水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (4)する前、した後(あと)

2019年09月30日 00時00分00秒 | #小説

 目の前に滅法(めっぽう)美味(おい)しいスイーツがあるとしよう。さあさあっ! とニヤけながら食べようとした瞬間、具合が悪いことに突然、俄(にわ)かな用事が舞い込んだとき、さて、あなたならどうするだろう? ^^ むろん、急ぎの用事なら、なんの迷いもなく用事を済ます筈(はず)である。ところが問題は、その用事がそんなに急ぎでもなく、明日までにやっておけばいい・・程度のことだった場合だ。当然、食べてからでもよく、食べる前でもいい訳である。要するに、する前、した後(あと)のどのタイミングで食べるか? ということになる。「いつ食べようとそんなの、本人の自由だろっ!」と言われる方もおられることだろう。その通りだが、ここでは楽しい気分に焦点(しょうてん)を絞(しぼ)り、どちらが先ならどうなのか? という点で話を起こすことにしたい。起こさないで眠らせておいて欲しい…と思う方は、そのままグゥ~スカと鼻提灯(はなぢょうちん)でも膨(ふく)らませて眠っていて下されば、それでいい。^^
 とある家庭の日曜の一場面である。
「パパっ! スキ焼が煮えたよっ!」
 今年で小学四年生になる長男がキッチンから声を投げた。
「ああ、分かったっ! 今行くからっ!!」
 一応そう言っておこう…と返事をした父親だったが、内心では迷いに迷っていた。し始めた日曜大工が出来上がる矢先だったのである。出来上がる寸前の日曜大工が先か? あるいは美味(うま)そうに煮えたであろうスキ焼が先か? の二択(にたく)問題である。よくよく考えれば、日曜大工は食べてからでも出来る訳である。ところが、スキ焼きは家族に突(つつ)かれて食べられ、その原形を留(とど)めてくれはしないだろう。煮え過ぎたり、美味(おい)しい肉をほとんど食べられてしまう…という危険もある訳だ。ということは、すぐキッチンへっ! という結論が導かれる。父親は楽しい気分の違いで食い気を選択し、キッチンへと向かった。その後、ワイワイと楽しい気分で団欒(だんらん)をしながら食べ終えた父親は、さてっ! と日曜大工を仕上げようとした。ところが、そのとき緊急の呼び出し電話が病院から入ったのである。急患が担(かつ)ぎこまれた・・という内容だ。むろん、日曜大工を続けているどころの話ではない。父親はそのまま急いで車に飛び乗り、勤務先の病院へ急行する破目に陥(おちい)った。結局、完成前の日曜大工は持ち越しとなり、その後も諸事の都合が重なり、未(いま)だに完成していないそうだ。
 する前、した後・・どちらを選ぶかは本人の自由だが、楽しい気分は後に取っておいた方がいいのか、それとも味わってしまった方がいいのか? という卵とニワトリのような、どぉ~~でもいいお話である。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (3)日課

2019年09月29日 00時00分00秒 | #小説

 毎日のお決まりを苦もなく熟(こな)すことを日課と人は呼ぶ。苦に思えば、三日坊主の名のとおり、いつの間にか立ち消えてしまうだろう。それが続いて日課となれば、これはもう、本人が苦に思っていないと断言する他(ほか)はない。日課が続くには、本人にその日課の楽しい一面が潜在意識として存在している必要がある。ただし、日課が悪く作用すると生活習慣病になることがあるから注意したいものだ。^^
 ご隠居が日課にしている盆栽鉢の手入れを楽しい気分でしている。選定用に態々(わざわざ)買い求めた小鋏(こばさみ)の切れ具合を試(ため)しているようだ。
「ふふふ…どれどれ。おう! なかなか、よう切れるのう!」
 新品の鋏がよく切れるのは当たり前なのだが、ご隠居は楽しい作業ゆえか、ご機嫌がいい。そこへ、現れなくてもいいのに、この家の主人が現れた。さらに、現れるだけならいいのだが、声をかけなくてもいいのに、ご隠居に声をかけてしまったから、さあ、いけない!
「父さん、そろそろ夕飯ですよっ!」
「んっ?! 何だお前かっ! そんなことは分かっとるっ! 少し黙っていてくれっ!」
「はい。なんだ、お手入れでしたか。盆栽はそうは伸びませんから数日に一回程度でよろしいんじゃないでしょうか」
 このひと言が、ご隠居の怒りに火をつけた。
「やかましいっ!! 何も分からんくせにゴチャゴチャ言うなっ! 鉢物は一日でダメになる場合だってあるんだっ!!」
「そうなんですか…。私は余り知らないもので…」
「知らないなら、口を出すなっ!」
「はあ、もっともです。では…」
 これ以上、ご機嫌を損(そこ)ねては…と思えたのだろう。ご主人は早々に退散した。楽しい気分が消えてしまったご隠居は、続ける意欲をすっかり失(な)くしてしまった。
「まあ、今日は、これまでにするか…」
 腹が減っていたのか、スンナリと作業を終えたご隠居はキッチンへと急いだ。庭先には仕舞い忘れられた新品の小鋏がポツンと置かれていた。
『チェ! 忘れられちゃ、おいらはちっとも楽しかねえよっ!』
 小鋏が、そう言ったか言わなかったかは定かではない。^^ 
 日課は、楽しい気分が変化しない程度の継続が望まれるようだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (2)趣味

2019年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 趣味は私達人間にとって、実に楽しい時間を過ごせる大切な生活の一部である。趣味によって人は疲れた心を癒(いや)され、リフレッシュすることが出来る。いわば、心をケアする投薬の効果を持つ。しかしそれは、個人だけのものであって、赤の他人には何の効果も齎(もたら)さない。要するに、毒にも薬にもならない。『ふ~~ん、そうなんだ。あの人があんな趣味をねぇ~。ははは…物好きだな』くらいに思われ、笑われるのが相場ということになる。^^ だが、その人にとっては、その趣味の時間こそが楽しいのであって、『他人にとやかく言われる筋合いはないっ!』と言えるのも事実なのだ。
 とある小学校の一場面である。
「夏休みの宿題、出来た人っ!」
「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」…
 教室の生徒達は一斉(いっせい)に元気よく右手を上げた。
「はいっ! 毛羽(けば)君っ! 君は何を作ってきたのかな?」
 小学二年、星組を担任する女性教師の花瓶(かび)は柔和(にゅうわ)な声で優(やさ)しく訊(たず)ねた。
「先生、コレですっ!!」
 生徒の毛羽が元気のよい声で机の上の自慢作を高らかに上げた。
「何、それっ? 先生、分かんないわっ!」
「これは、おうちの牧場の羊さんの毛で作った羊さんですっ!」
「ふふふ…ややこしいのねっ!」
「ちっともややこしくないと思います。僕の楽しい趣味ですっ!」
「楽しい趣味? 先生、よく分かんないっ!」
「僕の趣味は、おうちの牧場の羊さんの毛を一本づつ引き抜いて集めることですっ!」
「ふ~~ん、変な趣味ねぇ?」
「僕が楽しいんだから、ちっとも変じゃないと思います!」
 女性教師の花瓶はしまった! と、一瞬、失言を悔(く)やんだ。
「ごめんね。先生、ついうっかりしてました。そうね、立派な趣味ですっ!」
「先生、もういいですか?」
「あ、有難う! もういいわよ、毛羽君」
 毛羽は立ち疲れていたのだ。
 変な趣味も楽しい趣味なのである。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (1)楽しい

2019年09月27日 00時00分00秒 | #小説

 生きていく上で、楽しい世渡りが出来れば、誰もそれがいいに決まっている。そりゃ、そうだっ! と同感される方々も多いと思うが、苦もなくスイィ~~スイィ~~と楽しく人生を渡れるに越したことはない訳だ。^^ このユーモア短編集では、そんな日常のお話の数々を取り上げていきたいと思う。どうでもいい…とお思いの方は、秋の美味(おい)しい鳥肉入りの炊き込みご飯でも食べていただいていれば、それでいい。^^ 楽しい話・・まあ、苦しい話でもいいのだろうが、この方が取り上げるには楽しい気分になれる…と思えた、ただそれだけのズッコイ私的な理由である。^^ ということで、苦しい話の数々は後日に回すとして、いや、回らず、立ち消える可能性も否定は出来ないが、とりあえず話を起こすことにしたい。^^
 とある町の繁華街が大いに賑(にぎ)わっている。そんな中を二人の老人が歩きながら話している。
「最近は生きにくい時代になりましたなっ!」
「さよですなぁ~。私の孫なんぞ、疲れた顔で学校から帰ってきよります。理由を訊(き)くと、なんかいろいろと苦が多いそうですわっ!」
「ほう! それは?」
「詳しい話は分かりませんがな。どうも受験に向けた勉強が大変らしいですっ!」
「なるほどっ! その点、私らの時代は楽しかったですからなっ!」
「さようで。不出来な成績でしたが、大そう怒られることもなく、出来る者も不出来な者も楽しい毎日でしたっ!」
「そうそう! 陰湿なイジメも、ほとんどなかった。それに今は小難しい授業だそうですぞっ! 付いていくのが、やっとらしいですわ」
「私らのときに比べると、随分と難易度が高くなったみたいですなっ?」
「はい、どうもそのようで…。楽しみで入ったクラブ活動も出来んと言っとりました」
「そりゃ、お気の毒なことで…。お孫さんにはご無理をされんよう、よろしゅうお伝え下さい」
「有難うございます。…人込みを避(さ)けている間に、少し歩き疲れましたなっ!」
「おっ! アソコのカフェ前に手頃なテーブル席が出とりますっ!」
「よかったよかった! 美味(うま)いコーヒーでも啜(すす)りながら話の続きをするとしますかっ?」
「そうしましすかっ! 楽しいひとときが一番ですなっ!」
「そのとおりっ!」
 二人は意気投合し、楽しそうにソフトクリームを舐(な)め、もう片方の手で楽しそうに焼き芋を齧(かじ)りながら席についた。
 人生、楽しいひとときが一番! というお粗末なお話である。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (100)都合(つごう)

2019年09月26日 00時00分00秒 | #小説

 物事をしようとするとき、人は都合(つごう)がいいとか悪いとか言って、直接の事情を暈(ぼか)せるから助かる。言われる側からすれば、なぜ都合がいいのか悪いのか? が分からない訳だ。そこが、言う側の味噌である。^^
 とある町役場の職員、玉袋(たまぶくろ)は、惚(ほ)の字の女子職員、子袋(こぶくろ)にコンサートチケットを手渡そうと機会を窺(うかが)っていたが、ついにそのときがやってきた。
「あのぉ~~子袋さん…」
「はい! 何か?」
「実は、カクカクシカジカなんです…」
「それで私に?」
「はい! よかったら、ご一緒にいかがでしょう?」
「ああ、この日…。この日はちょっと都合が…」
 言われた子袋は、内心、ドキッ! としながら、顔では冷静を装(よそお)い、玉袋に返した。実は、同じコンサートチケットを別の男子職員、雁首(かりくび)からすでに貰(もら)っていたからである。そうとは知らない玉袋は、少しテンションを下げた。振られた…と瞬間、思えたからだ。
「ごめんなさいっ!」
「いや、いいんです…」
 片(かた)や、コンサートチケットを子袋に手渡した雁首だったが、その雁首に惚の字の女性職員、舐川(なめかわ)が声をかけた。
「あのぉ~~雁首さん…」
「はい! 何でしょ?」
「実は、シカジカカクカクなんです…」
「それで私に?」
「はい! よかったら、ご一緒にいかがでしょう?」
「すみません! 生憎(あいにく)、この日は都合が…」
 言われた雁首は、内心、ドキッ! としながら、顔では冷静を装い、舐川に返した。同じコンサートチケットを子袋に手渡していたからである。そうとは知らない舐川は、少しテンションを下げた。振られた…と瞬間、思えたからだ。
「ごめんなさいっ!」
「いや、いいんです…」
 偶然とは重なるものである。テンションを落とした舐川と、同じくテンションを落とした玉袋がバッタリと出会い、これまたどういう訳か意気投合した。そうなれば当然、コンサートへ一緒に行くことになる。
 そして、コンサートの当日が巡ってきた。その会場で、こともあろうに、雁首に同伴された子袋は、舐川を同伴した玉袋と出会ってしまったのである。
 ここで問題です。みなさんは、この二つのカップルのその後がどうなったとお考えでしょう!? ^^
 正解を言えば都合が悪いので、四人が助かるよう、伏せることに致しました。正解は次の三つの中にあります。さて、どれでしょう? ^^

[1]そ知らぬ顔で、来たカップルのままコンサートを観た。
[2]苦笑しながらカップルを変り、コンサートを観た。
[3]気まずくなり、双方、コンサートを観ないまま、会場を後(あと)にした。

                                


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助かるユーモア短編集 (99)物

2019年09月25日 00時00分00秒 | #小説

 物が豊富(ほうふ)に揃(そろ)い、何でもあるっ! と威張ったところで、助かるとは限らない。^^ 要は、その物の価値を知り、使い熟(こな)して成功裏(せいこうり)に導(みちび)けるか? にかかっている訳だ。例えば、スポーツの名選手が必ずしも名監督ではないといったようなものだ。チームの各選手の長所を知り、適正に配置や交代をさせ、あるいは策を授けられるか・・にかかっているのである。単なる物は何も言わないし、使えば『はいはい! さよですかっ!』と使われるが、人の場合は生きた物だから、なかなか扱いが難しいだろう。まあそこが、使い熟す監督 冥利(みょうり)につきる点なのかも知れない。
 とある家の日曜の早朝である。
「何よっ! こんな早くからっ! 五月蝿(うるさ)くて寝られやしないわっ! まだ四時半よっ!」
 ガタ、ビシッ! ガガガァ~~!! と雑音を出され、否応(いやおう)なしに起こされた妻は、ご機嫌斜めで主人に文句を言った。
「いや、すまんすまん! 起こすつもりじゃなかったんだが、今日中に作ってしまおうと思ってな…」
「次の日曜もあるんだから、少しずつ楽しんで作りゃいいじゃない」
「ああ、そらまあ、そうなんだが…。ははは…そこが、それ…」
 妻の言い分が正しいからか、主人は語尾(ごび)を濁(にご)した。
「それにしても、音の出し過ぎじゃないっ!」
「ああ、まあな…。思ってた物にならないから、ちょっと道具を使い過ぎたっ! ははは…」
「ははは…じゃないわよっ! ったくっ! いい加減にしてよっ!!」
「はい…」
 主人の反省の小声を聞くと、ご機嫌斜めのまま妻は寝室へと消えた。
「あいつは未(いま)だに使い熟せん…」
 妻が消えたあと、ボソッ! と漏らした主人のひと言である。
 物が使い熟せないと、助かる快適な生活が危ぶまれる・・という助からないお話である。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (98)丸焼き

2019年09月24日 00時00分00秒 | #小説

 人間、空腹に苛(さいな)まれれば何でも食らう。七面鳥[ターキー]やニワトリ[チキン]の丸焼きは美味(おい)しいが、腹が極端に空(す)いていて知らなければ、カラスの丸焼きだって、「こりゃ、美味(うま)いやっ!」などと言いながらカブリつくかも知れないのである。^^ いや、そればかりではない。加えて、「チキンじゃないなっ! 鴨肉(かもにく)かいっ!?」なんてことを訊(き)くかも知れない。^^ 訊かれた方も、「えっ!? ああ、まあそんなとこ…」などと適当に誤魔化(ごまか)してしまえぱ、話は、なおいっそう面白くなる訳だ。^^
 だが、この丸焼きに似通(にかよ)った諸々(もろもろ)の出来事が日常の我々の世界でも起きているのである。
 とある普通家庭の夕暮れどきである。キッチン・テーブル前のテレビがガナっている。
『なお、この受注で大手ホニャララは下請け会社ドコソコに工事を丸投げし、自(みずか)らは何の関与も示さず…』
「ほぉ~~! 丸焼きじゃなく丸投げかっ! 美味そうな話じゃないか…。おいっ! この唐揚(からあ)げ、美味いなっ!」
 主人は丸焼きではない唐揚げを美味そうに頬張りながら、丸投げされたテレビニュースの画面を眺(なが)めた。
「そりゃ、そうよっ! 美味しそうな揚げたてを買ったんだからっ!」
「ああ、そうか…。ホニャララは挙(あ)げられたか…」
「揚げられたじゃないのっ! 揚げたてっ!!」
「んっ! ああ…。どうも丸投げと丸焼きは似てるな…」
 主人は、ボソッと呟(つぶや)いた。
「なんか言ったっ!?」
「いや…」
 このような丸焼き話は他にも多くある訳だが、火付け盗賊改め方が活躍するような事件でなければ助かる話である。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (97)嘘(うそ)

2019年09月23日 00時00分00秒 | #小説

 嘘(うそ)も方便(ほうべん)と、よく言う。だがそれは、どうしても真実を話せない事情があった場合であり、嘘をなるべくつかない方がいいに決まっている。悪い嘘が本当になり、助からなくなる場合もあるからだ。だいいち、嘘ばかりついていると、信用されなくなる。ただ、歌のように、♪折れたぁ~煙草(たばこ)のぉ吸殻でぇ~♪ 嘘が分かれば大いに助かるのだが、そこまでは、分からない。^^
 とある事件の容疑者が、嘘発見器を前にして座らされ、数々の質問をされている。
「あなたは、○○の家へ行きましたね?」
「いいえ…」
 瞬間、発見器の針が激しく揺れた。
「あなたは、○○の部屋へ入りましたね?」
「いいえ…」
 瞬間、発見器の針が、ふたたび激しく揺れた。
「あなたは、○○の部屋のトイレへ入りましたね?」
「はい、入りましたっ! 限界でしたから…」
「…」
 取り調べている試験官は思わず絶句したが、やがて、冷静な声でまた続けた。
「質問には、[いいえ]で答えるように…」
「嘘は、嫌(いや)ですっ!」
 容疑者は否定し、はっきりと言い切った。瞬間、試験官は、この男は犯人じゃないな…と思った。事実、この直感は正しかった。再捜査が行われ、真犯人が捕らえられたのは、その数日後のことである。
 このように、嘘はつかない方が助かることになる。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (96)野趣(やしゅ)

2019年09月22日 00時00分00秒 | #小説

 人とは妙なもので、長期間、便利な都会生活をしていると、ふと、自然の中で暮らしたくなる。そうして、その野趣(やしゅ)な環境に包まれことで気分がホッコリと癒(いや)され、助かる訳だ。^^ この感覚は、本来、潜在意識として身体(からだ)に備わった太古(たいこ)からの本能的なものなのかも知れない。閑静(かんせい)な森林に囲まれた別荘でのリビング[生活]や、キャンピング[テントを携帯的な家とした自然の中の生活]、クライミング[登山]、ケービング[洞窟(どうくつ)探検]、ラフティング[ラフトと呼ばれるゴムボートを使用した急な渓流の沢下り]、ハイキング[自然やハイキングはハイキング ^^ まどと言わずに解説すれば、歴史的な景観を楽しむために軽装で、一定のコースの遠足]などといった自然の野趣に慣(な)れ親(した)しむことで、束(つか)の間(ま)の、ギクシャク[この中には生理的な快適さも含まれる]した生活感を忘れる。ある種の世俗(せぞく)からの離脱(りだつ)行為だ。野性味が呼ぶ訳である。^^
 キャンプ場で、野趣あふれる木と木を擦(こす)り合わせる摩擦熱による自然着火を試みる父親がいる。三人の子供が見ている手前、体裁(ていさい)もあるのか、必死だ。
「ババ、ぜんぜん点(つ)かないじゃん!」
「妙だなぁ~? この前は一髪で点いたんだが…」
 点けたこともないのに、父親は知った風な口を利く。
「早くカレー作ろうよぉ~~! ライター、あるよ…」
「いやいや、この野趣がいいんだ…」
 そこへ、母親がテントの中から現れた。
「野趣もいいけど、このままじゃ日が暮れてしまうわっ!」
「お腹(なか)が減ったよぉ~~っ!」
 一番下の子供が泣き始めた。これでは野趣もへったくれもない。
「分かった…」
 父親は、こりゃ、野趣では助からんな…と思えたのか諦(あきら)め、ライターで火を点けた。
 野趣に拘(こだわ)れば、助かるものも助からない・・というお話である。^^

                                


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助かるユーモア短編集 (95)異質

2019年09月21日 00時00分00秒 | #小説

 民族の違いからか、文化の違いからかは知らないが、日本人から見れば、外国文化が異質に映(うつ)るようだ。スキンシップ[肌と肌の触れ合いによる心の交流]一つ取ってみても、日本人はかなり疎(うと)いと言える。ハグ[抱擁(ほうよう)]もしないし、チュッチュラ、チュッチュラ! もない。^^
 25年ぶりに帰国したヨーロッパ帰りのとある夫婦が街路を歩いている。
「なんか、ヨーロッパと違うわね…」
「そうだな、どこかが異質だ…」
 お互いに手を繋(つな)いで歩くスキンシップな二人を、まるで違う生き物でも見るかのように通行人達は見ない態(てい)で見ながら通り過ぎていく。
「まっ! 日本だからと思えば助かるわ…」
「だなっ! いつもの店で、なにか美味(うま)いものでも食おうかっ!」
「そうね…気にしない、気にしないっ!」
 二人は手をいっそう強く握(にぎ)りしめ、和式西洋レストランへと入った。その和式西洋レストランは実に異質で、入った途端、暖簾(のれん)が掛けられており、その暖簾を上げると、和間が広がる中、畳の上には座布団が敷かれた席が幾つかある佇(たたず)まいとなっていた。二人は揃(そろ)えて小玄関で靴を脱ぎ、席の座布団へと座った。しばらくすると、着物姿のウエイターが現れた。
「いらっしゃいませ…」
 西洋風にそう言いながら水コップを置き、メニュー表を徐(おもむろ)に二人へ手渡した。
「ご注文は…」
「そうだな…。俺はテンダーロイン300g、ミディアム・ウエルダンで…。君はっ?」
「そうね、同じでいいわ。ミディアム…」
「かしこまりました。ワインは、いつもので、よろしゅうございましょうか?」
「ああ…」
 西洋風に一礼すると、着物姿のウエイターは楚々(そそ)と去った。メインディッシュ前のサラダ、スープも済み、しばらくすると料理やワインクーラーに入れられた冷えたワイン、パンなどをワゴンに乗せ、ふたたび現れた。その光景は和風でも洋風でもなく、どこか異質に映った。ところが、二人には同質だったのである。^^
 このように、異質は意識しないことで同質となり、助かる安らいだ心境になれるのである。^^

                                


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