すべてがすべて上手(うま)くいくもんじゃない・・と邦夫は思った。今日の数学のテストは残念ながら65点だった。去年の算数のときは80点だったから随分、成績は下がったことになる。これでは母さんには見せられない…と、邦夫は瞬間、感じた。なぜ下がったのか・・と、邦夫は巡った。やる勉強は小学校のときと同じようにやっている。それには自信があって、今後も続けていくつもりでいた。戸山先生は点数はどうでもいいって言ってたけど、母さんには通用しないな…と邦夫には思えた。邦夫は子供部屋の勉強机で思い耽(ふけ)った。
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数学教師の戸山がクラス全員に話していた。
「お前たちに言っておく! 点数なんぞで、くよくよするな! 満点でも零点でも先生は、いいんだ。ははは…、まあ、零点は少し拙(まず)いがな!」
その言葉で教室内は笑いの渦となった。
「まあまあ、抑(おさ)えて抑えて…」
戸山は騒然とした雰囲気を鎮(しず)めようと両腕で制した。少しして、教室内に静けさが戻った。
「出来るに越したことはない。しかし、出来なくてもいいんだ。考えることが大事なんだ。考えることが、社会へ出たときのいい肥やしになる。要は脳を鍛えること! それが大事だということだ。頭、頭!!」
そのとき、邦夫は急に手を上げた。
「先生! 頭は鍛えられるんですか? アホはアホだと思うんですが…」
ふたたび、教室内はドッ! と笑いの渦になった。邦夫は、なぜ皆は笑うんだろう? と不思議でならなかった。
「邦夫、先生が言うのは、な! 点数はどうでもいい、ということだ。そりゃ、アホはアホだからどうしようもないさ」
教室内の笑いの渦はいっそう増し、騒然となった。
「よし!! 終わり、終わり」
「先生! 僕は出来なきゃ困るんです! T大に入らないとママに怒られます!」
突然、立ち上がった秀才の功太が叫んだ。
「それは、それでいいんだぞ、功太。出来るに越したことはない、と先生、言ったじゃないか、ははは…」
「起立!!」
クラス委員の実が颯爽(さっそう)と立った。それに釣られ、全員が立った。
「礼!!」
戸山も礼をすると教室を出ていった。
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『邦夫! ごはんよ!』
遠くから母親の沙代の声がした。
「はぁ~~い!!」
まあ、先生が言った通り点数は関係ないって言うか…と、邦夫は舌を出して立ち上がった。
THE END