水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

助かるユーモア短編集 (12)バランス

2019年06月30日 00時00分00秒 | #小説

 総(すべ)てに言えるのは、バランスが大事ということだ。バランスは、偏(かたよ)りがなく、均衡(きんこう)が保たれた状態をいう。偏れば均衡が崩(くず)れ、物事が悪い方向へ進む。例(たと)えば政治だと、一党が強いことで誤(あやま)った方針が正当化され、法案が通過して国民の暮らしが悪くなる・・といった具合だ。食事だと、栄養のバランスが崩れることで体調が悪くなる。経済だと、需要と供給のバランスが崩れることで景気が悪くなる・・といったところだ。このバランスを保つ方法や薬があれば人々は大変、助かる。
 とある未来の町の広場である。二人の女性が優雅に話をしている。一人は美人で色気はあるが、見るからにか細く、そしてもう一人はポッチャリといい感じながら、生憎(あいにく)、ブスで色気に乏(とぼ)しかった。そんな二人を遠目(とおめ)に見ながら、二人の男が好きなことを言い合っている。
「どちらも惜しいなぁ~」
「ああ…。バランスが大事・・ということだ。神様や仏様も、もう少しバランスを考えて下さりゃ、俺達も助かるんだがな…」
「ははは…まあ、なにかとお忙(いそが)しいと、ああいう手合いが生まれることになる訳さっ!」
「だなっ!」
 よくよく見れば、話し合っている二人の男も、一人はイケメンながら見るからにか細くひ弱で、もう一人の男も、体格は男らしく筋肉隆々でよかったが、生憎、ブ男で、とても助かりそうになかった。そのとき、大型ハイビジョンの街頭テレビのCMがタイミングよく流れた。
『整形?! そんな必要、もう、ありませんっ! キラリン、新発売っ!! あなたも美人や美男子に必ずなれますっ!』
「ああ、アレな。俺も試(ため)したが、一週間で戻(もど)ったよ、ははは…」
「一週間! ははは…リバウンド一週間は短いよなっ!! せめて、半年なら助かるが…」
「ははは…地道(じみち)なバランス養成だな」
「地道か…」
 助かるバランスは、地道な養成で生まれるようだ。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (11)セフティーネット

2019年06月29日 00時00分00秒 | #小説

 テレビで中継される国会の答弁や演説を聞きたくもないのに知らず知らず聞いていると[聞きたくなければスイッチを切ればいいじゃないかっ! と言われるのは当然です ^^]、セフティーネットとかいう言葉を時折り耳にする。セフティーネット? 何のことじゃ!? と思われる方もお有りだろうが、要は転落に備えた安全確保のための網(あみ)のことである。サーカスの綱(つな)渡りはよくご存知だろうが、綱の下に張られた網(あみ)・・を想像していただければいいだろう。網がないと落下した場合、不幸にも死ぬことになる。国民を守るセフティーネットだから、ないと国民は非常に危うい。国民が助かるためには永田町の諸氏が、もう少し一生懸命、頑張ってもらわないと困る。^^
 二人の暇(ひま)なお方が話をしている。
「来年から消費税が上がるらしい」
「ああ、それは知ってる。いよいよ首を括(くく)るときが来たな、ははは…」
「そんな大げさなっ!」
「それは冗談だが、そういう人も出るさ。国民の生活を保護するセフティーネットは必要だろうな…」
「減量ぜい肉取りナントカだろっ?」
「軽減税率!」
「そう、それっ!」
「飲食品だけでもなっ!」
「品分けが難しいそうだぜ」
「ああ、イギリスがそうだったらしいが、簡単なことさっ! 口に入るものは全部でいいんだっ!」
「なるほどな…。お前が総理大臣になったらどうだっ?」
「ははは…家の掃除をする者がいなくなるから困るっ!」
 二人の雲の上のような話は尽きなかった。セフティーネットが雲の上では、助かるかどうか? は危(あや)うい。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (10)逆風

2019年06月28日 00時00分00秒 | #小説

 逆風だっ! と言う場合がある。自分のしようとしていることに対して反対の動きがある場合などに使われる例(たと)えだ。もちろん、気象状況で、風が進もうとする逆方向へ吹く場合にも使われるが、社会生活で使われる場合は、もっぱら前者だ。では、この逆風に対してどう向き合うか? ということになるが、解決策はすごく簡単で、単純にスゥ~~っと流されることで解決されるのだ。━ 長いものには巻かれろ ━ という格言めいた言葉どおりで、吹く風の方向には逆らわず、吹く方向へUターンすればいい・・というだけの話だ。優柔不断(ゆうじゅうふだん)と言われようが何と言われようが、そうすればいいのである。ただ、風の流れに逆らわない生き方が出来るには、心に一本、確固(かっこ)とした信念が備わっていなければならない。備わっていないと、あいつはお調子者だっ! などと非難された場合、悩んで元も子もなくなる。まあ、逆風には順風で吹き返す・・という手立てもなくはないが、周囲に金、地位、名誉、伝手(つて)、コネなどといった吹き返せるだけの力が必要となってくる。
 株屋(かぶや)と呼ばれる、とあるプロの投資家集団の事務所である。大手のヘッジファンドと真っ向から渡り合う意気のいい小人数の事務所だ。
「…所長! 今は逆風ですっ! 助かるには引きますかっ!!」
「だなっ!! 今は売りでいこう!」
「分かりましたっ! 逃げですねっ!!」
 所員数人のパソコンを握る両手が動き始めた。
「いや! 逃げる訳じゃないっ!」
 数人の所員の両手が動きを止めた。
「飽くまで、そう思わせる陽動(ようどう)作戦だっ! やつらが食いついたところで吊(つ)り上げるっ! 今度のモノはでかいぞっ! よし、行動だっ!!」
「はっ!」「はいっ!」「…!」
 数人の所員の両手が、また動き出した。
 数日後、ヘッジファンドは企業活動不能となり、白旗(しろはた)を掲げて株屋に降伏した。
 こんな筋立てのように、逆風から助かる知恵・・と呼ばれる手法も、あるにはある。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (9)感激

2019年06月27日 00時00分00秒 | #小説

 相手を感激させることで助かる場合がある。そうなるためには、普通のことをしているようではダメだ。1に努力、2に努力、3、4がなくて5に努力・・というほどのものである。^^ 努力することで普通を上回り、普通の人を、オオッ! と感激させることができるのだ。ただ、計算し尽くされた努力だと感激は生まれない。ええっ!! という意外性が感激を呼ぶ訳である。取り分け、その意外性により助かることにでもなれば、その感激は一層(いっそう)、増幅(ぞうふく)されることになるだろう。このお話も、そういった類(たぐ)いの出来事だ。
 とあるコンサートホールである。どういう訳か予定された開演時間だというのにコンサートは始まっていなかった。
「どうしたんでしょうねぇ~?」
「…えっ? ああ、そうですなぁ~」
 指定席の椅子で隣り合わせた二人が話し合っている。しばらくして、女性の館内放送の声が静かに流れた。
『道路事情により出演者○○○○の到着が遅れております。ご迷惑をおかけいたしますが、到着までの間、◎◎◎◎の歌をお楽しみください』
「◎◎◎◎? 誰なんでしょうな? 余り聞かない方ですが?」
「前座とかあるじゃないですか。同じ所属のデビュー前の方と違いますか」
「ああ、なるほど…」
 しばらくすると、館内放送が流した新人歌手◎◎◎◎が静かに登場し、ひと言(こと)、挨拶をしたあと、静かに歌い始めた。このデビュー前の新人歌手が歌っている間に到着すれば、有名歌手○○○○は一応、助かる訳である。
「オオッ!」「…!」・・・・・・・
 曲のよさと新人歌手の歌の上手(うま)さに、場内は一瞬にして感激の坩堝(るつぼ)と化した。
「いいですねっ!!」
「はいっ!! もっと遅れりゃいいんだっ!」
「ははは…そこまで言えば悪いですよっ!」
「ははは…」
 遅れたお蔭(かげ)で、デビュー前の新人歌手の登場となり、助かるはずの有名歌手○○○○は全然、助からなかった・・というお話である。意外な出現は感激を呼ぶ訳だ。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (8)正しい運び方

2019年06月26日 00時00分00秒 | #小説

 物を運ぶ場合、目的を達すればそれでいい・・と普通は思うが、実はそうではなく、正しい運び方というのがあるのだ。^^ 何を言ってるんだっ、あんたはっ! とお怒りの方もあるだろうが、事実なのだから仕方がない。運び方が悪いと、正しい運び方で運んだ場合と同じように目的は達せられるが、その先に展開する結果が全然、違ってきて、助かるものも助からないというのだから怖(こわ)い。^^ ただ、正しい運び方をしても助からない場合も当然、あるにはある。このお話も、そんな一例である。
 とある片田舎(かたいなか)である。地方道を車で走って事故に遭遇(そうぐう)し、怪我(けが)をした男がパトカーで病院へ運ばれようとしていた。掠(かす)り傷だから、運ばれている自分の立場を忘れ、とやかく口が五月蝿(うるさ)い。
「あと何分で着くんです、いったいっ!」
「いやぁ~、そう言われても、ここいらは病院がねえんでねぇ~~旅のお方」
 横柄(おうへい)な口を利(き)く男だな…と警官は思ったが、立場上そうとも言えず、聞き流した。
「まあ、それはいいとして、病院はあるんでしょうなっ!」
「そりゃ~、あるこたぁ~ありますよ」
「こんな掠(かす)り傷、どうでもいいからっ! 駅へ、駅へ頼みますよっ! 今日、着かんと、間に合わんのですっ!」
「そりゃそうなんでしょうがね。私も一応、仕事だもんでっ!」
 巡査も負けてはいない。これが正しい運び方なんだっ! と心に言い聞かせながら、反発して返した。
「分からん人だっ! 私がいいと言ってんだから、それでいいでしょうがっ!」
「いやいや、そういう訳には…。おっ! 見えてきましたっ!」
 巡査の声に男が外を見遣(みや)ると、車が走る前方遠くに民家が見えてきた。だがそれは、どこから見ても病院ではなく、ただの民家だった。
「あれが病院?」
「はいっ! ここいらでは唯一(ゆいいつ)の動物病院でっ!」
「ど、動物病院!」
「はいっ! まあ、あんたも動物なんだから、いいでしょ、ははは…」
「…」
 男は、何がははは…だっ! と怒れたが、そうとも言えず、心で俺は助からん…と思った。
 助かる軽い怪我でも、正しい運び方で心理的に助からない場合があるという、実に馬鹿げたお話である。^^ 

                                 


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助かるユーモア短編集 (7)物忘れ

2019年06月25日 00時00分00秒 | #小説

 年老いてくると、ふと、物忘れするようになる。若くても物忘れの激しい人もいる訳だが、^^ まあ、世間一般の相場では老齢(ろうれい)の人に多いということだ。物忘れは記憶が脳内から消え去る現象だが、文明進歩の昨今(さっこん)、何か入れておく記憶回路保管装置のような入れものでも発明願えれば有り難い限りだ。^^
 ここは、とある将棋愛好会の集会場である。多くの年老いた愛好家が二人一組で盤面を前に対峙(たいじ)し、将棋を楽しんでいる。
「いやぁ~もう、ダメですなっ! 最近はサッパリいかんです。棋譜(きふ)を10分後には忘れとりますからな、ははは…」
「10分後ですか。そりゃ、いい方だっ! 私など覚えた途端、物忘れですわっ、ははは…」
「ははは…。しかし、それでもまあ、棋力(きりょく)は上がっとりますから、それはそれで助かる訳ですが…。アレはどういう訳なんでしょうな?」
「はあ…おそらくは、忘れた分、発想が増えるとか・・なんでは?」
「増えますか? ははは…増えとるかどうかは分かりませんが、まあ助かることは助かっとります」
「今度、知り合いの医者に訊(き)いておきましょう」
「ほう! お知り合いにお医者がっ?」
「はあ、耳鼻科ですが…」
「耳鼻科!?」
 言われた老人は、そりゃ無理だろう…とは思えたが、言い返さずスルー[通す]した。サッカーでいうところの計算し尽(つ)くされたパス回しである。^^ ただ、ボールの行方(ゆくえ)は分からず、物忘れしたかのように二人の会話は途絶えた。
 このように物忘れは、状況により助かる場合も困る場合も出てくる訳だ。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (6)幸運

2019年06月24日 00時00分00秒 | #小説

 おっ! これはこれは…と思える予想外の展開で危機から脱して助かることがある。幸運・・と呼ばれるものだが、目に見えない何らかの力に助けられる訳だ。目に見えないからお礼のしようもなく、ペコリッ! と、頭を下げることくらいしか出来ない。^^ 
 二人の老人が病院の待合所の椅子で話し合っている。
「と言われますと、そう大してお悪くはない訳ですな?」
「ええまあ…。悪いところだらけで、コレっ! といった悪いところが思いつかんのです、ははは…」
「それが、なにより! 悪いところだらけは、幸運なことに助かりますからなっ! ははは…」
「助かりますかっ?」
「ええ! 助かります。現に私が20年来、悪いところだらけで幸運にも助かっておるんですからっ!」
「で、今は?」
「んっ? ええ、まあ…そこそこっ!」
「そこそこっ?」
「はい、今日もこうして弁当持参で来ておる訳ですからな…」
「弁当持参? 診察はっ?!」
「診察? 診察は受けません。時間になれば、茶を買い、食べて飲んで帰るだけです」
「ええっ~~!?」
「病院の空気に触れると、幸運なことに病気が不思議にも遠退(とおの)きますからなっ!」
「遠退きますかっ?」
「はい、遠退きます、幸運にも…。おっ! そろそろ茶を買う時間だっ!」
 そう言って立つと、老人は売店へと向かった。
 まあ、幸運で助かる・・とは、こうした曖昧(あいまい)なものだ。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (5)お決まり

2019年06月23日 00時00分00秒 | #小説

 世間では誰が言うともなく行われる[お決まり]のコースがある。社会常識として日常で起こる現象で、別にしなくてもいい訳だ。^^ だが、しないと周囲の者から冷たい目で見られるから、それを避(さ)けるために、いつの間にか、するでなくさせられている行為である。自身がそう思えれば、それはそれで何の問題もない訳だが、そう思わない人にとっては目に見えない強制力があり、納得(なっとく)できる愉快なものとはならない。^^
 通勤、通学ラッシュ時の、とある駅に到着した電車内である。多くの乗客がドアが開いた途端、車内に雪崩(なだれ)れ込み、ごった返している。その中に紛(まぎ)れ込むように乗った老婆が、周(まわ)りを多くの客に取り囲まれ、苦しそうにしている。縦長(たてなが)の座席が目の前にあるのだが、状況は悪く、ぎっしりと人が座っている。老婆の周りに立つ客達は、気の毒そうな目で老婆に視線を送る。そして、その目は座っている客達を冷たい視線で舐(なめ)るように見回す。恰(あたか)も、『立って譲(ゆず)るのがお決まりだろうがっ!』とでもいう目つきだ。やがてその視線は、必死に小型ゲーム機を弄(いじく)っている中学生に一点集中した。中学生は気づかず、黙々(もくもく)とゲーム機の画面を見続ける。『こりゃ、ダメだっ!』と思えたのだろう。立っている客の視線は、次の獲物を探すかのように二人の青年サラリーマンへと向けられた。一人はスゥ~スゥ~と快(こころよ)い寝息を立てながら首を振り振りウトウトしている。もう一人は真面目(まじめ)に目を開けて座っているだけだ。
「ぼ、僕ですかっ!?」
 視線の圧力に屈(くっ)したのか、真面目に座る青年サラリーマンはそう言いながらヒョイ! とその場で立ち上がった。ウトウト眠るもう一人の青年サラリーマンは、頑張りの残業続きで睡眠不足だった・・という事情があった。
 頑張っていれば、結果としてお決まりのコースから逃(のが)れられ、助かる[注;助からない場合もある]・・という、これもどうでもいいような話である。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (4)暗示(あんじ)

2019年06月22日 00時00分00秒 | #小説

 受験シーズンともなれば、神社仏閣が多くの参詣(さんけい)客で賑(にぎ)わう。もちろん、神様や仏様の有り難いご利益(りやく)を頂戴(ちょうだい)して合格させて貰(もら)おう・・という厚かましい意図(いと)でのお参りだ。参る方は助かりたい一心なのだが、神様や仏様にすれば、そう暇(ひま)を持て余している訳でもないから、忙(いそが)しくなってお弱りのことだろう。
『チェッ! これしきのお賽銭(さいせん)でアノ大かいっ! 厚(あつ)かましいにもほどがあるっ!』
 とは、お思いにならないだろうが、忙しくなるのはお望みではなかろう。^^ そして、合格を果たせば、浪人しなくて助かった…と、そのご利益を有り難く思う訳である。だがこれは、ご利益というより自己への暗示によるところが大きいのだ。それは信心する心が強ければ強いほど増幅される。
 W杯[ワールド・カップ]たけなわの、とあるサッカー場である。観客席には自国チームを応援しようと、多くのサポーターが詰めかけている。試合は1-1で、このまま終了すれば予選敗退、勝てば勝ち点が上回り、決勝トーナメントへ進出できるという、際(きわ)どい剣が峰の一戦だった。
「ダメそうだな…」
「そんなこたぁ、絶対ありませんよっ! きっと勝ちますっ! 今に点が入りますっ!!」
「そうかい? …残りはアディッショナル・タイム6分だよっ!」
「ははは…大丈夫! 6分もありゃ~ぁ! コレがありますっ!」
 訊(き)かれたサポーターは自信ありげに胸元から特大のお守りを取り出した。
「なんだい、そりゃ!?」
「ははは…こういうものですよっ! お、お頼みいたしますっ!!」
 特大のお守りを取り出したサポーターがお守りを頭上(ずじょう)に掲(かか)げたそのときだった。観客のどよめきが一層(いっそう)、大きくなった。応援チームに貴重な追加点が入ったのだ。
「ねっ!!!」
「ああ!!!」
 暗示は助かる力となる。いや、助かる力となる場合もあるという、そんな曖昧(あいまい)なお話である。^^

                                 


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助かるユーモア短編集 (3)もうダメだ…

2019年06月21日 00時00分00秒 | #小説

 何をしても思うようにいかなくなったとき・・そんな状況を人は万事休すと言う。別に万事でなく千事でもいいと思うのだが、まあそう言うのだからそうしておこう。^^ 万事休してもうダメだ…というとき、思ってもいないことで助かることにでもなれば、その喜びは途方もなく大きなものに違いない。今日は、そんなお話だ。
 昔々(むかしむかし)[once upon a time]のことである。とある片田舎に煮干(にぼし)村という小さな山村(さんそん)があった。百姓の与平や村人達は、長く降らない雨に弱り果てていた。日照りがこのまま続けば作物が全滅する恐れがあったからだ。
「弱ったのう。ああ、弱った弱った…」
 少しも弱っていないような顔で、与平は村人達にそう言った。
「ったくっ! おめぇ~は、ちっとも弱っとりゃせんがっ!」
「んだっ、んだっ!」
 他の村人も与平の顔を見ながら異口同音(いくどうおん)にそう言った。与平が弱っていないのには一つの理由があった。与平には天から授(さず)かった先を見通せる能力があり、三日もすれば潤(うるお)いの雨が降ることが疾(と)うに分かっていたからである。
「いやいや、弱っとるよぉ~、おらぁ、十分に弱っとるっ!」
 そう言う与平の顔を、訝(いぶか)しげに村人達は取り囲んで眺(なが)めた。
 そうこうして、三日ほどが経ち、村の者達が待ち望んだ念願の雨が降り注(そそ)ぎ、田畑を潤した。もうダメだ…と、半(なか)ば諦(あきら)めていた村人達の喜びは一入(ひとしお)だったが、それに比べ与平の喜びは今一つ・・といったところだった。
 心底、困り果て、もうダメだ…と思っていたときに助かる喜びは格別だ・・という、どうでもいいようなお話である。^^

                                 


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