だ。保は洗面台で朝を整えながら、今日の流れをシミュレーションしていた。研究室で沙耶がいる設定場面である。
 二人? がマンションを出たのは8時前だった。保が起きたのが7時頃だから、小一時間で出たことになる。実のところ、出るまでには、沙耶の服装で10分内外が無駄になっていた。アレにしようかコレを着ようか、やはりソッチだわ…ということである。まあ、そんなこともあったが、平穏に二人は地下鉄に乗り、何事もなく無事に京東大学の大学院新館へと着いた。保ひとりなら無事に着くのは当たり前なのだが、沙耶がいるからドキドキなのである。あんなことがあった昨日(きのう)の今日だから余計にそう思えた。着いた段階では、一週間後にすればよかったか…とか、他の場所もあったな…などの雑念に悩まされる保だった。
「昨日と同じようにな…」
 保は先にひと言、沙耶に注意を促して中へ入った。
『うん!』
 素直に頷(うなず)いて、沙耶は続いた。
「おはようございます。ははは…昨日(きのう)の続きです。また、お願いします」
「もう、大丈夫なんですか?」
「ええ、まあ…」
「そうですか。そりゃよかった。では、これを…」
 老いた受付のガードマンは、外部者通行用の名札を保に渡した。


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連載小説 代役アンドロイド 第64回

2012年12月28日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第64回)
『えっ!? あっ、ああ…。いいわよ、どっちだって』
「その、どっちだって、のは、どうなんだろ?」
『どうなんだろう・・って?』
「行く気があるのか、それともないのか…」
『う~ん、どうなんだろ。どっちだって、いいって、とこかな』
「じゃあ、どっちだって先の良し悪しは変わらないってこと?」
『ああ、そっち系の考え? 余り変わらないと思う』
 京東大学の女学生に聞いて録音したデータがそのまま使われているから、沙耶の語り口調は女学生っぽくなっていた。沙耶に変わる前の岸田2号の場合は、秋葉原のメード喫茶女店員のデータだったから、ご主人様口調だった。それが今の沙耶メモリーに換わったときから、この女学生風なのである。研究室の連中には妹としての触れ込みだったから、その点では都合がよかった。それはともかく、沙耶の未来予測機能は、どちらにしろ、そう危険があるとは判断していないようだった。ならば、バリアの具合を知る上でも研究室の方が、よりベターか・・と保は思った。
「じゃあ、そういうことで…」
 保はベッドから飛び起きると、沙耶の目も気にせず着替え始めた。沙耶を見て羞恥心とか色欲が起こったときは、こいつは、機械なんだ…と思うことしていた。そうしないと危ない。のめり込みそうだからだ。


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連載小説 代役アンドロイド 第63回

2012年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第63回)
 沙耶の最終試験は日延べになったが、どういうシチュエーションでやるかについて保は迷っていた。新たな場所でやってみるというのも一案で、もう一度、研究室へ沙耶を連れていき、様子を観るというケースもあった。強力電磁作用に対する沙耶の新プログラムを観るならば、やはり研究室か・・と発想はなる。結局、その夜は結論が出ないまま保は眠ってしまった。寝られず飲んだ二杯目のジンライムが急に効いたのか、考えながら意識が落ちていた。このジンライムの安いシロップが保の好みだった。最近の店では本物が出て、この手のものは個人調達でしか飲めないのが難点だった。孰(いず)れしろ、沙耶は飲食が必要ないから、この感じをどうするかが今の保の課題になっていた。しかし、この工夫を考えるのが、保の楽しみでもあった。
 次の朝、保は爽やかに目覚めた。もちろん、定刻に沙耶によって起こされてである。そのとき、ふと名案が保の頭を掠(かす)めた。沙耶の能力を使わぬ手はない…と。沙耶なら先々が100%の確率で予見可能なのだ。そんな便利な機能があったことを製作した当の本人の保は、ついうっかり忘れてしまっていた。
「沙耶、もう一回さ、研究室へ行くか?」
 保は唐突に訊ねていた。今、頭に巡ったことは書き留めるか、するか、のどちらかだということを保は過去の経験則で知っていた。で、沙耶の先見機能に賭(か)けたひと言を発したのである。


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連載小説 代役アンドロイド 第62回

2012年12月26日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第62回)
「まあ、今日のことはなかったことにしよう。研究室の連中には、あとから電話しとくよ」
『今、した方がいいわよ。今後のこともあるし…』
「そうか・・そうだな」
 保が主客逆転で素直に従った。沙耶のプログラムからすれば、100%の確率で間違ったことは言ってない・・と思えたからだ。携帯を握って山盛(やまもり)教授に沙耶が元気になったと伝え、保はすぐ切った。長引かせて、つまらないことを研究室の連中にあれこれ穿鑿(せんさく)されるのが嫌だったからだ。
「沙耶、悪いが腹が減った。何か作ってくれ。朝から何も食べていない」
 保は修正と新プログラミングで昼食をすっかり忘れていた。
『はいっ!』
 いい返事で素直に頷(うなず)くと、沙耶は動き始めた。保も沙耶の後ろについて部屋を出た。今日は何もしたくない。美味い料理に冷えた酒…これに尽きるなあ…と、保はしみじみ思った。沙耶が少し前に口にした『少し疲れたみたい』は、人が言う疲れではないが、俺は本当に疲れてるぞ、と保はまた思いながらキッチンテーブルへと座った。沙耶が調理した料理は期待した通りの出来で、保は完璧に満足した。沙耶にこれ以上、望むのは少し酷なような気がして、簡単な雑事は保自身で動き、その日が暮れていった。


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連載小説 代役アンドロイド 第61回

2012年12月25日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第61回)
 ともかく、これで万全だと保は思えた。部屋で沙耶は眠ったよう停止しているはずだ。プログラムをインストールしたチップを持ち、保はパソコン椅子から勢いよく立ち上がった。
 沙耶の部屋へ入ると、案の定、彼女? は停止してベッド上に横たわっていた。
「沙耶、出来たから交換するぞ」
 黙って入れ換えてもいいのだが、保には沙耶に対して機械とは思えない感情が芽生えつつあった。だから、ひと声かけていた。沙耶は保の声をすぐ感知して目を開けた。
『うん!』
 返事だけすると、沙耶はふたたび目を閉じた。
 保はまず主電源を切る。続いて格納場所のICチップを、ゆっくりと引き出し、新しいチップと交換、そして収納した。で、ふたたび電源を投入した。これで、電源を切らない限り、自動システムで必要電力を発電しながら動き続けることが出来る。もちろん、以前決めた10日に一回[1、10、20、31(28、29、30)日]のメンテナンスはせねばならないのだが…。
「沙耶、もういいよ」
『もういい…。なんか、かくれんぼ、じゃない?』
 沙耶は目を開けると、ゆったりと上半身を起こし、両脚を床(ゆか)に下ろして微笑んだ。
 保はこの瞬間、完璧だ! と思った。今まで以上の感触があった。


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連載小説 代役アンドロイド 第60回

2012年12月24日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第60回)
「沙耶、しばらく部屋へ戻って停止していてくれ。補助機能だから負荷がかかり過ぎないようにな。動くときは俺が行くから」
「はい!」
 沙耶は素直な返事をして、部屋へ向かった。誰もいなくなった部屋で、深呼吸をひとつすると、保はさっそくパソコンの電源を投入、フラッシュメモリーを起動した。バイナリセーブされたファイルが立ち上がり、プログラムの数字、英文字、記号などの羅列が一瞬のうちに画面に現れた。一見すれば、普通の人間にはチンプンカンプンの画面である。このプログラムは山盛教授ですら組めない、しろものだった。保はそれが出来る天才だった。というか、アンドロイドに関する機械及びその他の製作技術をも持つ優れ者なのだ。だが彼はその才を隠す、いわばスーパーマンといえた。その保がコボル(プログラム用高級言語)を弄(いじく)って今日の問題点を修正していく。さらに新しいプログラムを組み、ハイレベル電磁波から沙耶を守る防御機能を付加する。強力電磁波を受けた際は負の電磁波を発し、中和ないし弾(はじ)き返すバリア機能である。格闘から三時間、どうにかこうにか、そのものが組み上がった。組み上がったプログラムのチップを二次元のバーチャル空間にいる沙耶に埋め込み、シミュレートを繰り返す。バーチャル沙耶がトラブった場合は、チップを取り出して組み直す。そして、ほぼ完成に漕ぎ着けたとき三時間が過ぎていた・・と、まあそういうプロ的な話である。


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連載小説 代役アンドロイド 第59回

2012年12月23日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第59回)
 気づけばマンションへ戻っていた。部屋のドアを開け、中へ入った途端、まるで落ち武者だな…と保は思えた。ふと見れば、しっかりと沙耶の手を握っている。どうも地下鉄に乗る前から握っていた感触だった。じっとりと汗ばんで熱ばっていた。沙耶は保に対しては従順に対応するように出来ているから、長く握られたままでも文句を言わなかった・・というのではない。それは人間の場合の感性で、アンドロイドの沙耶は熱感知とかの感覚感知機能が組まれている。ただ、嫌悪感とかの感情はOFFされる仕組みになっていた。しかし、機能に異常が生じた今回のような場合は、気持が悪いとか気分が悪いとか言ってパフォーマンスできるプログラムは組まれていた。
「どうだ、今の気分は?」
『悪くはないわ。ただ、補助機能を使ってるから、少し疲れたみたい』
「ははは…。疲れたみたいか」
『だって、そう言うんでしょ? 普通は』
「ああ、まあそうだな…」
 沙耶の言葉は間違っていない。人間の感覚機能がないからだ。保はこの機能を開発すれば、もっと人間っぽくなるのだが…と、ふと思った。その直後、いやいや、そんな場合じゃない! すぐ組み直さないと・・と思え、すぐパソコン椅子へ座った。靴を脱いだ沙耶は、きちんと玄関を整頓すると、保の前へ来た。


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連載小説 代役アンドロイド 第58回

2012年12月22日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第58回)
『分かったわ! 過剰電流が流れたとき、私の身体が強い電磁波を感知して初期化したみたい。今は非常用回路で補ってるから大丈夫』
 ニコリと笑って、沙耶は余裕を見せた。保の方は全然、余裕がない。強力電磁波の影響までは考えず対策が立てられていなかった。こりゃ、さっそく高レベル電磁波に対する防御システムを組まなければ・・と思えた。幸い、山盛教授の了解は取ってあるから、すぐに戻ろう・・と、保は動いた。
 通用口で保は窓ガラスを開けた。
「すみません。返ります」
「岸田さん、偉く早いですなぁ~。何か急用でも?」
「ちょっと、従兄妹が頭痛がするとかで、連れて帰ります」
「そりゃ、いけませんな。お大事に…」 
 沙耶は一礼し、名札を外すと老いたガードマンに返した。保はそのとき、もう外へ飛び出していた。肝心かなめの沙耶がまだ建物の中にいるのだが、気持が急(せ)いていた。よく考えれば、保より先に沙耶が急がなければならないのだが…。
 ともかく、保はバタバタと沙耶の手を引いて地下鉄に乗りこんだ。これも、あとから落ち着いて考えれば、遠隔操作機により補助システムが作動しているのだから、急がねばならない必要はないのだ。しかし、保の頭は、もし、このことが世間に分かれば…ということ以外、巡っていなかった。


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