水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

サスペンス・ユーモア短編集-25- 死なず池生き返り事件

2016年07月09日 00時00分00秒 | #小説

 この話は人類にとって夢のようなパラダイス事件である。
「なに?! んっな馬鹿な話があるかっ! ガセ[デマカセ]だ、ガセっ!! そこなら俺も一度行ったことがあるが、そんな池はなかったぞっ!」
『はあ。確かに私も行きました。しかし、そこからもう少し奥の山村なんですよ、この池は…』
「俺には信じられん! そんな話が成立するなら、科捜研はいらんわっ!」
  デカ長の細井は横山からかかった携帯に怒りを沸騰させていた。
 『いや、ほんとなんです、ホソさん。死んだ人の遺体をその死なず池に浸(つ)けると、仏さんが生き返るんですっ!』
 「ははは…冗談は休み休み言え! 死なずの池・・そんな便利な池なら、明日、葬儀の釜土(かまど)先輩を生き返らせたいわっ!」
  まったく信じられない細井は怒鳴りぎみに言った。釜土は細井の先輩刑事で、すでに退職していたのだが、二日前、病院でポックリ亡くなっていた。
 『残念でした。池の蘇生有効時間は村人の話では24時間だそうです』
 「… ともかく俺もそっちへ行く!」
  信じられない細井だったが、横山の冗談とも思えない真剣な話しぶりに、困惑ぎみだった。
 「ホソさん、どうした?」
  浮かぬ顔の細井を遠目に見て、課長の蚕(かいこ)が声をかけた。
 「いえ、なにね。ははは…よしましょう。馬鹿言ってますよ、横山は。ともかく私も現場へ飛びます! まあ、事件といえば、逆事件ですから…」
 「逆事件?」
  意味が分からず、蚕は訝(いぶかし)げな顔をした。
 「いや、なんでもないです!」
  細井は現場へ駆けつけたが、横山が言ったとおり、そこからまだ少し奥の村だと村人から説明された。山奥の細道を車で走り、ようやく細井はその村へ出た。村は池に面していた。村民は多くの者が100歳を超えていた。その事実に細井は唖然(あぜん)とした。
 「こちらの方は昨日、友人と喧嘩(けんか)して死んだそうですが、見てのとおりピンピンしておられます」
 「殺人事件ではなくなった訳か?」
 「はあ、まあそういうことですかね、ははは…」
 「なんか、妙な事件だな」
「死んでも生きかえりゃ、死んでないってことですよね」
 「ああ…。課長が1cm以上伸びた鼻毛を切らないのに似た謎(なぞ)だ…」
 「…はい」
  横山は納得して頷(うなず)いた。

                   完


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