水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (65)鍋(なべ)もの

2019年11月30日 00時00分00秒 | #小説

 寒い季節が巡ると、鍋(なべ)の登場となる。鍋だと、どういう訳か楽しい気分になる。鍋というのは、四季を通じて見かける調理用の鍋のことではない。要は鍋である。… 分かりにくいので分かりやすく説明すれば、美味(おい)しい美味しい具入りの湯気(ゆげ)を上げてグツグツと美味(うま)そうに煮(に)える、あの鍋である。ここでは各種ある鍋を総称して、[鍋もの]としてお話をしたい。どうでもいい方は、美味しい鍋でも突(つつ)きながら一杯やって下さればいい。あっ! 子供さんはジュースにして下さい。^^
 とある、どこにでもありそうな普通家庭の夕食場面である。
 鍋がグツグツと食卓で美味そうに煮えている。
「えっ! またオデンっ!」
 勉強部屋から出てきた高校生の長男が、開口一番(かいこういちばん)、愚痴(ぐち)った。中学生の妹と父親は、すでに席に着いていて、全員が揃(そろ)うのを待っている。
「ははは…そう言うな。オデンは鍋ものの常道(じょうどう)で、横綱だっ!」
「常道かなんだか知らないけどさ。僕は大関くらいのスキ焼がいいなっ!」
「スキ焼きか…。スキ焼きってんのは、別格だっ! 先代横綱ってとこだなっ!」
「パパ、先代横綱よりカニっ!」
「カニな…。カニもカニだけのことはある」
 そこへ調理場から母親が現れた。
「なに言ってんのっ! 鮭(さけ)の石狩鍋でしょ!」
「ああ~~っ! 味噌の土手(どて)鍋でなっ! ありゃ、美味いっ!」
 そこへ、離れからご隠居が、ゆったりと現れた。
「馬鹿もんっ!! 薬膳(やくぜん)のニラ雑水(ぞうすい)でいいんだっ! この贅沢者(ぜいたくもん)がっ!」
 一喝(いっかつ)された父親は、萎(な)えて沈黙した。だがその後は、賑(にぎ)やかで楽しい一家の夕食風景となった。
 鍋ものを囲むのは、孰(いず)れにしろ美味しくて楽しいからいい。^^ 

 ※ 風景シリーズに登場した湧水家の方々の特別出演でした。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (64)風

2019年11月29日 00時00分00秒 | #小説

 ほどよく晴れた日、風がそよそよと頬(ほお)を撫(な)でれば、なんとなくウキウキした楽しい気分になる。ところが、その風も暴風雨のように強く吹けば、家屋に甚大(じんだい)な被害を齎(もたら)し、迷惑な存在へと様変(さまが)わりする。そうなれば、楽しい気分相場の話ではない。さらに、どことなくスゥ~っと忍び込む、隙間(すきま)風という油断を見据(みす)えた見えない世間の悪い風もあり、注意が必要だ。これは超有名な演歌曲の歌詞にも登場するから、皆さん、よくご存知だろう。^^
 とある舗道である。二人のサラリーマンが歩きながら話をしている。
「どうもここ最近、風当たりが強くないかっ?」
「いや、それは俺も感じているんだ。他の課の連中から聞いたんだが、どうもうちの会社、調子よくないそうだぜ」
「それと、課長の風当たりが強くなったのと、どういう関係があるんだ?」
「だからさぁ~。課長も上から強い風に吹かれたんじゃねえのっ!」
「ああ、そういうことか…。で、今後の風はっ!?」
「ははは…俺に訊(き)かれてもなぁ~」
 そのとき、一陣(いちじん)の風が舞った。
「寒いと思ったら、もう木枯らしか…」
「そろそろ、コートを出してもらわんとな…」
「新婚さんは、いいよなっ! うちなんか、かかあに睨(にら)まれ、まるで冷凍庫だっ! お前ん家(ち)も孰(いず)れは、ははは…」
「そうなるっ? くわばら、くわばらっ!」
 楽しい気分で冗談を話し合いながら、二人は駅構内へと消えていった。
 そうそう! 他にも楽しい風、悲しい風、辛(つら)い風…と、世の中の風には各種、揃(そろ)っている。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (63)間違い

2019年11月28日 00時00分00秒 | #小説

 間違いに気づけば、その後の展開が修正され、物事がスンナリと捗(はかど)る。捗れば、ルンルン気分で楽しくなる。逆に、いつまでも間違いに気づかなければ、結果は悪い方向へと進み、ポツリ、ポツリからザザァーと雨模様になる。間違いに気づくか気づかないかは本人の程度差によるが、もちろん、早く間違いに気づいた方がいいに決まっている。誰しも結果がいい楽しい方を望むからだ。^^
 とある中学入試会場の教室である。
「はいっ! それでは…」
 試験官がマイクに向かって告げると、教室内に詰めかけた多くの受験生達は一斉(いっせい)に試験用紙に目を通し始めた。
『…あれっ! 問題が違うっ!』
 受験生の一人、疎居(うとい)は試験用紙を見た瞬間、自分の受験科目でないことに気づいた。
「すみません!! 科目が違うんですが…」
 大きな声で叫んだ疎居の席に受験生達の視線が一斉に走った。
「どういうこと? …」
 試験官は座っていた教壇の椅子から立ち上がり、疎居の席へと近づいた。
「何が違うんだい? 皆(みんな)と同じ試験用紙じゃないか…」
 試験官は配布(はいふ)した試験用紙を確認し、訝(いぶか)しげに言った。
「あっ!!」
 そのとき、疎居が叫んだ。その声は大きく、教室全体に谺(こだま)した。
「どうしたの?」
「す、すみませんっ! 間違いましたっ!! 僕、隣(となり)の教室ですっ!!」
 疎居は疑問が解決し、楽しい気分で言った。教室内は一瞬にして爆笑の渦(うず)となった。
「ははは…、今からだと十分、間に合うから、早く行きなさい」
 試験官は笑いながら告げた。
 間違いは早く気づけば、楽しい気分になる・・という当たり前の馬鹿馬鹿しいお話である。^^ 

                                


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楽しいユーモア短編集 (62)天気

2019年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 優柔不断(ゆうじゅうふだん)で、どうなるか分からないのが天気だ。こればっかりは人智(じんち)をもってしても、どう転(ころ)ぶか分からない不確(ふたし)かさがある。確率が高い予報を出せるようになった現代の文明社会でも間違ってしまうことがあるのが天気である。これは別に天気に限ったことではない自然現象だが、天気に限って言えば、晴れた日はどことなく気分が高揚(こうよう)して楽しいものだ。陰鬱(いんうつ)な曇(くも)った日の方がいいっ! と言われるお方もおられようが、そんな方々は少しナニだろう。ナニとはアレである。^^
 気象予報士がテレビで天気概況を一生懸命、語っている。本人が一生懸命なのだから、視聴者も一生懸命、聴くより他はない。^^
「すると、明日のお天気は?」
 アナウンサーが合いの手を掛け合い漫才のコンビのように入れる。
「はいっ! そういうことですから、天気は下り坂・・ということになりますっ!」
「下り坂ですか…。下り坂はそう疲れないですよね?」
「…? はいっ!?」
「下り坂だけに…」
 アナウンサーはダジャレを一つ、放った。
「ははは…まあ。楽しい行楽の連休ですが、雨傘(あまがさ)は持ってお出かけになった方がよろしいでしょう! 上坂(かみさか)がお伝えしました…」
「下り坂でしょ?」
「えっ!? ははは…まあ」
 気象予報士はアナウンサーのダジャレの猛追を、かろうじて逃(のが)れ、苦笑した。
 天気がどうであれ、連休は心がウキウキして楽しいものだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (61)前後(ぜんご)

2019年11月26日 00時00分00秒 | #小説

 楽しい物事も、その前後(ぜんご)で気分が大きく変る。当然といえば当然の話だが、これから…というときは、ウキウキと楽しい。例えば、旅に出る場合だと、前の日は心が弾(はず)んで楽しいものだが、帰った後(あと)ともなれば、疲れた苦痛だけが残り、楽しい気分は旅の途中で、どこかへ置き忘れているのだ。これは何も旅の行楽に限ったことではなく、食欲、色欲、出世欲、物欲・・など、総ての欲に通じる現象なのである。達成される前はワクワク、ウキウキと楽しい訳で、達成された後は、なんだ…くらいに萎(しぼ)んで、ちっとも楽しいとは思えない。それでも楽しいと思えるお方は相当、欲深(よくぶか)な好き者といえるだろう。^^
 明日、宝くじの結果が分かる前夜である。一攫千金(いっかくせんきん)を夢見る父親は、いつもと違い、どういう訳か落ち着かない。
「あら? お父さん、もう寝るの? 随分、早いわね…」
「んっ? ああ、疲れたからな…」
 娘に訊(たず)ねられ、父親は思わずそう返した。宝くじが気になってな・・などとは、娘にとても言えなかったからだ。ところが、その次の夜は、いつもどおりの時間に戻(もど)っていた。娘は、またダメだったんだわ…とは分かっていたが、知らない態(てい)で黙っていた。ところが、である。なんと父親の宝くじは当たっていたのである。父親は必死の努力で平静を装(よそお)い、楽しい気分をひた隠して娘に気づかれまいとしたのだ。
 このように、物事が前後で変化したかどうかまでは、外見上、必ずしも分からないが、変化は少なからずしている訳だ。後が楽しいことを祈ろう。^^  

                                


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楽しいユーモア短編集 (60)人は人、自分は自分

2019年11月25日 00時00分00秒 | #小説

 人は人、自分は自分と、━ 我が人生、我が道を行く ━ の心意気(こころいき)で世に処(しょ)せば、これほど楽しいことはない。人がどう思おうと、風に柳と吹き流せば、傍目(はため)も、まったく煩(わずら)わしくなくなる。自分の考えに他人を巻き込んだり、傍目の大迷惑、法律に触れる内容でさえなければ、世の中をどう生きようと他人に兎(と)や角(かく)、言われる筋合いはない訳だ。また、違和感を感じて兎や角、言う人は、逆に兎や角、言われる性質を有する問題ある人物だと言える。要するに、大きなお世話っ! ということに他ならない。^^ その最(さい)たる例は、集団や組織が個人を従わせる義務を除(のぞ)いた強制力だ。個人は、そうしたくないのに、そうさせられる訳である。^^
 とあるテレビ番組で二人の評論家が討論を戦わせている。
「そりゃ、違うでしょ!!」
「あなた、そう言いますけどもね。違う! って断言できますかっ!」
「断言できるから、違う! って言ってるんでしょうがっ!」
「それは、あなたの偏見(へんけん)だっ!」
「偏見かなんだか知らないけどねっ! あなたがなんと言おうと、違うものは違うんだっ!!」
「あなたの考え方は、自分は自分の考え方だっ!!」
「ああ、そうだっ! 人は人! その考え方の、どこがいけないっ!!」
「いけないもなにも、ポン酢(ず)はポン酢、酢醤油(すじょうゆ)は酢醤油だろっ!!」
 そのとき、二人を見かねたアナウンサーが口を挟(はさ)んだ。
「美味(おい)しけりゃ、どっちだっていいんじゃないでしょうか…」
「…」「…」
 聞いた二人の評論家は、たちまち沈黙した。
 人は人、自分は自分・・の考え方は、やはり他人に押しつけてはいけない美味しく楽しい権利なのである。^^
 
                                


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楽しいユーモア短編集 (59) いやいやいや…

2019年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 楽しい気分に浸(ひた)っているとき、「いやいやいや…」と苦言(くげん)を呈(てい)されれば、誰だって楽しい気分どころの話ではなくなる。要は、イチャモン[言いがかり]をつけられる・・という事態である。そこで相手に、「いやいやいや…」と言い返すか、あるいは、『それも一理あるな…』と考え直して、「ああ、そうですか…」と矛(ほこ)を収(おさ)める[矛を鞘(さや)へ収めて戦わない態度を示す]かの二手(ふたて)に態度は分かたれる。^^
 とある会場で、とある候補者の立会い演説会が開かれている。選挙対策として事前に声をかけられ会場に詰めかけた桜の聴衆が半数ばかりいるから、ところどころに空席がある点を考えれば、そんなに盛況とも言えない。^^ だが、候補者は自信に満ち溢(あふ)れた態度で、いやいやいや…と、不入りぎみを、まったく気にしていない。本人が思っていたより入場者が多かったからだ。少ししか入らないだろう…と、候補者が諦(あきら)めの想定をしていた以上の入りだった・・ということである。
「先生! そろそろ、お時間でございますっ!」
「ああ、そうかね…」
 徐(おもむろ)にそう返すと、候補者はゆったりと応接セットから立ち上がり、控え室を出た。そして、準備された壇上中央へとゆっくり進み、聴衆に向けて深いお辞儀をした。
「えぇ~~っ! お足元のお悪い中、多くの方々にお運びを賜(たまわ)りまして、厚く御礼(おんれい)を申し上げますっ!!」
 マイクから流れる拡声(かくせい)された候補者の声に、聴衆は、今日はいい天気だったがなぁ~…という訝(いぶか)しげな視線で壇上の候補者を眺(なが)めた。しかし、候補者は事前に準備した桜を除く予想外の入りに、ただただ喜びいっぱいで、テンションを上げていた。まあ、それだけ単純だった・・といえる。^^ だが、こんな自信がある場合のいやいやいや…は、予想外の結果を生むものだ。候補者は見事に当選を果たし、楽しい気分に浸れたのである。
 いやいやいや…は、自己を確立する要素、すなわち独自性[アイデンティティー]で、実現の原動力となるのである。ただ、意固地(いこじ)や頑固(がんこ)は、いただけない。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (58)どうでもいい

2019年11月23日 00時00分00秒 | #小説

 どうでもいい…と口にして物事から抜け出せば、心は解き放たれ、楽しい気分となる。だが、世の中の悪い柵(しがらみ)は、そうはさせまいっ! とアノ手コノ手で追いかけてくる。そうしたとき、馬鹿かっ、お前はっ!! という気分で開き直り、どうでもいいじゃんっ! と抜け出せば、それはそれで新しい未来も開けてくるというものだ。旧態依然とした柵は継続することで安定してはいるが、先々(さきざき)の発展系がまったくない。なければ、未来は開けない! と、まあ話はこうなる訳だ。^^ このように考えれば、どうでもいいは、その実、どうでもいいことに前向きでアグレッシブな発想なのである。どうでもいい…と考えれば、心の中に自分のゆとり領域が出来て楽しい上に、思わぬ発展系の発想も芽生える・・ということ他ならない。
 駅を出た二人の男が歩道で立ち止まり、何やら言い争っている。
「そんなこと、どうでもいいじゃないかっ! 時間が余りゃ、寄ればいい・・くらいの話だろうがっ!」
「馬鹿を言うなっ! どうでもいい訳がなかろっ! 度忘れの天麩羅うどんを食うために、態々(わざわざ)来たんじゃないかっ! 」
「お前はそうかも知れんが、俺はホニャララ座の芝居見物に態々、来たんだっ!」
「ホニャララ座! ホニャララ座の芝居なんか、どうでもいい。ホニャララなだけだっ!」
「ほう!! お前は度忘れの天麩羅うどんを食うのが、そんなに大事かっ!?」
「ああ、大事だっ! 芝居、観たって腹は膨(ふく)れんっ!」
「馬鹿野郎! アソコの幕の内弁当が美味(うま)いんだっ!! 十分、腹は膨れる。お前、知らんのかっ!!」
「ホニャララ座の幕の内弁当? …そんなの、あったか?」
「あったあったっ! 芝居なんかどうでもいいんだっ!」
「態々、芝居見物に来たんだろ?」
「幕の内を食うためだっ!」
「…なら、そうしてみるか」
 二人はホニャララ座の方へと歩き出した。
 人間にとって食べることは、楽しいこと以上にどうでもよくはないのである。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (57)あの日

2019年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 ふと、脳裏(のうり)に過(よ)ぎるのが、あの日の楽しい記憶である。正確には楽しかった記憶なのだが、思い出したときは今のように感じるから楽しい記憶ということになる。現実の時は移ろって、すでにあの日の残像どおりではないにしろ、やはり思い出したあの日は楽しい訳だ。楽しい記憶を急に思い出した場合は思わず笑えるから、周囲の人は、妙な人だなぁ~…と、違和感を覚えることだろう。もちろん、悪い出来事が生じたあの日もあるだろうが、ふと、過ぎるのは、やはり、いい記憶の残るあの日が多いようだ。例(たと)えば、あの日、ホニャララで食った鰻(うなぎ)は美味(うま)かった…などという実益があった日の場合である。^^
 とある飛行中の飛行機内の会話である。
「あの日の墜落事故、ここの飛行機ざまぁ~すでしょ! 私、嫌だわっ!」
 前席の搭乗客が漏(も)らしたひと言(こと)に、後部座席の男は、『なら、乗らなきゃいいだろっ!』と、イラッ! とした。
「まあまあ、奥様ぁ~。大丈夫でござぁ~ますわよ、ホホホ…あの日はあの日っ!」
 隣の前席の搭乗客が心配する搭乗客を慰(なぐさ)めた。
『なにが、ホホホ…だっ!! 落ちて死ねっ!』
 後部座席の男は、ムカッ! とした。イラッ! にムカッ! だから、男にとっては少しも楽しい気分ではなかった。しばらくして、『おっと!! 俺も死ぬのか…。危(あぶ)ねぇ~危ねぇ~』と、急いで全否定した。そして、またしばらくして、『そういや、あの日は俺の結婚式だったんだったなっ!!』
 男は俄(にわ)かにニヤニヤし出した。通りかかったキャビンアテンダント[旧呼称 スチュワデース]が、『怒ったりニヤニヤしたり、変な人ねっ!』と訝(いぶか)しげに男を見遣(みや)り、通り過ぎた。
 あの日は、やはり楽しい想い出に限る。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (56)寒暖(かんだん)

2019年11月21日 00時00分00秒 | #小説

 暑くもなく、かといって寒くもなければ、人は快適になる。快適になれば、当然、楽しい気分になる。楽しい気分を損(そこ)ねるこの寒暖(かんだん)というやつは、人によって感じ方が違うから、実に厄介(やっかい)なものだ。^^
 大雨で、体育館に非難した、とある町の住民同士が何やら揉(も)めている。
「だからっ!! 私は寒いんだよっ! もう少し、空調温度を上げてくれっ!」
「何、言ってんだっ! 私は暑いんだっ! 下げてくれっ!」
「なに言ってるっ! これで寒くないって? あんた、それでも人間かっ!」
「ああ! かなり前から人間はやってるっ! あんたより長いんじゃないかっ!!」
「まあまあ、お二方(ふたかた)!」
 二人を見かねた非難場所の責任者が二人に割って入った。
「だったら、あんたは、どうなんだっ!?」
「そうだっ!」
 揉めていた二人が、俄(にわ)かにタッグを組んで、責任者を責め始めた。
「わ、私は暑くも寒くもないです。これくらいがいい…」
「…」「…」
 揉めごとは、たちまち立ち消えた。
 楽しい気分が失(う)せる寒暖は、個人の場合だといいが、集団の中では主張すべきでない・・という一例のお話だ。^^ 

                                


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