水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十七回)

2011年10月31日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
    
第五十七回
  係員に控え票をもらうと、幽霊平林は大切に胸の襟元(えりもと)へ入れた。そして、とりあえず邪魔になるのでスコップ型を手でコンパクトに丸めた。さらに、輝く小球に変化したスコップは、控え票を挟んだ胸元へと納められた。幽霊平林は係員に、「また、お願いします」と云って軽く礼をすると、いつものようにスゥ~っと格好よく、その場を去った。
 霊水が湧く小池に現れた幽霊平林は、僅(わず)かに十センチほどの溝を掘り始めた。もちろん、胸元へ納めた輝く小球を取り出し、スコップ型へと戻してからである。形状が自由自在に変えられる道具は、人間界では考えられない。作業衣は羽織って出たから、それで事は足りた。死んだ身だから、人間界とは違い汗が出ることはない。しかも、溝を掘るといっても、軽く線を引く感覚で溝になるのだから楽だ。それもその筈(はず)で、小池の周囲は人間界の地面ではなく、霞(かすみ)のような緑と茶色の霊気で覆(おお)われ、形作られていた。
 さて、瞬く間に溝は出来上がっていき、とうとう幽霊平林の住処(すみか)まで近づいた。ここというところまで完成したとき、幽霊平林が小池を塞(ふさ)ぐ水門関を切ると、湧き出る水は当然、その作られた溝へと流れ、幽霊平林のの住処近くで溢れだした。そし、水流は低い方向へと下る。幽霊平林はその一角に瓶(かめ)を置き、水の嵩(かさ)による時の経過を知る算段を実行した。いわゆる、水時計の発想である。そして、これで上山がいる人間界が今、いつ頃なのか知ることが出来る…と、確信するのだった。一、二度は人間界へ現れ、時間を知る必要があった。その時間差で、どれだけの水嵩(みずかさ)が溜まるか、とうことである。一時間で一センチならば、五センチで五時間となる。もちろん、溝から瓶へ注ぎ入れる水量は少なく調整し、あとの水は下方へと流す。いわば、流水システムである。
 ひと通り、作業を終えると、幽霊平林は瓶(かめ)を空(から)にした状態から、流入量の嵩の上昇が1センチに対し、一時間経過するという調整確認を済ませた。そして、瓶を流入口にセットし終えると、住処の小屋内へと入って静かに停止した。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十六回)

2011年10月30日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
    
第五十六回
 霊界から人間界の時間は分からないから、それを知るには何らかの方法を考えねばならない。幽霊平林も最初のうちは行き当たりばったりで人間界へ現れ、時間を確認しては、また霊界へ戻るという方法をとっていた。上山が呼ぶ場合には別に問題ないのだが、自分から現れるとなると、まったく分からないから、人間界の真夜中になることだってあった。そこで彼が考えたのが、霊水瓶(がめ)だった。幽霊平林が住処(すみか)とする小屋の近くには上手い具合に霊水が湧き出ている小さな池があった。その水を住処まで引き、瓶へ溜めるのだ。すると、大よその増えた水嵩(みずかさ)量で、時の経過を知ることが可能となる。幽霊平林は、そう考えた。さすがに生前、田丸工業のキャリア組だっただけのことはある。人間界の中ではスゥ~っと透過して物という実体を感じない幽霊平林だが、霊界では生前と同じで実体を感じられるのだ。そんなことで、彼は霊水が湧き出る小さな池から住処(すみか)までの細い水路を作り始めた。久しぶりに肉体労働をする…と、人間界では捉(とら)えるが、疲れという感覚がない霊界では、至極スムーズに作業は終息した。汗も出ず疲れもなく、スイスイと順調に事は運んだ。形状が自由自在に変えられる無色で輝く道具や作業衣は幽ークマンという店で手に入った。もちろん、霊同志は、よほどの理由がないかぎり、直接は会えないという霊界の決めがあるから、間仕切り板を挟んで声のみの遣(や)り取りとなる。さらにお金は、いらないから、物品についた品番伝票を外して仕切り板越しに手渡し、控え票をもらう仕組みになっていた。売上げが多いと、お金ではなくその伝票のポイントにより霊力が高まり向上するという俗世的システムだった。その係となる霊のみは、他の霊との応対時のみ霊体ながらも現世の姿を露(あら)わにすることを許され、作業に従事していた。
『なくさないように…』
『はい…』


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十五回)

2011年10月29日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第五十五回
 次の朝、上山はいつものように田丸工業へ出勤した。
「課長! 先だっては、どうも有難うございました。これ、お口に合うかどうか分かりませんが…」
 新婚旅行を終えた岬が、幸せそのものの顔で課長席に近づき、上山に土産を手渡した。
「ああ…、有難う。亜沙美君、元気かい?」
「はい! なんとか、やってくれてます」
 海堂亜沙美は結婚と同時に寿退社していた。
「そうか…、幸せなんだな。よかったよ、媒酌人としては…」
「はあ、どうも…。あっ! そうでした。そのお礼も申し上げておきます」
「…って、さっきのは何の礼だったの?」
「いや、あれは意味のない場当たり的な挨拶のお礼です」
「なんだ、ははは…」
 上山は、もらった土産の包み」を机の中へ収納しながら、そう云って笑った。この瞬間、すっかり幽霊平林のことを忘れている上山だった。
 昼休み、上山は食堂にいた。
「上山君さ、最近、疲れてんじゃない? 少し、老(ふ)けたわよ」
「大きなお世話だよ。吹恵ちゃんに云われたかぁ~ないな」
 笑いながらこんな馬鹿話を出来るのも、上山にとっては、この食堂賄い婦の江藤吹恵ぐらいのものだった。いつもの定食の配膳を返しながら、上山はそう云った。この時、上山は、すっかり幽霊平林のことを忘れていた。一方、幽霊平林は霊界番人の話を上山に伝えようと人間界へ移動しようとする矢先だった。むろん、人間界へ現れる上山との決めごとに変化はないのだから約束違反なのだが、そうも云ってられない…と、彼は判断したのだ。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十四回)

2011年10月28日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第五十四回
  霊界に戻った幽霊平林は、霊界番人と話をしていた。幽霊平林からは霊界番人を呼び出せない以上、上手い具合に霊界番人が現れてくれたことは、彼にとって千載一遇のチャンスといえた。
『あのう…、番人様は、この前、人間界の社会悪を滅せよ、とか仰せになり、この如意筆(にょいふで)お授けなさいましたが、その社会悪とは詳しく申せば、どのようなことなのでしょう?』
『おお…、そうよの。少し言葉足らずだったと案じてはおったのだが、やはり、そのことか。社会悪とは大悪である。一般人の、いわゆる普通に社会生活を営む者どもには関係がない』
『そう云われますと?』
『のさばった悪の退治よ。悪がのさばり、人の正義が潰(つい)えれば、世は暗黒の時代へと突き進むであろう。よって、何が何でも、そうした事態を、そなたが
もう一人の男と叩き潰(つぶ)すのだ!』
『そう云って戴きますと、得心出来ます』
 幽霊平林はプカリプカリと漂いながら、光の輪へ向って静かにそう云った。
『そうか…。では、な』
『お待ち下さいまし。それで具体的には、どういったことでしょう。例えば、どのような?』
『そうよのう…。我は霊界司様の番人に過ぎぬゆえにどうのこうの申せぬが、例えばじゃが、人の心が荒(すさ)むゆえの犯罪とかのう。ああ、そうそう。如意の筆を示し、言葉を念じればその物が、さらに黙して振れば地球上のものが消えるであろう…』
 その言葉が終わるや、光輪はたちまちにして消え失せた。
『あっ! …』
 幽霊平林にしてみれば、まだ訊(たず)ねたいことはあったのだ。それは、霊界番人との出会い方である。未だに一方的で、幽霊平林は、ただただ光輪が降り注ぐのを待たねばならなかったから、思うに任せられなかったのである。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十三回)

2011年10月27日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      
    
第五十三回
「君は律儀だからな。その…ほれ…、なんとか云ったな。ああ、そうそう、平林だったか? その者と同じで日に三回。いや、君も忙しいだろうから、朝晩の二回でいい、報告してくれまいか?」
「分かりました…」
「それじゃな…」
 滑川(なめかわ)教授の電話は途絶えた。そしてすぐ、上山はマヨネーズのキャップを外(はず)し、吸いつくように口にした。夜も更け、誰もが寝静まろうとする頃、上山は自分の変化を確認しようとしたが、出来るべくもないことに気づいた。当の幽霊平林を呼ばない限り、結果は分からないのだ。呼んで彼の姿が見えれば効果ゼロ、見えねば効果があったということになる。
 さすがに、その晩は疲れていたのか、上山は幽霊平林は呼ばないことにした。呼ぶ方法は以前と変わっていない。左手首をグルリと一回転させるだけで事は足りた。そんなことで、いつでも呼べるんだから…と思うと、気分が緩んだせいか眠気に襲われた上山は、いつしか微睡(まどろ)んでいた。
 次の日は上手い具合に日曜だった。上山は慌(あわただ)しく朝の諸事、具体的には食事の準備、片づけ、家の雑事なのだが、それらを済ませ、左手首を故意にグルリと回した。予期したように当然、幽霊平林は格好よく現れた。彼が現われたといえるのは幽霊平林の姿が上山に見えた訳で、それが残念なのか残念でないのかは別として、中位相処理されたマヨネーズ効果は、まだなかったのである。この段階ではマヨネーズ効果が、まったくないのか、あるいは一度のみゆえ効果が出ていないのか・・は、上山に分からなかった。
「やっぱり、見えるよ」
『そうですか…、残念でした。…って、僕としては嬉しいんですが…。じゃあ、また…』
 気遣(づか)ってか、幽霊平林は、すぐ消えた。
 結局、上山は何度か口にしてみたが、幽霊平林の姿は、やはり見えた。それは中位相処理されたマヨネーズが霊界の幽霊平林には効き、上山には駄目だということだった。上山としては、これで当分は幽霊平林と付き合える訳なのだが、彼を手助けして社会悪を滅ぼす、という正義の味方を演じなければならないのだから、痛し痒(かゆ)しというところだった。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十二回)

2011年10月26日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第五十二回
 帰途、上山は今後の先々に期待が膨らむ半面、少なからぬ不安感にも襲われていた。幽霊平林が期待どおり消えてくれれば、何もなかった元の生活に戻れる期待感はある。
しかし、消えなかった場合、ずっとこれからも幽霊平林の姿を見続けることになるのだ。そればかりか、彼と人間社会の大悪を成敗するというその手助けをせねばならなくなるのだ。だから、この不安感も半ばあった。中位相処理されたマヨネーズは間違いなく数日後には彼の手元へ宅急便で届くだろう。問題は、それからなのだ。
 上山の予想どおり、中位相処理されたマヨネーズが届いたのは、それから三日後だった。宅急便の小箱内には、佃(つくだ)教授の走り書きが添えられていた。
━ 出来ましたので、お届けさせて戴きました。取り分けて他のマヨネーズと成分が変わったとか、そういうことは前回同様、一切ございませんので安心なさって下さいませ。何ぞありましたら私、佃まで一報下さいますように 霊動学研究所 佃公介 ━
 丁重な書面は佃教授の性格を物語る。上山は、さっそくそのマヨネーズを試してみることにした。処方箋はまったくない。しかし、幽霊平林は滑川(なめかわ)教授に云われたのと同じように、一日三回、朝昼晩と試してみることにした。そして、その日の夜、いよいよ口にする寸前に、滑川教授にもこのことを一応、伝えておこうと、上山は電話をした。
「君かっ! どうしたんだね、こんな時刻に?」
「実は教授、平林の効果が絶大なんで、私もやってみようということになったんですよ」
「おお、そうか…。連絡が途絶えとったから、気にはなっておったんだ…」
 滑川教授は幾分、声を大きくして、そう云った。
「それで、一応は教授にお話だけでもと思いまして…」
「そうか。それで、この時刻か…、なるほど。私は構わんのだが…。だがもう、そろそろ閉めようと思っておったところだからよかった…」
「いや、こちらこそよかったですよ、おられて。まあ、そんなことです…」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十一回)

2011年10月25日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第五十一回
「止まれた? …ああ、動かなくなったということですか?」
「はい。自分の意志で停止出来る状態に、ほとんど戻ったそうです」
「ほう…。それは、よかった」
 佃(つくだ)教授は上山からマヨネーズを受け取りながら、そう云った。
「そうそう…。これは滑川(なめかわ)教授にも云ってもらいたいんですが、私と平林に新たな展開があるかも知れないんです」
「えっ? それはどういうことでしょう?」
「まあ、私のソレによってなんですがね」
 上山は佃教授が握ったマヨネーズを指さした。
「これですか。これが、どういう展開を?」
「ええ…。ですから、平林で効いたマヨネーズを私が口にして、果してどうなるか? という展開ですよ」
「と、いいますと?」
「私が平林を見えなくなれば、それはそれで、ひとまずはTHE END なんですが…」
「今までどおりだと、どうなるんです?」
「そこなんですよ、問題は。平林の方には新しい展開があったんですが、私の場合はどうなるのか、今は、まだ何とも云えません。っていうか、私にもその先は未知数なんですよ。だから分かっていて云えないんじゃなくって、分からないから云えない、という意味です」
「なんか、ややこしいんですね、霊界がらみだと…」
「ええ…。まあ、このことは、霊動学の教授だから云えるんですが…。普通の人に云えば、変人扱いですよ」
「ははは…、そりゃそうです」
 上山は佃教授の賑やかな笑顔を久しぶりに見た。


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第五十回)

2011年10月24日 00時00分00秒 | #小説

幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
    
第五十回
「それならそれで、いいでしょう。人間界の社会悪は、私が霊界司様に命じられた問題です。私一人で続けますよ」
「あ、それはまあ、そうしてもらうしか、なかろうがな…」
 なんとも、ややこしく話が絡み込んだので、二人は腕組みをして考え込んだ。
(1) 上山は中位相処理したマヨネーズにより、まず自分の変化
   を観る。そしてその結果、特に変化が観られなかった場合
   は幽霊平林と協力して社会悪を滅する。変化があり、幽霊
   平林の姿が見えなくなった場合(普通に戻った場合)は、社
   会悪の根絶は幽霊平林に委ねる。
(2) 幽霊平林は霊界司、または霊界番人に、人間社会の大悪
   とは具体的にどういうことを指すのかを訊(たず)ね、確認
   する。
 二人はこの二点を決め、別れた。上山の酔いは、すっかり醒めていた。すでに夜中の三時を回っていた。
 上山が佃(つくだ)教授の研究所を訪ねたのは、その二日後だった。もちろん、事前に教授へ電話をし、承諾を取ってからの来訪である。その目的は、幽霊平林と打ち合わせた通り、中位相処理のマヨネ-ズを作ってもらうためである。その日は当然、日曜で、上山は休みだった。
「おお上山さん、どうされました?」
「ああ、教授。…実は、もう一本、これを中位相にしてもらいたいのです」
 上山は手にしたマヨネーズを佃(つくだ)教授に差し出して、そう云った。実は電話では佃教授の都合を確認し、二日後に寄せてもらうとだけしか云ってなかったのだ。
「そんなことでしたか。分かりました。…しかしですな。今日も生憎(あいにく)、日曜でして助手達がいませんので、この前と同様に後日、宅配便で送らせてもらいたいのですが…」
「はい、それで結構でございます。なにぶん、よろしくお願い致します」
「では、そうさせて戴きます。ところで、アチラの方には届きましたか?」
「ええ、お蔭さまで…。それに効果は抜群で、止まれたようです」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第四十九回)

2011年10月23日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第四十九回
このことは、やはり上山には伏せた方がいいだろう…という結論に達したとき、人間界の上山が幽霊平林を呼んだ。その瞬間、刹那(せつな)の閃(ひらめ)きが起き、幽霊平林は引き寄せられるかのように人間界へ姿を現した。そして、現れた瞬間、間髪入れず上山へ云った。
「課長! これ見て下さい」
 云い終わるや、幽霊平林は胸元へ挿した如意の筆を手に取ると、目を閉じて軽く振った。すると、どうだろう。上山の前に置かれた湯呑(ゆのみ)から湯気が上り始めた。
「なんだ! どうしたって云うんだっ! お前! …いや、君。神通力か何か、身につけたのか?」
『いえ、そうじゃないんです、課長。これです…』
 幽霊平林は霊界司から授かった如意の筆を上山の前へ差し出した。
「……、その輝く筆は、何だい?」
『霊界で授かった如意の筆という霊験あらたかな筆です』
「ほう、如意の筆か…。見ただけで何やらご利益(りやく)がありそうな筆だが、これがどうかしたのか?」
「はい。霊界司様は、これで人間界の大悪を滅せよ、と申されました」
「そんな大仰な…。私と君は、元に戻りゃいいと、ただそれだけで動いてきたんだぜ」
『ええ、それはそうなんですが…。課長は、いいとしても、僕の方は霊界に受け入れられる普通の御霊(みたま)の姿になる必要があるんです』
「なるほど…。私にはよく分からんそちらの霊界の話だな」
『人間界の大悪とは何なのか、これは僕も訊(き)く必要はあるんですが…』
「で、私にどうしろと云うんだい、君?」
『どうしろ、などと…。まだマヨネーズの一件も片づいてませんし…』
「そうだよ。中位相処理をしたマヨネーズの一件を片づけてからにしようや」
『はい、分かりました。課長は、ひとまずマヨネーズをやって下さい』
「やるのはいいが、飲み込んだ途端、君に会えない普通の状態に戻ったらどうするんだ?」


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連載小説 幽霊パッション 第二章 (第四十八回)

2011年10月22日 00時00分00秒 | #小説

 幽霊パッション 第二章  水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
    
第四十八回
「ともかく、僕は効いたってことで…。次はマヨネーズ、持ってきますから課長も…」
「いや、あれは君専用ってことで。そちらへ、…つまり霊界へ置いとけよ。私は、また佃(つくだ)教授に霊磁波ビーム装置で作ってもらうから」
『ああ、そうでしたね。マヨネーズって、どこでもありますからね。マイ・マヨにしときます』
「マイ・マヨは、いい! ははは…。が、そういうことだ」
 その後、しばらく雑談は続き、二人は別れた。
 幽霊平林には霊界の知り合いがいることはいる。しかし、霊界の決めによって、そう簡単には会えないのが実情だった。その男は幽霊平林と同じ頃、霊界へ来たのだが、どういう訳か幽霊姿でさ迷っていたのだ。いつやら上山に安請け合いして、訊(き)いておく…とか云ったのだが、正直なところ、霊界番人の許しをもらわねば会えないのが現状だった。今はその男が住処(すみか)を訪れなくなったから、というより、霊界の決めを霊界番人に厳(きび)しく諭(さと)されたか、あるいは御霊(みたま)になってしまったから来なくなったに相違なかった。そのことは、上山にまだ云っていない。上山への隠し事は如意の筆とこのことの二つだが、こちらは決して隠そうとして隠しているのではなく、忘れていたのである。だが、孰(いず)れは話さないと、上山との意思疎通が損なわれる…とは思う幽霊平林だった。そんなことで、次に上山と会ったとき如意の筆について話そうと思った。だいいち、霊界番人に命じた霊界司の意向を、そういつまでも無碍(むげ)には出来ない。ただ、幽霊平林には、━ 俗世の大悪を滅せよ ━ と云われた、その大悪が何なのかが分からない。単なる個々の社会悪なのか…、いや、それならば、大悪とは云わないだろう、と思えた。それが何なのか…、霊界司様は人間界を浄化することでそれを理解せよ、と仰せなのか…と幽霊平林は思えた。そして、社会の大悪を滅したとき、自分はこの霊界に受け入れられ御霊(みたま)の姿になるのだろう…とも。


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