水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (16)花見

2020年04月30日 00時00分00秒 | #小説

 目の前に満開の景色があれば、誰も花見を忘れる者はいないだろう。^^ 忘れようとしても、忘れられない景色が目の前にあるからだ。そうすると、いくらもの忘れが進んだお年寄りでも、『こりゃ、花見だな…何か適当に買っていこう!』などと思ったりするはずだ。しかし、目の前に満開の景色がなければ、いくら「お父さん、お花見ですからねっ! 忘れず買ってきて下さいよっ!」と老妻に言われたとしても、「忘れたんですかっ!」となるのが落ちだ。^^
 満開の桜の下(もと)、花見が宴(えん)たけなわに繰(く)り広げられている。
「いい具合に咲いてますなぁ~」
「はぁ、いい眺(なが)めです…」
「毎年ですから、花見だけは忘れませんっ!」
「そうそう! 日本には花見があるっ!」
「何がなくても、、花見は出来ますからなぁ~」
「ははは…まあ、酒と肴(さかな)は、あった方がいいですが…」
「ははは…さようで」
 花見は忘れることなく、話が盛り上がるのである。^^
  
                                  

 


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忘れるユーモア短編集 (15)予定

2020年04月29日 00時00分00秒 | #小説

 決めていた予定を忘れることがある。誰も忘れようとして忘れる訳ではないが、俄かの用とか不測の事態などが起きたときに忘れる場合が多い。しかし、食べることを忘れる者がいないのは不思議といえば不思議だ。^^
 とある弁護士事務所の所長と所員の会話である。
「あ~君! 新幹線のチケット、取っといてくれた?」
「新幹線のチケット? なんですか、それっ?」
「馬っ鹿! 二日前、弁護士会があるから取っといてくれ、って言ったよねっ!」
「… そうでした?」
「そうでした、って君っ!」
「あっ! ああ、そういえば…」
「言っただろっ!」
「はい、確かに予定が入ったから取っといてくれって言っておられました…」
「だろっ!?」
「はい。でも、昨日(きのう)、その予定が中止で消えたから、チケットをキャンセルしてくれって言われましたよねっ?」
「ええっ! そうだった?」
「言われました、言われましたっ! 私、駅へまた足を運びましたから…」
「? …ああ、そうそう! すっかり忘れてたよ。で、渡したお金は?」
「えっ!? ああ、でしたよね…」
 所員は、チャッカリしてるな。そういうことは憶えてるんだ…と思ったが、口にはせず笑って返した。
 予定は忘れても、お金のことは忘れることがない・・というお話である。^^

                                   


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忘れるユーモア短編集 (14)都合がいい

2020年04月28日 00時00分00秒 | #小説

 忘れるのも都合がいい場合がある。どういう場合? とお思いの方もおられようから、多くを語らず次の話をお読みいただくことにしよう。^^
 とある老人会である。
「すっかり、いい気候になりましたねぇ~」
「そうそう! すっかり、春めいて…桜も終わりですかね…」
「散り始めましたね~。桜? そうそう! そういや、一昨日(おととい)、花見で貸した缶酒のお代、まだもらってませんでしたねっ!」
「もう平成も終わりっ! あと、少しになりました…」
「そうそう! あと半月(はんつき)ばかりです。令和(れいわ)でしたか?」
「ですね。私、竹輪(ちくわ)と付けました…」
「ははは…勝手に付けちゃいけないっ! で、その意は?」
「…私、竹輪が大好きなんですっ!」
「好きだから付けた? 安い元号だっ!」
「でも、安くて魚肉タンパクたっぷりですよっ! 皆さん、竹輪をどんどん食べましょう!」
「なるほどっ! …っていうか、誰に言ってるんですっ!? それで、缶酒のお代はっ?」
「お札(さつ)、変わるんですっ!?」
「そうそう、お札! 渋沢栄一さん、津田梅子さん、北里柴三郎さん。確か、五年後だとか…」
「はい。まあ、私らのところへはお寄りにはならないんでしょうが…」
「ははは…そんなことはっ! ところで、缶酒代は?」
「あっ! もうこんな時間! そろそろお昼のお弁当が出ますよっ! 参りましょうか?」
「ですね…」
 缶酒のお代の話は、ついに立ち消えた。
 都合がいい話の転換は、上手(うま)くやれば相手が忘れることになる。^^
 
                                  


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忘れるユーモア短編集 (13)貧困

2020年04月27日 00時00分00秒 | #小説

 困ったことに、貧困の時代を切り抜けた日本が今、その苦しかった時代を忘れようとしている。その時代を知っている人々は忘れることはないだろう。だが、戦後七十余年を経て、貧困だった戦後の一時代を知っている世代が減少し、貧困を知らない豊かな時代に育った世代が増えるに従い、日本の貧困は過去のものになりつつある・・と、まあ、言いたいが、実はそうではなく、日本は相変わらず貧困が続いているのである。えっ! そんな馬鹿なっ! とお怒りの方も、次のお話を読んでいただければ得心がいくことだろう。^^
 とある小料理屋で二人の男がカウンターで小皿の酒の肴(さかな)を食べながら飲んでいる。
「親父さん、熱燗、もう一本っ!」
「尾串(おぐし)さん! 飲み過ぎですよっ!」
「そうだよ尾串、親父さんの言うとおりだっ! 五本目じゃないかっ!」
「馬鹿野郎! これが飲まずにいられるかっ! だいたい、今の日本は貧困を忘れるとるっ!」
「貧困って、今の日本が? ははは…こんないい暮らしをさせてもらってるのにっ? お前、どうかしてるんじゃないかっ? 飲み過ぎっ! 飲み過ぎだよっ!」
「馬っ鹿! 俺はちっとも酔っちゃいねえやっ! 本当(ほんと)のことを言ってるだけだっ!」
「? よく分かんねぇな。どういうこと?」
「だって、そうじゃねえか。よい暮らし? そりゃ、こうして飲んで食えるいい時代さっ! しかしだっ! 国は赤字国債を発行し続け、累積債務は千兆越えてるって言うじゃねえかっ! 千兆だよっ! 豆腐の千丁じゃねえぞっ!」
「そんなこたぁ、分かってるよっ! お前、やっぱ酔ってるっ!」
「いや、酔っちゃいねえ! 金借りていい暮らしなら誰だって出来るっ! 俺だって出来るっ!」
「まあ、そりゃそうだが…」
「だろっ!? 金借りていいもの着て、いいもの食べて、いいとこに住むなんて誰だって出来るっ! それが今の貧困の日本さっ!」
「なるほどっ! いいこと言いなさる。酔っちゃいませんね、尾串さん! これは私の驕(おご)りで…。でも、もう、これっきりですよっ!」
 店の親父は尾串に熱燗(あつかん)を一本、サービスしてカウンターへ置いた。
「ぅぅぅ…親父さん、貧困、分かってくれるかいっ! ぅぅぅ…」
「えっ!? ええ、ええ…」
 泣き始めた尾串を見て、店の親父は怒るか泣くか、どっちかにしてくれっ! と思ったが、むろんそんなことは言えず、笑って流した。
 本当の貧困は姿を現(あらわ)さないから、忘れることになるのかも知れない。皆さん! 私達は貧困そのものなんですよっ!^^
 
                                  


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忘れるユーモア短編集 (12)買い物

2020年04月26日 00時00分00秒 | #小説

 買い物をする場合、買い忘れることがないようメモるなどして未然に防いだ方がいいだろう。…とは、私が勝手に思うだけで、記憶力がいい方なら、「そんなことくらい憶(おぼ)えておけっ!」と怒られることだろう。まあ、そんな方でも、忘れておられることは多々ある訳だが、ここは敢(あ)えてそのことには触(ふ)れないことにしたい。^^
 とある町にあるスーパーマーケットの店内である。互いに顔見知りの二人の主婦が、バッタリ出食わした。
「あらっ! 太羅場(たらば)の奥さまじゃありません!?」
「まあ! 逗輪井(ずわい)の奥さまっ!」
「お買い物ですのっ?」
「えっ!? はい、まあ…。買い忘れた香辛料がありましたのっ!」
 と、言いながら、太羅場は買った菓子類をさりげなく買い物袋で隠し、楚々(そそ)と返した。
「そうですのっ? 香辛料、大量にお買い求めになられたんですのね」
 逗輪井は菓子類と分かってはいたが、遠回しの嫌味(いやみ)で、チクリ! と太羅場を刺した。
「ほほほ…、それじゃ!」
 ここは逃げるが勝ちっ! とばかりに、太羅場は笑って暈(ぼか)し、早足でレジへと消えた。
 [忘れる]という言い訳で、買い物の内容を誤魔化すことも可能なのである。^^  
  
                                  


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忘れるユーモア短編集 (11)言霊(ことだま)

2020年04月25日 00時00分00秒 | #小説

 口を開いて話せば、言葉となって相手に伝わる。その言葉を聞いた相手は、その聞いた相手に言葉を返えす。この繰り返しが会話である。同じ内容の会話でも、その話し方で相手の気分が変化する。これが言葉が持つ言霊(ことだま)の見えない力だが、何気なく話していると、ついつい忘れてしまう場合が多くなる。忘れれば、場合により相手は気分を害すこともある。弔問の電話をかけ、タメ口で返されれば気分が悪いように、話し方には言霊を動かす作用があるから、簡単なようで、実は非常に難しいのである。
 とある結婚式会場である。一人の男が友人の招待でやって来た。友人の隣に花嫁がいる手前、男は紋切り型の丁重(ていちょう)な挨拶をした。
「このたびは、おめでとうございます…」
「なんだよ、他人行儀なっ! よく来てくれたなっ!」
「いやいや、ご招待を受けましたので…」
「ははは…。そりゃまあそうだが…」
「では…」
「おっ! まあ、ゆっくりしてってくれやっ!」
「有難うございます…」
 これではどちらが主賓(しゅひん)なのか分からない。本末転倒(ほんまつてんとう)なのである。『チェッ! お高くとまりやがって!』と思われても仕方がないところだ。主賓は招待客に対して丁重かつ低姿勢でなければ、相手の機嫌を損なうことにもなりかねない。
「いやっ! おめでとう!」
「有難うございます! ゆっくりしてって下さい」
「おっ! それじゃ、まだあとでなっ!」
 このように話せば、言霊は気分を損なうことなく伝わるのである。親(した)しき仲にも礼儀あり・・とは上手(うま)く言ったものだが、忘れることのないようにしなければいけない。^^ 
 
                                  


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忘れるユーモア短編集 (10)後始末(あとしまつ)

2020年04月24日 00時00分00秒 | #小説

 物事を始める前には、まず、入り用の物を準備する。だが、その物事が終ったあと、後始末(あとしまつ)が必然的について回る。ここで、後始末を忘れることなく、きっちり出来る人と、乱雑に散らかしたまま放っておく出来ない人の二(ふた)通りに分かたれることになる。生まれついての性分(しょうぶん)は直しようもないが、まあ、注意と努力である程度は修復可能なのは確かだ。お恥ずかしい話ながら、かくいう私も、先だって使用した園芸ショベルをそのまま置き忘れ、探し回ったことがあった。^^
 とある普通家庭の一コマである。
「なぜ、忘れるのっ! 水瀬(みなせ)ちゃん! 遊び道具はきっちりしまわなきゃダメでしょ!」
「はぁ~~~いっ!」
「なに! その返事はっ! はいっ! でしょ!」
「はいっ!」
 今年、保育園児から幼稚園児になったばかりの水瀬は、この家族の長男坊である。ここは母親の香澄(かすみ)に逆らっては拙(まず)い…と判断し、素直に従うことにした。というのには、もう一つ大きな理由があった。今夜の特性ハンバーグが作ってもらえなくなる危険性を秘めていたからである。実に小さい悩みだ。^^ 世話がかかるわ…というテンションが下がる気分で、香澄は水瀬にリクエストされた夕飯のハンバーグ作りをすっかり忘れることになった。要は、水瀬が遊び道具の後始末を忘れたこと=ハンバーグ作りを忘れる気分・・という等式が成立した訳である。^^
 だからという訳ではないが、ハンバーグを食べたいなら、後始末はきちんとしよう! ということになる。幼児の諸君、お分かりかな?^^
 
                                  


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忘れるユーモア短編集 (9)記憶

2020年04月23日 00時00分00秒 | #小説

 国営テレビのドラマにもなったが、記憶は私達が生活する上で大事な頭脳の働きであることは誰しもが認めるだろう。
『…どちらさんでした?』
『あら、いやだっ! 忘れちゃったのっ? 私! 私よっ! 三軒隣のお美代ちゃん!!』
『… あっ! お美代ちゃん!! すっかり変ったからさあ、分かんなかったよっ! もう、すっかり婆ちゃんだなっ!』
『あら、いやだっ! まだ、おねえさん気分なんだから、もうっ!!』
『ははは…こりゃ、失礼!』
 なんて会話が成立する記憶は、一時的に忘れる記憶で、面影などで、すぐ甦(よみがえ)るから、まだいい。^^ そこへいくと、若年性アルツハイマー病による記憶の途絶は、ゆゆしき事態となる。だから、記憶は大事ということになるが、むろん、邪魔となる記憶もある。
 とある家庭の一場面である。
「あらっ? あなたっ! 今月の明細、先月と同じじゃないっ!?」
「んっ? それが、どうかしたかっ?」
「どうかしたかって、来月からアップするって言ってたじゃないっ!」
「? 俺、そんなこと言ったか?」
「言ったわよっ! 言った言った!!」
 妻は[言った]を強調して激しく詰め寄った。
「そうかぁ~? 全然、記憶にないんだが…。…あっ! 言ったかも知れん、ははは…」
「でしょ!?」
「いやぁ~、会社の業績が俄(にわ)かに悪くなってさっ! 昇給が見送られたんだよっ、実は。ははは…悪いなっ!」
「なんだ、そうだったの。それなら、まあ仕方ないわね。倒産よりは、いいか…」
「そうそう! 聞いた記憶は忘れて、忘れてっ!」
 亭主は[忘れて]を強調して、かろうじて妻の攻撃を回避(かいひ)した。
「そうね…」
 かくして、この夫婦のトラブルは未然に防がれたのである。^^
 悪い記憶は早く忘れることが人生を歩む上で重要なようだ。^^
 
                                  


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忘れるユーモア短編集 (8)出がけ

2020年04月22日 00時00分00秒 | #小説

 サラリーマンの方なら心当たりがお有りだろうが、出がけに小物を忘れる失態をされたことはないだろうか?^^ 『しまった! デスクの鍵をっ!』とかいうやつだ。^^ 『まっ、いいか…。予備の鍵で開けりゃ…。…? 待てよっ? 予備の鍵ってどこにあったっけ?』ということに思考は巡り、勢いよく家を飛び出たまではよかったが、結局、自宅へUターンということになる。出がけはその日の物事を始める起点になるから、物を忘れることのないよう注意しよう! という結論になる。^^
 とある通勤電車の中である。同じ会社のサラリマン二人が座席に座り、話し合っている。
「ははは…今日は座れましたねっ!」
「えっ!? ああ、まあ…」
「どうされました? なにか忘れられました?」
「いや、忘れたというほどのものじゃないんですが…」
「なんです?」
「ははは…笑われるでしょ」
「いや、笑いませんからっ!」
「いやいや、笑うに決まってる!」
「絶対、笑いませんからっ! なんです?」
「ははは…そうですか? それじゃ。実はハンカチです」
「えっ? ハンカチ? なんだ…」
「いや、ただのハンカチじゃないんです。思い出の詰まった大切なハンカチです。僕は、アレがなかったら仕事が、ぅぅぅ…手につかないんですっ!」
「たかがハンカチ一枚で泣くこたぁないじゃないですかっ!」
「出がけが悪いっ! うちの嫁が悪いっ!」
「そんなに興奮されずっ! 血圧、高いんでしょ? 身体(からだ)に毒ですよっ!」
「ああ、どうも…。いや、実はうちの嫁が出がけに…。あっ! ありましたっ! 昨日(きのう)、ここへ入れたんだ…」
 大切な思い出が詰まったハンカチは鞄(かばん)の中から見つかった。
「ははは…よかったじゃないですかっ!」
 宥(なだ)め役のサラリーマンは、忘れるなっ! と思ったが、顔では笑って我慢した。  ともかく、出がけに忘れるのはよくないようだ。^^
  
                                


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忘れるユーモア短編集 (7)答弁(とうべん)

2020年04月21日 00時00分00秒 | #小説

 よく忘れる方が多いのに、国会の答弁(とうべん)がある。「記憶いたしてございません…」とか、「一切、記憶にございませんっ!」「なにぶん、遠い昔の話でございまして…」などと遠回しに質問から逃避する手法である。むろん、本当に忘れるケースもあるにはあるだろう…。がっ! しかしである。それではサラリーマン議員で、国民に対して無責任きわまりない話となる。まあ、クレージーキャッツの植木さんなら、♪議員座席にドスン! と座りゃ~ あとはどうにかなるものさぁ~♪と唄ったことだろう。^^
 とある季節の国会である。
「いやぁ~暑いですなぁ、今日も…」
「ほんとにもう! クールビズぐらいではっ!」
「そうですなっ! アイスビズで氷になりたい気分ですなっ!」
「そういや、アソコに冷たい氷のような方が…」
「凍ったように、よく忘れられる方ですなっ! はっはっはっ…」
「はっはっはっ…」
 議員の皆さんは、忘れる答弁で謗(そし)られる議員にはなりたくないことだろう。
   
                                


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