水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(18)

2009年01月31日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(18)

41. 街外れの廃屋(内)・昼
     見事に破壊された内部の様子。出入りの凄まじさを物語る。
    宮部  「(咳込んで)汚いわねぇ~。私、こういう所(とこ)苦手なの」
    仙二郎「贅沢(ぜいたく)を云っちゃぁいけませんよ、宮部さん…(と、云
         いながら辺りを見回し)。とは云うものの、確かに汚いですな
         あ…。こりゃ、健康によくない。村田さんには適当に報告しま
         すか?」
    宮部  「そうそう、そうしましょ。どうせ、影車がやったことですしね。
         無駄無駄! …ああ無駄」
     言葉より先に足が外へ動いている宮部。仙二郎も宮部に追随して、
     廃屋を出る。
42. 街外れの廃屋(外)・戸板・昼
     戸板に一枚の紙が五寸釘で刺されている。そこに書かれた“手筈を
     受けりゃ地獄へ落ちるのよぉ”の墨字を、カメラ、アップ。
    N   「手筈を受けりゃ、地獄へ落ちるのよぉ…」
43. 街外れの廃屋(外)・昼
     カメラ、廃屋から離れていく仙二郎達(話し合う二人)の歩く姿を俯瞰
     して撮る。
     テーマ音楽。場面フェード・アウト。
                                第九回 追っ手 


                 流れ唄 影車(挿入歌)

            水本爽涼 作詞  麻生新 作編曲

            なんにも 知らない 初(うぶ)な星…
             健気に 生きてる 幼(おさな)星…
              汚れ騙され 死ねずに生きる
                悲しい女の 流れ唄

              酒場で 出逢った 恋の星…
             捨てられ はぐれて 夜の星…
              いつか倖せ 信じてすがる
                寂しい女の 流れ唄

             あしたは 晴れるか 夢の星…
            それとも しょぼ降る なみだ星…
              辛い宿命を 嘆いて越える
                儚い女の 流れ唄
 


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(17)

2009年01月30日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(17)

    一瞬、出来た隙。仙二郎、その隙に動揺せず、折れた刀を離すと、刹那
    に脇差を抜き、風丸へと投げる。脇差、風丸の胸倉に突き刺さるS.E。
    S.E=ブシュ~っという、牛、豚などの肉会ををナイフ等で切り裂く音。
    風丸、ゆっくりと地へ崩れ落ちる。
   仙二郎「やれやれ…(溜め息を、ゆったりと吐き、地面上の折れた刀を拾
        い、鞘へと納め)高くついたな…」
    仙二郎、続いて風丸に刺さった脇差を抜くと、それも鞘へと納め、歩き
    始める。
    [テーマ曲のオケ3 オフ]
    様子を外で眺めていた伝助、
   伝助  「あっしの出番は、やはり無かったですねぇ…」
   仙二郎「(小笑いして)お前(めえ)の出番がありゃあ、偉(えれ)ぇことに
        なってるぜぇ。無くて、よかったのよ」
   伝助  「へぇ、そのとおりで…(殊勝に)」
    お蔦、又吉、留蔵も次々と現れる。
   留蔵  「手筈で皆が顔、揃えるこたぁ、そうあるめえ(小笑いして)」
   又吉  「…だな」
   お蔦  「皆、首が繋(つな)がってるから、そんな呑気なことが云えんのさ
        ぁ」
   仙二郎「(小笑いして)違(ちげ)ぇねえや…」
   お蔦  「そいじゃ、私ゃ、ひと足お先に失礼するよ(小笑いして)」
    と云うと、お蔦、素早い忍びの動きで走り去る。
   仙二郎「(懐[ふところ]から一枚の紙を出して)伝助、これを刺しておいて
        くれ」
    と、手渡して歩き始める。留蔵、又吉も、それぞれ違う方向へと歩き去
    る。
40. 街外れの廃屋(外)・昼
    事件現場へ行くよう命じられた仙二郎と宮部。二人、廃屋近くへと接
    近する。野次馬は、いつもより少ない。
   宮部 「何かの仲間割れだと聞きました」
   仙二郎「影車にしちゃ、いつもとは、ちょいと違いやしませんか?」
   宮部  「そんなこと、私に訊かれたって分かりませんよ」
   仙二郎「(小笑いして)はは…。そうでした」
    廃屋を取り囲む数人の下役人。御用棒を持ち、周囲を警戒している。
    仙二郎と宮部、廃屋に到着。風丸の死体が転がってるのを横目に、
    仙二郎と宮部、入口に至る。
   下役人「御役目、御苦労に存じます!」
    と云うと、二人を、サッと中へ通す。二人、廃屋へと入っていく。


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(16)

2009年01月29日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(16)

36. 街外れの廃屋(内)・夜 [テーマ曲のオケ1 再イン]
     土丸の崩れた音に気付いた風丸と火丸、ふらつきながら水瓶へと近
     づき、持っている手拭を水に浸けると顔を濡らす。そのあと絞って、口、
     鼻へ宛行う。
    風丸  「火丸! …ぬかるな」
    火丸  「誰だ!! お蔦か?!」
     静寂が流れるのみで、何の返答もない。
    風丸  「どうも、そのようだな(天井を鋭い視線で眺めながら)」
     風丸、燭台へと近づき、蝋燭の炎を吹き消す。
     [テーマ曲のオケ1 オフ]
37. 街外れの廃屋(内)・別部屋・夜[テーマ曲のオケ2 イン]
     暗闇の中に怪(あや)しく光る留蔵の顔。留蔵、部屋の片隅で携帯用
     の鞴(ふいご)を、ゆっくりと押し続ける。携帯火鉢の炭が赤々と熾
     (おこ)り、 その中に、真っ赤に焼けた鉄製の火箸がある。深い溜め息
     を、ひとつ吐(つ)き、頷いた留蔵、部屋の戸を静かに開ける。
38. 街外れの廃屋(内)・夜 
     留蔵、火丸の背後へと回り、首を後方から掴もうとする。それを見た風
     丸、ふらつきながらも背の刀を抜き、留蔵を一撃。留蔵、危うく身をか
     わし、火箸で刃を払うS.E。S.E=カキィ~ンという金属音。その
     時、天井より、お蔦が舞い降りる。お蔦と風丸の立ち回り(殺陣)が続
     く。風丸と、お蔦、縺(もつ)れて床板を転がり、また離れて構え合う。そ
     の間に留蔵、ふたたび火丸の背後に回ると首を左手で掴み、右手の
     火箸を両眼へと押し当てる。(ジュ~~という焼入れの音S.E)絶叫
     する火丸。気づいた風丸、咄嗟(とっさ)に風剣を見舞う。風剣、留蔵の
     肩を抉(えぐ)って風丸の手に戻る。留蔵、火丸を掴んだ手を離し、肩
     を押さえる。火丸、喚(わめ)きながら、背の刀を抜き、見えない両眼で
     遮二無二、留蔵に迫る。留蔵、かわしながら後退(あとずさ)りする。お
     蔦、留蔵の危険を回避すべく、留蔵の位置へと跳び、火丸の首筋を
     居合い斬る。火丸の首筋から激しく吹き散る血しぶき。
     それを見た風丸、戸板を突き破り、外へと逃避をはかる。
     [テーマ曲のオケ2 オフ]
39. 街外れの廃屋(外)・夜 [テーマ曲のオケ3 イン]
     戸板を突き破って出てきた風丸、走り去ろうとする。その時、待ち構え
     ていた仙二郎、
    仙二郎「待ちやがれ!」
     と、風丸の行く手に立ちはだかる。風丸と仙二郎、対峙して互いに間
     合いを取り、渡り合う(殺陣)。風丸、風剣を仙二郎めがけて投げる。
     楕円を描いて仙二郎に迫る手裏風剣。仙二郎、かろうじて刀で払い
     落とすS.E。S.E=カキィ~ンという金属音。仙二郎の刀、折れる。


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(15)

2009年01月28日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(15)

    仙二郎「最後は、お蔦か俺で引導を渡すとしてだ。問題(もん
        でぇ)は、俺が背後にいると、奴らが知ってやがるこっ
        た。そこでだ。幸い、留と又のこたぁ知らねえのが
        味噌よ。奴らの塒(ねぐら)は、お蔦が云った廃屋と迄
        は分かってる。一人だって逃がすんじゃねえぞ。逃が
        しゃ、伊賀から、また追ってがかかる。手筈どおり、し
        っかり頼んだぜ」
     留蔵、又吉とも黙って頷く。伝助、土間に立てられた蝋燭の
     炎を吹き消す。暗黒の闇。
32. 街外れの廃屋(内)・天井裏・夜
     又吉が医者の幻斎から手に入れた或る種の睡眠導入剤
     (煙幕)が、風丸、土丸、火丸の三人を昏睡へと誘(いざな)う。
     ウトウトと、首を縦に振り、眠り始める三人。天井裏のお蔦、
     同じく天井裏に潜む又吉へ、片手を上げ合図を送る。又吉、
     黙って頷き、お蔦を見る。
33. 街外れの廃屋(内)・天井裏・夜[テーマ曲のオケ1 イン]
     土丸、柱に凭(もた)れた姿勢で首だけ項垂(うなだ)れ眠り
     だす。その時、土丸の真上の天井板が音もなくスゥーっと
     開き、両腕と鉄製の大丼鉢が現れる。大丼鉢、土丸めがけて
     垂直に落下。(鐘の音S.E)スッポリ被った大丼鉢。呻く土丸。
     S.E=鐘楼で撞く鐘の音(グォ~~ン)。土丸、頭に鉢を被っ
     た状態で暫し氷結し、その後、ゆったり前のめりに崩れ落ち
     る。
     [テーマ曲のオケ1 オフ]
34. 頭部のX線撮影された映像 C.I
     シャウカステン上のレントゲン撮影されたフィルム映像を、
     カメラ、アップ。
     C.O
35. 病院の診察室・現代
     医師(配役は無名の外科医)が椅子に座ってカルテを書い
     ている。カメラ、医師の姿をアップ。医師、机上にある勢力増
     強ドリンクを一気に飲む。それから徐(おもむろ)にシャウカ
     ステン上のフィルム映像を見て、カメラ目線で素人っぽく、
    医師  「(またか…と、云わんばかりに、だれて)もう、云う必要
        もないでしょう(笑って)。いつもの即死です(欠伸をする)。
        それよリ、若い妻を貰うと大変ですなあ。バイアグラと
        コレですよ(大笑いして)」


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(14)

2009年01月27日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(14)

    仙二郎「どっちが四分でぇ?」
   お蔦  「十手の方が少しは増しだろうが、三人に丸陣を組まれりゃ、
        油断は出来ないよ」
   仙二郎「算段を充分考えてからの手筈、ってことにしよう。又や留を
        上手く動かさなきゃな。奴らに外で動かれりゃ、仕留めるのは
        難しいぜ…。それよか、三人を首尾よく始末したとしてだ。伊賀
        から、また新(あら)手を送ってこねえか?」
   お蔦  「丸陣が倒されたと聞き、諦(あきら)めるだろうさ。それ以上の
        腕は私が知る限り、今の伊賀じゃお頭(かしら)ぐらいだから
        ね…」
   仙二郎「そうか…。それじゃ、明日の宵五ツ、いつもの所(とこ)だ。皆
        を集めろい」
   お蔦  「分かったよ…。これ、少ないが皆に渡しておくれ(袂[たもと]
        より、小判三枚を取り出して)」
    三両を仙二郎に手渡す、お蔦。仙二郎、受けとると、
   仙二郎「お前(めえ)が殺られちゃ、俺達の世直しも、それまでよ。皆、
        金なんぞいらねえと云うだろうが、一応、預かっておこう」
    と云いながら袂(たもと)より内へ手を通し、金を懐へと納める。お蔦、
    それを見届けると、橋を忍び風に素早く走り去る。
31. 河川敷の掘っ立て小屋・夜(五ツ時)
    粉雪の鱗粉が舞い飛ぶ肌寒い夜。仙二郎を筆頭に五人の面々が
    一堂に会する小屋の中。土間に立てられた蝋燭の炎が、時折り、隙間
    風に激しく揺れる。
   仙二郎「相手は凄腕の忍びだ。云ったとおりの手筈でやってくれ。伝公
        …今回ばかりは、お前(めえ)の出番はねえぜ。万一の連絡役
        を頼む」
   伝助  「合点! 上手(うめ)ぇ具合(ぐえぇ)に、晒した時の立て札が
        底をついてやして、作ってる矢先で…」
    全員、どっと笑う。
   仙二郎「お蔦から一両ずつは預かってるが、お前(めえ)達、銭は、いる
        けぇ?」
   又吉  「馬鹿を云うねえ。俺達だって藩から追われの身よ。お互(てげ)
        い様だ」
   留蔵  「そうともよ…」
   仙二郎「そう云うとは思ったが、一応、訊いた迄だ。伝助は休業だし
        な(伝助を垣間見てニタッと笑い)」
   留蔵  「十手は、どうなんだ?」
   仙二郎「俺か? 俺が受け取るわけがねえだろうが…(三両を、お蔦に
        返し、笑いながら)」
   又吉  「やはり、頭(かしら)だけのことはある」
   仙二郎「はは…、見縊(みくび)ってやがったな」
    また、全員、笑う。


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(13)

2009年01月26日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(13)

    土丸  「そうだな…。お蔦の忍び技、見たのは随分と前だからな」
    火丸  「ああ…」
    風丸  「さて、どうなるかな…」
    土丸  「風丸の手裏風剣。必殺技だが、見るのは久しぶりだ」
    火丸  「そりゃそうよ。太平の御時世じゃ必要ねえしなあ…。無
        用の長物よ。忍びも、お庭番や隠密、それに密偵にでも
        なれりゃ、しめたものだが…腕も廃(すた)るぜ」
     三人、不気味な薄嗤いをする。
29. 茶屋(狭い路地)夕暮れ時
     お蔦、今日は門付けはせず、茶屋前を横切ろうとする。その時、
     どこからともなく舞い飛ぶ風剣(今でいうブーメラン風の手裏剣)
     が続けざまに二度、お蔦を襲う。お蔦、咄嗟(とっさ)に仕込み杖
     を抜き振り落とすS.E。S.E=カキィーンという金属音。そして、
     危険を察知して、屋根瓦へと跳び、姿を晦(くら)ます。それ

     て、軒蔭に潜んでいた風丸、姿を現す。
    風丸  「さすが、不知火のお蔦。腕は衰えちゃいねえようだな…」
     その時、右斜めの屋根上から声が飛ぶ。
    お蔦  「風丸かい…、久しぶりじゃないか。孰(いず)れケリはつけ
         させて貰うよ」
     風丸、声がする方へ顔を向け、お蔦を確認すると、ふたたび手裏
     剣を投げようとする。が、しかし、お蔦の姿は、その時、屋根上には
     もうない。風丸、敢えて深追いしようとはしない。
30. 河堀(橋の上)・夕暮れ時
     柳、屋形船あり。仙二郎と、お蔦が会話している。お蔦は、忍び装
     束である。
    お蔦  「相手も同(おんな)じこと考えてんだろうが、忍びを仕留め
        るにゃ、まずは、動きを封じることに尽きるよ」
    仙二郎「相手の足を狙うって訳か…。で、お前を追う忍びは、何人
         でぇ?」
    お蔦  「風丸がいるとなると、恐らく残りの二人も動いてるだろうか
        ら、少なくとも三人…は、いるよ」
    仙二郎「よく知ってる奴らか?」
    お蔦  「ああ…。風丸、土丸、火丸の三人さ。伊賀じゃ、丸陣の三人
        衆って恐れられてる奴らだ」
    仙二郎「それで、腕は?」
    お蔦  「斬り合いとなりゃ、十手が数段、上だろうが、忍び技を使わ
         れた日にゃあ、四分六ってとこか…」


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(12)

2009年01月25日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(12)

   仙二郎「お前(めえ)に追っ手が迫ってるこたぁ違(ちげ)ぇねえだろうが、
        なぜ忘れた時分の今なんだ? それが腑に落ちねえ」
   お蔦  「私だって同(おんな)じさね。もう、伊賀のことなんか忘れちまっ
        たよぉ」
   仙二郎「まず、追っ手が何人かだが、その辺りを見極めなくちゃ、ならね
        えな。ケリをつけるこたぁ、それからの話だ」
   お蔦  「忍びは素早いからね。皆で当たっておくれでも、いつものような
        生半可にゃ、いかないよ」
   仙二郎「孰(いず)れにしろ、その時ゃ、俺が手筈を考えるがな」
   お蔦  「ともかく、私を皆で守ってくれんなら、有り難い話だけどね」
   仙二郎「お前(めえ)が殺られりゃ、これからの影車が立ち行かねえか
        らなあ…(小笑いして)」
    お蔦も静かに笑う。
   お蔦  「暫く、門付けは止(や)めた方がよさそうだね」
   仙二郎「そりゃ、そうなんだがな…知った上で誘い出すっていう手立て
        も、あるこたぁある」
   お蔦  「そうだねえ…。まあ、私は私で奴らの動きを探ってみるよ」
   仙二郎「ああ…。だが、余り無茶はするなよ。相手は、お前(めえ)と同じ、
        忍びだからな」 
   お蔦  「分かってるさ。これでも、伊賀にいた頃にゃ、腕は一、二と云わ
        れた不知火のお蔦姐(ねえ)さんだ。そう、やすやすとは殺られ
        ないよ」
   仙二郎「俺も、そうは思うがな…念を入れたまでだ。それじゃな…。なん
        ぞありゃ、俺の長屋に舞い降りて伝えてくれ」
   お蔦  「ああ…」
    二人、互いに反対方向へと橋を去る。今日の、お蔦は、瞽女(ごぜ)には
    戻らず、素早い身の熟(こな)しで、舞うように消え失せる。 
27. 街外れの廃屋(外)・夜
    小雪が静かに舞い降りている。辺りは夜の闇だが、雪明りが廃屋の
    輪郭を鮮明に浮き上がらせる。
28. 街外れの廃屋(内)・夜
    伊賀・丸陣の三人が語らう部屋。中央に燭台を置き、それを取り囲む
    ように車座を組んだ三人、胡坐(あぐら)をかいて座る。
   風丸  「取り敢えず、一度、俺が仕掛けてみる。お蔦の腕、今は如何ほ
         どのものか、試してから三人で掛かっても、遅くはあるまい
         て…」


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(11)

2009年01月24日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼    
     第九回 追っ手(11)

24. 街外れの廃屋(内)・夜
    新しく見つけた隠れ家の廃屋で語らう風丸、土丸、火丸の三人。
    燭台の蝋燭が怪(あや)しく揺れる。蜘蛛の巣が部屋の隅で時折り
    戦(そよ)ぐ。埃(ほこり)で薄汚れた床板。畳も半ば朽ちている。
   土丸  「今、話したとおり、お蔦は、その茶屋周辺を根城にしてい
        ることに、まず相違あるまい…」
   風丸  「と、なると、如何にして始末するか…、その手立てだな?」
   火丸  「俺の火薬は、素早い不知火相手じゃ、効果なかろう」
   土丸  「俺の撒き菱崩しだとて、同じよ」
   風丸  「効果があるとすれば、俺の技、手裏風剣だが…」
   土丸  「首尾よく足を仕留めてくれりゃ、お蔦は飛べねえ。そうな
        ると、俺の技も出番があるんだがな」
   火丸  「俺も同(おんな)じだ。相手が止まってくれりゃ、爆裂弾は
        投げられるぜ」
   風丸  「丸陣を組み、三人で動くとしてだ。やはり、俺の腕次第か…」
   土丸  「そうだな…」
   火丸  「ああ…」
    二人、同時に頷いて首を縦に振る。
25. 茶屋(狭い路地)夕暮れ時
    門付けを済ませた、お蔦。その場を去ろうとする。その時、対面
    から仙二郎が歩いて近づく。擦れ違いざま、小声で、
   仙二郎「いつもの橋だ…」
    とだけ呟くと、通り過ぎる。お蔦、辺りの気配を窺った後、少し離れ
    て仙二郎の後方を歩む。その様子を虚無僧姿の土丸が物蔭に
    潜んで見ている。
   土丸  「役人の下っ働き、やってるようだな…(深編み笠から覗き)」
    と呟き、スゥーっと消える。お蔦、殺気を感じ、足を速める。
26. 河堀(橋の上)・夕刻
    柳、屋形船あり。いつもの橋上(定位置)で語り合う仙二郎と、お
    蔦。
   仙二郎「つけ狙われてるそうだな」
   お蔦  「どうも、そのようだねえ…。今し方も、誰かに見られてたよ
        うだよ」
   仙二郎「なにっ?! 茶屋前(めえ)で、けぇ?」  


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(10)

2009年01月23日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(10)

21. 茶屋(狭い路地)・昼
     正月も過ぎ、明日は早や如月の声を聞こうという前日の昼下がり。
     暫くぶりに、お蔦が門付けをしている。小粋な三味の音(ね)が辺り
     に流れている。その姿を遠目に探る人影…伊賀・丸陣の一人、土丸
     である。虚無僧姿の土丸。
    土丸  「漸(ようや)く見つけたぜ、不知火の、お蔦。こんな所(とこ)
        にいやがったか。早速、風丸達に知らせないとな…。俺一
        人では手強(ごわ)い。それにしても、こんな目と鼻の先に
        いやがるとは…江戸も広いようで狭いってことになるな
        …(北臾笑み)」
     気付かず弾き続ける、お蔦の姿を、もう一度、鋭い視線で確認し
     た後、土丸、素早く姿を消す。辺りには、すでに冬の宵闇がま迫
     っている。
22. 蕎麦屋の屋台(内)・夜
     床机に座り、いつもの、かけ蕎麦を啜る仙二郎の姿がある。
    仙二郎「そうか…。そんなことがあったとは、な」
    又吉  「(影車の口調で)暫くは出歩かねえ方がいい、とは云っと
         いたんだがな。あれが正月で…、今はもう如月(きさら
         ぎ)だからなあ」
    仙二郎「門付け、始めてるか?」
    又吉  「ここん所(とこ)、お勤めの声もねえから、俺達も稼がねえ
        とな」
    仙二郎「そうだな…そりゃ仕方ねえや。だが、お蔦も追われる身だ、
        油断は出来ねえな」
    又吉  「そういうこった…。何事もなきゃいいんだが」
    仙二郎「(汁を啜り)俺も、暇なとき、様子を覗いてみらぁ」
    又吉  「そうしてやって貰えると有り難(がて)ぇーな。冬場は書
        き入れ時だから、俺は仕込みで手が離せねえ。第(でえ)
        一、幻斎先生の助手もやってるしな。全然、暇がねえん
        だ」
    仙二郎「医者の幻斎先生か? ほぉ~、二束の草鞋けえ。伝公とい
        い、留といい…影車は働き者(もん)ばかりだぜ…(小笑
        いして)」
    又吉  「そうよ。のんびり構えてるのは十手だけだ」
    仙二郎「はは…、云いやがったな」
     仙二郎、また汁を啜り、笑い捨てる。又吉も笑う。
23. 蕎麦屋の屋台(外)・夜
     二人の話は続く。夜は深々と更けていく。


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☆時代劇シナリオ・影車・第九回☆追っ手(9)

2009年01月22日 00時00分00秒 | #小説

      影車      水本爽涼          
     第九回 追っ手(9)

   お蔦  「ふ~ん…。身内の誰かを探してんのかねえ」
   又吉  「かも知れねえな…。だが、目遣いが、どうも只者じゃなか
        ったぜ」
   お蔦  「そうかい。まあ、心するよ。伊賀者なら、私ものんびり構
        えちゃいられないからね(笑みを浮かべて)」
   又吉  「そうだな…、注意しろよ。お前(めえ)にゃ抜け忍の過去が
         ある。つけ狙われても怪(おか)しかねえ」
   お蔦  「ああ…(食べながら)」
   又吉  「暫くは、潜んでるこった。上手(うめ)え具合(ぐええ)に、
         今は正月だしな」
   お蔦  「そうするよ…」
    暫くして、蕎麦を食べ終えた、お蔦、銭三十二文を置き床机を立つ。
   お蔦  「そいじゃ…。また、そいつらに会ったら云っとくれ」
    又吉、無言で頷く。屋台を出る、お蔦。その後ろ姿に、
   又吉  「(蕎麦屋の口調に戻って)有り難(がと)やしたぁ!」
    と、声を投げる。
19. 神社の境内・昼
    初詣客の往き来で、ごった返している。客目当ての多くの露天が
    出ている。その中に飴細工の店もある。カメラ、露店風景と通行
    人を流し撮り、その飴細工の店の前で固定して撮る。飴細工の職
    人に上手く化けた伊賀の火丸の姿。火丸、時折り鋭い視線を通行
    人へと投げ、お蔦を探している。又吉や又吉と同じ長屋の子供数
    人の通行する姿もある。
   又吉  「おっ、飴細工か…。よし! おいちゃんが買ってやる。
        皆、好きなのを選びな」
    子供達、歓声をあげ、我先にと飴細工の露店へと駆ける。
   又吉  「危ねえぞ~、転ぶなよぉ~!」
    後ろから聞こえる又吉の声には委細構わず、走る子供達。
20. 飴細工の露店(店前)・昼
    雪崩をうって店頭へ駆け込む子供達。思い思いに細工してある飴
    を選ぶ。後から追いついた又吉。
   又吉  「そんなに急がなくとも、なくなりゃしねえよ(小笑いして)」
    と、子供達を見ながら、ひと声かける。子供達、それぞれに飴を
    選ぶ。
   又吉  「親父、いくらでぇ」
   火丸  「(露天商風の語りで)へえ…今日は正月ですから四文。…正
        月から四文とは縁起が悪いや。よし! 大負けしまさぁ。全部
        で三文、いや、二文でようがす

   又吉  「(懐から財布を出し)元が取れねえ商売させちまったな…」
    と、笑顔で云いながら、二文を手渡す又吉。子供達、すでに飴を
    口に銜(くわ)えている。連なって動き始める又吉と子供達。この
    時点では、又吉も火丸も、互いに刃を交える運命だとは、知る由
    もない。


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